企業や個人事業主が決まった時期になると行うのが「決算」です。収益を明らかにしたり、納税の手続きをする際に必要な概念ですが、具体的にどのようなことを行うのでしょうか。
今回の記事では、決算の目的の詳細と時期、さらに決算の具体的な手続きや必要書類について解説します。
決算とは
先述の通り、決算とは年間収支を明らかにする手続き、言い換えれば収益と費用から資産・負債・純資産を算出し書類にまとめる作業のことです。当期を4分割し、その区切りごとに行う決算をそれぞれ「第1四半期決算」「中間決算」「第3四半期決算」「本決算(確定決算)」といいます。
本決算は、企業・一般社団法人・国・地方公共団体などすべてで義務付けられており、得られた結果から確定申告等を行います。中間決算と2回の四半期決算は任意ですが、金融商品取引法の対象となる上場企業においては、四半期決算をもとに作成する四半期報告書の提出義務があるため注意が必要です。
決算の目的は主に3つ
決算の目的は主に以下の3つです。
・ステークホルダーに情報提供をする
・確定申告のために納税額を算出する
・経営成績や財務状況を把握する
まず、株主・金融機関・取引先など利害関係者であるステークホルダーへの情報提供という役割があります。特に、株主や金融機関は決算の結果から投資や融資の判断を行うため、資金調達が重要な企業にとっては欠かせない要素です。
それに加え、株主や金融機関には出資金がどのように使用されたのか、適切に運用されているのかを知る権利があります。企業の社会的責任を果たすためにも誠実な開示が大切です。
さらに、確定申告にも用います。株主総会等で承認を受けた決算から法人税法に定められた事項(所得金額や法人税額など)を記載する必要があるためです。両者似たような働きをしますが、決算は「業績」を、確定申告は「税金」を報告するという違いがあります。
最後に、経営成績や財務状況の把握に役立ちます。決算によって各事業の損益が明らかになったり、撤退や新規参入の必要性を裏付ける材料になったりと適切な経営判断には欠かせません。数字で客観的に分析することができ、事業における次の一手にもつながることでしょう。
決算の時期
決算の時期は主に以下の4つに分かれています。
それぞれの時期によって得られるメリット・効果に違いがあるため、見ていきましょう。
月次決算
1カ月単位で行う決算を「月次決算」と呼びます。通例として、毎月会計の締め作業が実施され、年次決算と同様の処理が行われて月次決算書が作成されます。
ただし、月次決算はあくまでも「任意」で行うものであり、法的な義務や規定などは存在しません。その実施により、年次決算業務の負担が軽減されるだけでなく、予算修正や資金繰りに基づく融資の検討など、事業計画にとって複数のメリットを得ることができます。
また、収支を正確に記録していると直近の業績がわかるため、金融機関からの融資を受けやすくなることもあります。そういった複数のメリットから、月次決算は中小企業だけでなく、大企業も積極的に行うことが好ましいでしょう。
四半期決算
1年に4回、3ヶ月ごとに行われる決算を「四半期決算」と呼びます。1年に4回の四半期決算は「Q(Quarter)」と略され、Q1は1~3月、Q2は4~6月といった形で表します。
金融商品取引法により、上場企業であれば四半期決算の結果を公開する義務があります。とくに投資家たちは、四半期決算の結果を基に市場の動向を分析して投資戦略を立てるため、株式市場の動向に大きな影響を与えることもあります。
四半期決算は企業にとって重要なイベントであり、公開される決算情報は市場の透明性と信頼性に影響を与え、健全な投資環境の形成に寄与します。
半期決算(中間決算)
半年(6ヶ月)ごとに実施される決算手続きを「半期決算(中間決算)」と呼びます。上場企業は四半期決算と同じく決算結果の公表の義務があり、半期決算は投資家や株主が上半期と下半期の経営状況を判断する上で重要な情報となります。
また、企業は半期決算を通じて投資家、株主、アナリストなどのステークホルダーに経営状況を発信し、健全性をアピールする役割も果たします。半期決算は本決算までの中間地点で行われる決算手続きであるため、企業の経営状況を評価するために活用されます。
年次決算(本決算)
1年ごとに行われる決算手続きを「年次決算(本決算)」と呼びます。
企業の年次決算においては、日本では国の事業年度が4月からスタートすることに合わせ、4月を期首とする企業が多いです。企業は1年間の経営状況を整理し、財務諸表を含む決算書を作成しますが、これには損益計算書や貸借対照表などが含まれ、企業の経営状況を把握し、経営戦略に役立てることができます。
また、法人税法においては、前年度の税金は「年度末の翌日から2ヶ月以内」に納める義務があります。
個人事業主の場合は「12月31日」が決算日
個人事業主は確定申告に必要な決算書作成のために年次決算を行い、企業は税務申告などのために年次決算を行わなければなりません。個人事業主が行う「年次決算(本決算)」は、会計期間が税法によって1月1日~12月31日の1年間と決まっているため、決算時期もその締め月である12月に固定されています。
その後、年次決算を行った翌年の2月16日~3月15日までに「確定申告」を行う義務があります。
決算業務の流れ
次に、具体的な決算業務の流れについて解説していきます。
大まかに以下のような6ステップに分かれます。
ここでは、上記の流れを詳しく解説していきます。
当期分の記帳を確定する
決算は年間収支を明らかにする業務であり、事業年度全ての記帳が完了していなければ次のステップに進むことはできません。そのため最初のステップとして当月分の記帳を確定します。
記帳をする際には仕訳帳、総勘定元帳、試算表の順番で記入・転記をしていきますが、これら一連の作業はできる限り日常業務の中で終わらせておきましょう。本決算の直前は、試算表での数値の確認だけで済むことが好ましいです。
確認の段階では主に残高が一致するかをみます。合わない場合は、記載が漏れているまたは誤りがある可能性があるため、現金の実残高や預金の残高証明書を用いて確実に一致させることが大切です。
商品や材料の実地棚卸、仮払金や立替金など未精算分の確認も有効です。また、それでも合わなかったり個々の計算がずれている場合は、固定資産台帳や製造原価報告書などの明細表と照らし合わせてみると良いでしょう。
決算整理仕訳を行う
当期分の記帳を確定させ数値の一致確認まで終わらせたら、それらの結果を元に決算整理仕訳を行います。決算整理仕訳とは仕訳の最終調整のようなもので、代表的なものは減価償却費・貸倒引当金・売上原価・経過勘定科目の計上があげられます。
まず、減価償却費に関してですが、これは固定資産に関わる費用です。固定資産は時間の経過や使用により価値が減少していくため、耐用年数に応じた減少分を決算整理仕訳の段階で差し引く必要があります。
次に、貸倒引当金は取引先に対する債権・売掛金・未収入金などの回収可能性に応じて設定し計上します。そのほか、期首の棚卸資産・期中の仕入高・期末の棚卸資産を調整して計算される売上原価、発生する期間に応じて計上される経過勘定科目もそれぞれ処理しましょう。
税金の計算を行う
数値が確定したら、税金の計算を行います。決算で法人にかかる税金は法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税の主に4種類です。そのほか、課税売上高1,000万円を基準に消費税の納税義務が変化するなど+αで計算することがあります。
決算書の作成
決算整理仕訳を反映させた試算表に問題がなければ、決算書を作成します。決算書に必要な内容は会計法で定められており、計算書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・注記表)や事業報告、計算書類の附属明細書、事業報告の付属明細書です(会社法第435条)。
さらに、上場企業になるとステークホルダーが増えるためより厳しい情報開示が求められます。具体的に、金融商品取引法の対象となる会社では有価証券報告書の作成(財務諸表や連結財務諸表・キャッシュフロー計算書・企業概況・事業概況)が必要です。
こうした決算書の作成が終われば、決算業務の山場を超えたといえるでしょう。残るは株主総会などでの承認と税務署への提出です。1つ前のステップである税金の計算と次のステップの税務署への提出は純粋な決算業務ではなく、確定申告の業務も含みます。
したがって、これら一連の作業をきちんと行うことが確定申告を楽に済ませることにもつながります。
決算書の作成手順
決算書の作成手順としては、現金・預金・売掛金・買掛金・借入金など、原則としてすべての勘定科目に対し、実際の残高や在高について合計残高試算表の科目残高と照合します。例えば、売掛金・買掛金・未払い金の残高や仮払金・立替金といった未精算額の調査、固定資産の状況と金額について帳簿と照合するなどです。
決算書の作成が完了すると、取締役会・監査役・会計監査などに確認された後、定時株主総会に提出されます。定時株主総会の開催時期に規定はありませんが、通常は「(上場企業を除いて)事業年度終了後の2ヵ月以内」に行われます。つまり、決算書作成は「決算日から2ヵ月以内」に完了させなければなりません。
決算残高が確定したら、消費税・法人税・法人住民税・法人事業税の計算も行い、各税金の金額を算出して確定申告書に記載します。法人税の確定申告は「事業年度の終了日の翌日から2カ月以内」に行う必要がありますが、特定の要件・条件を満たす上場会社などは、所定の手続きを行うことで1ヶ月延長することも可能です。
決算書として作成が必要な書類
決算書は主に3つの書類から成り立っており、それぞれの書類を作成しなければなりません。以下の書類の作成が必要です。
● 株主資本等変動計算書
当期純利益の使い道やその金額など、貸借対照表の純資産の部の変動額を報告するための資料です。主に、株主に帰属する株主資本における各項目の変動自由を報告します。
● 個別注記表
各計算書の見方や注意事項について、特筆する必要がある点を一覧化した資料です。主に、会計方針に関する注記や、貸借対照表・損益計算書に関する注記を記載します。
● 附属明細書
各計算書の記載事項に関して、補足する内容をまとめた資料です。例えば、固定資産・引当金・販売費および一般管理費などについて、詳細な項目を記載します。
承認を受ける
決算書のうち、貸借対照表をはじめとする計算書類は株主総会など会社法により定められている機関の承認を受けなければなりません。株式会社は、原則で定時株主総会による承認が必要となります。
例外的に取締役会及び会計監査人を設置している企業であれば、定時株主総会での承認は不要、報告のみで問題ありません(会社法第439条)。
取締役会及び会計監査人を設置しているとなると、ある程度規模の大きな企業が想定されます。
税金に関する申告書を作成・提出する
上記で承認された決算書を添付し、税金関連の申告書を作成・提出すれば決算業務は完了です。
その後、法人税・法人住民税・法人事業税・地方法人税・消費税などの納税に必要な申告書を作成して確定申告を行います。確定申告は原則として決算日から2カ月以内とされていますが、例外として事前に「申告期限の延長の特例の申請」を行えば1カ月の延長することが可能です。
例えば、上場会社などは規模が大きく会計処理も煩雑で株主等が多いため、申告期限の延長の特例を提出していることは珍しくありません。
また、上記の申告書は専門的な知識が必要となることから、税理士に作成・提出を委託していることもあります。税理士に委託すれば税務署からの税務調査などの対応もお願いすることができ、負担を大きく減らせます。とはいえ、最近はWeb等で簡単に申告書を作成できるようになったため、自社に合った方法を選択しましょう。
決算で特に重要な3つの書類
ここまで解説してきた通り、決算はさまざまな書類を作成する必要があります。ここでは、決算書の中でも特に重要な貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)・キャッシュフロー計算書(C/F)の3つを詳しく解説します。
これらの書類は、株主総会で必要になるほか、経営判断等にも役立ちます。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表は決算日時点における財政状態(資産・負債・純資産)を示す書類です。左側(借方)の資産の部と右側(貸方)の負債の部・純資産の部から構成されています。
資産の部では、現金や預金、棚卸資産、固定資産など自社が保有している資産が計上されており、企業が調達した資金の活用結果が表されます。一方、負債の部及び純資産の部は資金の調達手段が表されており、外部の第三者に返済が必要な負債の部、株主等が出資をしている純資産の部に分かれています。
貸借対照表で確認するポイントは、返済がどれだけ必要で、その返済能力がどの程度あるのかです。その指標として、会社の資産のうち返済が不要な割合を示す自己資本比率や返済能力を示す流動比率などを用います。
損益計算書(P/L)
損益計算書は事業年度における経営成績を示す書類で、構成要素は以下の5つです。
・売上総利益:販売した商品や提供したサービスにより得た利益
・営業利益:本業により得られた利益
・経常利益:本業以外の経常的に獲得した利益
・税引前当期純利益:税金などを支払う前の利益
・当期純利益:税金を控除した場合の利益
損益計算書は本業からどれくらいの割合で利益を獲得できているのか、企業の収益性はどの程度あるのかが確認するポイントとなります。本業の収益性を示す営業利益率や企業の収益性を示す経常利益率などが分析でよく用いられる指標です。
キャッシュフロー計算書(C/F)
キャッシュフロー計算書は事業年度における現金の流れを示す書類で、作成は上場企業のみに義務付けられています。ただし、現金の増減の多寡やその理由を把握できるため、未上場でも作成する価値はあります。
損益計算書は、本業の営業活動により生じたもの、固定資産の取得など投資活動により生じたもの、借入金などの資金調達活動により生じたもので構成されています。
キャッシュフロー計算書を確認するにあたっては、本業からどれだけのキャッシュを得ることができているか、投資活動にどれだけ積極的かなどが重要なポイントとなります。これらを両方把握することができるフリーキャッシュフロー(=営業活動によるキャッシュフロー+投資活動によるキャッシュフロー)がキャッシュフロー計算書の分析で用いられる指標です。
決算を効率的に行うポイント
決算を効率的に行うためには、押さえておくべきポイントがあります。ここでは、決算を効率化する3つの要素について解説します。
日々の経理業務
企業が決算を効率的に行うには、日々の経理業務において勘定科目ごとの仕訳を行い、決算の下地を整えておくことが大切です。そのためには、売上・仕入・入金・出金などの当日取引に対し、正確な仕訳処理を行っておくことが欠かせません。
例えば、現金で売上があった際は現金と売上を増やす仕訳を登録し、掛取引で仕入を行った際は買掛金と仕入を増やす登録をするなどです。また、銀行から預金を引き出した場合などにおいても、預金が減少した旨の仕訳を漏れなく登録しなければなりません。
登録した仕訳はその後、費目と金額に誤りや記入漏れがないかをチェックします。とくに複式簿記を採用している会計では、借方と貸方の残高が一致している必要があります。仕訳に間違いがあると双方の残高が合わず、以後の処理に支障が出るため注意しましょう。
このように、日々の経理業務において個別の取引を正確に記録しておくことで、年次決算(本決算)の際、貸借対照表や損益計算書への記載額等に誤りを起こさずスムーズに決算書を作成することができます。
月次決算業務
月次決算は、経営者が会社業績を把握するために行う業務です。主な業務は月次損益計算書と月次貸借対照表の作成となります。月次決算業務で重要なのは、損益計算書の作成を通して予算との対比を行い、経営者が自社の業績評価を行うことです。
また、月次決算では、売上や利益が予定通り計上されているかを確認し、異なっていた場合は原因を分析して対策も講じます。月次を怠ると業績の低下に気づかずに1年を終えるリスクがあるため、月次決算で企業の業績を管理することは極めて重要だと言えるでしょう。
月次決算ではその他にも、前項で解説した日々の経理業務で生じたエラーやミスを確認したり、取引先から送られてきた請求書などを基にして検証作業も行います。
会計ソフトの導入
決算を行う際には、会計ソフトを導入すると効率的に業務を進めることができるでしょう。会計ソフトの特徴的な機能は、貸借対照表・損益計算書・試算表といった帳票を自動的に生成できることです。一部作業を自動化することにより、記帳業務に費やす時間を大幅に削減し、スムーズに決算に必要な書類等を作成することができます。
帳票の作成は社員への負担が大きい業務ですが、会計ソフトならば瞬時に作成できるため、とくに人員の限られた中小企業においては大きな効果を発揮します。
他にも、仕訳の登録時に借方と貸方の合計金額が一致しなければ登録できない機能や、経営に必要な情報を素早く取得できるなどのメリットもあります。さらにソフトによっては、データの自動取得や仕訳の学習機能なども実装されている点も見逃せません。
使用するほど会計ソフトが手順を学習し、より効率的に記帳業務や仕訳を行ってくれるため、スムーズに決算を行うことができるでしょう。
まとめ
決算で作成する決算書は税金の申告に用いるだけではなく、ステークホルダーへの情報提供や財務状態の把握に必要です。決算書を分析すると、自社で足りないところが明確になったり新分野への新規参入の必要性が生まれてきたりします。
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