オンライン講座のアガルートアカデミーを始めとする教育サービスを中心に事業を展開する「株式会社アガルート」はこの度、製造業に特化したコンサルティング・研修サービスを提供する「ワクコンサルティング株式会社」の全株式を取得し、完全子会社化しました。
積極的なM&Aにより、グループ拡大を進めるアガルート。代表取締役を務める岩崎北斗様に、今回のM&A案件の目的と共に、10社以上のM&A経験を基にした成功ポイントについてお話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | ワクコンサルティング株式会社 |
業種 | コンサルティング業 |
拠点 | 神奈川県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社アガルート |
業種 | 教育サービス |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 法人研修事業の強化 |
製造業に特化したコンサル会社を譲受。そのシナジーとは
積極的なM&A戦略により急拡大中のアガルート。2024年7月時点で実行したM&A件数は10以上、2024年だけでも4社を譲受しており、グループに迎え入れた企業の業種は、人材紹介会社、Web制作会社、Webマーケティング会社など多岐にわたります。
また、コンサルティング・研修の事業を行う企業としては、株式会社シナプス、株式会社新社会システム総合研究所をM&Aで子会社化しており、この業種ではワクコンサルティングが3社目となります。コンサルティング・研修関連事業の会社を積極的にM&Aする理由について、岩崎様は以下のように話します。
「コンサルティングや研修の事業は『BtoBの教育関連』の事業に属しますが、教育サービスの中でも企業向けに展開するこれらの事業はまだまだ伸び代があり、我々が今後伸ばしていきたいと考えている領域の1つです。
BtoBの教育領域に取り組むワクコンサルティングを迎え入れることで、大きなシナジーが生まれると感じました。例えば、グループのコンサルティング・研修会社と顧客を共有することで、外部コンサルタントの稼働率向上や、研修サービスの売上拡大などが期待できます。」
ワクコンサルティングはコンサルティング・研修関連の会社の中でも、製造業のクライアントに特化している点が特徴のひとつです。コンサルティング事業では、経営や現場の業務改善・改革をサポートに取り組み、研修事業では、生産性や品質向上、新規事業開発、競争力強化、人材育成など幅広いテーマに対応しています。
同社は数多くの大手企業をクライアントに抱えており、その背景には経験と実績が豊富なコンサルタントを多数揃えていることが挙げられます。実務経験が平均40年以上のコンサルタントが200名以上在籍するなど、充実した人材力でクライアントの信頼を獲得しています。
定年退職後に起業。創業社長の人生計画と行動力に感銘を受ける
岩崎様はワクコンサルティングのM&A交渉を振り返り、創業者の松林光男様から大きな刺激を受けたことを語っていただきました。
「松林様は、元々日本IBMにお勤めで、生産管理や技術管理のシステム構築などに深く関わったご経歴をお持ちです。その後、SAPジャパンなどに勤務した後、60歳を過ぎてからワクコンサルティングを設立され、約20年かけて数多くのクライアントを獲得されてきました。
驚かされたのは、松林様が会社員時代から長期的な人生計画を立て、それを着実に実行されてきたことです。リタイア後の起業もその計画の一環で、会社員時代から起業後に困らないように人脈作りを進めてきたそうです。御年83歳(1941年生まれ)ですがまだまだお元気で、今後も執筆活動などに精力的に取り組まれていかれるとおっしゃっていました。」
アガルートでは、引継ぎ後も譲渡企業の代表者がアガルートに残って事業に携わり続けるケースが多く、ワクコンサルティングの場合、松林様は顧問に就任して事業引継ぎなどの支援にあたるそうです。なお、M&A後のワクコンサルティングの代表取締役には、岩崎様が就任されています。
黒字企業に絞り、手堅く進めるアガルートのM&A戦略
近年、アガルートは積極的にM&Aを行い、着実に事業成長を進めてきました。アガルート単体と譲受したグループ企業の売上を比較すると現在はほぼ半々とのことですが、近い将来、譲受した企業の売上の方が上回るだろうと岩崎様は予測しています。M&Aを企業成長の原動力に変えるポイントについて、岩崎様は「手堅くM&Aを進めること」を挙げています。
「手堅くM&Aを行うのが我々の基本的な方針です。黒字を積み上げる企業を迎え入れ、そのキャッシュフローを基に金融機関から借入れを行い、レバレッジをかけていくのが大きな枠組みです。例えば、『いわゆるJカーブを描く様なスタートアップ企業を買収してハイリターンを狙う』というようなことは、基本的にはしません。
今回、グループに迎え入れたワクコンサルティングの場合も、そのキャッシュフローを活用することにより、次のM&Aにつなげることができると考えています。」
しかし、黒字経営の会社は買い手からの注目度が高く、競争率が高くなる傾向があります。健全経営をしている会社をM&Aしたい場合、「譲渡企業から選ばれること」が必須ですが、岩崎様はどのような工夫をされているのでしょうか。
「代表者である私自身が、M&Aに本気でコミットすることがまず重要だと考えています。ソーシングから始まり、トップ面談、デューデリジェンス(対象企業の様々な角度からの調査・評価)やPMI(M&A後の統合プロセス)までの全てに私が関与しています。
大手企業様では、M&A担当者が交渉に入って進めることも多いと思いますが、代表が自ら一気通貫して関わることで、M&Aに対する本気度や経営者としての責任感が伝わると考えています。
また、我々はM&Aにおいて無理なPMIを行わないことを意識しています。例えば、社内体制や人事制度を大きく変えることはありません。できる限りその企業の組織や文化をそのまま温存し、目指す方向性のみ擦り合わせるようにしています。この点は、譲渡企業様が安心感を持ってアガルートを選んでいただける要因になり得るのではないかと思っています。」
M&Aが成功するか否かは、契約前に決まっている
M&Aを成長の原動力に変えるためのもう1つのポイントとして、岩崎様が挙げるのが「M&A前に対象企業をしっかりスクリーニングすること」です。
「そのM&Aが成功するか否かは、M&A前に決まっているというのが私の持論です。DDをしっかり行うのは前提条件であり、その他にも企業文化や社長の従業員との向き合い方についても、可能な限り丁寧にスクリーニングしています。
いくら儲かっている会社でも、企業文化や従業員への考え方・接し方など、根本的な部分で共感できない場合はM&Aを進めません。例えば、スクリーニングの過程で社長から従業員を搾取しているような姿勢を感じた場合、それ以降の交渉は進めません。なぜなら、根本的な思想が共有できないと、同じグループとしてやっていくことは難しいと感じるからです。」
岩崎様は、「雇用契約において、会社と従業員は対等な契約相手」との考えを持っており、その思想が企業選定にも強く反映されています。会社が上で、従業員が下という関係ではなく、「従業員はあくまでも対等な契約相手である」という意識を持っているからこそ、従業員に対してリスペクトがある会社でなければ一緒にやっていくことは厳しいと、岩崎様は話します。
加えて、その企業の成長に対する考え方についても、M&A前のスクリーニングで重要視されているポイントであるとも話しており、現状維持ではなく、事業を拡大していく意欲があるかどうかも重要項目とのことです。
バックオフィスを強化し、顧客の共有化により成長の手応え
先述のように、アガルートが譲渡企業から選ばれるポイントとして、「その会社の根幹を変えないこと」を挙げていました。一方で、M&A後に変化・統一させることについては、以下のように解説します。
「M&A後、バックオフィスの管理体制の強化は必ず行なっています。例えば、労務関連のことが整備されていない企業の場合、グループであるアガルート法律会計事務所の顧問弁護士が入って就業規則を整備しています。こういった部分はコンプライアンスに関わるため、どうしても変更する必要があります。
加えて、それぞれの企業ごとに内容は異なりますが、事業を伸ばしていくための取り組みはもちろん改善することもあります。例えば、顧客の共有、公式サイトの作り直し、SEO対策などです。この部分は、私自身のリソースも割いて取り組んでいくようにしています。」
インタビュー時、アガルートがワクコンサルティングと譲渡契約を締結してからまだ1ヶ月も経っていませんでしたが、事業を伸ばすための取り組みはすでに始まっていました。
「PMIや顧客の共有化などにすでに着手しており、ワクコンサルティングの事業を今後しっかりと伸ばしていける強い手応えを感じています。今後も教育サービスを軸としながら、M&Aを含めた事業推進に取り組んでいきたいと思います。」
岩崎様は、将来的に自身がアガルートの事業承継を行い、代表取締役を退いたとしても、グループが今後も持続的に成長していける「再現性のある仕組み」を構築することを今後の目標として挙げています。
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