
東京都多摩エリアで学習塾8校を運営する「株式会社エスト」は、創業から37年以上に渡り地域教育に貢献し続けている会社です。現在、同社の代表取締役を務める落合暁様は、2022年から先代社長より経営を引き継ぎ、経営の多角化を目指す中でM&Aを検討。バトンズを通じて「株式会社理系games」と出会い、同社の完全子会社化を実施しました。もともとは従業員の一人だった落合様が、代表就任からどのような事業方針を掲げ、M&Aに至ったのか。新たな事業領域へ進出を果たしたエストの落合様に、M&Aの経緯や今後の戦略などについてお話しを伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社理系games |
業種 | 小売・EC(ボードゲーム制作) |
拠点 | 東京都 |
譲渡理由 | 選択と集中 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社エスト |
業種 | 教育サービス(学習塾) |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 新規事業への参入、経営の多角化 |
コロナ禍に先代社長から経営を引き継ぎ、社内改革を遂行
株式会社エストは、個別指導の学習塾を運営する事業として1988年に創業された会社です。小中高の生徒を対象とする学習塾には、高校受験を控える中学生を中心に約500名が通塾。東京都多摩エリアを拠点に、現在8校の教室を展開しています。
同社で代表取締役を務める落合様は、従業員として会社を支えてきたメンバーの一人。先代社長から相談をもちかけられる形で、経営者への道を歩み始めます。
「先代社長から事業承継の相談を受け、やってみようと思いました。私自身、従業員として17年間この会社に所属し、マネージャー、部長職も経験してきました。相談を受けた当時はコロナ禍という不安もありましたが、経営にはもともと関心もあったので、引き受ける決断をしました。」
落合様は、2020年9月に取締役へ就任。そこから経営判断は落合様が中心に行い、2022年7月の株式譲渡完了とともに、正式に代表取締役として就任します。事業運営を行うにあたり、落合様がまず取り組んだのは社内改革でした。
「コロナ禍で塾運営に不安もありましたが、それ以上に社内改革を優先させ実行しました。今の時代に合わせた業務効率化や人事評価制度の確立など、課題は山積していたからです。」
落合様が真っ先に着手したのは、人事評価制度の見直しでした。当時は社内の離職率が25%に達し、人手不足の波が押し寄せていました。社員の定着率向上を目指し、落合様は社内制度にメスを入れます。
制度改革が功を奏してか、現在では離職率が5%未満へと減少。また、2年連続で増収増益を達成し、エストは新しいステージへ進むことができたのです。現在は従業員15名、アルバイト85名(2025年3月1日時点)と約100名のメンバーが学習塾運営を支えています。
「ありがたいことに、コロナ禍の中でも生徒は増加傾向でした。紹介も増えたので、しっかりとお客様のニーズに応えるサービスを提供できれば、利益もついてくると確信できました。」
新規事業の推進を掲げた「2030年ビジョン」を実行に移す
落合様が取締役に就任した際、「2030年ビジョン」を従業員に向けて公表しました。会社の成長・発展の方向性を、従業員に対して明示したビジョンを掲げたのです。
「コロナ禍で不安定な状況だったので、学習塾経営をもう一度軌道に乗せることは当然のこと、『その先に会社をどう成長させていくか』というビジョンが必要でした。
塾業界は、少子高齢化でさらに厳しい時代を迎えていきます。会社の事業が塾一本では不安でしたし、従業員の気持ちも同様だと思います。そこで、2030年までに事業を2本柱にしようと考えました。そのビジョン実現のために、2025年から新規事業をスタートすると宣言しました。」
落合様は現在46歳。今後の経営者人生を考えても、事業の柱をもうひとつ模索したいと思っていたと話します。また、塾業界が置かれた状況を考えれば、経営の多角化でリスクヘッジを考えるのも当然の戦略です。
しかし、新規事業といっても簡単に立ち上げられるものではなく、ゼロからのスタートを考えれば時間もコストもかかります。落合様も、当時の悩みを以下の様に振り返ります。
「最初はフランチャイズの加盟も考えました。ただ、ゼロからスタートさせると人材確保などでどうしても時間がかかりますし、リスクも大きくなります。それ以外の方法を考えていたときに、M&Aという手段も視野に入れるようになりました。できれば会社の経営資源を生かした形で新規事業を立ち上げたい、とおぼろげながら理想像は描いていましたが、具体的なものが決まっているわけではありませんでした。」
その後、落合様は以前から取引があった多摩信用金庫にM&Aについて相談。そこで紹介されたのが、M&AプラットフォームのBATONZでした。この紹介を受け、2024年10月にBATONZへ登録。そこから、落合様の掲げた「2030年ビジョン」が大きく動き出すことになります。
新規事業かつシナジーがある領域、理想的な企業からのオファーメール
2025年の新規事業スタートに向け、BATONZに登録した落合様。スピーディにM&Aを実施させるために有料会員の登録を行いました。すると、登録から1ヶ月ほどで売り手企業からのオファーメールが届きます。「あのとき、ケチらずに有料会員になっておいてよかったです」と落合様は笑いながら当時を振り返ります。
「登録してしばらくすると、理系科目を題材としたボードゲームを手掛ける『理系games』様(当時:個人事業「EXPlayin」)からオファーメールが届きました。代表の新井さんは東京大学の大学院生で、就職をするために事業を手放したいとのことで、譲渡先を探されているようでした。教育ゲームは、学習塾とシナジーがあります。新規領域かつ経営資源を生かせる分野だったので、まさに我々が求めているような事業でした。」
オファーメールを受け、事業内容に魅力を感じた落合様は、理系gamesとの面談調整へと進みます。落合様は、新井様に対して自社のプレゼン・PRを実施。本事業には多数の企業が競合として名乗りを挙げていましたが、学習塾の経営資源を生かせる点や、自身の想い、そして新井様が大切に育ててきた事業をさらに発展させていく意気込みを伝え、結果としてエストは独占交渉に入ることになりました。理系gamesからのオファーメールを見た当時を振り返り、「これは運命の出会いだと思った」と落合様は話します。
「新井さんは学生とはいえ、事業をここまで育ててきた経営者です。同じ経営者として仕事への考え方、進め方は本当にリスペクトできるものでした。面談後の交渉も、基本的には私と新井さんだけで進めていきました。専門家を間に入れず、お互いトップ同士で信頼関係を深めることができたと思っています。」
2025年2月、個人事業であったEXPlayinは株式会社理系gamesとして法人化。その株式をエストへ譲渡する形で、M&Aが成立しました。落合様が「2030年ビジョン」で掲げて宣言した通り、2025年からエストの新規事業がM&Aを通じて動き出しました。
学習塾と理系ゲームのシナジー効果を生み出したい
シリーズ累計1万部を誇る理系をテーマとしたボードゲームシリーズ「理系ゲームズ」は、ECのみならず家電量販店でも販売されています。理系gamesからは引き続き1名が残り、今後はエスト社員が中心に新たな商品開発を進めていきます。
「まずは、新たな事業として既存のボードゲームを軌道に乗せてきたいと思います。現在の課題は、販路開拓と商品開発。学習塾と理系ゲームとの親和性を生かして、シナジー効果を生み出したいですね。
生徒は、学習の過程でつまずくところがどうしても出てきます。その生徒のつまずきポイントを、ボードゲーム開発につなげることができると考えています。『理系をもっと楽しく』『遊びでつながり、学びで成長する』という新井さんの掲げた理念をしっかりと継承し、ボードゲームだからこそ生まれる人と人のつながりも大切にしていきたいと思います。」
2030年へ向けて、新たな一歩を踏み出したエスト様。事業ビジョンを聞いた当初は「本当に?」と疑問を感じていた従業員も、有言実行する落合様の姿に興味を持ち、今ではさまざまなアイディアの提案があるといいます。会社全体で新規事業に動き出す中で、落合様はこのように語ります。
「教育においても、成功か失敗かが重要でなく、失敗をいかに次につなげるかが大切だと思っています。生徒の皆さんにも、そのように勉強に向き合ってもらえればと思っていますし、もちろん従業員にもそのことを常に伝えています。当社の次の2030年目標に向けての第一歩、新たなゲームを手にしたときのようなワクワクした気持ちで見守っていただけますと幸いです。」
株式会社エスト様のこれからのご発展を、バトンズ一同、心より応援しております。
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