自動車学校の運営や外国人ドライバーの就労支援などを展開する「ミナミホールディングス株式会社」は2024年7月、熊本県・九州エリアを中心に運送業を営む「株式会社アップライン」を譲り受けされました。ミナミホールディングスはグループ会社を次々に立ち上げ、業務領域を拡大中。同社の代表取締役である江上喜朗様と経営企画室長の合田光広様に、M&Aの背景や期待するシナジーなどについてお話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社アップライン |
業種 | 運送業 |
拠点 | 熊本県 |
譲渡理由 | 後継者不在、 資本獲得による事業拡大 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | ミナミホールディングス株式会社 |
業種 | 教育サービス(自動車学校) |
拠点 | 福岡県 |
譲受理由 | 新規事業への参入、 経営の多角化 |
【企業概要】
会社名:ミナミホールディングス株式会社
創業:1956年2月
従業員数:約190名(2024年5月末)※グループ総数
売上高:15億円(2024年5月期グループ合計)
企業HP:https://minami-hd.co.jp/
祖業の自動車学校を柱に、新たなサービスを積極的に立ち上げ
ミナミホールディングスの祖業は、1962年に設立された南福岡自動車学校です。2011年、江上様が3代目として30歳の若さで社長に就任されました。同校は、九州エリアでNo.1の入校者数を誇る自動車学校。江上様が社長に就任された当時も一定の生徒数を確保しており、経営危機に陥るような状況ではなかったものの、江上様は就任直後から経営改革を断行しました。
江上様は当時の心境について、「私が就任する以前の南福岡自動車学校の売上は、20年間下がり続けていました。直ちに潰れるわけではありませんでしたが、このまま売上減少が続くと存続が危うくなる状況でした。そのため、就任当初のタイミングで改革が必要だと判断したのです。」と述べます。
江上様は当時の一般的な自動車教習所の「指導が厳しい」というイメージを払拭するため、「楽しく学べる教習所」のテーマを掲げ、その象徴としてイメージキャラクター「かめライダー」を考案。自らキャラクターに扮し、交通安全講話やイベントなどを通じてPR活動に取り組みました。しかし、かめライダーの認知度は高まったものの、入校者数の増加にすぐには繋がらず、社員の不満が高まっていきました。その結果、社長就任後に社員の約半数が退職し、売上がさらに低迷しました。
そんな苦境に立たされても自動車学校の業界にこれまでなかった発想を取り入れ、社長就任から数年後にはV字回復を遂げました。施策の一例として、エンタメ番組を見ている感覚で学科を学べる教習用アニメ「DON!DON!ドライブ」の開発・導入があります。
その後、自動車学校の運営で培った人材教育やコンテンツ開発などのノウハウを基に、次々とグループ会社を自社で立ち上げ、ホールディングス化を実行。2024年8月末の時点で、ミナミホールディングス傘下に計10の企業・団体があり、グループ全体の売上高は自動車学校の業績低迷期と比べて2倍以上に伸びています。
M&Aによってグループの成長スピードを加速
江上様は社長就任から約10年間、新規事業を自社で立ち上げることに取り組んできました。しかし、数年ほど前から、M&Aを活用してグループを拡大することを意識するようになったといいます。M&Aに本気で取り組むようになったきっかけについて、以下のように振り返ります。
「先輩の経営者に、M&Aを活用して会社を成長させ、売上規模100億円を達成された方がいます。この先輩から、『君はビジネスアイデアをたくさん持っているけれど、自動車学校という業界に閉じこもり、しかも、自社だけで事業開発をしている。今のやり方では、成長スピードが遅いのではないか』と苦言を呈されました。この一言がきっかけで、それまで漠然と考えていたM&Aに踏み切ろうと思いました。」
しかし、江上様は立ち上げたばかりのグループ企業の経営に関わっているため、M&Aを進めるためのリソースに限界がありました。そのため、M&Aの知見を持つ合田室長や、経理・管理業務の経験豊富な経理部長を採用するとともに、実際にM&Aで会社を成長させた経営者を顧問に迎え入れるなど、M&Aを実施するための体制作りを推し進めました。
その結果、2024年1月に沖縄県宮古島市の宮古自動車学校、同年7月に今回ご紹介する株式会社アップラインのM&A成約を実現されたのです。
海外で教育した人材を受け入れる体制をM&Aで構築
M&Aのプロジェクトを始動した当初、ミナミホールディングスでは、あえて業種を絞り込まず、幅広い企業を譲受の対象にすることで、直近のM&Aや九州エリアの傾向を探りました。その際、複数のM&Aプラットフォームを利用されましたが、実務を担った合田様は、バトンズについて以下のように評価しています。
「買い手企業にとって、M&Aプラットフォームの最大の魅力は、能動的に案件を探せることではないでしょうか。そのため、私がプラットフォームに期待するのは案件数が多いことですが、この点でバトンズは使い勝手がよかったですね。料金体系にも概ね満足していますが、買い手の負担を軽減する取り組みをより進めてもらえると嬉しいです。」
一方で、運送会社をグループに迎え入れたいという方針もありました。いくつかの候補の中から、2社の運送会社とトップ面談を行い、最終的にアップラインを譲受することになりました。運送会社とのM&Aを強く希望した理由について、江上様は以下のように解説します。
「ミナミホールディングスのグループ企業の1つ、MINAMI CAMBODIA.CO.LTDではカンボジア初の外資系の自動車学校を運営しています。ここで教育を受けた現地の方々を、もう1つのグループ企業である株式会社外国人ドライバー支援機構を通じて国内の運送会社に就労支援することで、人手不足を解消するソリューションを構築しています。
さらに、私たち自身が外国人ドライバーの雇用の受け皿となる運送会社を経営することで、このソリューションに適した教育体制や人材像が明確になると考えています。しかし、運送会社をゼロから立ち上げ、軌道に乗せるには相当な期間を要します。そのため、今回はM&Aで運送会社をグループに迎え入れるという手段を選択しました。」
運送会社の中からアップラインを選んだ3つの理由
今回、ミナミホールディングスが譲受したアップラインは、小型車から大型車まで幅広い種類の車両を揃え、熊本県や九州エリアを中心に、全国を配送エリアとしてカバーしています。江上様は、運送会社の中でもアップラインに強い魅力を感じた理由として、以下の3点を挙げています。
1つ目は、アップラインが同じ九州エリアの会社であり、行き来が比較的しやすい立地にあること。ミナミホールディングスの本拠地である福岡県大野城市とアップラインがある熊本県宇城市は、車で約1時間25分(約120㎞)の距離にあります。
2つ目は、ミナミホールディングスにとって多大なリスクを負わずにM&Aができる規模感であったこと。アップラインは従業員約20名、保有車両が数十台の規模です。参考までにミナミホールディングスのグループ全体の従業員数は、アップラインの約10倍です(2024年5月末現在)。
そして3つ目は、アップラインの代表取締役である田中様のパーソナリティ。この点について、江上様は「田中社長は運送業界を知り尽くしています。その上で独自のノウハウによって安定経営を実現しています。年齢もまだ50代で、これから先私たちと一緒に力を合わせて、まだまだ成長していきたいという強い意欲をお持ちであることも好印象でした。」と述べています。
江上様のコメントにもある通り、田中社長はM&A成約後も引き続きアップラインの経営に携わっていく予定です。江上様はアップラインとの交渉を進める中で、カンボジアで運転教育を受けた人材をアップラインが受け入れながら成長していくイメージを明確に描けたそうです。
アップラインの今までの経営課題としては、仕事の相談は多いもののドライバーの確保が難しく、仕事を断るケースが多いという機会損失がありました。ミナミホールディングスとのM&Aにより外国人ドライバーが供給されることで、この課題が解決されることが期待されます。
M&Aで新たな事業の柱を創り、時代の変化に向き合う
【写真】左から経営企画室長:合田様、経理部長:荒川様、代表取締役:江上様、売り手社長:田中様、顧問:土屋様
アップラインには、財務が健全であるという特徴がありました。その分、評価額が高くなりやすいですが、M&Aを実現するにあたって障壁にならなかったのでしょうか。この点について、合田様は以下のように解説します。
「傾向として、運送会社は経営環境が厳しいことが多いように感じますが、ご指摘のように、アップラインは財務に優れている会社です。財務が健全な理由の1つは、案件ごとに利益を徹底管理していることです。財務がよいということは必然的に譲受価格が高くなりますが、それでも財務と照らし合わせると私たちはむしろ割安と判断しました。」
取材時点でミナミホールディングスがアップラインを迎え入れてから約1カ月半が経過しています。この間、江上様を中心に従業員への説明会や個別面談を行うと共に、業務に関する詳細データを収集し、外国人ドライバーを受け入れるための準備を着々と進めているそうです。ミナミホールディングスの今後の展望について、江上様は以下のように話しています。
「短期・中期の視点で見ると、運転教育の領域でやるべきことは数多くあります。例えば、私たちが開発したAIで教習するシステムを導入している自動車学校は、導入予定先を含めて現時点で数十校です。これを200校、300校と増やすことで業界の生産性向上を進めていきたい。また、AIで教習するシステムについては海外でもニーズがあるため、認知を広げていきたいですね。
一方、長期的な視点では、自動運転が本格化したときに自動車学校の業界がさらに逆風にさらされる懸念があります。大きな環境変化があっても安定経営が続けられるよう、第二、第三の事業の柱を作っていくことが重要と考えます。」
新たな事業を創るために、今後も周辺領域を中心に積極的にM&Aを活用していきたいと述べる江上様。ミナミホールディングス株式会社、株式会社アップラインの今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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