東京都内に拠点を置き、生産・加工・販売・飲食店業を一貫して営む「株式会社ヒューマックス」はこの度、中央区にある焼き魚専門店の一店舗を事業譲渡されました。コロナ禍により外食産業が厳しい状況を強いられる中、本店舗はお昼のテイクアウトが需要を伸ばし、売上は好調。オフィス街という立地を生かして安定した収益を誇っていました。
しかし、店舗責任者が新たな道に進むことをきっかけに、本店舗を譲渡することを決断。今回、ヒューマックス代表取締役を務める梶川拡史様に、これまでの事業経歴、コロナ禍を乗り越えた経営の転換や、M&Aを選択した背景を伺いました。
譲渡側 | |
---|---|
社名 | 株式会社ヒューマックス |
業種 | 飲食業 |
拠点 | 東京都 |
譲渡理由 | 選択と集中 |
譲受側 | |
---|---|
区分 | 個人 |
業種 | 飲食業 |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 起業 |
水産会社直営の居酒屋兼焼き魚食堂がヒット。都内で十数店舗を経営
ヒューマックスは、2006年の創業以来「食を通して関わる全ての人々の喜びと幸せに貢献し明るい社会を創る」という経営理念のもと、水産卸売・加工・小売、飲食店の運営・企画を行っている会社です。
代表の梶川様は、学生時代に飲食店でアルバイトを経験し、自分が接客をしたお客様が再来店してくれることに喜びを感じていたと言います。当時から「いつかは自分でお店を経営したい」という夢を抱いていました。
「率直に、学生時代から『自分はサラリーマンに向いてないな』という意識を持っていまして。そんな中、アルバイト先で一国一城の主として飲食店を切り盛りする人たちの姿に、すごく影響を受けたんです。いつか自分も独立して、自分のやりたいようにお店を切り盛りしてみたいと思ったのが創業のきっかけです。」
大手飲食チェーン、FC加盟による独立を経験した後、東京都中央区を拠点に水産会社直営の食堂兼居酒屋を中心とした飲食店を立ち上げた梶川様。お昼はオフィスの休憩時間に立ち寄れる食堂、夜は気軽に飲食ができる居酒屋として、昼夜異なるシーンで利用できる業態がヒットし、現在に至るまで十数店舗を展開してきました。
コロナ禍で再認識したランチ営業の強み。テイクアウト事業に切り替えて再スタート
焼き魚料理を中心としたメニューと生産・加工・提供を一貫で行うビジネスモデルで安定した経営を続けてきたヒューマックスですが、コロナ禍に見舞われたことで飲食店が大きな打撃を受けます。
「十数年かけて店舗経営を続ける中で、お店のブランド自体が『ちゃんと美味しいお店』として浸透してきました。しかし、多店舗展開が好調になってきた矢先にちょうどコロナ禍が始まったんです。飲み歩くのが厳しくなり、夜間の居酒屋営業はどこも苦しい状況でした。」
しかし、ヒューマックスの展開する店舗は昼は食堂、夜は居酒屋の業態。事業の強みは、市場から直接水産物を仕入れができることです。夜の営業よりも、ランチの営業では食材を大量に使用するため、美味しい食材を低価格で提供することが可能であり、オフィス街の中でもランチ人気を誇っていたのです。
「夜間の居酒屋営業は厳しくなりましたが、私どもはもともとランチタイムは定食を提供していたので、それをお弁当の販売に切り替えたんです。市場から直送のおいしい焼き魚をお弁当として提供できるというのは、作り手である私たちとしても幸せでした。お客様にもよろこんでいただけて、改めてビジネス層向けのランチタイムの営業は自社の強みだと再認識できました。」
店長の思いを汲み、事業譲渡という選択に踏み切る
テイクアウト事業の伸びにより、各店舗はコロナ禍でも順調に売上を伸ばし、コロナが落ち着いてからもお弁当の売上は好調だったといいます。今回のM&Aは、そのうちの一店舗の事業譲渡。好調であった店舗を、なぜ譲渡するに至ったのでしょうか。
「直営での飲食店が10店舗を超えてくると、経営維持が想定よりも難しかったんです。今回譲渡した直営店を運営していた店長は、もともと夜の居酒屋の賑やかな空間が好きで仲間になってくれた人だったんですね。昼は手堅く商売をした上で、夜も楽しくお店がやれる、そこに魅力を感じてくれていたんです。」
コロナ禍はやむを得ずお弁当屋としての営業に力を入れていましたが、世の中がもとに戻ってきた今、自分は夜の営業に力を入れたいと店長から相談を受けた梶川様は、本人の意思を尊重することに決めたのです。
「私自身としては、『ここで独立したら?』という思いもあったのですが、本人の叶えたいイメージと、現店舗のあり方には異なる点があったようで。『もともと夜の営業をしたくて入社したから、そちらに戻りたい』と希望があったので、無理に続けてもらうのも良くないなと。
しかし、テイクアウト事業も非常に手堅く堅実で、土日や夜の集客がほとんどないようなエリアでも、しっかりと採算が取れていたんです。これを手放してしまうのは非常にもったいないなと。かといって、そのために別店舗から社内の人間を流用することや、新しく人材を雇用するのもなかなか難しいという状態でした。」
そこで、「現在のビジネスモデルに魅力を感じてくれる第三者に参画してもらえれば」という思いから、梶川様はバトンズで募集を開始。同一ブランドで事業を引き継いでくれる人を探し始めました。
初面談で感じた信頼感。掲載から数ヶ月でスムーズに譲渡が進んだ
今回、バトンズのコンサルタントである川村のサポートを受け、M&Aを進めた梶川様。掲載から一ヶ月足らずで、複数の問い合わせがありました。中には法人からの問い合わせもあったそうですが、梶川様の中には、始めから個人の方がマッチするだろうというイメージが漠然とあったといいます。
「事業のサイズ感は小さいですが、黒字で堅実な経営をしていたので、個人の方にマッチするだろうなというイメージでした。私どものブランドを継いで運営してほしいという要望も、法人の場合は難しいのではないかなと。」
複数の問い合わせがあった中で、今回の譲渡先である鈴木様と最初に面談を行った梶川様。その後は、他の候補者と面談をすることなく、鈴木様と契約まで進むこととなりました。譲渡を決めた背景について、梶川様は以下のように話しています。
「初めてお話したとき、『この方にお店を続けてもらえたら素敵だな』と思えたというのが、率直な気持ちです。こういうのは巡り合わせというか、一期一会だと感じます。問い合わせをいただいた方の中で、川村さんから選定をしてもらい、鈴木様をつないでいただきました。良い方がいれば進めたいと思っていたので、『他の候補者と比較してから』というのは特に思いませんでした。」
鈴木様に好印象を抱いた理由のひとつに、飲食店での経験など含め、ヒューマックスの社員とは違ったバックボーンを持っていたからだと振り返る梶川様。その経験や鈴木様の人柄から、新しい色をもった店舗になるのではないかと感じたといいます。
「私どものブランドと、鈴木様の持つ個性や経験を掛け算していけたら、お店の経営を楽しんでいただきつつ、シナジーが生まれるんじゃないかと。面白そうだなと感じました。すごく伸び代がありそうだと感じましたし、長く続けていただけるのではないかと。」
引継ぎ期間を1ヶ月ほど設け、現在はお店の運営を鈴木様に任せているといるとのこと。これまで十数店舗を展開し、売上を伸ばしている梶川様は、飲食店の運営に必要なことについてどのように捉えているのでしょうか。
「やっぱり、最初はまず『好き』から入って、それが続けられるかということが一番だと思います。忍耐力というとちょっと泥臭いですが、そういったものは必要だと思います。飲食は参入障壁が低いので、気軽に始めやすいと思われがちなのですが、実際はなかなか難しい。続く人というのは、これまでやってきた経験からくる強みが、自分の中の『好き』という気持ちとちゃんと結びついている人なんじゃないかと。」
譲渡側として今回バトンズを活用された梶川様ですが、今後は買い手としてM&Aを活用することも、選択肢として考えているとのこと。飲食業におけるM&Aの可能性とメリットについて、梶川様は以下のように話します。
「飲食店経営においてM&Aを活用するというのは、非常にチャンスがあるんじゃないかなと思っています。私どもは都心で飲食店を経営していますが、今は新しく物件を探すことが非常に困難です。立地の問題や、契約期間の短さ、家賃の高さ、設備が不十分など、さまざまな問題があります。
その点、M&Aで既存の店舗を引き継ぐ形であれば、そのハードルは一気に下がります。弊社との親和性や、事業として可能性があるかはもちろん十分な検討が必要ですが、今後の経営に困っている方がいらっしゃって、私どもとのご縁があるようであれば、ぜひ手を挙げさせていただきたいですね。」
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