食品メーカーに長年勤めた髙橋明史様は、千葉県成田市で20年以上の歴史があるそば屋「芭蕉庵」を譲り受け、店舗経営の夢を叶えられました。譲り受けた店舗は、現在「なごみ奈」の店名で営業されています。知人の繁盛店での修行を経て、飲食店経営に挑戦する高橋様。2024年8月の開店後、順調に客足を伸ばしています。どのような背景で40年近く勤めた会社を退職し、そば屋開店に至ったのか。他店との差別化のポイント、M&Aによる集客のメリットなどについて伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
店名 | 芭蕉庵 |
業種 | 飲食店(蕎麦屋) |
拠点 | 千葉県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
区分 | 個人 |
業種 | 食品メーカー |
拠点 | 千葉県 |
譲受理由 | 起業 |
食品メーカー役員を脱サラし、知人のそば屋でゼロから修行
髙橋様が開店されたそば屋「なごみ奈」は、成田空港近くで20年以上営業してきたそば屋「芭蕉庵」の建物と敷地を引き継いだお店です。店名やメニューはM&A後に刷新し、新規のそば屋として8月に開店。芭蕉庵の閉店から3ヵ月以上が経った現在も客足は好調で、平日は従業員3〜4名、休日は4〜5名で対応に追われているほど、順調なスタートを切っています。
ご主人の髙橋様のご経歴は、100年以上の社歴がある業務用食品メーカーの叩き上げ。営業マンから部長職となり、最終的には子会社の社長・本社の役員などを歴任されました。そのまま在職し続けることも可能でしたが、脱サラの道を選択した高橋様。その決断の背景には、どのような想いがあったのでしょうか。
「これまで食品メーカーの社員として、担当していた問屋さんや飲食店などの取引先様と対話をしてきました。その中で、『いつかは飲食店を経営して、その先にいるエンドユーザーの皆様に直接サービスを提供してみたい』という気持ちがありました。
そんな中、知人が脱サラをしてそば屋を開店したんです。私もそのお店が気に入って何度も足を運んだのですが、味やサービスが良くて行列ができるような繁盛店となりました。そこで、その知人を訪ねて『自分の店を持ちたいので修行をさせてほしい』と相談したところ、快諾をもらいまして。食品メーカーを退職し、1年弱の修行を経て自分のお店を立ち上げることになりました。」
「十割そばがおかわり自由」のサービスで圧倒的な差別化
髙橋様が修行をされていたそば屋は、十割そばと天ぷらを中心にしたお店。「なごみ奈」のメニューもこれを参考にした内容になっています。十割そばと一般的なそばの違いについて、髙橋様は以下のように解説します。
「二八そばに代表される一般的な蕎麦は、小麦粉などのつなぎを使っているため、のどごしが良いのが特徴です。それに対して、なごみ奈で提供している十割そばは、そば粉だけを使用しているので、そばの風味が引き立ち、コシが強いのが特徴です。
それぞれに魅力がありますが、修行をしていたお店が十割そばをテーマにしていたこと、そして私自身が十割そばの味と食感が好きだったことから、なごみ奈も十割そばのお店にしました。」
なごみ奈では、挽きたての国産そば粉を使用し、店内でお客様の来店時に製麺しています。注文が入ってから茹でることで、美味しいそばの条件とされる「3たて(挽きたて、打ちたて、茹でたて)」を実現。さらに、この十割そばを“おかわり自由”で楽しめるサービスを用意し、一般的なそば店との差別化を図っています。
不動産仲介とM&Aの2つの方向性から、そば屋開店を探る
そば店の開店という夢を叶えるため、髙橋様は2つの方向から現実化を探りました。1つ目は、不動産会社を通じて居抜き物件を紹介してもらい、そば屋をゼロベースから立ち上げる方法。そして2つ目は、M&Aのプラットフォームで既存のそば屋を見つける方法です。
「不動産会社とM&Aによる情報収集を並行して進めながら、そば屋の物件や譲渡案件を探していました。最終的には、居抜き物件が見つからず、バトンズに掲載されていた芭蕉庵さんとのご縁が生まれました。」
髙橋様が譲り受けされた有形資産は、2階建ての建物と敷地(駐車場込み)の権利でした。家屋のうち、1階のみを店舗に利用しており、席数は21席。立地は、成田空港から直線距離で約500メートルの場所です。どのような部分に魅力を感じ、譲受を決めたのでしょうか。
「立地的には、幹線道路沿いのロードサイドではなく、県道62号線からさらに1本、幅の狭い道路を入った場所です。一見すると、飲食店に不向きに思えるかもしれませんが、そば屋は山奥などの辺鄙な立地でも行列店ができることがあります。そのため、美味しいそばを提供できれば繁盛店にできると考えました。
私がこだわった条件は、十分なスペースの駐車場が確保できることです。芭蕉庵の駐車場は、店舗の前面に2台、背面に5台の駐車スペースがあり、条件を満たしていました。」
前店のご主人の助言を受け、店名を変えて開店することを選ぶ
芭蕉庵では、オーナー様が建物の2階で生活していたため、2024年4月の閉店後、6月末の引っ越しを終えてから、高橋様の開業準備となりました。その間、芭蕉庵のご主人につゆの作り方などを教わり、また開業についてのアドバイスもいただいたといいます。
「ご主人から、『芭蕉庵という屋号を引き継ぐより、新しい店名をご自身でつけて始めた方が絶対に楽しいですよ』というアドバイスをいただき、店名は迷いに迷い、最終的に『なごみ奈』という名前でスタートを切ることになりました。店名の由来は、私が勤務していた会社と家内が勤務していた会社の両方の社名に『和』が入っていたので、なごみ。家内の名前から『奈』を一字取って『なごみ奈』となりました。」
居抜き物件を利用した同業の開店となると、初期費用を抑えて開業することができます。しかし、高橋様は修行で得たそば作りを活かすため、厨房を一新。それによる費用が多めにかかったと振り返ります。
「店内の工事費は、トータルで約800万円かかりました。そのうち約600万円は厨房の工事や設備の変更に費やしました。芭蕉庵さんの厨房をそのまま使うことも可能でしたが、効率的な動線にしたかったため、設備も含めて全面的に改装しました。20年以上の歴史があるお店だったため、残りの費用はクロスや畳、入口部分など傷んでいる部分のリフォームに使いました。」
来店客の半数が前店のお客様。M&Aのアドバンテージを感じた
髙橋様は「なごみ奈」を開店するにあたり、広告費用を一切かけませんでした。それでも、開店から2ヵ月経った今、ピークタイムになると客足が絶えることはありません。その理由は、冒頭でご紹介した「十割そば、おかわり無料」という特徴に加えて、嬉しい誤算の影響があったと高橋様は話します。
「なごみ奈のお客様の半分くらいは、もともと芭蕉庵さんに通われていた方々です。名店であった芭蕉庵さんは、常連の方が想像以上にたくさんいらして、そのまま当店の常連になることも珍しくありません。前店のお客様に来ていただけるというのは、M&Aの大きなアドバンテージだと感じています。
芭蕉庵さんが閉店してから3ヵ月以上経ってからの開店だったため、お客様が一旦途切れてしまうと思っていましたが、そんなことはありませんでした。当店の開店から2ヵ月経った今でも、『芭蕉庵に通っていたんですよ』というお客様がひっきりなしに来店されています。」
加えて、平日には近隣にある成田空港の関連企業の方々がよく来店されるそうです。芭蕉庵の常連客と近隣の成田空港関係者、さらに口コミの広がりによって、なごみ奈は順調に客足を伸ばしています。この先の展望を、高橋様はどのように描いているのでしょうか。
「なごみ奈を開店する前は、1店舗目が軌道に乗った後に店舗を増やしていくことを考えていました。しかし、実際に商売を始めてみて、それほど簡単なものではないと感じています。今はただ、お客様に本当に美味しいものをお届けしたい、そして、なごみ奈を気に入ってくださる方を1人でも増やしたいということだけを考え、試行錯誤の毎日です。
なごみ奈を名店や繁盛店に育てることは私一人ではできないので、本当にお客様に喜んでもらいたいという想いを持つ仲間がいれば、一緒に力を合わせて一歩ずつ進んでいきたいですね。そして、自分でそば屋をやりたいという仲間が現れたら、私が修行したお店でそうしていただいたように、その人を応援していければと考えています。」
なごみ奈と髙橋様の今後さらなる成功を、バトンズ一同、心より願っております!
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