耐震関連家具の製造・販売事業「防災安心相談室」を展開してきた株式会社安信は、メイン事業に集中するために、本事業を譲渡する決断をされました。企画・開発した商品が意匠登録されるなど、事業に将来性を感じていたことから「長期的視点で、事業を継続し続けられる会社」を探していたと話す、株式会社安信の松井様。
そしてその想いを引き継いだのは、水害対策のためのコンクリート製品を扱う製造メーカーとして事業に取り組む関西ポラコン株式会社でした。「防災」という共通点を持つ両社が、事業譲渡という形でM&Aのご成約をされた背景について、株式会社安信の経営責任者である松井様と、関西ポラコン株式会社の代表取締役である松本様にお話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社安信 |
業種 | 製造・卸売業(防災関連) |
拠点 | 兵庫県 |
譲渡理由 | 選択と集中 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 関西ポラコン株式会社 |
業種 | 製造・販売業(防災関連)など |
拠点 | 兵庫県 |
譲受理由 | 新規事業への参入 |
阪神淡路大震災を経験。震災対策の必要性を感じ、事業をスタート
設計事務所で働いておられた経歴を持ち、阪神淡路大震災をご経験された松井様にとって、建物の耐震性に関する事案は身近な問題でした。
「予算の関係や時間的リソースが計算しづらい側面から、自分の家の耐震性が低いと分かっていても、対処しないという人が多くの割合を占めます。そういった方に、安価に問題解決をできないか、ということで事業を始めました。」
耐震調査・補強工事、耐震シェルターの販売・設置、防災家具の製造・販売など、防災に関する様々なサービスを提供する事業は一定のニーズが見られたものの、日本人の危機意識や製品認知度の低さから、まだまだ十分な売上を上げられていないと話す松井様。
事業を進める上で苦労した点についても「将来のリスクに備えてお金や時間を費やすという人の割合は、まだまだ少ないのが現状です。また、商品認知度が全くないところからのスタートでしたので、認知度の向上や必要性を感じてもらえるように周知していくところで、苦労しました」とおっしゃっておられました。
商品価値があるため、営業活動を積極的に行えば売上の増加を見込めていたものの、他の主要事業との兼ね合いもあり、人的リソースがなかなか割くことができなかった株式会社安信は、M&Aによって営業活動ができる会社に引き継ぐことを検討し始めます。
中小企業がとるべき戦略は、大企業が手を出さない小さなマーケット
事業を引き継ぎされた「関西ポラコン株式会社」は、2002年に設立以降、水害を緩和するコンクリート製品の製造メーカーとして事業を推進しており、洪水被害や水質汚濁等の深刻な問題に取り組んでこられました。本事業の他にも複数事業を手掛けておられる松本様は、銀行の紹介でバトンズの存在を知り、M&Aプラットフォームの利用を検討し始めたそうです。
「M&Aを検討するようになった背景には、既存事業の周辺領域に将来ドメインを広げたい、という思惑がありました。既存事業を拡充していきたい思いももちろんありますが、事業を探す際には少し裾野を広げて検討する必要があります。弊社は水害対策を軸に事業を展開しておりますが、M&Aで事業を探す際にその絞り込みをしてしまうと、あまりにニッチすぎて案件が見つからなくなってしまいますので。」
一方で、中小企業のとるべき戦略はニッチ戦略であり、大手企業が手を出す旨味がない狭い領域だからこそ、小さな企業でも闘うことができると語る松本様。事業を探す際には、既存事業との親和性があり、小さなマーケットでビジネス展開をしている事業を対象としていました。そんな中で目をつけたのが、株式会社安信が運営する防災家具の製造・販売事業。自社では実現できない独自のサービスを提供していたことが、引継ぎを決める大きな要因となったそうです。
「特許権のある耐震シェルターなど、安信さんはニッチなマーケットで優れた商品を提供しておられるのが魅力的でした。また、松井様は私どもの疑問や質問にも的確に回答してくださいましたし、自分とは違うビジネスの方法を考えられており、勉強にもなりました。」
松井様と面談する中で、“企画・実行力に優れており、意思決定スピードの速い方”という印象を持ち、誠実さも感じられたという松本様は、松井様の人柄にも背中を押される形で前向きな検討を進めていかれました。
今回の譲渡にあたり、売主様のM&Aアドバイザーとして株式会社MYAコンサルティング様がサポートに入られていました。交渉時のやり取りについて、松本様は「社員や株式の取得がない事業継承でしたので、契約後の売主様との関係が非常に重要でした。交渉のやり取りで疲弊することもありましたが、契約面ではMYAコンサルティング様が素晴らしく補助してくださり、無事成約することができました」とおっしゃっておられました。
一方で、事業の将来性を感じていたものの、人的リソースが割けないという理由で譲渡の決断を余儀なくされた松井様にとって、譲渡先に求めるポイントは“事業を長期スパンで見てくれる先かどうか”でした。
「私たちは、これまで幾つか商品を企画・開発・実験してきました。そのため、ちょっとやってみて“やっぱり止めます”と言われてしまうと、これまで積み重ねてきた苦労が水の泡になってしまいます。だからこそ、何年かかってもやり続ける方にお渡ししたいと思っていました」とのこと。
また、「交渉の際、商品の魅力や将来性を伝えることが一番難しかったです。将来性を伝えようと思っても、多くの買い手様は現状の売上を見て判断されることが多かったので。その中で、松本様は現状を理解した上で、長期的に伸ばしていきたいとおっしゃってくださいました。そこが、関西ポラコン様に決めた一番の理由です」とも。
加えて、バトンズからの紹介でアドバイザーを任されたMYAコンサルティングに対しては、非常に親身になって対応してくれて好印象だったとおっしゃっておられました。
3年スパンで事業を引き継ぎ。事業拡大に向けて、内に秘めた構想
現在、株式会社安信はホールディングス化に伴い、保育園や社労士事務所などを含めた経営の多角化が進んでおり、松井様も別事業に集中されるとのこと。そんな松井様に、最後に今後M&Aを検討される方に向けたメッセージをいただきました。
「昔はM&Aと言われても馴染みがなかったかと思いますが、今は経営者の高齢化もあり、国の方針としても“潰してしまうくらいなら、次の世代に引き継いでほしい”というようなスタンスだと思います。私自身がそうだったように、何かしらの理由で自分のキャパを超え、手が回らなくなっているということであれば、一部事業を譲渡するなど、第三者に経営を引き継いでいくことは大いにありだと思います。」
そして、事業を引き継いだ関西ポラコン株式会社は、これから3年スパンで商品開発等のレクチャーを受けながら事業運営をしていくとのこと。
「今やっている防災に関する間口を広げていきつつ、会社としての幅を広げていきたいと思っています。私自身のことでいうと、まだがむしゃらに働ける年齢だと思っているので、従業員が成長できる土台作りも視野に入れながら、仕事に邁進していくつもりです。会社の事業が新たに増えれば、取締役を経験できる人数も増えますので、そういった意味でもM&Aを含めた事業拡大の構想はあります。ただ、どうなるか分からないご時世ですので、将来展望と言われても何とも言い難いのが正直なところですが。」
そう言って笑う松本様は、新たに引き継いだ事業と共に、確かな構想を頭の中に描いておられました。
株式会社安信、関西ポラコン株式会社の今後の更なるご活躍を、バトンズ一同、心より応援いたしております!
本件譲渡対象事業は非常にニッチな業界であったため、なかなかうまくマッチングせず長期間に亘っての対応となってしまいました。譲渡対象は、社会貢献度も高く立ち上げられた売主様も非常に強い思い入れを持たれていたため、この「想い」を引き継いでさらに事業を発展させて下さる買い手候補様を模索し続けたところ、今回の買い手様に巡り合うことができました。
交渉については売主様のご希望条件を前提に進めさせて頂いたのですが、買い手様には快くご理解を頂きながらお話を進めることができ、さらに確認事項・取り決め事項についても明確にご要請頂けましたのでスムーズに最終契約書の作成・締結に至ることができました。譲渡後の引継ぎについても買い手様・売主様が連携しながら進めて頂けており、非常に嬉しく思っております。
当該事業における今後の更なる発展を心から願っております。ありがとうございました。
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