意向表明書と基本合意書の違いとは?目的、提示・締結のタイミング法的拘束力について解説
今回はM&Aおける重要なプロセスである、M&Aの意向表明書の提示と基本合意書の締結について解説していきたいと思います。M&Aにおける意向表明書と基本合意書は内容的には類似している書面なので、両者を混同されている方も多くいらっしゃることでしょう。
確かにM&Aに慣れていない方だと両者の違いが分かりづらいのでは?
では、意向表明書と基本合意書の違いとは一体なんなのでしょうか?
それでは、「M&Aにおける意向表明書と基本合意書の違いとは?」を、解説していきましょう。
※巻末にM&Aアドバイザーからの実務のアドバイスあり!
【監修プロフィール】
スモールM&Aアドバイザー/ M&A支援機関登録専門家
伊藤 圭一(いとう けいいち)
「小規模企業と個人事業の事業承継を助けたい!」そんな想いから、2019年7月に小規模事業専門のM&Aアドバイザー「スモールM&Aアドバイザー・合同会社アジュール総合研究所」を設立。
「合同会社アジュール総合研究所」の紹介ページ
【必見!】巻末に、伊藤よりM&A実務に即したワンポイントアドバイスと注意点も掲載しています!是非、最後までご刮目下さい!
意向表明書と基本合意書の違いとは?
一言でいうと、意向表明書は買い手から売り手に差し入れる希望条件等を記載した書面であり、基本合意書は買い手・売り手双方が合意事項を確認し、それを文書化したもので、両者が書面に署名・捺印し、締結する書面のことです。
次の章から両者について具体的に説明していきます。
意向表明書と基本合意書について解説。
意向表明書と基本合意書について分けて解説していきます。
意向表明書について
まずは意向表明書について解説します。
意向表明書とは?
意向表明書とは、買い手が買収したい旨を文章にし、売り手に提出する書面です。M&Aにおいて、意向表明書の提出は必須ではありませんが、買い手の意向を書面にして売り手に伝えることで、今後のM&A交渉と手続きが円滑になるという効果があります。
意向表明書に記載する内容は?
意向表明書に記載する内容は一般的に、以下の事項となります。
・M&Aスキーム
株式譲渡または事業譲渡などの取引形態
・譲受希望金額
デューデリジェンス実施前に買い手が検討している譲受希望金額
デューデリジェンスの結果で金額調整がある旨も記載
・希望条件
デューデリジェンス実施前に買い手が検討している条件
デューデリジェンスの結果で条件調整がある旨も記載
・成約までのスケジュール
意向表明後から成約までの大まかなスケジュール
・独占交渉権
買い手から売り手へ独占交渉を依頼する旨を記載
※記載する内容については、案件に応じて様々変わって来るので、M&Aアドバイザーの指示に従い作成するようにして下さい
意向表明書を提出する時期
意向表明書は、買い手と売り手のトップ面談が終了し、両者が前向きにM&Aを進めたいという意思を口頭レベルで確認できた時点で、買い手より提出されるのが一般的です。
前述の通り、M&Aにおいて意向表明書の提出は必須ではありません。特にスモールM&Aの場合は、買い手と売り手の担当者が代表者自らM&Aを行うことが多く、意向表明のプロセスをショートカットして基本合意の締結まで進めることもあります。
意向表明書の法的拘束力
意向表明書には法的拘束力はありません。ですが、買い手が売り手に対して買収意思を口頭ではなく文面で伝えることにより、売り手からの信用性も高まり、その後のM&Aプロセスもスムーズに進行させる可能性が高まります。
基本合意書について
次に、基本合意書について説明いたします。
基本合意書とは?
M&Aにおける基本合意書とは、今までの交渉における合意事項の内容を書面にした合意書のことで、LOI(Letter of Intent)と呼ばれることもあります。
売り手と買い手の合意事項を整理して書面にすることで、M&Aの成約に向けて双方の認識を整える訳です。
基本合意書に記載する内容は?
基本合意書に記載する内容は一般的に以下の内容となります。
意向表明書に比べ、合意事項をより詳細に記載するのが一般的です。
・M&Aスキーム
株式譲渡または事業譲渡などの取引形態
・M&Aの対象範囲
株式譲渡スキームを取り包括的に譲渡企業を譲受するまたは、譲渡企業の一部の事業等両者が合意したM&Aの対象範囲
・譲受希望金額
デューデリジェンス実施前に買い手が検討している譲受希望金額
デューデリジェンスの結果で金額調整がある旨も記載
・希望条件
デューデリジェンス実施前に売り手・買い手が検討している条件
デューデリジェンスの結果で条件調整がある旨も記載
・デューデリジェンス
想定されるデューデリジェンスの内容についてと、それに対して売り手も責任をもって協力すること
・成約までのスケジュール
意向表明後から成約までの大まかなスケジュール
・独占交渉権
ある一定期間は独占交渉状態となる旨を記載
・秘密保持
今までのM&A交渉及びデューデリジェンスを実施したことにより判明した事実はもちろん、M&Aを検討しようとしている事実についても秘密保持義務があることを記載
※記載する内容については、案件に応じて様々変わって来るので、M&Aアドバイザーの指示に従い作成するようにして下さい
基本合意書を締結する時期
基本合意書の締結は、意向表明書同様、買い手と売り手のトップ面談も終了し、両者が前向きにM&Aを進めたいという意思を口頭レベルで確認できた時点で締結されるのが一般的です。
意向表明書は買い手から売り手へ差し入れる書面となりますが、基本合意書は買い手・売り手の双方が、合意書に記名・捺印し締結する形式を取ります。
基本合意書の締結後、デューデリジェンス(買収監査)に入るのが一般的なM&Aプロセスとなるので、成約に向けM&A交渉も佳境に入ることになります。
基本合意書の法的拘束力
基本的には意向表明書と同様、法的拘束力はありませんが、守秘義務、独占交渉権、協議事項など交渉の大枠にかかわる規定には法的拘束力を持たせ、それ以外の条項については法的拘束力を持たせないという形が一般的です。
まとめ
以上、「M&Aにおける意向表明書と基本合意書の違いとは?」をご説明しました。
M&Aにおける意向表明書と基本合意書にはどちらも法的拘束力はありませんが、M&Aにおいて非常に重要なプロセスとなります。
どちらの記載内容についても案件ごとに異なるのが一般的なので、M&Aアドバイザーに相談し、意向表明書と基本合意書を作成してもらい、M&A成約まで導いてもらいましょう。
スモールM&Aアドバイザー 合同会社アジュール総合研究所のワンポイントアドバイス!
はじめまして!スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」 代表の伊藤です!
みなさんこんにちは!
この度、バトンズさんのサイトで記事を連載する事となりました、スモールM&Aアドバイザー「合同会社アジュール総合研究所」代表の伊藤と申します。
ここでは、スモールM&A専門家であるわたくし伊藤が、M&A実務に即した成約に大きく前進するためのアドバイスと注意点などを、スモールM&Aの現場の経験をもとに解説しています。
ネットや書籍で事業承継・M&Aについて調べると、なかなか小難しいことが書いていますね。
弊社ホームページでもスモールM&Aについての記事を投稿していますが、「難しくて理解できなかったのでこの点をまたわかりやすく解説してください」や、「記事が長すぎて眠くなる」(涙)など、様々ご覧いただいた方からのご意見をいただいます。
それだけ、M&Aは難しいのだなと、日々、気づかされます・・・
そう言ったこともあり、このコーナーでは、なるべくわかりやすく(そして、くだけた感じで?)スモールM&Aの実務経験に基づいたアドバイスを書いていきますので、是非、ご刮目下さい!
意向表明書と基本合意書(LOI)
さてさて今回のお題は、意向表明と基本合意(LOI)というわけですが、皆さん目にしたことはありますかね?
一般の方はなかなかないですよね?
実際、私自身もM&Aアドバイザーになるまでは見たことがなく、十数年前、初めて作成した時は、かなり緊張した事を覚えています。
しかし、今や時代も変わりました。近年、スモールM&Aの成約が活況という事もあり、ネット上でどちらの書類もひな形がダウンロードできるではないですか!
(バトンズさんに登録していれば、サイトからどちらの書面も無料でダウンロード出来ますよ!)
便利な時代になったものですね!
それだけ、スモールM&Aが一般の方にも身近になってきたということなのでしょうね。
ではでは「意向表明と基本合意(LOI)」についてのワンポイントアドバイスと注意点を解説していきます!
意向表明と基本合意(LOI)におけるワンポイントアドバイス!
意向表明書と基本合意書(LOI)の簡単な作成方法!
意向表明と基本合意(LOI)の簡単な作成方法はこの2点です!
【これでイメージをつかめ!】まずはネットで書面のダウンロード!
バトンズさんに登録していれば、サイトからどちらの書面も無料でダウンロード出来ますよ!(2回目!)
と、まあ宣伝はさておき、やはりまずはネット上に上がっている意向表明書と基本合意書(LOI)のひな形をダウンロードしてもらい、どんな書面なのかを実際に見ていただきたいんですね。
前出の通り、一般の方はどちらの書面も初めて見る方が殆どだと思うので、一通り目を通していた方が、イメージが付きやすく、作成もスムーズにいきます。
意向表明書は買い手の希望条件をドキュメントにし、売り手に差し入れるもので、それを元に売り手と交渉を行います。これに売り手の条件も反映させた基本合意書を作成するという流れになります。
なので、先々用意すべき書面を目にしていた方が、今後の交渉の流れもつかめるので、利用しない手はないですよね!
【抜け漏れ防止!】トップ面談時の議事録作成は必須!
M&A交渉の現場に限らず、商談において議事録作成は非常に重要ですよね。後々、「言った・言わない」で、もめることがないように作成するだけではなく、交渉内容の確認にもなります。
これ、基本合意書の作成にも活用できるんですよ!
だってそうですよね、そもそも合意事項の条件交渉って主にトップ面談の場で調整するわけですから、それがそのまま基本合意書に反映されるのですから。
議事録だけしっかり作成しておけば、あとはダウンロードしたひな形に議事録の合意事項を合わせ、細かいところを修正すれば作成完了なわけです。
簡単でしょ!
と、言いたいところですが、作成した後に、いざ売り手・買い手に提示してみると、色々と修正してほしいとか要望は出てくるんですけどね。(こういうところがM&Aの難しいところ(涙))
ただ、M&Aプロセスというのは複雑で時間を要します。
少しでも効率よく、そしてトラブル防止のためには議事録作成は絶対です。
合意事項の抜け漏れ防止のためにも必ず議事録は作成しましょう!
意向表明書と基本合意書(LOI)のテクニック!
せかっくなので、意向表明書と基本合意書(LOI)のテクニックについてもお話ししましょう!
今回は1点をご紹介します!
【本気の証!?】意向表明書の速攻提示は売り手に「ササル」!!!
この点は、買い手さんに是非、覚えていてもらいたい部分です!
スモールM&Aの現場では、買い手・売り手のファーストコンタクトは、担当者レベルでの打ち合わせではなく、最初からトップ同士になることが一般的なんですね。なので、初面談時から合意事項の協議等、深堀した交渉が始まるわけです。
ここでご留意いただきたいのは、売り手は複数の他の買い手候補ともトップ面談を行うと言うことです。
その中から、最も好条件を提示した買い手との交渉を優先し、基本合意書を締結する訳ですが、売り手には本気度をアピールすることが重要になるんですね。
では、何で買い手側の本気を伝えればいいかと言うと、やはり書面で提示するということが、ひとつ大切なんです。
買い手候補として競合している先も当然、本気度をアピールはして来る訳ですが、皆さん口頭レベルでのアピールで終わってしまうんですよね。
ライバルに一歩差をつけるには、書面での提示するということは非常に有効なんです。
本気度を見せることの効果は?
と、言いうと、売り手が、
1,優先的に連絡をくれる
2,他の買い手候補に開示していない資料や情報を先んじて共有してくれる。
3,基本合意書の締結を最優先で検討してくれる。
などが、期待できます。
特にスモールM&Aの現場では、買収価格も手ごろなため、M&A市場投入後(ノンネームシート掲載後)だいたい半年以内で成約することは珍しくないんですね。(弊社でもスモールM&A案件は平均3~4ヶ月程で成約しています。)
それだけ、買い手の買収合戦は熾烈なもので、優良案件は1~2か月で成約してしまうこともあります。
トップ面談が終了し、簡易的に検討してみた結果「これは!」と感じたら、迷いなく意向表明書を売り手に提示しましょう!
スモールM&Aは「スピードが命」です!
意向表明書の速攻提示で売り手に猛アピールしましょう!
意向表明と基本合意(LOI)における注意点!
意向表明と基本合意(LOI)の注意点はこの2点です!
【本契約の練習!?】基本合意書(LOI)は読み合わせし本番さながらで!
経営者であれば、契約書を締結する場面をこれまでに幾度となくご経験されて来たと思いますが、M&Aなどの重要名契約書を締結したことのない経営者は案外多くいらっしゃるんですね。
特にスモールM&Aの場面では、事業規模が小さいので、重要な契約書の締結に抵抗感のある方もいらっしゃるわけです。
当然のことながら、M&Aでは最終的に株式譲渡契約書や事業譲渡契約書等の所謂、最終譲渡契約書を締結するわけですが、成約に向かうにつれて今までに感じた事のない緊張感も出てくるんですね。
ですが、ここでヒヨッテはいては成約できません。
どこかで重要契約の練習をし、これに対する免疫を付けておく必要があります。
ではどこで!?
基本合意書の締結時です!
基本合意書の締結は、最終譲渡契約のプレ契約のような役割も担っているので、良い練習になります。
プレ契約なので、決して雑になる事はNGです。本番さながらに、締結前には買い手・売り手はしっかりと読み合わせを行い、書面に記名・捺印する事が重要なのです。
最終譲渡契約に向けて基本合意書の締結を良い練習の場面としましょう!
【確認必須!】中間報酬!
これは、M&AアドバイザーにM&A業務を依頼している方向けのアドバイスです。
M&Aアドバイザーの料金には、大きく分けて以下の3つがあります。
スモールM&Aの場面においては、1の着手金は無料としているM&Aアドバイザーが殆どなのですが、2の中間報酬から費用が発生する場合が多いんですね。(完全成功報酬のM&Aアドバイザーもいます)
この中間報酬の発生時期ですが、基本合意書の締結時に発生することが一般的です。
この点、M&Aアドバイザーとのアドバイザリー契約時(業務委託契約)に説明を受けているはずなのですが、M&Aの事や日々の業務で頭がいっぱいで、結構忘れている方も多いんですね。
基本合意書の締結が近づくにつれてM&Aアドバイザーより再度アナウンスがあるとは思いますが、中間報酬の支払い期限や金額を再度確認するようにして下さい。
後々、忘れた頃に中間報酬の請求を受けて驚かないようにしましょう。
今回記事の「まとめ」の「マトメ」
以上、「M&Aの意向表明書とは?意味や目的、基本合意書(LOI)との違いなどを解説」をご紹介しました。
いかがでしたかね?
意向表明書と基本合意書のイメージをつかんで頂けましたでしょうか?
今後、私が監修した記事は、
① 前半部分:「テーマについての解説」(お堅い感じでの解説)
② 後半部分:「スモールM&Aアドバイザー 合同会社アジュール総合研究所のワンポイントアドバイス!」
(私の経験を元に、くだけた感じで分かりやすい解説)
と言う構成で、記事を投稿して行きますので今後とも宜しくお願い申し上げます。
最後に、皆さんのM&Aが無事に、ご成約されることを心よりお祈り申し上げます。
それではまた次の記事でお会いしましょう!
こんなお悩みありませんか?
つなぐマッチングプラットフォームです。
累計5,000件以上の売買を成立させています。
またM&Aを進めるためのノウハウ共有や
マッチングのための様々なサポートを
行わせていただいておりますので、
まずはお気軽にご相談ください。
編集部ピックアップ
- M&Aとは?流れや注意点、スキームなどを専門家がわかりやすく解説
- 事業譲渡とは?メリット・手続き・税金などについて専門家が解説
- 中小M&Aガイドラインとは? 概要や目的を詳しく解説
- 企業買収とは?M&Aとの違いは何?メリットや手続きの流れをわかりやすく解説
- 会社売却とは?M&Aのポイントや成功事例、IPOとの違いも解説
- 【完全攻略】事業承継とは?
- スモールM&AとマイクロM&Aとは?両者の違いとメリット・デメリットを解説
- 合併とは?会社合併の種類やメリットデメリット・手続きの流れ・必要書類を解説
- 後継者のいない会社を買うことで得られる多くの利点とは?
- カフェって実際のところ儲かるの?カフェ経営の魅力と開業方法
その他のオススメ記事
-
2024年09月17日
トラック・運送業のM&A動向 | メリットや事例について解説【2024年版】
運送業界は、 M&Aの需要が高まっている業界のひとつです。その背景には、後継者不足や2024年問題などさまざまな理由があり、事業規模の大小問...
-
2024年09月05日
未来への想いを共有できる会社とM&Aで手を組みたい。バディネットは、すべてのモノが繋がる社会を支えるインフラパートナーへ
2012年に電気・電気通信工事業界で通信建設TECH企業として創業したバディネット。2024年現在、5社の買収に成功して業容を拡大させています。今回は...
-
2024年08月05日
コラム/法務デューデリジェンスとは?流れやポイント、費用などを解説
デューデリジェンス(以下「DD」といいます。)は、M&Aの実施にあたり、関連当事者が種々の問題点を調査・検討する手続のことを指します。通常...