
ボードゲーム・シリーズ「理系ゲームズ」の企画や販売を行ってきた「株式会社理系games」(旧 EXPlayin)は2025年2月、個別指導の学習塾を運営する「株式会社エスト」に全株式を譲渡。同年3月に理系gamesは、エストの完全子会社となりました。
理系gamesが手掛けてきた「理系ゲームズ」シリーズは、東京大学に在学していた新井一希様を中心とする大学生チームによってビジネス化されたボードゲーム事業。新井様らメンバーの大学院卒業・就職を間近に控えたタイミングで譲渡する運びとなりました。本事業の創業者である新井様は、理系ゲームズをどのような発想で生みだし、世の中に広げていったのか。M&Aを選択した理由や今後の展望とともにお話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社理系games |
業種 | 小売・EC(ボードゲーム制作) |
拠点 | 東京都 |
譲渡理由 | 選択と集中 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社エスト |
業種 | 教育サービス(学習塾) |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 新規事業への参入、経営の多角化 |
高校の受験勉強の中で思いついたアイデアを大学在学中に商品化
「理系ゲームズ」は、有機化学や熱力学、素因数分解などの理系科目をたのしく学べることをテーマにした学習系のボードゲーム事業です。ユーザーは主に高校生や大学生で、2025年前半の時点でシリーズ累計販売数が1万部を突破するほどの人気コンテンツ。このボードゲームのアイデアは、創業者である新井様自身の受験勉強での体験から生まれたものだといいます。
「僕は高校時代の受験勉強で、とくに化学の勉強がしんどいと感じていました。そこで、何かたのしく学べる方法はないかなと考える中で、『ゲームを通して学ぶ』という方法を思いつきました。」
新井様は、2019年に志望校である東京大学に現役合格。在学中にコロナ禍となり、自宅待機やオンライン授業への移行を余儀なくされました。しかし、新井様はこの厳しい状況をポジティブに捉え、コロナ禍によって生まれた時間の余裕を利用して、高校時代に思いついたゲームの商品化に取り組みました。
商品化では、まずリサーチを通じてボードゲーム制作を外部委託できる印刷会社を見つけ、無料相談会に参加。手元の少額資金で50部のセット制作に取り組みました。こうして生まれたのが、理系ゲームズの第1作である「有機大富豪」です。
生協・EC・家電量販店へ販路を拡大。理系ゲームズがヒットした要因は?
高校時代のアイデアを商品に昇華した新井様は、次に販路開拓に着手。はじめに、大学の生協に直接営業をかけ、取り扱ってもらえることになりました。さらに、Amazonや家電量販店など徐々に販路を広げていきます。
同時に、理系ゲームズの第2作「熱力学ワーカーズ」や、第3作「素数スピード」なども商品開発され、プレイヤー層が拡大してきました。
「第1作、第2作までは趣味の延長線上でゲーム作りをしている感覚でしたが、3作目になる頃には、ビジネス的な観点で商品開発に取り組めるようになっていました。これまでのゲームよりもプレイヤー層を広げ、幅広い人が楽しめるゲームを作れば売上にもつながるし、今後のビジネス展開にも幅を持たせやすいと考え、数学をテーマにしたゲームを作ることに決めました。」
限られた期間で「理系ゲームズ」のファン層が拡大した理由について、新井様は保護者への認知も大きかったと分析します。
「どうすれば退屈せず、自然に理解できるかを追求して開発してきたことがお客様からの評価につながったと感じています。また、楽しく学びたいという学生さんに加えて、教育に熱心な保護者の方々にも認知されたことが大きかったのではないでしょうか。」
卒業間近に決断したM&A。それがユーザーにとって最良の選択だった
新井様は東京大学、東京大学大学院に在学中、数名の友人と共に理系ゲームズの販促活動や顧客対応に取り組んできました。学生生活と事業の両立については、メリットとデメリットがあったと話します。
「お客様がいらっしゃるので、土日も関係なく対応しなければならなかったことは大変だったところでしょうか。また、アルバイトであれば指示に従って働けば良いですが、事業となると自分たちで考えて行動する必要があります。
良かった点は、イベント出店などを除けば拘束時間がそこまで多くなかったことです。一般の店舗で販売する場合、私たちが直接お客様と接するわけではないので、その点での負担はありませんでした。」
理系ゲームズの売上は、3期連続で前年の倍以上に伸び、営業利益も順調に拡大。売上と利益を着実に伸ばす一方で、新井様には大学卒業というひとつの期限が迫っているということに焦りも感じていたといいます。
大学卒業後の事業の行く末には、新井様ら運営メンバーが「就職して副業にする」「専業で事業を続ける」「事業を譲渡する」という3つの選択肢がありました。この中から、新井様は最終的に「事業を譲渡する」方法を選択。その理由について以下のように述べています。
「理系ゲームズの事業には思い入れがあり、就職後に副業として続けようか本当に悩みました。しかし内定をもらった後、フルタイムで働く中ではこの事業を伸ばせないだろうという現実に直面しました。
時間が制限されると、新しいゲームの開発や販路の開拓が難しくなります。現状では資金が潤沢ではないため、手数も限られてしまいます。そのため、『資金力があり事業を成長させられる企業に譲渡することが、ユーザーの皆様にとって最良の選択である』と考え、今回のM&Aを決断しました。」
もともと3人のメンバーで始めた本事業ですが、何かあったときに揉め事にならないよう、最終的な判断と責任は新井様がもつことで合意されていたとのこと。M&Aの決定についても、「新井が言うことなら」とスムーズに事前合意がとれたといいます。
バトンズ登録から1週間で数十件の反響!自身からも買い手登録企業にオファー
理系ゲームズの譲渡を決断した新井様ですが、卒業までの期間は約半年。時間に余裕のない状況だったため、「ボードゲームの事業を行う同業他社への譲渡」と「M&Aプラットフォームのバトンズを活用した譲渡」の両面からのM&Aを目指しました。
「実は同業他社への譲渡をもともと主軸に考えていたのですが、思ったように進展しませんでした。そこで、バトンズは無料で登録できるので試しに登録してみたところ、案件情報を公開した直後すぐに問い合わせがあり、約1週間後には数十件もの反響がありました。その反響の多さに、非常に驚きました。」
しかし、問い合わせのあった企業とコミュニケーションを重ねるうちに、新井様の中で「理系ゲームズの譲渡先は、教育関連の事業を行っている会社の方が良いかもしれない」という考えが生まれ始めました。
そこで、バトンズで「買いニーズ登録」をしている企業の中から、親和性を感じるところに新井様の方からメッセージを送り、アプローチを実施。その企業のひとつが、今回の譲渡先となったエストだったのです。
初めてのM&A契約でも、バトンズのサポートがあったので安心だった
株式会社エストは、個別指導塾のフランチャイジーとして東京都西部エリアで8教室を展開する、創業37年以上の歴史を持つ企業です。新井様は、エストの代表を務める落合暁様と数回のWEB面談と直接面談を重ねたのち、契約へと進みました。
「まずエスト様の会社概要を拝見し、塾を手広く展開しているので、理系ゲームズと親和性があると感じました。そして、落合様とのコミュニケーションを通じてお人柄の良さを感じました。
理系ゲームズの事業は、僕と友人数名の大学生チームで、さまざまな壁にぶつかりながら手探りで築き上げたものです。それだけに、強い思い入れもありました。落合様は理系ゲームズの理念である『理系を、もっとたのしく。』に深く共感していただけた方なので、ベストな選択だったと感じています。」
今回のM&Aにおいて、新井様は3つのことを重視していたといいます。1つ目は、卒業までに譲渡を完了させること。2つ目は、商品名やコンセプトなど、ブランド価値を維持してくれること。そして、3つ目は、適正な評価価格での売却です。
落合様という理系ゲームズの承継にふさわしい人と出会ったことで、新井様は3つの重視したことすべてを達成することができました。初めてのM&Aだったこともあり、契約締結の面で不安があったそうですが、実務面でバトンズのサポートがあり「安心して契約締結を進められた」ともおっしゃっていただきました。
学生ベンチャー事業をM&A!理系ゲームズが示した新たなロールモデル
新井様が理系ゲームズの譲渡を決断し、バトンズに登録したのが2024年11月。その約3か月後の2月には譲渡契約締結となりました。短期間だったにもかかわらず、イメージ通りの譲渡ができた成功要因について新井様は以下のように振り返ります。
「大学院卒業の約1年前の段階では、『就職後に理系ゲームズの事業を副業でするべきか』という迷いがあったものの、『M&Aをする可能性もあるかもしれない』とも思っていました。そのため、M&Aを選んだときに譲渡しやすいよう、販路を拡大して売上を伸ばすことに取り組んできました。今回それが実を結んで、買い手様に『安定した利益を見込めそうだ』と感じていただけたのではないかと感じています。」
理系ゲームズの誕生から譲渡までのストーリーは、「学生ベンチャーの事業をM&Aする」という新たなロールモデルになりそうです。この点について新井様は、以下のように言及します。
「学生起業家には、卒業後に専業で事業をやり続けるのが難しいケースも見られます。この状況を買い手様側から見ると、『学生ベンチャーには、事業の種がたくさんある』ともいえるのではないでしょうか。」
新井様は理系ゲームズの事業を通して、「リスクを取って行動すれば、最良の結果が得られること」を学んだそうです。卒業後はスタートアップ企業に就職し、新卒社員として修行を積みたい。その上で、将来的に経営レイヤーで社会貢献したいとのことでした。
新井様の新たなステージでのご活躍と、理系ゲームズのさらなる発展をバトンズ一同心より応援しています!
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