食を取り扱う食品業界は人々の暮らしに密接に関わり、就職市場においても人気が高く、多くの注目を集める業界のひとつです。
それでは各業界が新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けている中で、食品業界はどのような状況にあるのでしょうか。
今回は、コロナ前・コロナ禍それぞれにおける食品業界を比較し、業界の動向や取り組みについて解説します。また、食品業界の今後の展望についても紹介していきます。
食品業界のコロナ前における状況
食品業界はコロナ前ではどのような状況にあったのでしょうか。ここでは、動向について詳しく見ていきます。
国内総生産がやや増加傾向
コロナ前の食品業界は、ゆるやかに成長し続けていました。農林水産省のデータによると2018年の国内生産額は、前年から0.6兆円増加し、全経済活動に対する食品の国内生産は9.6%を占めていることから、日本の産業の重要な一部を担っていることがわかります。
また、食品製造業に携わる従業員の数も多く、全製造業の従業員のうちの1割を占めています。地域の雇用において、食品製造業がいかに重要なものであるかがわかります。
2016年からSDGsの取組みが開始
食品業界は2016年から、SDGsに力を入れ始めています。SDGsが2015年にニューヨークで開催された国連サミットで採択されて以降、食品ロスの削減や健康への配慮などに注目が集まりました。
2030年までに食品ロスをなくすことが国際社会共通の目標とされたため、日本でも2019年に食品ロス削減推進法が施行されました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けては、「Zero Wasting~資源を一切ムダにしない~」との目標が掲げられ、大会をあげて食べ残しゼロを啓発するように、飲食店やホテルが取り組むことになっていました。
このようにSDGsの取り組みは、新型コロナウイルスが猛威をふるう以前から、生産者・消費者が一丸となって行われています。
食品業界内の売上比率
食品業界は小規模な事業者が多く、従業員数20人未満の小規模・零細企業が業界全体の事業者数の8割を占めています。
しかし、売上で見ると状況は異なり半分以上は大手食品メーカー上位200社が占めています。つまり大手食品メーカーが大きな売上を出しながらも、多くの小規模・零細企業が、食の多様性を支えている状況となっています。
食品業界のコロナ禍の変化と課題
新型コロナウイルスによって、食品業界も大きな変化を強いられています。特に外食業界は、休業・時短要請によって売上が大きく落ち込みました。
自粛に伴い、レストランが食材を発注しなくなったことで、農作物や水産物が農家・漁師の手元に余ってしまう状況となりました。この状況を解決するためインターネット上では、消費者が生産者から直接食材を買い取る「産地直送」のサービスが普及し、注目を集めています。
これ以外にも、コロナ禍による変化が起こっています。以下で詳しく見ていきます。
売上減少で省人化・省力化が浮上
食品業界は業界全体として売上が減少し、苦しい状況に置かれています。それに伴い企業が抱える課題も変化しました。
日本政策金融公庫が2021年7月に行った「食品産業動向調査」によると、製造業と小売業で「省人化・省力化」が3位となりました。これまでの調査では3位に浮上することのなかった項目のため、新型コロナウイルスの影響で食品業界に体力がなくなっていることが伺えます。
先述のように食品業界は、地域における重要な雇用先です。だからこそ、食品業界が省人化を目指すことは国からしてみれば大きな懸念事項となります。
ただし、上記の調査結果がある一方で「一般作業員を確保したい」と答えた企業も多く存在しています。人材を求める企業に求職者を充てていけるよう、人材マッチングの最適化が求められるでしょう。
SDGsの取組みはコロナ禍で拡大
厳しい状況にある食品業界ですが、SDGsへの取り組みは拡大傾向にあります。
株式会社電通が第4回の「SDGsに関する生活者調査」でSDGsの認知率を調査したところ、2021年1月時点で認知率は54.2%となりました。これは2020年1月時点の29.1%と比較して、ほぼ倍の数値です。
実際に、企業をあげてSDGsに取り組んだ事例が増えています。
【株式会社明治】
海外の経済成長支援への取り組みとして、チョコレートの原料であるカカオ豆の調達を、農家の支援と組み合わせながら行うことを表明
【日清食品ホールディングス株式会社】
健康への取り組みとして、糖質・脂質をカットした健康志向の製品開発やCO2削減への取り組みに力を入れる戦略
SDGsに取り組むことは、食品業界における競争で優位に立つためのビジネス戦略となっています。そのため企業も、SDGsへの取り組み強化を、課題として認識するようになってきています。
食品業界の今後の展望
ここまで紹介したように大きな変化を経験している食品業界は、今後どのように変化していくのでしょうか。以下で今後の展望を紹介します。
2021年下半期は景況の持ち直しで回復傾向
日本政策金融公庫の調査によると、2021年下半期に回復傾向を見せて持ち直し、新型コロナウイルス拡大前の2019年上半期を上回る水準となりました。
業種別に詳しく見てみると、製造業、卸売業、飲食業で上昇していますが小売業は低下しているという状況です。また製造業は好調に見えても、離職率が目立つ状況になっているという事実があります。そのため今後は、省人化を図る企業と求人を行いたい企業との双方で、従業員数の安定化を目指していく必要がありそうです。
SDGsを通して企業の社会的価値が求められるようになる
食品業界は、SDGsで掲げられている豊かで健康な社会を支える重要な産業です。SDGsへの熱が高まる中、食品業界への注目も連動して高まっていくでしょう。
今後はSDGsをどのように事業に反映させているかが、企業の社会的な価値を示す材料になることが見込まれます。消費者だけでなく、株主、取引先、自治体などステークホルダーにとっても、SDGsへの対応は重要な要素となります。
SDGsを事業に落とし込むことは、さまざまな工夫を要するため困難です。しかし、SDGsは現代社会が抱えている課題を網羅した指標のため、企業にとって将来的に起こりうるリスクを回避することにつながります。
食品業界のM&A事例
食品業界では、多くのM&Aが実施されています。M&Aによって、買い手企業はスピーディに事業の強化や多角化を実現できますし、売り手企業は経営難や後継者不足の不安を解消することができるためです。
M&Aマッチングサイトのバトンズでは、食品業界のM&A案件を多数掲載しています。食品業界におけるM&Aを多数実現してきたバトンズの実績の中から、2つの事例をご紹介します。
高崎市の若手経営者が継承したのは、「絶メシリスト」の老舗カレー屋さん
1件目は、ダーツバーを経営していた20代の経営者が、40年続く老舗のカレー屋さんを引き継いだ事例です。ダーツバーを経営して3年ほど経過し、売上は順調に推移。さらなる事業展開を構想し、もともと興味があった飲食業界に足を踏み入れます。
引き継いだカレー屋さんは、過去に何度かメディア露出をしている地元では知名度の高いお店。店主の高齢化に伴い、後継者を募集していました。
今後は、ECサイトを立ち上げて冷凍カレーの販売を行なったり、道の駅に出店するなど、ネットとリアルを活用した販売ルートの開拓を構想中。地元群馬県でさらなる事業の多角化も検討しています。
福島県の広大なパプリカ農園、建設業経営者へ事業引継ぎ
2件目は、福島県内で建設業を営む方が、パプリカ・レタスなどを生産する農園から株式譲渡を受けた事例です。
これは農園側が、主力事業を鮮魚事業に特化していきたいと考え、譲渡を検討しはじめ、買い手側が、新規事業として農業を営みたいという意向が一致したケースです。買い手側は異業種からの参入になりましたが、売り手側が成約後もしばらく農園に残ってレクチャーしたことで、スムーズに引き継ぐことができました。
まとめ
食品業界は、新型コロナウイルスの影響を受け、大きなダメージを負っています。それでも人々の豊かな暮らしを支える一大産業として、SDGsの取り組みを進めるなどの挑戦をしながら今後も大きく成長していくでしょう。
食品業界におけるM&Aを検討している場合は、バトンズがおすすめです。豊富な案件の中から、条件に合う相手先をきっと見つけられるはずです。
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