2023年3月28日、富山県の大手地方紙「北日本新聞」の経済欄を沸かせたのは、パン製造販売業にして地元の人気店「パン・オーレ」が、菓子製造卸の栃木屋に全株式を売却したという記事でした。
パン・オーレの代表取締役社長である田中憲治様は、30歳を超えたタイミングでパン屋をオープンして以降、様々な困難を乗り越えながらパン・オーレを地元の有名店にまで育て上げました。いまだ人気の衰えないパン・オーレですが、田中様はなぜ今回譲渡の決断に至ったのか。譲渡先を探す上で、どんなご経験をされ、どんな思いを巡らせたのか。詳しくお伺いさせていただきました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社パン・オーレ |
業種 | 食品(パン製造・販売) |
拠点 | 富山県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 有限会社栃木屋 |
業種 | 食品(菓子製造・販売) |
拠点 | 広島県 |
譲受理由 | 新規事業への参入 |
30代で脱サラして自宅を店舗に改装!始めたのは、夫婦で切り盛りする町のパン屋
創業28年、富山市民に愛され続けたパン屋さん「パン・オーレ」の本店は、国道沿いにある大型ショッピングセンターの横に建ち、約500坪の敷地に煉瓦造りの大きなスペイン石窯が目印です。
その石窯の煙突から漂ってくる芳ばしいパンの香りに引き寄せられ、毎日多くの人々がここを訪れて100種類以上のパンの中から気に入ったものをトレイに入れて笑顔で店を出ていきます。
そんな有名店を切り盛りするのは、パン・オーレ社長の田中様とその奥様。元はサラリーマンだったという田中様は、30歳を超えた頃に「自分で商売がしたい」と一念発起。独立してパン屋の創業を目指します。
自分でお店を開く前に、パン屋で修行することを知人から勧められた田中様は、横浜の有名なパン屋で修行を積まれた後、自宅を改装してパン屋をオープン。“小さな一歩”を踏み出されました。
「30年近く運営してきましたが、いろいろと世の中が変化する中で、それに上手く乗っかってきたという感じです。直近では、コロナ禍による経済の影響が注目されていますが、例えば、私たちが開業して2年目に阪神大震災が起こり、その時も柔軟な対応が迫られました。
また、今となれば大型スーパーの中にパン屋があるのは珍しくなくなりましたが、28年前には存在しなかった業態ですし、郊外に大型店を作るという流れも後になって生まれたものです。そして、こうした新しいスタイルが勢いを増す背景には、多くの場合、規制緩和が絡んでいます。
私たちは、郊外型店舗に対する規制緩和に乗じて、お店を移転させながら少しずつ大きくなっていきました。そして今では、パン・オーレのシンボルともなっている、大きなスペイン石窯を併設した店舗を構えるまでになりました。」
自然災害を含めた経済危機を乗り越え、今なお地元の人気店として愛されているパン・オーレ。長年続けてきたお店は、今や自分たちだけのものだけではなくなっており、ここで働く従業員を含めたパン・オーレに関わる人たちのことを考えると、誰かに事業を譲り渡す必要性を感じるようになったと田中様は話します。
「徐々に規模が大きくなって従業員も増えていき、パンの卸売の取引先もあれば借入金やリースもある。そういう中で、いざ引退しようと思っても『はい、やめます』というわけにはいかない状況になっていました。
一方、子どもたちも後を継ぎたいと考えている様子はありませんでしたし、私たち夫婦も無理やり継がせたいとは思いませんでした。そこで、どうしたものかと悩んでいた頃、ちょうど同級生が銀行のM&Aチームにいたので、相談してみようと思ったのが最初のきっかけです。」
こうして、パン・オーレの後継者探しはスタートしたのでした。
限られた情報源を紡いでたどり着いた、スモールM&Aという選択肢
知人経由でM&Aの検討を始めた田中様でしたが、具体的に話を進めていく中で、M&A仲介を立てることによる手数料の高さが、交渉を成立させる際のネックだと感じるようになったと言います。
「私たちの希望する売値価格に手数料を上乗せすると、小規模な事業の場合、買い手とミスマッチが起こっているように感じました。そこで銀行以外にも、証券会社などを通じて候補者を探してもらったのですが、やはり価格で折り合いがつかずに成約まで至りませんでした。
そんな期間が3年くらい続いた頃、メインバンクに新しく着任した支店長がM&Aに明るい方でして。その方にバトンズを紹介してもらって初めて、低額の手数料でもM&Aが可能だということを知ったんです。
ここまで辿り着くのに時間がかかりましたが、スモールM&Aというものが広まってきたのも最近になってからなのではないかと感じています。」
今回のM&Aには、富山と東京を拠点に事業承継支援を行う「株式会社トマック」が仲介を行い、担当である村花竜彦様がM&Aアドバイザーとしてご成約まで支援されました。
「同じ富山県の会社ということもあり、何かあればすぐにこちらまで来て解決してくれるところが非常に助かりました。契約合意までは、本当に細かいやり取りが何度もありましたが、そのひとつひとつがスピーディに処理されていったのでストレスを感じませんでした。
これが、東京との遠隔的なやり取りだったら、決まるものも決まらなかったかもしれません。ですので、村花さんにはとても感謝しています。」
決め手になったのは、売り手に対するリスペクトとM&Aに対する深い理解
M&Aの検討から紆余曲折がありながらも、理想的な承継先に出会えたという田中様が選ばれたのは、広島県で菓子製造卸業を営む「栃木屋」の代表取締役社長である七森 正史様。M&Aの経験もあるため、交渉を進める際の安心感があることに加え、人として、経営者としての魅力も感じたと言います。
「七森さんは、銀行出身でファンドにいた経験もおありなので、M&Aというものがどういうものなのか、そのためのやり繰りをどうすればよいのかということを深く理解されていたため、安心して進めることができました。
また、『買ってやるんだから』というような上から目線のスタンスで交渉にくる買い手候補が多くいる中、七森さんは他の方々より知識や経験があるにも関わらず、腰が低いというか、私たちに寄り添って話をしてくれたのが印象的でした。
私の場合、譲渡後もしばらくは会社に残って仕事を続けたいと思っていたので、自分たちが一緒に働きたいと思える方かどうかも重要でした。七森さんは初めからお店まで足を運んでくださいましたし、M&Aの抱えるリスクもきちんと理解した上で、銀行との折衝も心得ていらっしゃるあたりは大変力強く感じ、とても信頼できる方だと思いました。」
「栃木屋」は富山名物である「七越焼」という、今川焼に似た菓子を製造販売している「七越」を傘下に持っており、自社の持つ粒あんを活かした新商品開発にも意欲的とのことで、ご成約後、既にパン・オーレの技術を活かしたあんパンの共同開発は試作品が完成したところなのだとか。
また、この合併によって新しい販路の開拓も進んでいるそうで、事業承継を機に大きなシナジーが生まれているのだと話す田中様。後継者不在という大きな課題を乗り越えた田中様とパン・オーレは、栃木屋のもとでこれからも地元に愛されるパン屋として経営を続けます。
田中様とパン・オーレの今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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