群馬県高崎市、ここには長年のあいだ地元民に愛され続けてきた老舗カレー店「創作カレーハウス印度屋」があります。40年続く大御所レストランのオーナーシェフを務められているのが、今回のインタビューに応じてくださった荒木 隆平様。長年の間、我が子のように育ててきたお店を今回「事業承継」という形で手放そうと決めた理由は何だったのか。大切なお店をどんなお相手に譲ったのか。お店開業の経緯や今後のお話まで、詳しくお伺いしてまいりました。
譲渡企業 | |
---|---|
店名 | 創作カレーハウス印度屋 |
業種 | 飲食店(カレー店) |
拠点 | 群馬県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社エンジョイ |
業種 | 飲食業(ダーツバーの運営) |
拠点 | 群馬県 |
譲受理由 | 新規事業への参入 |
創業40年超!焼きチーズカレーを看板メニューに、殿堂入りのレストランへ
荒木様は専門学校をご卒業後、2年間ほどドイツのデュッセルドルフにある日本人向け洋食屋で修行。その後もオランダやフランスに足を伸ばしてレストランを食べ歩き、本場の味を舌で学んでいかれました。帰国後は、東京に拠点を構えてイタリアンを中心に7年ほど、洋食の道で経験を重ねていかれたのだそうです。
そんな荒木様が故郷である高崎市に戻ってきたのは27歳の頃。帰郷してすぐは、これまでの経験を活かすべく洋食屋を経営。33歳の時には、これまで経験を積まれてきた洋食ではなく、「創作カレーハウス印度屋」という店名でカレー専門店としてお店をスタートされます。
「もともと、カレーが好きだったというものあるのですが、カレーは他のメニューと違って再現性が高い料理です。火の通し加減などの微妙な調整は必要ないですし、味付けの調整も仕込みの際にまとめて行うので、『作る人による味の差異が起こりづらい』という点で、非常に特徴的だと感じました。
そんなわけでカレーというものに注目し、これまでイタリアンレストランで積んできた経験を組み合わせて生まれたのが、うちの看板メニューとして支持を集めた『焼きチーズカレー』です。開業した1983年の当時、まだ高崎ではカレー専門店というもの自体が珍しく、焼きチーズカレーという食べ物も新しかったので、本当に多くのお客様に気に入っていただけました。」
全盛期は、バブル時代という追い風もあってか1日150~200人もの来店があり、従業員を3人抱えてやっと捌き切れるほどの盛況だったと話す荒木様。お店は順調に繁盛していきます。
5年前の体調不良をきっかけに、次世代への事業承継を検討
そんな繁盛店の「創作カレーハウス印度屋」が次世代経営者を探し求めるようになったのは、今から5年ほど前。体調不良がきっかけだったと話す荒木様に当時の心境をお伺いすると、お店に対する想いをお話しいただきました。
「これまで、滅多に風邪さえひかないような丈夫で健康な身体だったのですが、突然、腹膜炎になりまして。『あと3日遅れていたら死んでいた』と医師に言われた時、自分はもう若くないんだということを痛感したんです。
やはり、健康を損ねると気分も滅入ってしまうものなんですよね。それまでは後継者のことなんて考えたこともありませんでしたが、自分にもしものことがあった時に、印度屋が跡形もなく消えてしまうのかと思うと寂しくなりました。そして、せっかく考案して大切に守ってきた印度屋の味を後世に伝えていきたい、誰かに引き継ぎたいと思ったんです。」
夏になると、50度を超える暑さになる厨房。良いレシピを持っているのはもちろんのこと、体力と気力も必要なのが飲食店の経営だと荒木様は話します。
「これを乗り越えなければ、カレー屋を続けることはできません。そう考えると、72歳の自分には少しずつ限界が近づいているということも感じていました。」
こうして事業承継を検討し始めた荒木様は、高崎商工会議所、日本政策金融公庫を通じてバトンズの登録へと繋がっていきます。
後継者に選んだのは、調理経験よりも「人柄や経営視点を持っている人」
高崎市には歴史あるお店・レシピでありながら、後継者不在でなくなってしまう可能性があるお店が掲載された「絶メシリスト」というものがあり、「創作カレーハウス印度屋」もそこに名を連ねています。
それもあってか、お店を引き継ぎたいという候補者から、これまで沢山のお問い合わせがあったと言います。一方で、お店を継ぐには計画性が低いと感じる問い合わせも多くあったと話す荒木様。
そんな中で最終的に譲渡先として選ばれたのが、バトンズを通じて交渉依頼があった、同じ高崎市でダーツバーを運営する「株式会社エンジョイ」代表の周東祐一郎様でした。
「後継者選びの条件に、調理の経験や腕前は考慮していませんでした。それは私が教えればいいことだと思っていたので。それよりも重視していたのは『人柄』です。お店の雰囲気は、オーナーの人柄が作るものですから。あとは、多少なりとも経営視点があるかどうかはみていました。印度屋を後世に残したいから譲るわけなので、ちゃんとお店を存続・成長させられるような方でないと意味がありませんので。
問い合わせを頂戴した方の中には、運転資金の目処さえ立っていないようなケースもありました。飲食店の経営は、集客が安定するまで不安定な時期があります。ですから、潤沢な運転資金がどうしても必要になります。ただ、ご連絡があった方の中にはそういった将来の見通しがない状態で事業を買収しようとしている方もいたので、少し驚きました。
その点、周東さんは27歳という若さですが、既にご自身が立ち上げたダーツバーで成功を納めていらっしゃいました。真面目な方でしたし、印度屋というブランドを成長させるためのシナリオを明確に描いていて、この方であれば安心してお任せられるだろうと感じました。」
若い経営者に引き継ぎ、今後は2階のライブハウスで新たな事業構想
飲食メインの店舗運営は初めてとなる周東様に、まずは秘伝の味をきちんと引き継いでいくと話す荒木様。その後は、お店の2階にあるライブハウス運営に力を入れていくのだそうです。
「3月から4月末までの2ヶ月間は、お店を運営しながら“修行期間”と称してレシピを伝授しています。それまでは周東さんに付きっきりになると思います。
そのあとは、大好きな音楽を通じて新しいことにチャレンジしようと考えています。私は幼い頃からビートルズが大好きで1,000枚くらいのレコードを持っているんですよ。そんな秘蔵のレコードを他の方にも聞いて楽しんでもらいたいと思い、8年くらい前に店の2階にライブハウス“OLDIES CLUB”をオープンしました。
これまでは、そこで印度屋のカレーやピザ、パスタなどを提供していたので、今後も新しい形でこのOLDIES CLUBをを運営していきたいと思っています。まだまだ人生は長いですから。何かを生み出していかないとつまらないし、もったいない。幾つになっても夢を持って、それを全力で追いかけていきたいと思っています。」
そう力強く語る荒木様は、まさに“生涯現役”を体現されているようなエネルギッシュで魅力に満ちた経営者でいらっしゃいました。
荒木様の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
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