ベンチャー企業やスタートアップ企業に資金や有形無形のサポートを行うベンチャーキャピタルが、近年注目されています。その中でも近年、存在感を増しているのが CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)です。今回はこの CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)とはどのようなものなのかわかりやすく解説していきたいと思います。
CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)について
VC(ベンチャーキャピタル)はその出資母体により、金融系や独立系などいくつかの種類に分類されます。その中でも投資を本業としない事業会社が運営するベンチャーキャピタルがCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)です。
CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)とVC(ベンチャーキャピタル)の違い
CVCは従来のVC(ベンチャーキャピタル)とは目的の部分で大きな違いがあります。従来のVCは出資先企業のIPO(株式公開)やM&Aによる高いリターンを狙うことが目的であるのに対して、CVCは新技術の取り込みや研究開発の促進、協業によるシナジーなど自社の事業の成長を目的としています。
オープンイノベーションにおけるCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の役割
新しい技術の取り込みという点で考えるとCVCはオープンイノベーションの役割を担っているといえます。オープンイノベーションとは社内だけではなく、社外の人材や知見、技術などのリソースを生かしてイノベーションを行う取り組みです。
近年ではAI(人工知能)や5G、IoT(モノのインターネット化)など新領域の技術革新が加速しています。
新技術が次々に出てくる変化の速い時代では、従来のように自社で一から研究・開発を行い、商品やサービスを作っていては市場の変化に対応できません。そこで自社で研究・開発を行うのではなく、CVCを通じて有望な技術やビジネスモデルを持つベンチャー企業・スタートアップ企業にアプローチする大企業が増えています。
CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)を活用した事業の創出
ここからはどのような点に留意してCVCを立ち上げているのか、具体的なプロセスをご紹介します。
支援を受ける側として、CVCにはこれまでどういった経緯があって、なぜ今に至るか知っておくと良いかもしれません。
CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)を設立する目的の明確化
まずは、目的の明確化を行います。「新規事業を立ち上げたい」、「新技術を自社の商品開発に役立てたい」といった目的はもちろんですが、より細分化した目的を考えていくことが必要になります。
例えば「新技術を自社の商品開発に役立てたい」という目的であれば、「どのような技術を対象とするのか?」、「対象とする出資先の企業のステージは?」など細かく詰めていくことで立ち上げ後の出資の基準もより明確になり、スムーズでブレのない意思決定が可能になります。
CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)を行う際の社内体制
CVCを成功に導くためには、社内体制の充実も不可欠です。投資すればシナジーが生まれるわけではなく、投資先の企業と協業の構想や実行を一緒に推進していかなければいけません。そのためには企業ごとの専任者が必要になりますし、案件が増えてくれば当然人員も必要になります。はじめは少数精鋭だとしても、徐々に社内体制を整えていく必要があります。
さらに、CVCの活動と事業部とのシナジーを最大化するためには、事業部側の推進担当者の活動もポイントになります。推進担当者は事業部側の各部署を巻き込んで新プロジェクトを推進出来るレベルの権限と能力を持っていることが求められます。
また、経営陣からも積極的に協業の状況を理解して適切なフォローができる担当者を最低1人置くべきでしょう。
このように、CVCの体制は専任担当者だけでなく事業部や経営側など組織内の各層と適切に連携するための人材の配置が重要なポイントとです。
投資先経営者との信頼関係
CVCは、投資先の経営者との信頼関係の構築も重要です。「出資している」という立場であっても、同じ目線を常に心がけるべきでしょう。信頼関係の構築が不十分な場合は将来の追加出資を断られたり、協業シナジーが低下することもあります。出資関係ではありますが、新しいイノベーションを目指すパートナーであるというスタンスが求められます。
出資を受ける経営者目線では、信頼できないと感じたCVCからの出資は断ることができるよう、しっかり見極めることが重要です。
協業や実施時期などのタイミング
CVCがベンチャー企業との協業を進める上では、ベンチャー企業のステージを見極めることも大切です。新事業や新商品を立ち上げて2〜3年は、ベンチャー企業にとって社内リソースが不足する中、ユーザーからのフィードバックや社内の反応を元に試行錯誤する大切な時期です。
CVCの出資担当者は、どうしても早く何かしらの結果を出さなければならないプレッシャーがあります。そのため、性急に追加出資を考えたり、ベンチャー側に事業展開を急いでほしいと考えてしまうこともあります。
マーケットサイクルの重要性
CVCの成功にはマーケットサイクルの見極めが重要です。
ベンチャー企業への投資は、基本的に未公開企業に対して行うことになります。しかし、未公開企業の株価もマーケットの状況に応じて変化します。
たとえば、マーケットが過熱している時はベンチャー企業の株価も割高になりますし、逆に低迷している時は割安になります。一般的には、マーケットが過熱している時は新規投資を抑えめにし、低迷している状況であれば積極的に投資していくべきです。
しかし、CVCの目的は事業シナジーの追求なので、マーケットの状況に左右されることは本来望ましいことではありません。一方でマーケットの状況を無視するのもリスクを伴います。マーケットサイクルも把握したうえで、最適な投資を検討します。
CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の2つのパターン
CVCの活動は、資金を運営管理するジェネラル・パートナーを誰が担うかによって、2つのパターンに分かれます。
ジェネラル・パートナーを子会社にする場合
1つ目は、事業会社が子会社としてジェネラル・パートナーを作り、実際の出資の運営管理は子会社、出資資金は事業会社本体から拠出するパターン。
この方式では、出資先企業に対してより深く関わりをもつため、事業会社の意向が反映されやすい反面、リスクとリターンはより高くなるという特徴があります。
ジェネラル・パートナーを第三者にする場合
2つ目のパターンは、管理人的な立場のジェネラル・パートナーは第三者のベンチャーキャピタルなどに委託し、事業会社から資金だけ出資します。委託するベンチャーキャピタルの情報や知見等を活用できるため、たとえ現状シナジーが見込めなくても第三者の視点から広く情報収集することができるという特徴があります。
国内におけるCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の状況
近年急増しているCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)について
2012年頃から、大企業によるCVCの設立が活発になっています。背景の1つには技術革新が急速に進み、大企業であっても自社のリソースだけでイノベーションを行うことが難しくなっていることがあります。さらに、既存の製造業のビジネスモデルが成熟する中でサービス業などではこれまでに見られなかった新たな業態のビジネスモデルが次々と誕生するといった産業構造の変化なども背景として挙げられます。
そのような中、2000年の第一次ブーム時に見られた、出資したもののシナジーが得られない、協業のノウハウが少ないといった点を過去の経験則として生かして、自社の成長に生かすCVCが増えてきています。
年々増加しているCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)からオススメを一部ご紹介 !
CVCの数は、多種多様なCVCが存在しています。今回は投資家の方へ、その中からいくつかおすすめをご紹介します。
株式会社NTTドコモベンチャーズ
株式会社NTTドコモベンチャーズはNTTドコモ傘下のベンチャーキャピタルです。
もともとNTTドコモは自社の研究開発部門が強く、自前主義が当然の社内カルチャーでした。しかし2000年代後半からスマホの登場など技術の革新が進む中、
全てを自社で開発するよりも外部のリソースの活用の必要性が社内でも言われるようになり、設立された経緯があります。出資だけでなく、「ドコモ・オープンイノベーションビレッジ」というオープンイノベーション推進プログラムを実施しています。
KDDIオープン・イノベーション・ファンド
KDDIオープン・イノベーション・ファンドはKDDIが設立したCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)です。2012年に設立され、これまでに3つのファンドを組成し50社以上に合計300億円以上の出資を行なっています。
設立された当時はスマホの普及が加速する状況でガラケーの時代は自社でコンテンツやサービスの技術開発を賄えていましたが、スマホの時代にはコンテンツやサービスは外部のスタートアップ企業の方が技術開発などが進んでいたことから外部の知見を取り込む必要性があったことがCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)設立の背景となっています。
フジ・スタートアップ・ベンチャーズ
フジ・スタートアップ・ベンチャーズはフジ・メディア・ホールディングスが出資するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)です。インターネット、モバイル分野の事業に特化してこれらの関連のベンチャー・スタートアップ企業に投資を行っています。スマホやタブレットなどの新しいメディアへの展開を念頭にフジ・メディア・ホールディングスへのシナジーを狙った事業展開です。
パナソニックベンチャーズ合同会社
パナソニックベンチャーズ合同会社はパナソニック傘下のベンチャーキャピタルです。パナソニック本体は1998年から家電事業で新技術を使用するため米国シリコンバレーでのベンチャーキャピタル投資を積極的に行ってきました。その後パナソニック本体がテレビ事業の縮小などを迫られる中で新規事業の創造に寄与することを目的として設立された経緯があります。
ソニー・イノベーション・ファンド
ソニー・イノベーション・ファンドは2016年にスタートしたソニー傘下のCVCです。ソニー・イノベーション・ファンドは運営に関して他社の専門家の助言を受けないジェネラル・パートナー方式で運営を行なっています。以前からスタートアップへの投資は行なっていた経験を生かし、ソニーらしさが活かせるようなスタートアップ企業への投資を続けています。
YJキャピタル株式会社
YJキャピタル株式会社はヤフー傘下のCVCです。ヤフー本体と同様にインターネット関連のスタートアップ企業に出資を行なっています。ヤフー本体の投資との違いはヤフー本体の投資は連結子会社化出来る規模の出資であるため、YJキャピタル株式会社の出資はいわゆるマイノリティ出資にとどまる規模の出資となっています。
まとめ
いかがでしょうか?第2次ブームといわれるように、事業会社が本業とのシナジーを狙い、出資や支援をベンチャー企業やスタートアップ企業に対して行うCVCの立ち上げが活発になっています。
背景には、AI(人工知能)や5G、IoTといった技術革新の広がりや製造業など既存のビジネスモデルが成熟期を迎えるなか、新たなビジネスモデルが生み出されていることがあります。事業会社の社内リソースやスピード感ではベンチャー・スタートアップに追いつけない時代が到来し、事業会社にとってもこれらの外部リソースの活用を迫られていることも要因と言えるでしょう。
ただ、事業会社としてもCVCを立ち上げさえすれば良いというものでもなく、出資先の経営者との関係構築、事業会社側の社内体制、出資をする際のマーケットサイクルなど気をつけるべきポイントはさまざまです。ただ、出資によりノウハウや人脈などを構築することで将来的に事業シナジーをもたらされた場合のメリットは非常に大きく、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)はこれからも事業会社にとって有用な選択肢となるでしょう。
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