創業直後で実績や業績がなく、これからビジネスモデルを確立させていく時期を企業の「アーリーステージ」と呼びます。
この段階は、設備投資や研究開発、人材採用などのために多額の資金が必要となります。アーリーステージでの資金調達方法としては、国や自治体、金融機関、日本政策金融公庫などの創業融資のほかにも、ファンドという選択肢があります。
本記事では、アーリーステージの企業が成長を加速させるために有効活用できる「ファンド」について解説します。
スタートアップ企業のアーリーステージとは?
アーリーステージはどんな時期?
アーリーステージとは、ベンチャー企業やスタートアップ企業の成長段階のステージのうち、起業した直後の時期を指します。「スタートアップステージ」と呼ぶ場合もあります。企業にとっては、創業3年程度で事業が確立しておらず、資金繰りも思うようにいかないことが多い時期です。
ただし、会社経営や資金繰りなど、最も忙しい時期である一方で、もっとも仕事にやりがいがあり、充実している時期とも言われます。
スタートアップ企業の投資ラウンドと成長ステージ
投資ラウンドとは
投資ラウンドとは、「投資家が企業に対して投資を行う段階(ステージ)」のことです。投資フェーズとも呼ばれます。
たとえばベンチャーキャピタル(VC)は、株価の売却益(リターン)が最大化しやすい成長ステージで投資を行うという特徴があります。一方で、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)は自社事業との高いシナジー効果を期待できるステージにあるベンチャー企業への投資を目的としています。
異なる目的を持った投資家が、それぞれの投資目的を果たしやすいように、スタートアップ企業がどの段階にあるのかを示す指標が投資ラウンドです。
企業の成長ステージ
投資ラウンドには、企業が起業する前のステージから黒字化して経営が安定するステージまで、次のような名前がつけられています。
投資ラウンド名 | 企業のステージ |
シード | 起業前 |
アーリー | 起業直後、スタートアップ |
シリーズA(エクスパンション) | 事業を本格開始するステージ |
シリーズB(グロース) | 事業が軌道に乗り始めたステージ |
レイター | 黒字化して経営が安定するステージ |
アーリーステージは資金調達力がポイントに!
アーリー期は、起業直後の企業が多く、会社を成長させるために様々な投資が必要になる時期でもあります。投資は、自社の運営資金だけでまかなえられれば良いですが、この時期のスタートアップ企業は資金にゆとりがある企業は多くありません。そこで、資金面の問題を解決する1つの方法として、資金調達があります。そこで、アーリーステージにおける資金調達に関して解説します。
スタートアップにとって分岐点となるアーリーステージ
アーリー期の企業は設備投資や研究開発のための資金が必要となります。国や自治体、金融機関の創業融資、VCやエンジェル投資家の資金援助などで資金調達を図ることになりますが、アーリー期はまだ実績も業績もないステージです。
金融機関や投資家から支援を受けるためには、ビジネスプランやアイデアの実現可能性はもちろん、創業者自身の人柄をアピールすることが重要になります。
ここで十分な資金調達を行うことと、投資家から信頼を勝ち取ることが、次のエクスパンション期(ミドル期)に到達できるかどうかの分岐点となります。
資金調達が成長を加速させる
資金調達に成功すれば、事業を加速的に成長させることができます。
ビジネスプランが確立していないアーリー期のステージでは、優秀な人材の採用、設備投資、研究開発が今後の成長を左右するカギとなります。それらを成功させるためには、資金を調達し、効率的に使うことが必要不可欠です。
起業したばかりのスタートアップ企業は、国や自治体、金融機関の創業融資制度を活用することはもちろん、投資家からの資金供給を受けることも資金調達の方法として検討するべきです。
ファンドの基礎知識
ここまでアーリーステージに関しての解説をしてきましたが、続けて投資を行っているファンドについて、解説していきます。
ファンドとは?
金融業界におけるファンドとは、個人投資家や金融機関、事業会社などから資金を集め、それをもとに投資を行い、得られた利益を投資家に還元する仕組みや、それを行う組織を指します。
ファンドと呼ばれるものには、次のような種類があります。
- ヘッジファンド
- ベンチャーキャピタル
- アクティビストファンド
- 不動産私募ファンド
- バイアウトファンド
- ディストレスファンド
- 企業再生ファンド
この中で、起業したばかりの企業に資金供給を行うファンドは「ベンチャーキャピタル」です。ベンチャーキャピタルはスタートアップ企業の成長性や将来性を判断して投資を行います。
ファンドの役割は資金提供だけでなく経営へのアドバイスも
ファンドは資金提供だけでなく、投資先に対する経営のアドバイスを行ったり、経営の主導権を握ったりする場合があります。経営に深く関与するスタイルを「ハンズオン」、投資先に任せるスタイルを「ハンズオフ」と呼びます。
ハンズオンは、出資者が派遣した経営責任者が直接経営の舵取りをするため、アーリー期のスタートアップ企業にとっては、資金調達と併せて成長を加速させるチャンスです。その反面、出資者の意向に沿わざるを得ないため、投資先の社員と経営方針を巡って対立が起こりやすいというデメリットもあります。
アーリーステージに投資を行っている代表的なファンド
アーリーステージにあるスタートアップ企業に投資を行っている代表的なファンドをご紹介します。
グロービズ・キャピタル・パートナーズ
国内最大規模の独立系ベンチャーキャピタルで、日本国内のアーリーステージ~レイターステージのIT系ベンチャー企業、スタートアップ企業に資金供給、グローバルな人材と豊富な実績に基づくハンズオン型の経営支援を行っています。
資本金 | 400億円 |
投資ラウンド | アーリー期~レイター期 |
公式サイト | https://www.globiscapital.co.jp/ja/ |
FVC(Future Venture Capital)
FVCはアーリーステージのベンチャー企業、スタートアップ企業にハンズオン型の経営支援を行っているベンチャーキャピタルです。そもそもFVCがベンチャー企業からスタートしているため、投資先であるベンチャー企業側に立ち、大企業と連携して「創発的革新」を実現するための活動を積極的に行っています。
ファンド総額 | 200億円 |
投資ラウンド | アーリー期 |
公式サイト | https://www.fvc.co.jp/ |
日本ベンチャーキャピタル
日本ベンチャーキャピタルは起業経験者や大企業での経営経験を持つ事業家が1996年に立ち上げた独立系のベンチャーキャピタルです。ITサービス系を中心に、アーリー期からレイター期までの企業を幅広く支援しています。さらに、産学連携事業にも強みを発揮し、大学発のベンチャーへの投資も積極的です。
ファンド総額 | 52億円 |
投資ラウンド | アーリー期~レイター期 |
公式サイト | https://www.nvcc.co.jp/ |
JAFCO
JAFCOは50年近い歴史を持つ国内最大規模のベンチャーキャピタルで、長年にわたってベンチャー企業・スタートアップ企業を支援してきた豊富な実績と幅広いネットワークを強みとしています。日本、米国、アジアとグローバルな活動を展開、シード~アーリーを中心としたハンズオン型の経営支援を実施しています。
ファンド総額 | 10,000億円 |
投資ラウンド | シード期~アーリー期 |
公式サイト | http://www.jafco.co.jp/ |
SMBCベンチャーキャピタル
SMBCベンチャーキャピタルは三井住友グループのベンチャーキャピタルで、スタートアップ、アーリー期の企業へ積極的に支援を行っています。IT、サービスを主軸に幅広い業種に投資を行っており、2010年度以降、累計500件超・300億円超の投資実績があります。
ファンド総額 | 非公開 |
投資ラウンド | シード期~アーリー期 |
公式サイト | http://www.smbc-vc.co.jp/ |
三菱UFJキャピタル
三菱UFJキャピタルはMUFGグループのベンチャーキャピタルで、アーリー期~ミドル期の企業へ積極的に支援を行っています。2005年以降の投資実績は1,000件超・500億円超、IPO実績は2007年以降110社以上という豊富な実績があります。
ファンド総額 | 150億円(基幹ファンド) |
投資ラウンド | アーリー期~ミドル期 |
公式サイト | https://www.mucap.co.jp/ |
500 Startups Japan
500 Startups Japanは、米国のベンチャーキャピタルである500 Startupsの日本法人です。シード期~アーリー期のベンチャー企業、スタートアップ企業に積極的な投資を行っています。米国シリコンバレー企業との強いコネクションがあるため、提携先として米国企業を視野に入れている企業におすすめです。
ファンド総額 | 非公開 |
投資ラウンド | シード期~アーリー期 |
公式サイト | https://500.co/startups/ |
ファンドからの資金調達を成功させるための5つのポイント
成長性のある市場である
ベンチャーキャピタルを始めとする多くの投資家たちは、投資によるリターンを得ることを目的としています。成長性の高い市場であれば「投資のリスクは小さく、リターンは大きい」と考えられます。
したがって、市場の成長性を具体的に説明することが、投資家から資金調達をするための第一歩となります。
なぜ自分たちに投資すべきなのかを説得できる
ここまでに「投資家は創業者の人柄を見る」と述べてきたのと同様に、ファンドも「どんなビジネスか?」だけではなく「だれがそのビジネスをやるのか?」に注目します。
たとえ優れたビジネスモデルであっても、事業を進めることができない人物では?と評価されてしまうと、ファンドが多額の資金を投資する可能性は低くなってしまいます。
「このような経歴、実績、スキルがあるからこそ、このビジネスを成功に導くことができる」という評価をしてもらえるよう創業者や経営陣の資質や魅力を伝えることが大変重要になります。
競合より優位な点を持っている
ファンドは、企業や事業の成長性を「競合優位性」で見極めます。競合はどこで、競合と自社にはどんな違いがあり、競合が真似できない優位性がどこにあるかが明確であれば、ファンドからの資金調達に繋げられる可能性が高まります。
どんなに新しいビジネスモデルであっても、競合がいない市場は少ないでしょう。競合優位性を見ることで、ファンドは、企業や事業に将来性があるのかを判断しています。
商品・サービスの販促方法や販路が明確
販売戦略は、「商品やサービスをどのように売って、売上を伸ばすか」ということです。ファンドに対して「どのエリアで」「だれに」「どうやって営業するのか」という販売戦略を明確に、受注額や顧客数、推定売上も論理的な数字で示す必要があります。
具体的な販売戦略がない商品・サービスの売上が伸びることはなく、すなわち企業の成長もありません。
創業者自身が販売戦略・営業戦略について熟知しているか、あるいはそれだけの能力や実績のある人材が経営陣に在籍していることが大切です。
EXITまでの道筋は立てられているか?
ベンチャーキャピタルの投資目的はEXITによる資金回収です。
ファンドから出資してもらうためには、起業前からEXITまでの道筋を示し、どのような方法でどれくらいのリターンが得られそうか、出口計画(EXIT plan)を持つことが必要です。事業計画には具体的なEXIT戦略、スケジュールを盛り込むようにしましょう。
アーリーステージ後のEXIT戦略
「資金調達を成功させるための5つのポイント」でも触れたように、ファンドの最終目的であるEXIT戦略を明確にしないことには、投資を検討してもらう段階にすら到達できません。
EXIT戦略には、IPOとM&Aの2つがあります。どちらが自社にとって良いのかを検討し、選択することが重要です。ここでは、IPOとM&Aを含めたEXIT戦略について解説します。
IPO(株式公開)
IPOは“Initial Public Offering”の頭文字を取った言葉で、未上場企業の創業者や経営陣が所有していた株式を証券市場に上場、第三者の投資家が株式を取得できるようにするEXIT戦略です。上場時には株価が一気に高騰するため、ファンドは投資資金の回収が可能になります。
一方、上場した企業は金融市場から広く資金調達できるだけでなく、知名度が上がることで社会的な信用力を獲得することができます。
M&A(株式譲渡)
M&Aとは“Mergers and Acquisitions(合併と買収)”のことで、会社や事業の売却によって投資資金を回収するEXIT戦略です。
日本ではM&Aというと買収のイメージが強いですが、EXITを目的としたM&Aでは、株式譲渡や事業譲渡が行われます。株式譲渡は、株主が保有する株式を対価と引き換えに他社に譲渡することで、事業譲渡は事業のみを売却することです。
アメリカでのEXIT戦略は、M&AによるEXITが9割を占めており、近年は日本でもM&AによるEXITの件数が増加傾向にあります。
ファンドを活用して成長を加速させよう
アーリー期の資金調達に活用したいファンドや資金調達を成功させるポイントについて解説しました。
創業間もない企業は創業者と経営陣がもっともやる気と情熱に満ちた時期ではあるものの、事業が確立しておらず、実績も業績もない状態です。
ファンドは、そんなアーリー期の企業を資金調達や経営サポートという形で支援してくれる存在です。資金調達にファンドを利用すると自由な経営ができなくなるというデメリットが強調されがちですが、うまく活用することで加速度的にビジネスを前進させることができます。事業が本格始動してから次のフェーズであるシリーズA(エクスパンション)に向かうために、ファンドはExitを目指す起業家にとって非常に心強いパートナーとなるでしょう。
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