
香川県丸亀市で50年以上に渡り家族経営を続けてきた松田酒店。この度、バトンズを通じて事業譲渡を実現されました。「自分が引退して廃業することで、大事なお客様に迷惑をかけてはならない」と話すのは、松田酒店の三代目である松田英樹様。店舗の譲渡を決断した経緯や想い、譲渡した現在の心境などについてお話を伺いました。
譲渡企業 | |
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社名 | 合同会社松田酒店 |
業種 | 小売業(酒類) |
拠点 | 香川県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社柴田屋ホールディングス |
業種 | 製造・卸・小売業など(酒類) |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 新規エリアへの進出 |
幾多のピンチを乗り越え、地域に愛されてきた松田酒店
松田酒店の始まりは、昭和35年。松田様のお祖父様によって創業された事業は、松田様のお父様、そして三代目の松田様へ、家族経営でその歴史を繋いできました。三代目として松田様が家業を継ぐことになったのは、20代半ばの頃。当初は別の職に就いていた松田様でしたが、お母様が亡くなられたことで、家業を守る責任を感じるようになったと言います。
「私が引き継いだ当時は景気が良かったこともあり、商売は順調そのものでした。長男でしたし、いずれは自分がお店を継がなきゃいけないとはずっと考えていたので、そのタイミングが予定より少し早まったという感じでしたね。」
松田酒店の事業の軸は、酒類の卸売と小売業。小売のうち、半分以上は業務用を扱っています。松田様は事業を続ける中で、時代の変化に対応するために複数あった店舗の変革を実行。2010年には、業務用のアルコール類を即配達できる「酒のソクハイ」というフランチャイズに加入し、新しい業務形態の店舗もスタートさせました。
「その頃は、自分たちの販売網にも大手の酒屋さんがどんどん進出してきた時期で、繁華街の店舗の売上は減り続けていました。『これはなんとかしなきゃいけない』と思って、酒のソクハイに加盟して夜の接客業をメインとした店舗への卸売もはじめたのです。本店とは全く異なる商流の店舗を持つことで、上手く棲み分けができるのではないかと考えました。」
酒のソクハイに切り替えた店舗は、大手酒店へ流れかけていた顧客の引き止めに成功。立ち上げから5年間ほど、見込み通りの売上を確保できていたそうです。他にも、度々の苦境に対して持ち前の行動力で危機を脱してきた松田様。その背景には、バブル崩壊後に味わった経営者として初めての試練がありました。
「バブルが崩壊した当時、売上がどんどん下がり、資金繰りが本当に大変でした。なんとか売上を回復しようと、商品の差別化を意識し始めたのもこの頃ですね。日本酒に特化して、いろんな飲食店にアプローチしたり、イベントを開催したりもしました。そんな試行錯誤を経ながら、なんとかお客様をつないできた感じですね。」
「後継者不在」という問題に直面し、事業譲渡を決断
バブル崩壊後やコロナ禍などの困難な時期にも、丁寧な接客力や提案力を武器に、事業を継続されてきた松田様。しかし、自身の年齢が上がるにつれ、徐々に「事業譲渡」を検討することになったようです。
「2020年頃、M&Aの仲介業者を通じて『酒類の販売業免許が欲しい』というI T大手企業を紹介され、有限会社松田酒店の酒類販売業免許を譲渡しました。今取得できる販売免許は様々な制限が付いたものなのですが、昔の販売免許は制限がかかっていないものなので、非常に価値が高いんです。当時、コロナ禍で借入金もかなりあったのですが、譲渡先が『借入金ごと買い取ります』と言ってくれたことは、本当にありがたかったですね。」
酒類販売業免許は一度譲渡したものの、多額の借入金が0になることで免許を再取得し、新たに合同会社を立ち上げた松田様。しかし同時に、「後継者問題」というこれまでとは別の課題に対する不安が生じるようになりました。松田様には3人のお子様がいらっしゃいましたが、それぞれ別の職に就いており、事業を引き継ぐ意思はありませんでした。
「ありがたいことに、松田酒店には長年取引を続けてきたお客様がたくさんいましたから。そんなお客様方に、自分の引退による『廃業』で迷惑をかけるのは大変申し訳ないと思いました。卸先がなくなると蔵元にも迷惑がかかりますからね。
仮に子供に無理に継がせたとしても心配事は絶えないだろうし、であれば良い企業に引き継いでもらって発展していくのを見届けた方がいいかなと。それから、店舗自体の譲渡を真剣に考えるようになりました。」
その後、地元の商工会議所や事業承継・引継ぎ支援センターなどを通じて、バトンズを教えてもらったとのこと。「バトンズに登録した当初は、異業種からも申し込みがあって、目を通すだけでも大変でしたよ(笑)」と振り返る松田様。
「都会の業務用酒販店で、四国進出を狙っている企業」を検討基準に設けていた松田様は、その条件に合致した柴田屋ホールディングスを譲渡先候補として交渉を開始しました。
「お客様を大事にする」という理念の一致が譲渡の決め手に
譲渡先である柴田屋ホールディングスには、初回の面談から非常にいい印象を持ったと話す松田様。「値段で勝負するのではなく、お客様を大事にする会社」という、松田様が大切にしてきた理念と一致するポリシーを先方から感じ、信頼できる相手だと思えたと言います。
「柴田屋さんと出会えたことは、本当に『縁』というものを感じましたね。もし柴田屋さんを紹介されていなかったら、今頃も譲渡先企業の検討に頭を悩ます日々だったかもしれません。間に入ってくれたバトンズは、担当者の方のやり取りがスムーズでしたし、様々な角度から助言もいただけたので、とても満足できるものでしたよ。」
柴田屋ホールディングスとの面談後、候補企業を柴田屋ホールディングス一本に絞り、交渉を継続。社長やオーナー自らが店舗にまで足を運ばれたことにも松田様は感激したようで、契約までスムーズに進んでいきました。
事業承継を終えた現在、お店に立ち続ける松田様が思い描く未来とは
事業譲渡が完了した現在、松田様は一線を退くことなく、引き続きお店に残って業務を行なっています。柴田屋ホールディングスはM&A後、新たに「株式会社松田酒販」を設立し、2024年10月より同社で営業を開始。従業員を再雇用して今までの営業体制を維持しつつ、新会社の代表取締役には同グループ企業の「株式会社ミシマ酒販」の代表を務める杉村拓海様が兼任されています。
ミシマ酒販は店舗が広島にあるため、杉村様は広島と丸亀を行き来しており、松田様は常駐責任者が不在の松田酒店を以前と変わらず切り盛りしているようです。
「今のところ、譲渡前とやることは変わっていませんが、パートを3名雇い始めました。柴田屋さんの方でも、責任者として任せられる方を募集していると聞いています。すぐに決まるかは分かりませんが、なるべく早く新しい道を進められるといいなと思っています。」
松田酒店には、柴田屋ホールディングスの多彩な商品ラインナップのおかげもあり、新しいお客様がくるようになったと笑顔で話す松田様。一方で、これまでのつながりで続いているお客様が大半なため、完全引退の時期を決める難しさも感じていると言います。
「現実的には、パッと身を退くのではなくて、お店に出る回数を徐々に減らしていく感じでしょうね。体力的にもまだもう少し頑張ることはできますが、後を任せられる人が見つかったことは精神的にすごく良かったです。引退した後には、家内と二人で好きな旅行を満喫したいですね。」
松田様と松田酒店の今後のさらなるご活躍・ご発展を、バトンズ一同、心より応援しております!
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