公開日 | 2023/04/30 |
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記載者 | 藤澤文太税理士事務所 |
財務・税務
【認定医療法人】認定医療法人制度とは
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はじめに
皆さんこんにちは。税理士の藤澤文太です。
税制改正により認定医療法人制度が令和8年末まで延長されることとなりました。
そこで今回は、認定医療法人制度とはそもそもどのような制度なのかについてご説明させていただきます。
Q1:認定医療法人とは?
(細かい法律論や制度内容の詳細は他の専門家の方々や厚生労働省の説明にお任せするとして、)認定医療法人とは、「一定の要件を満たしていることを厚生労働大臣に認定された医療法人」のことを意味します。
Q2:厚生労働大臣に認定を受けるとどんなメリットがあるのでしょうか?
「税制」と「融資」で大きなメリットがあります。
Q3:税制上のメリットとは?
相続税と贈与税の納税猶予・免除のことを言います。
医療法人の出資持分も他の相続財産と同様に出資者の相続財産として相続税が課税されます。
生前に贈与した場合は贈与税の課税対象になります。
ただし、あくまでこれは「出資持分のある医療法人」の場合であり、「出資持分のない医療法人」の場合は当たり前ですがそもそも出資がないので相続税や贈与税は課税されません。
そこで、持分ありから持分なしに移行すれば相続税や贈与税を払わずに済むのではないかと発想しがちですが、原則的には移行時に医療法人に贈与税が課税されます。
認定医療法人制度は、一定の要件を満たして厚生労働大臣に認定を受けることにより、この「移行」の際の課税を回避して、事業承継を円滑に行おうという制度です。
もともと出資持分なし医療法人であればよいのですが、全国の医療法人のうち約37,000法人が出資持分あり医療法人です。
これらの出資持分あり医療法人の事業承継を円滑に行い、地域医療を維持することを目的に活用されているのが認定医療法人制度です。
Q4:上記の移行の際の課税や事業承継との関係がよくわかりません。税制上のメリットをもう少しわかりやすく説明してください。
下記のような事例を考えてみましょう。
例えば純資産(=医療法人の総資産ー負債総額)10億円の医療法人があると仮定します。
※純資産、税務上の評価額、払戻額がすべて10億円の医療法人であると仮定しています。
①出資者=社員の場合、その出資者は社員の退社により、医療法人に10億円の持分払戻を請求することが出来ます。医療法人は出資者に10億円を払わないといけませんが、10億も支払ってしまうと資金繰りが悪化して経営に困ってしまいます。純資産が10億円あっても10億円もキャッシュがあるとは限りません。医療法人の資産はお金だけでなく土地や病棟や医療機器であることが多くあるからです。
②出資者がお亡くなりになった場合、10億の出資に対して約3億円~5億円の相続税が課税されます。ただ、この出資は通常は換金できるものではなく、キャッシュの裏付けもないものであることから、そのままであれば相続税の納税ができない事態に陥ってしまいます。そこで、相続人が納税資金の確保のために払戻請求権を行使することにより、①と同じ事態に陥ってしまうことになります。
③では上記①の資金繰りの悪化や上記②の納税を回避するため、出資者が出資を「放棄」すればよいのではないかと考えた場合はどうでしょうか。要件を満たさずに放棄してしまうと、10億円相当の財産を出資者から医療法人に贈与したとみなされ、医療法人に贈与税が課税されてしまいます(ほかに出資者がいる場合は、その残存出資者へ贈与したものとみなされます。)。つまりこの場合、医療法人に約5億円超の贈与税が課税されることとなります。
いろいろ方法を検討しても結局袋小路に陥ってしまうことになります。
Q5:上記Q4の場合、どうすればよいのでしょうか?
3つの方法があります。
①要件を満たして「出資持分なし医療法人」へ移行する
その要件の1つが、本稿のテーマである「認定医療法人制度」です。認定を受けて持分なしに移行することにより、移行時の医療法人へのみなし贈与税課税を受けることなく、移行後はQ4のような払戻請求を受けることもなくなります。移行後は出資持分がなくなるので、その後の承継時の相続税贈与税の課税もなくなります。経営が順調で今後も株価が上がり続けるような法人の対策としても有効です。
ただし、持分がなくなりますので、当然払戻も受けることが出来なくなります。
②要件を満たさずに「出資持分なし医療法人」へ移行する
何らかの理由により要件を満たすことが出来ずに持分なしへ移行した場合は、上記Q4③のとおり移行時に贈与税が課税されることとなります。
ただし、移行後はQ4のような払戻請求を受けることもなくなり、出資持分がなくなるので承継時の相続税贈与税の課税もなくなります。経営が順調で今後も株価が上がり続けるような法人の対策としても有効です。
なお、上記①と同様に払戻請求権もなくなります。
③出資持分あり医療法人を継続する
親族内承継ではなくM&Aを検討されている場合などはあえて持分ありのまま継続する場合もあります。
親族に医師や歯科医師がいらっしゃらないか、いらっしゃっても医療法人を承継する意思がない場合に検討することとなります。
Q6:持分なし移行のメリットばかり説明されていますが、デメリットはないのでしょうか?
裏を返せば、持分がなくなること自体がデメリットと言えます。
持分がなくなることにより、①払戻を受けることが出来なくなる、②M&Aの手段が退職金での清算のみに限定されることとなる、というデメリットがあります。
そのほかに、接待飲食費以外の交際費が全額損金不算入になる場合があったり、中退共への加入要件を満たさなくなる場合があるなどのデメリットがあります。
ただし、①の払戻については、払い戻しを受ける前提として社員を退社しなければいけませんで、結果的に法人の最高意思決定権を失うこととなります。まだまだ現役で経営をされる場合や、ご勇退後も一定の影響力を法人に残して承継者を正しい方向に導きたいとお考えの場合は注意が必要です。
また、極端な例ですが、例えば10億円の出資を相続して払戻を受けるケースを想定した場合、相続時に約半分(約5億円)の相続税を納税し、払戻時にさらに約半分(約5億円)の所得税を納税することになりますので、10億円の払戻を受けているようで結局医療法人のお金10億円分が納税されているだけとなる可能性があるので慎重にご検討していただく必要があります。
ここで強調したいのは、「持分なし移行が絶対に有利です」ということを言いたいのではなく、正しい知識と理解を持っていただいたうえで方向性をご検討していただきたいということです。
Q7:厚生労働大臣の認定の要件とはどういうものでしょうか?
細かく説明するとかえって意味が分からなくなるので、ここでは大筋のみのご説明にとどめさせていただきます。
⑴社員総会の議決があること
⑵移行計画が有効かつ適正であること
⑶移行計画期間が3年以内であること
⑷法人の運営が適正であること
①法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
②役員に対する報酬等が不当に高額にならないよう支給基準を定めていること
③株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
④遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと
⑤法令に違反する事実、帳簿書類の隠蔽等の事実その他公益に反する事実がないこと
⑥社会保険診療等(介護、助産、予防接種等を含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること
⑦自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準によること
⑧医業収入が医業費用の150%以内であること
Q8:認定医療法人以外に移行時に課税されない方法はないのでしょうか?あるのであれば認定医療法人とどう違うのでしょうか?
認定医療法人制度以外に移行時に贈与税が課税されない方法としては主に、社会医療法人制度の活用、特定医療法人制度の活用、個々の税法の要件充足を自分でチェックして移行する方法が考えられます。
ただし、これらの方法は認定医療法人制度に比べていずれも要件が厳しいものとなっております。
特に、役員等に占める親族等の割合が3分の1以下であることが要件となっており、実質的に親族経営での活用ができないことがこれまでの足かせとなっていました。
逆に、認定医療法人制度は親族の割合が100%であっても上記Q7の要件を満たしていれば非課税で持分なしに移行することができます。
この制度が令和5年9月までの時限立法であったのが、税制改正により令和8年末まで延長されることとなりました。
※令和5年9月までに「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」の改正が前提とされています。
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