1950年に広島県広島市で創業された「有限会社栃⽊屋」は、⾖菓⼦、ドライフルーツ等の菓子の製造販売を主業とする食品メーカーとして、全国で取引される老舗企業です。そこで四代目を務める七森正史様は、2021年11月に富山県の老舗菓子製造販売を手掛ける「株式会社七越」を事業承継。加えて、同じく富山県でパン屋を営む「株式会社パン・オーレ」を2023年3月譲り受けされました。
もとは、七森様ご自身もM&Aで栃木屋のオーナー社長に就任されたという経歴を持ち、就任後もM&Aを活用して積極的な事業拡大を行なっています。そんなM&A経験豊富な七森様に、社長就任の背景やパン・オーレを引き継ぐまでの経緯について、お話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社パン・オーレ |
業種 | 食品(パン製造・販売) |
拠点 | 富山県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 有限会社栃木屋 |
業種 | 食品(菓子製造・販売) |
拠点 | 広島県 |
譲受理由 | 新規事業への参入 |
メガバンクの銀行員が、M&A経験を活かして老舗和菓子屋を個人M&A
もともと、メガバンクやバイアウトファンドで従事されていた七森様。事業会社でサラリーマンをしている中で、栃木屋の前社長との出会いがありました。
「私は大学卒業後、メガバンクで法人営業をしていました。その後、バイアウトファンドに転職し、事業承継をメインとしたバイアウトを6年ほど経験しました。その後は、一般の事業会社に移り経営企画やM&Aなどを担当し、栃木屋とはその時に出会いました。」
M&Aを専門とする七森様に、最初は事業承継の相談として繋げてもらったそうなのですが、実際にお会いすると、社長から思わぬ提案をいただくことに。
「私の父と、栃木屋のオーナー社長が大学時代からの友人で、社長が父に『後継者がいない』という話をされました。私が事業承継のM&Aを専門としていたので相談に乗ることになり、株式売却のお手伝いをすることになりました。最初はその形で進めていたのですが、社長から『あなたがやってくれ』と言われまして。
栃木屋は企業規模こそ小さいですが、高い技術力があり、得意先が数百件ある基盤のしっかりした会社でした。1年ほど断っていたのですが、2020年春にコロナウイルスで有名な芸能人の方が亡くなられました。
緊迫する状況下、もし高齢なオーナー社長が急に亡くなれば、従業員が職を失い、豆菓子の伝統技術が失われる。これは避けなくてはいけないと思い、2021年3月に私が個人で全株式を購入して、社長に就任したという経緯になります。」
思わぬ形で経営者としての道を歩むことになった七森様は、栃木屋の社長に就任後、2021年11月に富山名物「七越焼」を製造販売する株式会社七越の買収に至ります。
「栃木屋は、売上2億円台の小規模な会社です。私としては会社をもっと大きな企業にしていきたいですし、そのためには『第2の収入源を作らないといけない』と思っていました。全国の場所を問わずM&Aの検討のため、同じ菓子業界について企業調査をしていたときに、七越と出会いました。
七越は、富山県民に愛されているお菓子で、素晴らしいブランドなのですが、後継者不在で事業承継が難航していました。『七越は社会に残すべき会社、必ずのれんを守る』と売り手社長に伝えたところ、先方も私を気に入ってくださり、一気にクロージングまで進むことができました。」
現在、食品関連を軸に、優良ブランドの集合体を作る戦略を立てている七森様グループ経営の一歩目として、七越の承継に至りました。
富山の菓子製造販売とパン製造販売を承継。その相乗効果とは?
栃木屋と七越、歴史ある和菓子企業を引き継いだ七森様は、七越の粒あんが美味しく、年間15万個売れることに着目し、七越あんパンを作りたいと思い、全国でベーカリーのM&A案件を探し始めました。偶然にも七越と同じ富山県に拠点を置くパン・オーレの譲渡情報を耳にします。
「パン・オーレを引き継ぐ決断をした理由は、美味しいことは大前提としてありますが、富山では1~2を争う人気店で、ブランド力があるところに魅力を感じたからです。」
菓子製造会社と製パン企業という、同地域の異業種を引き継いだ七森様。両社を引き継いだことで生まれた、新しい商品の開発も現在進めていると言います。
「売手の社長は、一定期間を会長兼職人として、パン・オーレに残って頂いておりますが、早速、七越あんパンの試作、試験販売に入って頂きました。また、栃木屋はナッツを海外に買い付けに行ったり、輸入商社からドライフルーツを直接仕入れることができるため、レーズンパン、くるみパンなどを栃木屋からの調達にシフトでき、グループ化のメリットを出し始めています。」
もともとパン・オーレを引き継いだ際には、前オーナーご夫妻に当面の間残っていただくことを条件に交渉を進めていた七森様。クロージング後に認識の相違や仲違いが起こってしまう可能性もあるのがM&Aであるため、合意形成を慎重に進めていきました。
「パン・オーレが事業継続できるよう、同じ目標に向かって様々なことを合意しないといけないと思いました。全従業員に残って頂いているのですが、社長が変わるとなると従業員の方は少なからず不安になります。そのため、『私は進駐軍ではないので安心してください』『仕事を通じて一緒に豊かになりましょう』と、従業員の皆さんを心配させないようなコミュニケーションを心がけています。」
グループ化や海外展開など、様々な視点を持って事業拡大を目指す
10件以上のM&A経験をしてきた七森様は、今後はグローバル展開も選択肢として持ちつつ、経営者として事業拡大の構想を持たれているようです。
「優良ブランドや良い会社をグループ化して、事業規模をもっと大きくしていくつもりです。老舗企業は、管理部門が脆弱だったりIT化が進んでいなかったりするので、グループの管理部門がバックアップをできますし、お互いの商材や販路を活かしながら、共に成長していく方法でグループ全体の事業規模を拡大していきます。
七越や栃木屋のニッチな和菓子と違い、パンの市場規模は大きいので、パン・オーレは拡大できるチャンスがあると思っています。現行の大型店として、2店舗、3店舗とお店を増やしていくのも一つの可能性ですし、海外輸出をして市場成長率の高い地域でパン屋を展開していくことも可能性としてはあります。
色々な可能性が考えられますので、今後も和・洋菓子とパンの事業拡大を模索しながら、M&Aも検討しています。バトンズさんは案件数が多いので、その分、自社にマッチした案件にも出会いやすいですし、今後も積極的に利用していきたいです。」
M&Aも事業戦略の選択肢として考慮に入れながら、食品事業で拡大を目指す七森様。これまで複数のM&Aを実施しながら事業拡大を実現されている七森様に、最後にこれからM&Aを行う方にむけてアドバイスをいただきました。
「私がM&Aのアドバイスをするとしたら、『良き相談相手を見つけること』でしょうか。M&Aはクロージングまでに、対象会社のビジネス、会計・税務、法務、労務・総務など、判断して決めなくてはいけないことも多く、クロージング後も譲受した会社で起きる様々なことに決断をしていかなければいけません。
初めてM&Aを実施する人は、トラブルになりやすいと思いますので、M&Aの経験がある人の知恵を借りて進めることは、とても大事だと思います。経験を借りて考えうるリスクを減らしたうえで、M&Aにぜひ挑戦していただければと思います。M&Aは成功すれば、素晴らしい成長手段だと思います。」
富山県の2つの会社を引き継ぎ、すでにシナジーのある商品も生み出している七森様。この成功体験を軸に、今後はどのような事業展開を行っていくのか。
七森様と有限会社栃⽊屋の今後の更なるご発展を、バトンズ一同心より応援しております!
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2022年01月31日
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