1978(昭和53)年11月、ご夫婦で始められた洋食レストラン「andante」は、44年の時を経て次の世代へバトンタッチされました。「小さな喫茶店をやってみたい」というお父様の夢から始まった本店舗は、娘の澤田(旧姓:鈴木)様が3歳の時にオープンされたお店でした。今回、ご両親がお店で働く姿を小さい頃から見てこられ、お店と共に育ってきた澤田様に、事業承継に至るまでの背景をお伺いしてまいりました。
譲渡側 | |
---|---|
店名 | andante |
業種 | 飲食業 |
拠点 | 東京都 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受側 | |
---|---|
引き継ぎ | 個人 |
業種 | 飲食業 |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 起業 |
「死ぬまでキッチンに立ちたい」それでも、お店を残したいという想いから‥
もともと帝国ホテルの同期社員として働かれていた鈴木様ご夫妻は、結婚・出産後に昔からの夢だった飲食店の開業を実現しました。
店名は、鈴木様のお父様が好きだったクラシック音楽のandante(歩くような速さで)から名付けられ、実家の平家を取り壊す形でオープン。澤田様のお父様が接客、お母様が厨房を担当し、開業当初はご親族総出で支え合いながら運営をされていたそうです。
「父が58歳で他界して以降は、母がオーナーシェフとしてお店を続けてきました。私は、両親から“好きなことをして生きろ”と言われて育ったこともあり、好きだったデザインの道へ進み、結婚を機に沖縄へと移住をしました。それでも、いつかは母の老後のためにお店をどうにかしなければという不安を抱えていたので、母と毎週のように電話をしながら、メニュー作りやSNS発信など私のできる限りのサポートをしつつ、今後のことは周りに相談をしていました」と話す澤田様。本来は娘の私が引き継ぐのが一番なんでしょうが、実力不足で心苦しい限りだと語るその言葉からは、母親やお店に対する深い愛情が感じられました。
お母様は、コロナ禍になる前は「死ぬまでキッチンに立ちたい」とおっしゃっておられたそうですが、度重なる休業を余儀なくされた結果「体力の限界」だと言葉をこぼすようになったそう。それでも、思い出の詰まった店舗をこのまま残したいと、引き継ぎ手を探すようになりました。
一本の電話から、素敵なお相手との出会い。きっかけはSNSに込めた祈りの発信
内心、このようなご時世に引き継いでくれる人は現れないだろうと思いつつも、色んなサイトでお金を払って発信してもらおうと考えていたという澤田様。そんな矢先に、一本の電話がお店に入ったそうです。
「フジテレビの“ウチの店買ってください‼︎”という番組のものですが、M&Aにご興味はありませんか?」
偶然のようにかかってきたその電話は、お店のInstagramで「#後継者募集中」と発信されているのを見てのことだったそうで、「どこかの誰かに届けば、という密かな祈りを込めて数回の投稿につけただけのハッシュタグだったので、まさかそれがテレビ局の方の目に止まるとは思いもしませんでした」と話す澤田様。その一本の電話をきっかけに、バトンズを通じたお相手探しが始まりました。
譲渡先を決める際、まずはインスピレーションを大事にしていたという澤田様。一方で、「個人飲食店なので、人が好きな人、料理が好きな人であってほしいとは母も言っていました。また、アンダンテを長く続けてほしいという想いがあったので、地域を大切にしながら、時代に柔軟に対応していける人であったらいいなと思っていました」とも。
そんなお二人の想いを引き継ぐべく、本事業には50件以上の候補者が名乗りを上げました。そんな中で最終的に譲渡先として選んだのは、都内レストランで調理師として働く個人の買い手様。知人から事業承継について聞き、27歳という若さで独立・開業を検討する森本様でした。
「まだ27歳と若い方ですが、“借金をしてでも独立したい“と話す姿はキラキラしたエネルギーに満ち溢れていて、”父が開業した時も、きっとこんな感じで希望に溢れていたんだろうなぁ“と応援したくなりました。最終的な決め手は、その誠実なお人柄ですかね。」
店名・内装もそのまま。家族経営を続けてきたアンダンテの物語は次の章へ
今回の案件では、バトンズの宮原がサポーターとして入りました。ネットを使ったM&Aを体験しての感想をお伺いすると「宮原さんやテレビ局(※)の方々が丁寧にサポートしてくださったおかげで、大変だと感じることは何もありませんでした。寧ろ、もし1年経っても引き継ぎ手が見つからなかったらスケルトンにして飲食店以外の借り手を探すか、最終的には廃業するしかないんだろうなという覚悟もしていましたので、大変感謝しています」とのこと。
また、今回初めてバトンズのような仕組みを知ったという澤田様は、「私たちみたいに“第三者承継”という選択肢を知らないまま困っている個人店は世の中にいっぱいあると思っています。日本各地の国道沿いには大手チェーンが並んでいて便利だとは思いますが、その街の色を作るのは個人店の個性や集合体だと感じているので、ネットを使えない世代にもバトンズのような個人M&Aがもっと普及して、たくさんの景色と想いを残していって欲しいと願っています」とも。
“お店の行く末“という大きな悩みを解決された澤田様に、最後に今後のことについてお伺いすると、「買い手様には店名も内装もそのまま引き継いでいただけて、涙が出るほど嬉しかったです。
母も限界まで守ってきたお店に素敵な引き継ぎ手が決まって満足感と安心感を持った様子で、新たに習い事を始めました。休みなく働き続けた母なので、今後はゆったりとした生活を送ってもらって、常連さんたちと一緒にお客さんとしてお店を楽しんで欲しいです」とおっしゃっておられました。
最後に「今まで助けてくださった多くの方々に、両親の想いを継いでくださる3代目に、アンダンテの歴史を作ってくださった全ての皆様に心から深く感謝申し上げます」と話す澤田様の表情から、深い愛情に包まれたお店であったこと、そしてこれからも愛され続けるお店であるだろうということを感じる、心温まるインタビューの時間でした。
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