M&Aを検討するにあたってよく耳にするのが営業権というワードです。あまり聞きなれないワードだと思いますが、「のれん」などと同様の意味で使用されています。
この記事では、「営業権」「のれん」の意味や評価方法について解説します。
【監修者プロフィール】
福住仁志(ふくずみ ひとし)
会計事務所を母体とするコンサルタント会社に入社、全国TOPの目標達成率を樹立し東京支社長就任。中小企業においても、事業再生の1つの手段としてM&Aが必須となると確信し代表としてBiz Linksys (事業承継・引継ぎ 相談窓口)を立上げ、現在に至る。
「Biz Linksys」の紹介ページ
営業権・のれんとは?
のれんといえば、従業員がお店から独立する際に、そのお店の掲げている屋号やブランドを利用して独立できる「のれん分け制度」などを思い浮かべるかたもいらっしゃると思います。
「のれん分け制度」も、そのお店のブランドや屋号を利用する営業権など無形資産の価値を指しているという意味ではM&Aでいう「営業権・のれん」と似た内容になりますが、「のれん分け制度」の場合では使用料を納めないことも多く、そこに対価が生じるというイメージはあまりないかもしれません。
しかしながら、実態としては屋号やブランドに顧客の集客力があったり、そのお店で培われたノウハウなどを利用することができるため、将来の収益力を生み出す大きな価値をもった無形資産となるのです。
一方、M&Aの場合の「営業権・のれん」はブランドやノウハウだけでなく情報や人材、将来収益を生み出す元なる無形資産全体を指す意味となるため、より広義の意味となります。また、それらは将来収益を生み出す源泉となるので、それ自体に価値が生じます。
なぜM&Aにおいて営業権・のれんが重要になるかというと、譲渡金額を設定する際に影響が大きいのがこの営業権・のれんの評価となるためです。
企業がすでに保持している資産や負債のように、すでに数値化されている価値というのはある程度決まりきっているので、ここにプラスアルファされる営業権・のれんの評価をどのくらい足すことができるかが、譲渡金額を設定するうえで非常に重要な要素となります。
営業権の評価方法(年買法)
次に営業権の評価方法についてご説明します。
一般的により簡易的に利用される方法として「年買法」があります。特に小規模M&Aにおいては最も広く利用されている評価方法となります。
年買法
年買法とは、対象となっている企業の時価純資産額を求めて、その金額に営業利益の数年分(1年~5年分)を加算して計算する方法です。企業の時価純資産額というは、資産の内容など見直して時価評価すればある程度ぶれることはないので、あとは営業利益を何年分で評価しましょうかという話になるので非常に容易な方法といえます。
いわゆる「営業利益 × 〇年分」の部分が「営業権・のれん」となるわけです。
ただしこの年買法、非常に容易で簡易的な方法ではありますが、これだけで譲渡金額がきまるのかといえば決してそうではありません。やはり売り手様としては、杓子定規に一律で評価の金額が決まってしまうとなると違和感を感じる方も多いのではないでしょうか。
例えば以下のケースなどです。
<売り手からの主張例>
・直近はある事情で休業していたため一時的に売上が落ち込んでいた。その実績をベースに計算して欲しくない。通常営業が再開すれば顧客は戻ってくるはずなので回復後の利益を考慮してほしい。
・まだ創業してから間もないのでどうしても投資費用が先行し利益が出せていない。ただ顧客の獲得も右肩あがりのため、将来の想定も含めて企業価値を考慮して算出してほしい。
・営業している立地や条件・許可などが非常に特殊で希少性があり、ゼロから取得しようとすると現実的には非常に困難であるため、この部分の評価を加えてほしい。
などなど
確かに年買法という評価の方法は一般的ではありますが、その方法はあくまで一つの評価方法でしかありません。それらに加えて各企業の実態に合わせて細かく内容をヒアリングして、ヒアリングした内容を評価に落とし込み、その根拠を資料にすることが非常に重要です。そしてその根拠となる資料を買い手がみて納得する内容であれば、双方が合意した金額でM&Aを進めることができるのです。
売り手様にとっては初めてのM&Aとなるケースが多いと思います。はじめてのM&Aでは色々と戸惑うことも多いと思いますが、やはり自分で納得した条件や金額でM&Aを進めて頂きたいと強く思います。
しかしながら、この根拠となる資料作りや買い手との調整をいきなりゼロから行うというのは非常にハードルが高いと感じられるかもしれません。その際には、是非専門家を活用いただきご相談いただければと思います。杓子定規な評価ではなく個社ごとにしっかりとヒアリングを行って、売り手様が納得した条件で進めさせていただきます。
営業権・のれんの評価方法(年買法以外)
それでは実際に年買法以外の評価方法というのはどのような方法があるのかを解説してまいります。
主に、3つのアプローチがあります。
特に、上記の中で最も重要になるのが、マーケットアプローチです。
まず最も重要なマーケットアプローチについて解説していきます。
マーケットアプローチ(市場性)
マーケットアプローチとは、文字通りマーケット(市場)の視点からアプローチして算出する方法で、代表的な方法として類似会社比較法などがあります。
主に対象企業に類似する上場会社の時価総額等などを元に指標等に落とし込み、評価倍率を算出しその倍率をもとにアプローチする方法です。
比較的規模の大きなM&Aにはすでに市場で評価されている上場企業の評価を利用することが可能ですが、小規模M&Aの場合は適さないことも多いです。そのため、小規模M&Aでは過去M&Aが成立した類似の案件をもとにそれらの企業規模や成約金額等を加味して算出するなども行ったりします。
ただ小規模M&Aの場合、過去に類似の案件が実績として適切でないこともあります。実際には近しい業種だったとしてもニッチな市場をターゲットにしている場合、算出の元となる基準になりえないという場合です。
その場合には市場性という視点においてアプローチをしていきます。市場性といってもピンとこないという売り手様も多いと思います。そこでまずはこの企業を売りに出したらどのような買い手がいそうか、ということを想像してみてください。
売り手にとっては、買い手も市場の一部です。その買い手は何に困っていて、どうしてこの会社を買いたいと思うのか。そしてこの会社を買った後はどのような相乗効果が見込めるか。そういったことを考えることで、狭い範囲での市場のイメージが出てきます。
そして、当然その買い手はその先の顧客を含めた市場を目的に買収を検討していますから、買い手が企業を買ったあとにどのように相乗効果を働かせて顧客にアプローチすることができるのか。そしてそれをやるにはこの企業を買うことがどのくらい重要性があり、また買収の価値があるかということを買い手目線で考えてみるというのが重要です。
この考え方は、いざ売り手となる時においても非常に重要ですが、通常の経営においてもどこか頭の隅において置くと様々な気付きが生まれるためおすすめです。
次にインカムアプローチ(収益性)です。
インカムアプローチ(収益性)
インカムアプローチとは、対象企業の将来の予想収益やキャッシュフロー予測に基づいて価値評価をする、収益性の面から算出するアプローチ方法です。代表的な方法としてはDCF法などがあります。
DCF法とは、ディスカウントキャッシュフロー法の略で将来予想されるフリーキャッシュフローを割引率を用いて、現在価値に割り引いて求めるという方法です。将来のフリーキャッシュフローは事業計画書などをもとに作成し、割引率は加重平均資本コストやそこにリスク・プレミアムを付加して算出します。
未上場企業については、資金調達先として金融機関等からの借入がメインである場合が多いため、加重平均資本コストが問題になることはないと思いますが、そこに付加するリスク・プレミアムについては案件ごとに調整が必要となる部分です。
リスク・プレミアムとは、計画の実現を妨げる要素をリスクとして挙げて、そのリスクを数値化して企業価値を求める際の割引率に数値として付加する(プレミアム)という考え方です。
将来会社を売りたいと考えている方は、事業計画を作成した際にこの計画はどのくらいの確率で実現可能なのかを想像してみてください。またその際に実現できない要素はどこに存在しているか(リスク)、そして実現できない要素が発生する確率はどのくらいか(プレミアム)、ということも想像してみるとより客観的な側面から自社の価値が見えてくるはずです。
次にコストアプローチ(資産性)です。
コストアプローチ(資産性)
コストアプローチとは、対象企業の貸借対照表の純資産に着目し価値評価をする、資産性の面から算出するアプローチ方法です。
対象企業の資産や負債について簿価で評価されているものを時価ベースに修正し時価純資産額として求めるなどが代表的な方法です。対象企業の貸借対照表をベースにアプローチするため、恣意的な判断の要素が加わりにくいという特長があります。
以上、営業権・のれんの評価方法について3つのアプローチ観点から説明させていただきました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
会社を売りたいなと考えたことがあるかたは、自分の会社がいくらで売れるのか、そもそも希望金額を提示するにもどのような考え方で組み立てれば良いのか、といった悩みを抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
年買法など一般的な評価方法というのは非常に簡易的で便利な側面もありますが、結局は個別の案件ごとに状況は大きく異なるため、ひとつひとつの案件に対して詳しくヒアリングを行い客観的で合理的な内容に基づいて希望金額の妥当性を構築していくしかありません。
簡易的な方法で算出した金額が一人歩きして最終的には交渉の足かせになることもあります。まずは専門家などにご相談いただきたいと思います。
また会社を売りたいと思っていない方であっても、自分の会社をマーケットアプローチ(市場性)の側面から見直してみるというのも非常におすすめです。
現在ではバトンズなどM&Aプラットフォームにおいて成約した案件情報などもオープンになっていますし、M&Aの専門家にご相談いただきながら自分の会社がマーケットの側面からどのような価値が見いだせるか、そしてどの部分をのばせばその価値をより大きくできるのか。そういった観点で今の会社を見直してみるきっかけにするというのはいかがでしょうか。
上場企業は、日々株価によって会社の価値が評価され続けています。中小企業などの未上場企業はそういったことが無いため、売上を伸ばす・利益を伸ばすという意識があったとしても、なかなか企業価値を意識することはないと思います。
企業価値の評価・分析とその向上についてご興味ありましたら是非お問い合わせ頂ければと思います。
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