スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
今回は、「表明保証保険とは?」について、解説します。
表明保証保険とは、M&Aの最終契約書に記載される表明保証条項に違反があった場合、契約当事者が被る経済的損害を補償する保険のことです。
近年のM&A取引は、M&A市場が活況と言うこともあり、案件の大小問わず成約件数も年々増加傾向にあります。しかし、成約件数の増加とともに、取引上のトラブルも増えていることが問題視されており、これへの対応策として表明保証保険が注目されています。
これを受け、国内の大手保険会社からも表明保証保険が販売されはじめています。
本編の内容は、表明保証保険だけではなく、M&Aの最終契約書上、重要な条項である表明保証についても解説しているため、売り手・買い手問わず、またM&A初学者からストロングバイヤーまで幅広くお読みいただきたい内容となっております。
今回のラインナップは、表明保証保険についての、
②M&Aにおける表明保証とは
③表明保証保険が必要な理由
④表明保証保険の内容
⑤表明保証保険の加入方法
⑥表明保証保険を取り扱っている保険会社
⑦表明保証保険に加入することのメリット
⑧表明保証保険における注意点
を中心に、解説していきます。
※今回の記事のワンポイントアドバイスでは、【必見】表明保証違反の回避術も解説していますので、是非、ご覧ください!
【必見!】巻末にスモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所 代表 伊藤氏よりM&A実務に即したワンポイントアドバイスや注意点も掲載しています!是非、最後までご刮目下さい!
表明保証保険の意味
表明保証保険とは、M&Aの最終契約書に記載される表明保証条項に違反があった場合、契約当事者が被る経済的損害を補償する保険のことです。
前述のとおり、表明保証条項はM&A取引上、最も重要な条項となっており、M&Aスキームの代表格である、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書はじめ最終契約書には必ず記載される条項となっています。
表明保証保険は、この表明保証において何らかの瑕疵や認識の違いなどトラブルが発生し、取引当事者の相手方に経済的な損害が発生した際、保険金によりその損害を補填するという保険商品です。
欧米諸国のM&A先進国では、古くからある保険商品ですが日本においては、ここ数年で大手保険会社などから取り扱いが開始されています。
M&Aにおける表明保証とは?
表明保証保険についてご理解いただく前に、まずはM&Aにおける表明保証とは何かを知っていただきましょう。
M&Aにおける表明保証の意味
M&Aにおける表明保証とは、契約当事者が最終契約の締結日又はクロージング日において、相互に開示した情報が真実かつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証することです。
つまり、「M&A交渉において売り手と買い手が、開示した情報は嘘偽りないことを保証する」という旨を表明保証条項として、最終契約書に明記するわけです。
M&Aにおける表明保証条項の機能
M&Aにおける表明保証条項の機能としては、主に「リスク分担」「M&A実行の前提条件」「補償」の3つがあります。
リスク分担
リスク分担機能とは、M&Aにおける表明保証条項を明記することで、対象会社(又は対象事業)に問題が発生した場合、売り手と買い手がどの範囲まで責任やリスクを負担するかを明確にする機能です。
特に買い手は、基本合意締結後のデューデリジェンス(買収監査)において対象会社(又は対象事業)のリスクを調査しますが、時間や調査人には制限があり、全てのリスクを洗い出すことは不可能です。
そこで、表明保証条項を明記し、M&A取引における責任やリスクの負担を明確にするのです。
M&A実行の前提条件
表明保証条項により、M&A取引は売り手、買い手ともに、表明保証違反がないことを前提条件に実行されます。逆に言うと、表明保証違反が判明した場合は、M&Aは実行せず、契約を解除する事ができるということです。
補償
表明保証した事項が真実かつ正確でなかったことに起因して相手方に損失、損害、責任、費用等が発生した場合には、損害賠償請求に応じることとなります。
これについては、表明保証において最も重要かつ注意すべき点です。M&A取引の安全性を保つためにも、お互いに注意し真実かつ正確な情報を開示する事を心がけてください。
M&Aにおける表明保証条項の内容
表明保証条項の一般的な内容は、「売り手と買い手が表明保証するもの」と、「売り手が対象会社に関して表明保証するもの」の2通りに分けられます。
売り手と買い手が表明保証する一般的な内容
・契約の締結・履行に必要な社内手続、監督官庁の許認可・承認等の取得、監督官庁に対する報告・届出その他法令上必要な全ての手続を完了しており、契約の締結・履行が法令又は売り手と買い手の定款その他の社内規則に違反していないこと。
・売り手と買い手は、反社会勢力またはそれに関連する者ではないこと。
などです。
売り手が対象会社に関して表明保証する一般的な内容
◉対象会社の発行済株式総数は〇株であり、対象会社の発行済株式の全てが適法かつ有効に発行され、全額払込済みの普通株式であり、対象会社は、これらの株式を除き、株式、新株予約権その他の潜在株式を発行しておらず、これらに関する契約は存在しないこと。
◉売り手は、本株式を適法かつ有効に所有しており、本株式の株主名簿上の株主であり、本株式には質権、譲渡担保その他の担保権は存在しないこと。
◉対象会社の貸借対照表及び損益計算書(以下「本計算書類」という。)は、重要な点において、日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成されており、対象となる時点又は期間における対象会社の財政状態及び経営成績を重要な点において正確かつ適正に表示していること。
また、日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準上、計上する必要があるにもかかわらず本計算書類に計上されていない対象会社の財政状態又は経営成績に重大な悪影響を及ぼす簿外債務は存在しないこと。
◉対象会社は、所管の税務当局に対して適時に、重要な点において適法に作成された税務申告書を提出しており、また、法令に基づき支払うべき公租公課につき重大な未払又は支払いの遅延はないこと。
◉対象会社は法令に基づき加入が義務付けられている重要な社会保険、労災保険、雇用保険その他の保険等に加入しており、かかる保険に関し、法令に基づき支払うべき金銭につき重大な未払又は支払いの遅延はないこと。
◉対象会社において、取引先に対する重大な債務不履行がなく、かつ取引先による重大な債務不履行がないこと。
◉対象会社について、現在係属中の訴訟、仲裁、調停、仮処分、仮差押その他の司法上又は行政上の法的手続(以下、「訴訟等」という)がなく、対象会社が第三者に提起予定の訴訟等はなく、対象会社又はその資産を拘束する判決その他の司法上又は行政上の判断がないこと。
◉契約の締結及び履行は対象会社の重大な契約の解除、解約、取消又は無効の原因とならないこと。
◉対象会社の行う事業に関する契約のうち、本件株式譲渡に関する承諾、同意又は通知が必要な契約(本件株式譲渡が解除、制限又は禁止事由となる契約を含むがこれらに限られない)はないこと。
◉対象会社とその役員又は従業員との間で対象会社の事業に重大な悪影響を及ぼす係属中の労働紛争、労働争議その他の紛争は存在しない。対象会社がその役員又は従業員に対して法令上支払義務を負っている報酬、賃金(時間外、休日又は深夜の割増賃金を含む。)、賞与及び退職慰労金その他の金銭債務又は給付債務を適切に履行していること。
◉対象会社は、全ての重要な法令、通達を遵守し、必要な全ての許認可を有し、許認可に伴う条件・要件を遵守して事業を行っていること。
◉対象会社が、対象会社の事業の運営にあたり公害、環境保護、廃棄物処理及び清掃に関する法令並びに行政指導上の規制を遵守し、これらに違反しておらず、かつ対象会社が所有する不動産について土壌汚染その他の環境汚染が発生しておらず、又はこれらの事項に関して官公庁若しくは第三者から警告若しくはクレームを受けていないこと。
◉対象会社が、基本合意締結日以降、買い手の事前の書面による同意によらず、対象会社の資産・財務内容に重大な変更を生じさせていないこと。
◉売り手と対象会社は、対象事業の運営又は価値に関連を有する重要な文書及び情報で買い手から開示要請を受けたものは全て開示しており、開示情報は重要な点で真実かつ正確であり、不正確な資料を提供したことはないこと。
などです。
M&Aにおける表明保証条項の限定方法
前セクションの表明保証条項の内容をご覧いただいて分かる通り、売り手側のリスク分担の比重が重く、売り手がM&Aを安心して実行できないケースが発生する恐れがあります。
それを避けるため、売り手側が表明保証できない事項に関して限定させることも可能です。その場合は、表明保証除外事項などとして契約書に別紙を添付し表明保証を限定させることもあります。
M&Aにおける表明保証条項違反の効果
M&Aにおける表明保証条項違反の効果として、売り手が負う可能性のあるものは、損害賠償請求と補償請求の2つです。
損害賠償請求を受ける可能性
表明保証条項に明記された内容が事実と明らかに違っていた場合には、損害賠償請求を受ける可能性があります。これは、故意・過失があったかどうかに関わらず請求を受けるものです。
損害賠償請求では、表明保証条項違反により買い主側が被ってしまった経済的な損失を補填するために必要なものが請求されます。
補償請求の可能性
補償請求についても故意・過失に関わらず受ける可能性があります。
損害賠償請求と補償請求の違いを説明すると、賠償というのは違法行為によって受けた損害を補填することで、補償は法には違反していない行為によって受けた損害を補填することです。
ここまでは、表明保証保険を理解いただくために表明保証の基礎的な部分を解説しました。次のセクションから表明保証保険の具体的な解説をして行きます。
表明保証保険が必要な理由
表明保証保険が必要な最たる理由は、買い手側が実施するデューデリジェンスや売り手側の表明保証だけでは払拭できないリスクを回避することにあります。
デューデリジェンスで売り手企業の買収監査は行うものの、時間も費用も限られるため、監査範囲も限定的なものとなり、監査対象企業の全てのリスクを洗い出すことは現実的ではありません。
また、最終契約書に売り手側の表明保証条項が謳われていたとしても、売り手自身が売り手企業の全てのリスクを把握しているとは限らず、善意無過失であれ虚偽情報の開示となり損害が発生した場合は、その責任を負わなければなりません。
表明保証保険は、これらを補填するために必要な契約であり、M&A取引上のリスクヘッジには最適な保険契約と言えるのです。
より深くご理解いただくために、これを踏まえたうえで次のセクションからの解説を読み進めてください。
表明保証保険の内容
前述の通り、表明保証保険とはM&Aの最終契約書に記載される表明保証条項に違反があった場合、契約当事者が被る経済的損害を補償する保険のことであり、M&Aにおける表明保証とは、契約当事者が最終契約の締結日又はクロージング日において、相互に開示した情報が真実かつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証することです。
今までのセクションの内容を軽くおさらいしたところで、表明保証保険の内容について、解説していきます。
表明保証保険のタイプ
表明保証保険のタイプには、買い手側が加入する買主用表明保証保険と、売り手側が加入する売主用表明保証保険の2種類あります。
買主用表明保証保険
買主用表明保証保険は、買主が保険契約者(保険契約者となり保険料を負担)であり被保険者(保険金を受け取る対象)となります。
売主の表明保証違反により経済的損害を被った際、その損害の全部または一部を保険会社から保険金として受け取ることができます。
保険の補償範囲は、M&A取引の補償範囲を超えて設定することが可能であり、保険金の請求手続きは、保険会社に請求すれば事足ります。
売主用表明保証保険
売主用表明保証保険は、売主が保険契約者(保険契約者となり保険料を負担)であり被保険者(保険金を受け取る対象)となります。
売主が表明保証違反により買主に経済的損害を与えた際、買主に補償すべき損害の全部または一部を保険会社から保険金として受け取ることができます。
保険の補償範囲は、M&A取引の補償範囲を超えて設定することが不可であり、保険金の請求手続きは、買主からM&A契約に基づく補償求償を受け、その補償金額が確定した後、売主より保険会社に請求する流れとなります。
表明保証保険の補償極度額
表明保証保険で受け取れる保険金は、損害額の全額が補償されるわけではありません。契約上、補償極度額(受け取れる上限額)が設定されていることが一般的であり、売り手企業の企業価値の10~20%程度が相場となっています。
この点、表明保証保険を販売している各保険会社によっても設定が変わって来るので、契約の際は必ず十分な説明を受けたうえで締結するようにしましょう。
表明保証保険の保険料
表明保証保険の保険料は、補償極度額の1~3%程度となることが一般的です。料率の設定については、売り手企業の事業内容、M&A成約価額、免責金額、保険期間等を勘案し決定されます。
しかし、表明保証保険の保険料には、最低保険料が設定されていることが多く、相場としては500万円~1,000万円程度となることがあります。
このため、小規模M&Aにおいては費用負担が非常に重く、保険によるリスクヘッジは難しいという問題点がありました。
これを受け、近年の小規模M&A成約数の増加に対応すべく、最低保険料を引き下げた表明保証保険の取り扱いも開始されております。
この点、前のセクションで解説した補償極度額同様、表明保証保険を販売している各保険会社によっても設定が変わって来るので、契約の際は必ず十分な説明を受けたうえで締結するようにしましょう。
表明保証保険の加入方法
表明保証保険に加入するには、まずは保険会社に問い合わせを行い保険料の仮見積もりを申し込みます。
仮見積もりで大まかな保険料を確認し、さらに申し込みを依頼するには、保険会社に企業概要書やデューデリジェンスの監査レポートの提出が求められます。
その後、申込者と保険会社で面談し、契約期間や補償額などのヒアリングを行い、引受審査が入ります。審査が通過した場合、確定見積もりを依頼します。
最後に、申込者と保険会社間で補償内容や保険料などの交渉を行い、内容を確定させた上で表明保証契約を締結します。
表明保証契約書の締結のタイミングは、M&Aの最終契約書を締結する日と同日になることが一般的です。また、仮見積もりは無料ですが、確定見積もりは有料となるのが一般的なので、各保険会社に詳細を確認するようにしてください。
表明保証保険を取り扱っている保険会社
表明保証保険は、主に以下の3社からリリースされています。
・損害保険ジャパン
・東京海上日動火災保険
3つめの東京海上日動火災保険は、中小M&A向けの表明保証保険も取り扱っており、小規模M&Aにも対応しています。
また、バトンズが提供するデューデリジェンスである「バトンズDD」でデューデリジェンスを行った場合、表明保証保険もセットで加入することも可能であり、小規模M&Aを行う際は、バトンズDDでのデューデリジェンスを行うことを推奨致します。
表明保証保険に加入することのメリット
表明保証保険のタイプには買い手側が加入する買主用表明保証保険と、売り手側が加入する売主用表明保証保険がある事は前述の通りです。
次は、表明保証保険に加入することのメリットを買い手側、売り手側に分けて解説します。
表明保証保険に加入することの買い手側のメリット
表明保証保険に加入すること自体が交渉材料になる
表明保証違反自体、双方にとって相当な痛手となります。
買い手にとっては、損失補填までに時間がかかり、売り手にとってもその損失を補填すしなければならず、不測な事態が起こった場合は、お互いに余計な時間や金銭の出費も発生します。
この点、買い手が表明保証保険に加入していることで、その損害を補填できるため売り手側としても交渉相手として受け入れられやすくなり、表明保証保険に加入すること自体が交渉材料となります。
ただ、表明保証違反があった場合、全ての事象や損失を補填してもらえるわけではないので、(後述する免責事項をご参照ください)この点、買い手側、売り手側双方でしっかり認識しておくようにしてください。
補償請求の簡略化が図れる
売り手側の表明保証違反が発覚し、損害賠償請求をおこなう場合、売り手側からその損害を回収するには、時間も費用も要します。
特に売り手が海外企業の場合などは、請求手続きも煩雑となり、手間だけではなく損失補填までの時間も長期となります。しかし、表明保証保険に加入していれば、損失補填は保険会社に請求すればいいため、補償請求の簡略化が図れます。
表明保証保険に加入することの売り手側のメリット
クリーンエグジットの実現
クリーンエグジットとは、売り手側がM&A成約後に表明保証責任を回避した上で、譲渡事業より完全撤退することです。
売り手側からすれば、自身でも気づいていない簿外債務や偶発債務などのリスクを背負いこんだままのM&A成約自体が心理的障害となり、なかなかM&Aに踏み切れないこともあります。
ですが、売り手側が表明保証に加入することで損失補填が見込め、クリーンエグジットの実現が可能であれば、M&A成約にも大きく前進する事ができます。
エスクローの回避
エスクローとは、M&A契約当事者間の利害調整のため、金融機関などの第三者に譲渡代金の一部を預託し、特定の条件が達成された場合、譲渡代金一部を決済することです。
例として、買い手側が譲渡代金の一部を、売り手企業名義の定期預金として預託。特定の条件が達成された際に、預託した金銭を売り手側に決済します。
表明保証保険に加入しない場合は、表明保証違反への備えとして、買い手側は金融機関などのエスクローエージェントに譲渡代金の一部を預託することが一般的ですが、表明保証保険の加入があれば、エスクローを回避する事が可能となり、売り手側は譲渡代金の早期回収が図れます。
良好な関係性の維持が図れる
M&A成約後、売り手側が個人の場合、そのまま売り手企業の役員として残留するケースがあります。しかし、M&A成約後、予期せず表明保証違反が発覚し、売り手側に損害賠償請求が行われた場合、売り手と買い手との関係性の修復は困難となり、両者の争いが泥沼化することもあり得ます。
でずが、表明保証保険への加入があれば、損失補填への備えもあるため、両者の争いが起こりづらく、その後も良好な関係性の維持が図れます。
表明保証保険における注意点
表明保証保険における注意点としては、免責事項があると言うことです。免責事項とは、損害が発生しても保険会社におおける保険金の支払責任が発生しない事項のことです。
つまり、表明保証保険に加入していたとしても、ある一定の事項においては、損害が発生しても保険金を受け取ることができないということです。
主な免責事項については以下となります。
・M&A成約時において、既知であった表明保証違反がある場合
・M&A成約時において、表明保証違反の恐れがあると容易に推測される事項
・リコール、製造物責任、環境汚染に対する責任、顧客トラブルなどが発生した場合
・罰金、課徴金などが発生した場合
・成約価額の調整が発生した場合
・年金、退職金などの積立不足
・業績予測との乖離
この点、各保険会社との契約書に盛り込まれているため、書面・口頭でも必ず確認し、表明保証契約書を締結するようにしましょう。
まとめ
以上、「表明保証保険とは?」を、解説しました。
今回の内容を、おさらいしましょう。
①表明保証保険の意味
・表明保証保険とは、M&Aの最終契約書に記載される表明保証条項に違反があった場合、契約当事者が被る経済的損害を補償する保険のこと。
②M&Aにおける表明保証とは?
・M&Aにおける表明保証とは、契約当事者が最終契約の締結日又はクロージング日において、相互に開示した情報が真実かつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証すること。
・M&Aにおける表明保証条項の機能
リスク分担:リスク分担機能とは、M&Aにおける表明保証条項を明記することで、対象会社(又は対象事業)に問題が発生した場合、売り手と買い手がどの範囲まで責任やリスクを負担するかを明確にする機能。
M&A実行の前提条件:M&A取引は売り手、買い手ともに、表明保証違反がないことを前提条件に実行。逆に言うと、表明保証違反が判明した場合は、M&Aは実行せず、契約を解除する事ができる。
補償:表明保証した事項が真実かつ正確でなかったことに起因して相手方に損失、損害、責任、費用等が発生した場合には、損害賠償請求に応じることとなる。
・表明保証条項の一般的な内容は、「売り手と買い手が表明保証するもの」と、「売り手が対象会社に関して表明保証するもの」の2通りに分けられる。(詳細は当セクション参照)
・売り手側が表明保証できない事項に関して限定させることも可能。その場合は、表明保証除外事項などとして契約書に別紙を添付し表明保証を限定させる。
・M&Aにおける表明保証条項違反の効果
損害賠償請求を受ける可能性:表明保証条項に明記された内容が事実と明らかに違っていた場合には、損害賠償請求を受ける可能性あり。
補償請求の可能性:補償請求についても故意・過失に関わらず受ける可能性あり。
③表明保証保険が必要な理由
・表明保証保険が必要な最たる理由は、買い手側が実施するデューデリジェンスや売り手側の表明保証だけでは払拭できないリスクを回避することにある。
④表明保証保険の内容
・表明保証保険のタイプ
買主用表明保証保険:買主が保険契約者(保険契約者となり保険料を負担)であり被保険者(保険金を受け取る対象)となる。
売主用表明保証保険:売主が保険契約者(保険契約者となり保険料を負担)であり被保険者(保険金を受け取る対象)となる。
・表明保証保険は、契約上、補償極度額(受け取れる上限額)が設定されていることが一般的であり、売り手企業の企業価値の10~20%程度が相場となっている。
・表明保証保険の保険料は、補償極度額の1~3%程度となることが一般的。料率の設定については、売り手企業の事業内容、M&A成約価額、免責金額、保険期間等を勘案し決定。
⑤表明保証保険の加入方法
1,保険会社に問い合わせを行い保険料の仮見積もりを申し込み
2,仮見積もりで大まかな保険料を確認し、さらに申し込みを依頼するには、保険会社に企業概要書やデューデリジェンスの監査レポートを提出
3,申込者と保険会社で面談し、契約期間や補償額などのヒアリングを行い引受審査実施
4,審査が通過した場合、確定見積もりを依頼
5,申込者と保険会社間で補償内容や保険料などの交渉を行い、内容を確定させた上で表明保証契約を締結
※表明保証契約書の締結のタイミングは、M&Aの最終契約書を締結する日と同日になることが一般的。また、仮見積もりは無料ですが、確定見積もりは有料となるので各保険会社に要確認。
⑥表明保証保険を取り扱っている保険会社
・三井住友海上火災保険
・損害保険ジャパン
・東京海上日動火災保険(中小M&Aにも対応)
※バトンズが提供するデューデリジェンスである「バトンズDD」でデューデリジェンスを行った場合、表明保証保険もセットで加入することも可能であり、小規模M&Aを行う際は、バトンズDDでのデューデリジェンスを行うことを推奨。
⑦表明保証保険に加入することのメリット
・表明保証保険に加入することの買い手側のメリット
買い手が表明保証保険に加入していることで、その損害を補填できるため売り手側としても、交渉相手として受け入れられやすくなり、表明保証保険に加入すること自体が交渉材料になる。
また、表明保証保険に加入していれば、損失補填は保険会社に請求すればいいため、補償請求簡略化が図れる。
・表明保証保険に加入することの売り手側のメリット
売り手側が表明保証に加入することで損失補填が見込め、クリーンエグジットの実現が可能であれば、M&A成約にも大きく前進することができ、エスクローを回避することもできるため、売り手側は譲渡代金の早期回収が図れる。
また、損失補填への備えもあるため、両者の争いが起こりづらく、その後も良好な関係性の維持も図れる。
⑧表明保証保険における注意点
・保険契約上、免責事項があることが挙げられる。
主な免責事項
・デューデリジェンスが実施されていない、または監査が不十分だったと判明した場合
・M&A成約時において、既知であった表明保証違反がある場合
・M&A成約時において、表明保証違反の恐れがあると容易に推測される事項
・リコール、製造物責任、環境汚染に対する責任、顧客トラブルなどが発生した場合
・罰金、課徴金などが発生した場合
・成約価額の調整が発生した場合
・年金、退職金などの積立不足
・業績予測との乖離
本編でも触れましたが、国内における表明保証保険の歴史はまだまだ浅く、小規模企業のM&A向けのリリースは少ないため保険未加入のままM&Aを成約するケースがほとんどです。
しかし、東京海上日動火災保険のように中小M&A向けの保険商品もあり、小規模M&A増加とともに今後、小規模M&A向けの表明保証保険のリリースも増えてくることが予想されます。
小規模M&Aを検討している方は、M&A情報だけではなく表明保証保険への動向にも目を向けておくと良いでしょう。
※デューデリジェンスのご相談を受け付けてくれるM&A専門家多数!
気になる方は、下記リンクより専門家に依頼しましょう!
スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」伊藤氏からのワンポイントアドバイス!
こんにちは!この記事を監修させて頂きました、スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所 代表の伊藤と申します。
ここからは、スモールM&A専門家である、わたくし伊藤が、M&A実務に即した、成約に大きく前進するためのアドバイスと注意点などを、なるべくわかりやすく(そして、くだけた感じで?)スモールM&Aの現場の経験をもとに解説していますので、是非、ご刮目下さい!
はいっ!
今回は、「表明保証保険」について解説しました。
いつもの記事はM&A用語のお話しでしたが、今回はM&Aに付随した内容でしたね。本編の内容ですが、M&A初学者の方には若干お難しかったかなとも思います。
というのも、表明保証保険の内容を理解いただくには、表明保証自体を知っておかなければいけないからですよね。
本編では表明保証についても基礎的な部分を触れさせていただきましたが、より深くご理解するためにも、実際に最終契約書の内容も閲覧に頂き、どういった条項なのかも見てみると良いですよ。
バトンズさんのサイトからも、最終契約書のひな形がダウンロードできるので、是非、ご参照くださいね。
っとまあ、表明保証保険のお話に戻しますが、M&Aアドバイザーとしてもやっぱり加入しておいた方がセーフティかなと思います。
生命保険や火災保険同様、何かしら備えをしておくことって心情的にも安心しますし、M&A取引は会社にとって非常に重要な契約となるので、それに対するリスク対策は何かしら取るべきですよね。
ですが、表明保証保険に加入したからと言って決して契約書や交渉の内容を雑にしてはいけませんよ!本編で解説した免責事項しかり、保険金はしっかりと手続きを踏んだM&Aに対してのみ請求されるものですので、注意しましょうね!
っと、保険金をもらうことを前提に話してしまいましたが、最善のM&A取引は表明保証違反なく、円満に成約することです。保険金請求自体が起こらないことがもっとも良いわけですよね。
そのためには、どうしたらいいかを今回のワンポイントアドバイスでお話ししたいと思います!
と言うことで、今回のワンポイントアドバイスは「【必見】表明保証違反の回避術」を解説していきます!
【必見】表明保証違反の回避術
ではでは、表明保証違反の回避術について解説していきましょう!
今回解説するポイントは以下の4つです!
②売り手側でもリスク調査をしておく
③デューデリジェンス(買収監査)を徹底する
④【推奨】バトンズDD(表明保証保険付き)について
それでは順に、ご説明しましょう!
①M&A交渉・デューデリジェンス(買収監査)時に嘘をつかない
当然の話ですが、M&A交渉・デューデリジェンス(買収監査)時に嘘をついてはいけませんよ。
最終契約書は、M&A交渉やデューデリジェンス(買収監査)時に売り手へインタビューした内容を元に作成されます。しかし、M&A成約後、売り手が話した内容と異なる部分が出てきてしまうと表明保証条項違反により損害賠償の対象となります。
M&A交渉上、成約価額の引き下げや、不利な条件を提示されるような情報も買い手側に共有しなければならい事は多々あります。
それを嫌がり交渉が少しでも有利になるようにと、虚偽の情報を申告しては決していけませんよ。
特に、デューデリジェンス(買収監査)時に監査人から受けたインタビューの内容は、デューデリジェンス(買収監査)レポートにもしっかり記録されています。一度嘘をつくと後々つじつまが合わなくなるため自分で自分の首を絞める結果となってしまいます。
確かに売り手側としたら、公表したくない情報もあるでしょうが、買い手側からしたら、今後自分の経営する事業のリスクは完全に把握しておきたいものなんですね。
これについては、勇気を出して買い手側に正確な情報をシェアしましょうね。むしろ、ネガティブな内容を積極的に買い手側に開示することが好感を受け、交渉条件を譲歩してもらえることさえありますよ。
表明保証条項違反により損害賠償を受けることは、売り手側にとって最大のリスクと言えます。ネガティブな情報であっても、虚偽申告は決してせず、買い手側と監査人に正確な情報を伝える事が重要なんですね。
②売り手側でもリスク調査をしておく
「M&A交渉・デューデリジェンス(買収監査)時に聞かれなかったから答えなかった」も、当然NGですよ。
かといって、売り手側も自社のリスクを全て把握しているわけではありませんよね。そこで、M&Aを検討しはじめたら、必要資料の収集と自社のリスク調査も行うべきです。
自社の状況を把握するには、
・ビジネス・業務内容の棚卸し
・法務内容の確認
・税務・税務内容の確認
・労務内容の確認
・得意先・取引先の状況
・従業員の状況
・各種契約の状況
・許認可の状況
などを、調査しておけば概ねOKです。
財務・税務については顧問税理士へ問題点などがないかを相談すればよし!
調査してみると、自分でも気づかなかった自社のリスクを把握することができます。
その内容は、積極的に買い手に共有するようにしてくださいね。M&Aへの本気度の高い買い手だと、そのリスク対策を打った上での買収を検討してくれます。
また、自社のネガティブ情報を予め開示する事はM&A交渉上のマナーのひとつでもありますので、自社のリスク調査は必ず行い円満なM&A成約を目指しましょう!
③デューデリジェンス(買収監査)を徹底する
ここからは買い手向けのお話です。
デューデリジェンス(買収監査)は、必ず徹底するようにしましょうね。徹底的に調査を行わないと、売り主側のリスクの全容が見えず、後顧の憂いともなり得ます。
譲渡契約書に表明保証条項を入れておけば、最悪の場合、損害賠償請求をすればいいなどとは決して考えてはいけませんよ。
特に小規模M&Aにおいてよくある失敗は、デューデリジェンスを行わないということです。小規模M&Aにおいては、買収価額も高くないので、デューデリジェンスをショートカットしたがる買い手も多くいるんですね。(事業譲渡だと特に多い汗)
しかし、後々のトラブルを避けるためにも、時間と労力、そして費用をかけてでもM&A専門家に相談し、デューデリジェンスを徹底するようにしましょう。
それでもM&Aを成約することが不安な時は、表明保証保険に加入です!
(無事、フラグ回収!(笑))
④【推奨】バトンズDD(表明保証保険付き)について
ちょっとここも買い手さん向けのお話です。
バトンズDDについてですが、本編でもお話ししましたけど、M&A専門家から見てもお奨めですよ。(この記事の掲載サイトがバトンズさんだからとかの話じゃないですよ。)
というのも、デューデリジェンスって小規模M&A(スモールM&A・マイクロM&A)でも結構な費用がかかるんですね。
法務から税務、財務、労務、それにプラスしてビジネスデューデリジェンスまで入れると簡単に100万円超えちゃいことって珍しくないんですね。場合によっては、200万円程になることもありますよ。
一方、バトンズDDの場合、財務デューデリジェンス中心ですが、最低料金398,000円(税込437,800円)を支払えば、かなり詳しい監査レポートを作成してくれます。
法務や税務、労務、ビジネスデューデリジェンスも一緒にやってもらいたい場合は別途料金が必要になるでしょうが、通常のデューデリジェンスよりは費用も抑えられると思います。
また、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が得意な専門家に依頼すれば、そのままPMI支援もサポートしてくれることもあります。(PMI支援については別途料金となるでしょう)
この点、バトンズDDが必要になった時は、まずはバトンズさんに相談してみてください。どこの分野を重点的にデューデリジェンスの実施をしてもらいたいかなどをお話すれば、その分野に特化した専門家を紹介してくれますよ。
また、バトンズDDの費用ですけど、この中には表明保証保険の保険料が含まれているんですね。つまり、バトンズDDを実施すれば自動的に表明保証保険もついて来るわけです。
この点も、専門家から見ると「ああ~ これ いいな~」って、思うところなんですね。
何度も掲載してますが、再度バトンズDDのバナーを貼っておきますので、ご参考にしてみてください。
今回記事の「まとめ」の「マトメ」
以上、「【必見】表明保証違反の回避術」を解説しました。
冒頭もお話ししましたが、表明保証って一般の方にはちょっと難しかったかなと思います。ただ、M&A契約上(他の契約書も)、表明保証ってめちゃくちゃ重要ですからね。
本編の内容は表明保証保険でしたが、その前段階で理解いただきたい表明保証も今回の記事でしっかり押さえておいていただけたら幸いです。小規模M&Aを検討している方も、表明保証保険という保険があると言うことを覚えておいてくださいね。
まだまだ小規模M&A向けの表明保証保険の取り扱いは少ないですが、小規模M&Aの増加とともに、今後多くに保険がリリースされてくると私は思います。
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今回のワンポイントアドバイスでは、「【必見】表明保証違反の回避術」について解説しましたが、今後もM&A実務に即したネタをご紹介しますので、これからもご覧いただけますと幸いです。
また、この記事が良かったなと感じたら、SNSでのご紹介をお願いします!
最後に、みなさまのM&Aが、安全にご成約されることを心よりお祈り申し上げます。
また次の記事でお会いしましょう!
それでは!
【監修者プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)
「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
「合同会社アジュール総合研究所」の紹介ページ
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