新聞やビジネス・経済誌などでTOBという言葉を目にすることがあるでしょう。
TOBとは株式公開買付けを意味する言葉で、投資家はもちろん経営者や関連企業、業界団体などから多くの関心を集めるトピックとなっています。
この記事ではTOBの基本的な知識からメリット・デメリット、手続きの流れまで詳しく解説します。TOBについて知りたい方は参考にしてみてください。
TOBはM&Aの手法の1つ
株式公開買い付け(TOB)とは、企業の買収(M&A)の手法の1つです。一般的にTOBの対象企業(売り手)は上場企業ですが、有価証券報告書を提出する非上場企業が対象となることもあります。
TOBは、対象企業の経営権の取得や子会社化を目的としたり、自社株を集める際に行われたりします。TOBを用いたM&Aは、TOB対象企業の株主が自身の意思で株式を売却することができるため、株主のプライバシーが尊重されます。
また、買収先企業は買い付け価格を決めることができるため、市場の取引価格より高く設定でき、経済的利益の実現が可能です。
TOBが義務に?「義務的公開買付け」とは
「義務的公開買付け」とは、株式市場外で取り引きができる方法です。経営権の取得を目的とした場合に利用される方法ですが、その取り引きには2つのルールが存在します。
ここからは、5%ルールと3分の1ルールについて詳しく見ていきましょう。
5%ルール
5%ルールとは、取引市場外の株式取得により株式の所持率が5%超の場合、TOBを行うとする規制です。
一度に5%の株式を市場で動かすと、株価の急落をはじめとする経済への大きな影響が出ることが予測されます。そのため、市場の透明性という観点からすると、大幅な市場の変動が起きた場合は株式全体への信用がなくなり、透明性が失われてしまうでしょう。
同時に、5%を超えたとしても60日間で10名以下からの買い付けである場合はTOBが不要というルールもあります。
3分の1ルール
3分の1ルールとは、株式買付け後に所持率が1/3を超過する場合に設けられたルールです。
この方法は主に3つに区分されます。
参考 : 金融庁 公開買付(TOB)制度の概要
60日間で10名以内の株主からの買付け
5%ルールでは、5%を超えたとしても60日間で10名以下からの買い付けである場合はTOBが不要とありました。しかし実際には、3分の1の株式を所有すると株主総会における特別決議の否決権が与えられるため、3分の1ルールで規制しています。
立会外取引など特定売買での買付け
ここでいう特定売買とは、「ToSTNeT」や「J-NET」などが対象です。
特定売買における以下の項目へのルール化、規制が3分の1ルールによって取り決められました。
・投資者への情報提供の充実
・公開買付期間の伸長
・公開買付けの撤回等の柔軟化
・全部買付けの義務化の一部導入
・買付者間の公平性の確保
急速な買付
急速にあてはまる期間は3カ月です。この間に株式を取得する方法が規制の対象です。この規制は、現経営陣や出資者が知らないうちに現状とは違う者に経営権が移ることを防止しています。
・上記のうち5%以上を取引市場外もしくは特定売買によって取得
・さらに、買主の所持率が1/3超過となる場合
次の場合は3分の1ルールが例外的に免除
以下に該当する事例については3分の1ルールが例外的に免除されます。
例外的な事例についても頭に入れておきましょう。
・新株予約権の行使
・「兄弟会社」等からの買い付け等
TOBには「友好的TOB」と「敵対的TOB」の2種類がある
株式公開買い付けは、通常2つの種類に分類されます。ここからは2つのTOBについて詳しく解説していきます。
友好的TOB
株式取得に関して、TOB対象企業(売り手)の経営陣が了承している場合を友好的TOBといいます。主な例に、グループ企業の完全子会社化による、子会社株式の100%取得があります。
友好的TOBは、買収先企業が経営陣(株主)に対して、自社株式を購入することを提案し経営陣が了承したうえで買い付けを開始します。これは、企業が株主の利益を高めるために行うこともあります。
通常、友好的TOBは企業の経営状況が良好であると判断される場合に行われます。そのため、友好的公開買い付けを受け入れることで、株主にとっては企業が将来的に良い経営を続けることができると期待できるでしょう。
敵対的TOB
敵対的TOBとは、TOB対象企業の経営陣や大株主に事前に知らせることなく行われるTOBの方法です。
ライバル企業の支配を目的としており、仕掛けられた企業は、企業価値の引き下げや、逆買収、第三者による買収などの買収防衛策を講じる必要性があるでしょう。
敵対的TOBは、企業の経営状況が悪化していると判断される場合に実行されます。そのため受け入れることで、TOB対象企業の株主は経営状態がさらに悪化する可能性があると予測できるでしょう。
また、違う視点から見ると、企業が他社の株主を資本市場から引き出すことを目的としている場合もあります。企業が敵対的TOBを実施すれば、株主は将来的な業績悪化の可能性だけでなく、株価の下落も予測できます。
TOBのメリット
TOBのメリットで代表的なものに、企業の信用を高めることができる点があります。企業が株式を購入することで、優良企業であることを対外的に示すことができるためです。
また、企業が自己株式を購入することで、株価を押し上げることができます。これにより、株主にとっては利益を増加させられるというメリットも生まれるでしょう。
ここからは買収先企業(買い手)とTOB対象企業側(売り手)にわけてメリットを解説します。
買収先企業のメリット
買収先企業のメリットは主に2つ挙げられます。それらのメリットについて詳しく見ていきましょう。
買付の計画の見通しを立てやすい
TOBは、あらかじめ計画した期間・金額・株式数で、大量の株式を一度に買い取ることができるため、買付けの計画の見通しが立てやすいというメリットがあります。
また、市場の株価変動の影響も受けないため、一定価格で買付できることも大きなメリットの1つです。
募集株式数の上限と下限を設定できる
募集株式数には、上限(最大発行数)と下限(最小発行数)の設定ができます。これにより買主側は、必要数に達しないもしくは超える場合は買付を行わないという判断もすることができます。
そのため、買付ける株式の数が計画から狂うことがありません。買主側にとってTOBは、他の株式取得方法と比較してもコスト面でのリスクが少ない方法といえます。
ただし3分の2以上の株式を上限にすることはできず、3分の2以上の株式取得を望む場合は全株式を取得しなければならないという「全部買付け義務」が発生します。
TOB対象企業のメリット
買付け企業だけにTOBのメリットがあるわけではありません。M&Aの手法の1つとして利用されるため、TOBの対象となっている企業にとってもメリットがあります。
ここではTOB対象企業のメリットについて見ていきましょう。
経営改善の期待ができる
対象となる企業側が受けられる最も大きなメリットとして、経営改善への期待があげられます。
なぜなら、TOBの対象企業になることで資金調達が容易になり、設備投資や新規事業展開が可能になるからです。自社よりも資金力や強固な経営基盤を持つ企業に買収されることで、経営の根本的な改善も可能になるでしょう。
また、企業の株価が押し上げられることにより、株主の利益も増加します。これは、企業の経営状況が回復傾向に向かっていると判断されるためです。株価の高騰は株主の利益増加だけでなく、社会的信用の獲得にも影響します。
経営改善についてのメリットはこれだけではありません。TOBにより企業の自己資本が増えることも、経営改善が期待できるポイントです。TOBによって資金力のある企業から大量の資金が投入されるため、財務的な立ち位置が強化されるでしょう。
また、それにより外部から企業の経営改善が実行されていると高評価を得ることにつながります。
TOBのデメリット
買収先企業(買い手)とTOB対象企業側(売り手)の双方にとってメリットの大きいTOBですが、デメリットも存在します。
ここでは、考えられるデメリットを解説します。
買収先企業のデメリット
まずは買収先企業のデメリットを詳しく見ていきましょう。
TOBが失敗する可能性がある
TOBは、失敗する可能性があります。特に敵対的TOBの場合、買収防衛策によるホワイトナイトの存在で取り引きがスムーズに進まないのが一般的です。
ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられている企業を友好的に買収・合併することで対抗しようとする企業のことです。
また、友好的TOBであっても競合企業の介入により失敗する可能性も考えられるでしょう。
他にも以下のような条件下でのTOBは失敗するリスクがとても高くなります。
・企業業績の悪化により投資家から支援が得られず資金調達が難しい場合くなる可能性
・M&Aの当事者間企業の経営悪化ではなく、市場全体が悪化している場合
・買主側の株価が下落している場合
このような環境下になった場合、どのようなTOBでも失敗する可能性があることを知っておきましょう。
市場内取引よりコストがかかる
TOBの場合、取引価格が市場内より高く設定されるため、その分のコストがかかります。これは市場価格にプレミアム分を上乗せすることが一般的であるためです。
TOB対象企業のデメリット
対象企業側にもデメリットがあります。詳しく見ていきましょう。
経営権を買い手企業に奪われる
TOBを実施すれば、株主構成が変更されます。そのため、買収先企業からTOB対象企業の経営に対する要求や意見が増えることがあるでしょう。
しかし、経営に対する投票権や経営に対する影響力は株主の資本比率によって決まるため、企業の経営に対する投票権や影響力があるとは限りません。ただし、新しい株主を買い手企業が募ることもあるので、経営権が奪われることは認識しておくべきでしょう。
買収防衛策が株主に反対されることがあるので注意
TOBに際して、対象企業が買収防衛策を打つ場合、既存株主が反対することがあります。買収防衛策には、企業が自己株式を増資することで買収する企業が所有する株式の割合を減少させるといった手段があります。
しかし、この場合は株主の持ち株割合が減少してしまうため、企業の株主から反対される可能性が高くなります。
株主からの不信感が高まることで、今後の企業経営に影響が出てくることは避けられないでしょう。
TOBの手続きの流れ
ここからはTOBの手続きの流れについて解説します。
金融庁の運営するデータベースを参考に具体的な流れに沿って解説するので、TOBの実施を検討している方やTOBの対象となる企業の方は参考にしてみてください。
参考 : 金融庁 EDINET https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/
1.公開買付けの公告・届出書の提出
TOBを行う場合は、次の項目を公告します。
・社名
・住所
・公開買付けにより株券等の買付け等を行う旨
・買付けの目的
・価格
・買付予定株券等の数
・買付期間(20営業日以上60営業日以内)
・買付後における公開買付者の株券等所有割合
・対象会社
・役員との公開買付けに関する合意の有無等
これにより、既存株主に対して今後、株式に変動が起こることを告知します。
上記の項目を記載した届出書は、内閣総理大臣あてに提出します。次に、公開買付届出書の写しをTOBの発行会社と証券取引所に送付し、届出については完了です。
2.意見表明報告書の提出
意見表明報告書とは、買収先企業が買い付けを実施する前に、TOB対象企業の株主からの意見を受け付けるために提出される書類です。意見表明報告書には、株主からの意見や要望、所有する株式の情報などが記載されます。
TOB対象企業は、公告日から10営業日以内に公開買い付けに対して賛成か反対かの立場を意見表明報告書上で表明し、EDINETを通じて内閣総理大臣に提出する必要があります。
意見表明報告書を提出することで、株主は自身の意見や要望を伝えられます。買収先企業は、意見表明報告書を受け取った後、株主からの意見を反映したうえで、TOBの実施が可能です。
3.公開買付説明書の作成
公開買付け説明書は、TOBに関する情報を記載した書類です。公開買付け説明書には、次のような情報が記載されることがあります。
・買い付け期間や買付け価格
・買い付けを申し出る株主に対する支払い方法
・買い付けを申し出る株主からの株式の申し出を受け付ける方法
・買い付けを実施した後の株式の所有権の移転方法
公開買い付け説明書は、買収先企業がTOBに関する情報を提供することを目的として作成されます。TOB対象企業の株主は、公開買い付け説明書を参照して株式を売却するか、保有し続けるか検討します。公開買付期間は20〜60営業日とされています。
4.TOBの結果公表
TOBの結果公表には、次のような情報が含まれることがあります。
・買い付け期間や買付け価格
・買い付けを申し出た株主の数や申し出た株式の数
・買い付けを実施した株式の数や買付け価格
・買い付けを実施した後の株式の所有比率
TOBの結果公表は、買収先企業がTOBを実施した結果を株主や市場に公開することを目的として行われます。株主や市場はTOBの結果公表を参照して、上場会社のTOBに対する意向や状況把握が可能です。
TOBの結果公表は上場会社情報配信サイトや、会社が発行する新聞広告、電子媒体などメディアを通じて行わなければなりません。
まとめ
株式公開買付け(TOB)は、M&A手法の1つです。
双方の企業にとってメリットがある一方で、デメリットや失敗する可能性も秘めていることを理解しておきましょう。TOBは事業を買収することを目的としていることもありますが、後継ぎ問題を解消するために利用されることもあります。
今までのM&Aは、上場企業だけが行う戦略であると考えられていました。しかし最近では、後継者不足や経営者の高齢化などの問題を受けて、非上場の企業も対象にしたM&Aが実施されています。
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