▼静岡県掛川市にある株式会社竹内オフィスは、OA機器の販売とアスクルのエージェントを営んでいました。社長であった竹内さんはリコーの営業マン時代に、卓越した営業力を得ただけでなく、半生をともにすることとなる優秀な同僚と出会えたことで、竹内オフィスを約30年に渡り経営し続けることができました。
竹内さん、竹内オフィス本社の前で
母の女手一つで育った少年期が経営者としての資質を高めた!?
掛川市出身の竹内さんは小学生の頃に父を亡くされ、母のもとで育ったそうです。当時は兄弟が多いことも珍しくないとはいえ、5人兄弟を女手一つで育てることは決して楽ではなかったでしょう。その中で長男だった竹内さんは、必死に家族の生活を守る母の背中をみながら、そして助け合って少年期を過ごしてきました。
その責任感の強さからでしょうか、社会人として静岡リコー(現リコージャパン)に入社し13年営業で腕をならしたものの、経営者の道を志し昭和58年に独立しました。竹内家では、なんと竹内さんの弟も経営者になっているということですから、家族皆で自立して母を支えてきた情景が浮かぶようです。当時の話をする竹内さんの目は、優しさを感じさせながら、力強さも持っていました。
同僚の参画により営業拡大期へ
創業当初の竹内オフィスは専らOA機器の販売をしており、竹内さんの地道な営業が会社の原動力となっていました。片っ端から目に入る会社の門をたたき、「コピー機買いませんか」と歩いて回ったそうです。バブルも終わりを告げた頃ですから、簡単には買ってはくれず踵をすり減らすだけの時期もありました。
そんな中竹内さんが独立して5年、リコーの元同僚が竹内オフィスに参画することとなりました。リコー当時、ともに17年間も営業で外を回った友人でもあり、当然同じように辛酸をなめたこともあります。この元同僚の参画を機に竹内オフィスは拡大期になります。そして平成2年にはついに法人成りします。
従業員も増え、安定した経営をするためにアスクルのエージェントに
OA機器の販売だけでは地域顧客のニーズは飽和しつつあったため、竹内さんは新たな経営基盤を作るべく平成10年にアスクルへの加盟を決めました。
アスクルの仕組みはこうです。
竹内オフィスのようなエージェントが全国に点在しており、アスクル本部とエージェントとが役割分担をすることで流通システムを簡素化しています。しかも、大胆にもエージェントが担う役割をたったの2つに絞っているのです。
アスクルホームページより
エージェントは、「新規顧客開拓」と「顧客の支払い管理(債権管理)」のみを行い、カタログの発送、注文受付、商品の発送など在庫管理、お問合わせ対応に至るまで、商品販売事業に係るビジネスフローの残り全てがアスクル本部によって行われるのです。
これによりエージェントである竹内オフィスとしては、得意分野である営業に注力できるようになり、快進撃がはじまることとなったのです。
顧客数は約1,000件に
元同僚とともに掛川を中心にまわっていき、病院・薬局や郵便局、学校などからアスクルのお申込みをいただいていきました。一度良さを分かってもらえると、顧客側の横のつながりでご紹介いただけるようになり、静岡県外の顧客も徐々に増えていき、30年経ったころには北は北海道、南は鹿児島まで顧客層は拡がっていったそうです。
学生時代やオフィスなどでご利用になったことのある方も多いと思いますが、アスクル商品は紙やファイルなど普段大量に使用する事務用品などが、発注すればその名の通り“明日来る“という利便性の良さから、一度申込みをもらえれば退会になることは多くありません。
かくして竹内さんの目標通り、安定した経営基盤をつくることができた竹内オフィスは、2016年まで元同僚とともに歩みを進めてきたのです。
会社の将来を考えるきっかけになったCD
そんな中、2010年頃にあるDMが事務所に届きました。触ってみるとCDが封入されており、ふと、せっかくなので聞いてみようとオーディオにCDを入れました。その中ではじめて、「中小企業のM&A」という言葉を聞き、当時既に60代になっていた竹内さんにとっては「そんなものもあるのか」と頭の片隅に残ったそうです。
ところが、60代後半になると自身の体力のこともあり、ちょっとずつこのことが思い返されるようになります。そもそも、「自分が引退すると竹内オフィスはどうなるんだろう」そんな漠然とした不安を抱えるようになりました。
不安が顕著になった元同僚の退職
そんな想いで揺れている中で、元同僚の勤続年数がリコー時代から併せて44年となります。そう、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、厚生年金は44年の長期加入者になると特例措置の対象となります。そして、元同僚は平成28年に勇退することとなりました。
35年ともに歩み続けてきた元同僚の退職は、竹内さんの不安を現実のものにし、足を動かすには十分な出来事でした。
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