2024年からドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に規制されるため、物流業界では働き方改革に乗り出す企業が増えてきています。労働者にとっては労働環境が改善されるといったメリットがある一方、企業側は多くの課題を抱えています。
働き方改革関連法の施行時期が2024年4月1日と迫る今、抱えている課題や取り組むべき対策など詳しく解説していきます。
2024年問題とは?
2024年問題とは、ドライバーの時間外労働の上限が、年間960時間に制限されることで、物流業界が直面する問題を指します。特に次の3つの問題を抱えると言われています。
働き方改革関連法によって、長時間労働が常識だったトラックドライバーの労働環境が改善されるので、一見何も問題ないように見えます。
では、なぜ2024年4月1日からの法改正が「2024年問題」として問題化されているのでしょうか。次から詳しく説明していきます。
2024年4月1日から、ドライバーの時間外労働が、年間960時間に制限されます。年間960時間の時間外労働は、月間にすると80時間となります。全日本トラック協会がまとめた資料によると、ドライバーの勤務日数を22日とした場合、月間80時間の時間外労働では、月間の拘束時間は274時間となります。
これを年間に直すと、
となり、トラックドライバーの年間拘束時間は3288時間となります。
参照:トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン/公益社団法人全日本トラック協会
一方で、総務省による調査では、令和3年のトラックドライバーの拘束時間が、年間3300時間を超える事業者の割合は21.7%でした。
参照:自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)/総務省
つまり、2024年の法改正後は、少なくとも21.7%の事業者で対応が必要となり、その分の労働力を今後どう確保するのかが、2024年問題の本質といえます。
2024年問題で消費者に何が起きる?
ドライバーの労働時間の減少は、わたしたち消費者にも大きな影響を及ぼします。
具体的には、以下の3点が挙げられるでしょう。
ドライバーの労働時間が減ることで、ドライバー1人が1日で運べる物量が減ります。その上、時間外労働時間が制限されることで、ドライバーの給与が下がるので、ドライバーの離職率が上がる可能性が指摘されています。
これらの背景から、消費者に何が起こるのか、次から具体的に説明していきます。
物価高騰
時間外労働が制限されることで、ドライバーの給与・運送会社の売上が下がります。ドライバーの給与を確保し、ドライバーの離職リスクを下げるため、運送会社は運送料の値上げを実施するかもしれません。
この値上げされた運送料は、商品代に上乗せされるので、2024年4月からは物価が上がる可能性があります。
輸送遅延
時間外労働が制限されることで、1日の輸送距離が短くなります。
たとえば、輸送に12時間かかる地点Aから地点Bまでの移動があったとしましょう。
法改正後によって「即日配達」や「翌日配達」が難しくなることを覚えておきましょう。
食料品・日用品の流通不足
トラックドライバーの業務は、運転だけではありません。「荷役」と呼ばれる、商品のトラックへの積み下ろしもトラックドライバーの業務です。
下の図の通り、手荷役作業(人力による荷物の積み下ろし)の多い品目は、1位の「日用品・雑貨」に次いで、2位が「青果物・米」となっています。トラックドライバーの労働時間が制限されることで、1日に荷役できる荷物の量も減るため、食料品の配送に時間がかかります。
特に、市街地から遠く離れた集落や、離島では食料品・日用品が流通不足に陥る可能性が高いでしょう。
参照:農産品物流の改善・効率化に向けて(農産品物流対策関係省庁連絡会議中間とりまとめ//農林水産省・経済産業省・国土交通省、2017年3月)
2024年問題で物流業界に起こる問題
時間外労働に上限が設けられると、物流業界で働く方にとっては労働環境の改善につながるでしょう。
しかし運送業者・荷主・ドライバーにとって、デメリットも発生しうる状況です。それぞれの立場による、2024年問題をみてみましょう。
⚫︎運送業者
時間外労働が規制されると、1人のドライバーが1日に運べる荷物の数が減ってしまいます。荷物の数はEC市場の急成長により増加傾向にあるため、今までは2人のドライバーで運べていた荷物に対し3人以上が必要になるなど、人材の確保が課題となっています。
また、ドライバー1人が運べる荷物が減るため、運送料を上げなければ運送会社の収入が減ってしまうと考えられています。
運送業者にとっては人件費の増額も大きな痛手となります。現在でも、月の時間外労働時間が60時間を超えた場合は割増料金が発生しますが、改正法が施行されると中小企業の割増料金が25%から50%へと引き上げられます。人件費が増えることで、利益がより圧迫されるでしょう。
参照元:厚生労働省(月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます)
⚫︎荷主
運送業者の利益が圧迫されれば、運送業者は、運送料の値上げに踏み切るでしょう。
今より安い業者に変更もできますが、値上げは物流業界全体の流れとなることが予測されます。EC市場のアピールポイントである「送料無料」の継続が難しくなるほか、荷主の物流コストの負担が増えてしまうでしょう。
⚫︎ドライバー
これまでドライバーは、EC市場の需要が急激に伸びたことや慢性的な人手不足から、長時間労働を前提とした労働が定着していました。時間外労働の上限を設けることにより、ドライバーの労働環境改善に効果が期待できます。
しかし、時間外労働が減るということは、その分支払われていた残業代が支給されないということです。これまで長時間労働によって家計を支えていたドライバーが離職してしまう可能性もあり、残ったドライバーへの負担がさらに大きくなります。
2024年問題の背景、「働き方改革関連法」とは
2024年問題は「働き方改革関連法」の改正によって起こりました。ここからは、働き方改革関連法が制定・改正された理由と背景を説明します。
働き方改革関連法が制定された理由
働き方改革関連法は、働く人が柔軟に働くことができるように労働基準法に加えられた法律のひとつです。
2019年4月から徐々に施行され、仕事と生活の調和を目的とした「ワークライフバランス」の実現を目指しています。働き方改革が制定された背景を、詳しく解説していきます。
働き方改革関連法が制定された経緯
働き方改革関連法は、正式には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」と呼びます。この法律により、個々の多様性に合わせて働きやすい労働環境を目指すことを目的としています。
労働環境の改善により、目指すものは「一億総活躍社会」です。この一億総活躍社会とは、50年後も人口1億人を維持しつつ、家庭でも職場でも誰もが活躍できる社会を目指そうというものです。この背景には、人口や労働人口減少が著しい少子高齢化の問題があります。
生産年齢人口といわれている15〜64歳世代の減少は、急激に進んでいます。内閣府からの発表によると、出生数・死亡および国際人口移動が現在のままの場合、2020年に生産年齢人口が約6,600万人だったのに対し、2060年には約3,850万人にまで減少すると予測されています。
40年の間に生産年齢人口が約半分にまで減少するという結果を受けて、日本政府が働き方に多様性を持たせ誰もが活躍できる社会を目指すために、働き方改革関連法は制定されました。
働き方改革関連法の主な改正内容
ここからは、働き方改革関連法の主な改正内容について解説していきます。
時間外労働の上限規制
働き方改革関連法施行により、今まで規制のなかった時間外労働に上限が設けられました。法定労働時間は変わりませんが、時間外労働は一般則は年720時間・自動車運転業務は年960時間以上の労働は禁止されています。
今までは労使が合意していれば、時間外労働時間に制限はありませんでしたが、2024年4月以降は罰則規定が追加され法的拘束力を持つようになった点も大きな変更点の1つです。
年次有給休暇取得の義務化
すべての企業が、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、最低年5日は有給を取得させることが義務付けられました。この有給休暇は、正規雇用のみならず非正規雇用や場合によってはパートタイマーにも発生し、有給取得義務化の対象となります。
違反した場合は、経営者に対して30万円以下の罰金が科せられます。これは従業員1人あたりの罰金になり、10名の従業員に対して違反した場合は300万以下の罰金が科せられるため注意が必要です。
同一労働同一賃金
同一労働・同一賃金とは、正規雇用と非正規雇用の間での待遇格差をなくす取り組みです。
この取り組みは、主に以下の2つのルールを守る必要があります。
【同一労働・同一賃金】
- 正規雇用・非正規雇用の間で、基本給や賞与に差をつけない
- 求めがあった場合には、待遇差について理由を説明する
物流業界では非正規雇用のドライバーを採用している企業も多く、基準に則り評価することで、待遇差が発生しにくくなり労働者との紛争も防ぐ効果が期待できます。
時間外労働に対する割増賃金の引き上げ
2023年4月からは、60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられるのも大きな改正点の1つです。大企業では変わらないものの、今まで猶予されていた中小企業の割増賃金率が25%から50%へと引き上げられます。
たとえば時給2,000円で働くドライバーが、月80時間の時間外労働をした場合について考えます。
【2023年3月まで】
2,000円 × 1.25 × 80時間 = 200,000円
【2023年4月から】
2,000円 × 1.25 × 60時間 = 150,000円
2,000円 × 1.5 × 20時間 = 60,000円
150,000円 + 60,000円 = 210,000円
このように、時間外労働代が1ヶ月あたり10,000円アップするため、年間にして120,000円、同様の労働環境の社員の数だけ人件費が増加します。
違反による罰則
2024年4月以降は、年間960時間以上の時間外労働が禁止され、今までにはなかった法的拘束力を持つことになります。万が一年間960時間を超えてしまうと、「30万円以下の罰金または6カ月以下の懲役」が経営者に科せられます。
参考元:厚生労働省|時間外労働の上限規制
物流業界の抱える課題
ここからは物流業界が抱える4つの課題について、詳しく解説していきます。
物流業界が抱える課題は、次の4つです。
それぞれ詳しく解説していきましょう。
低賃金・長時間労働
物流業界でたびたび問題となるのが、低賃金・長時間労働です。
経営者からすれば、労働者にはできるだけ安い賃金で可能な限りの労働を期待してしまいます。また、賃金が安くても長時間働くことで生計を立てている労働者がいるという現実もあります。
しかし、これらは中長期的に見ればコンプライアンス・人材確保といった面から見るとマイナスでしかありません。適正な賃金と労働時間を設定することで、人材不足の問題も解決しやすくなり経営の安定化も期待できます。
ドライバーの高齢化
ドライバーの高齢化が進んでおり、人材不足がさらに深刻化するおそれがあります。全産業の平均年齢43.2歳と比べても、大型トラックは49.4歳・中型トラックは46.4歳と年々平均年齢が上がっている傾向にあります。
また、総務省統計局によると道路貨物運送業における29歳以下の就業者は全体の10.3%と低く、40歳以上のドライバーが70%以上という統計が出ています。
このままドライバーの高齢化が進むと、深刻な人材不足に悩まされることになるでしょう。
物流量の増加
近年のEC市場の急激な需要の伸びにより、物流量は年々増加傾向にあります。しかし、ドライバー不足の問題によってドライバー1人あたりの労働が長くなり、抑制は難しくなっています。
また、物流の増加に加えて再配達の割合も依然として高く、ドライバーの負担が減ることはありません。消費者が便利に商品を選ぶことができ、すぐに手元に商品が届く環境を維持するには、ドライバー不足は取り組むべき課題の1つです。
人材不足
運送業の人手不足は年々深刻化し、2018年には運送業の有効求人倍率は2.76倍となりました。これは運送業での求人数の増加に反して、働きたいと思う方が少ないという現実を示しています。
物流業界が取り組むべき対策
2024年問題に対して、物流業界が取り組むべき対策について紹介していきます。早急に対策をとることで、時間外労働の規制に適応した働き方を実現できるでしょう。
ドライバーの労働環境改善
時間外労働の制限による働き方改革だけでなく、フレックスタイムの導入・時短勤務など、さまざまな働き方に対して柔軟に取り組んでいきましょう。
労働環境を整えることで、今まで働けなかった方が働けるようになり、人材確保にもつながります。
人材の確保
ドライバーの高齢化問題や、若い世代の就業率の低下により人材確保が急務となっています。
人手不足となると荷物が運べず会社の利益に影響を与えるため、積極的に人材確保に向けた施策への投資をしましょう。具体的には賃金面での改善に加えて、福利厚生を充実させる必要があります。
ITを活用した業務効率化
ドライバーには、積み込み場所に到着後の「受付・積込み・荷卸し」の荷待ち時間が発生します。荷待ちをしている時間は、場所も時間も拘束されるため労働時間の中に含まれます。
荷待ち時間は1日平均して1.5時間程度あるとされ、約2割のドライバーは2時間以上待っている場合もあり、荷待ち時間が長時間労働の原因の1つです。
しかし、運行管理や勤怠管理システムを導入し、ITを活用して伝票の電子化や業務効率化を実現できれば長時間労働改善の一歩となるでしょう。利益とならない荷待ち時間を減らせれば、利益率の向上も期待できます。
M&Aによる事業拡大
M&Aにより会社を統合できれば、ドライバーを確保し人材不足が解決できます。
人手が確保されればよりきめ細やかなサービスが提供でき、時間指定の遵守・温度や品質の管理などリソースの充実が期待できるでしょう。ただM&Aを実施するのではなく、上手に活用できる仕組み作りが必要です。
運送会社がM&Aで2024年問題への対策をした事例
運送業界では、M&Aを行うことで、次のメリットが生まれます。
バトンズでも、これまで運送会社のM&Aに携わり、業務の効率化と売上の向上に貢献してきました。ここからは、実際にバトンズをご利用になってM&Aを行った事例を紹介します。
事例1:老舗物流企業と創業50年運送会社のM&A
紹介する事例は、従業員2名という小さな運輸会社が、M&Aにより事業拡大や新規エリアへの進出を成功させたものです。
当時の社長である父親を助けるために運送会社の手伝いを始めた売り手企業側は、営資金が尽き、廃業を検討していたところ、M&Aを勧められたことから、会社の譲渡先を探すことにしました。
一方、買い手企業側は、売り手企業の所在地・顧客と従業員との関係が良好なこと・希少価値の高い車両の所有が決め手となり、事業承継に乗り出しました。
運送業におけるM&Aでは、従業員・顧客・取引先だけでなく、今回のような特殊車両も経営資源として事業承継できます。特殊車両と、車両を取り扱いできる人員が確保できれば、新規事業の幅が広がり、収益増が見込めます。
今後、労働力が縮小見込みの運送業においては、M&Aで生産性と効率を上げることが重要です。
事例2:M&Aで事業拠点を拡大・業務を効率化
2つ目の事例は、東北・関東エリアで運送業を手掛ける企業が埼玉県の運送業を買収した事例です。
大手企業では、物流コストを下げるためにライバル企業と「協業」し、効率化を図っています。しかし、中小零細の運送業では採算が合わず、廃業を余儀なくされる企業がほとんどです。
そこで、買い手企業は積載効率を高めるために、新たな事業拠点を作る取り組みとして、M&Aを選択しました。
物流業界では、往復の積載割合を高めることも、効率化の鉄則です。事業拠点が増えることで、往路・復路それぞれの車一台当たりの売上高を増やせます。ドライバーの離職を防ぎ、労働環境を守る取り組みとしても、M&Aは有効といえるでしょう。
事例3:M&Aでマネジメントを強化・運送業の稼働率を上昇
運送業の利益率は高いのに、経営がネックとなって赤字経営の企業があります。このような企業は、M&Aによって買収先が経営権を握ることで、黒字化が期待できます。
こちらのケースでは、利益率は高いのに、10年赤字経営だった売り手企業を買収し、マネジメントに成功したことで、黒字化を達成できました。
売上増加のためには、従業員のマネジメントも欠かせません。買い手企業が重視したのも「買収後にマネジメントができるか」ということでした。M&A成立後は、パートナーをうまく使い、売上を上げ、買収4ヶ月後に黒字化を達成しています。
まとめ
2024年問題が差し迫っている昨今、物流業界においては数多くの課題が残されています。その中でも事業拡大を進めていく上でM&Aの実施は、人材不足の解消や新規エリアへの進出など2024年問題への対策としても有効です。
バトンズは専門的な知識を持つスタッフによるサポート体制も整っており、成約まで無料で利用可能です。また、専門家によるバリュエーションやデューデリジェンスにも対応しています。
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