▼大多数の経営者にとって、自分の会社を売るということは、一生のうちに一度経験するかどうかの稀有なイベントといえる。どのように譲渡を進めるのかという手続面もさることながら、順調に譲渡できた場合にどのような税金がかかるのか気になるという経営者の方も多いだろう。以下では、会社の保有形態や譲渡先に応じて異なる課税関係を整理してみたい。
必ずお近くの税理士先生にご確認ください。
会社を売るとどのような税金が関係するのか
会社を売るということは、オーナー社長が保有している株式を譲渡することと言い換えることができる。株式はオーナー社長が個人で保有している場合もあるし、オーナー社長が設立した別法人などを通じて保有している場合もある。また、譲渡の相手先も個人である場合と法人である場合の双方が考えられる。
①個人が保有する株式の譲渡には所得税などが課される
オーナー社長個人が保有する株式を譲渡した場合、譲渡所得に対して所得税や住民税が課される。所得税というと、最高税率45% となる超過累進税率を思い浮かべる人がいるかもしれない。しかし、非上場株式を譲渡した場合の譲渡所得は、他の所得と合算して超過累進税率を乗じるような「総合課税」の対象とはならない。この場合の譲渡所得は、他の所得とは通算せず、所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%を合わせた一律20.315%の税率を乗じる「分離課税」の対象 となる。つまり、譲渡所得に対しておおよそ20%の税金が課されることになる。
②法人が保有する株式の譲渡には法人税などが課される
オーナー社長が設立した別法人などが保有する株式を譲渡する場合、株式の譲渡益は法人の他の益金や損金と合算され、最終的な所得に対して法人税などの税金が課される。法人の所得に対して課される税金には法人税、住民税、事業税があり、これらを総合した実質的な負担率を意味する法定実効税率は30%前後となる。
基本的な課税関係は上記のとおりだが、個人株主、法人株主のそれぞれにおいて気を付けておかなければならない点もある。以下では場合分けしながら留意点を確認してみよう。
個人株主が株式を譲渡する場合には「みなし譲渡課税」などに注意
①低額譲渡の場合
個人株主が別の個人に対して適正な時価より低い価額で株式を譲渡した場合、売主から買主に対して贈与を行ったものとして買主側で贈与税が課されてしまう可能性がある。また、買主が法人の場合には、売主が株式を時価で譲渡したものとみなされ、売主側で「みなし譲渡課税」がなされる可能性がある 。
②高額譲渡の場合
逆に、適正な時価より高い価額で株式を譲渡した場合、買主が個人だと、時価より高い部分については買主から売主に対して贈与を行ったものとして売主側に贈与税が課されてしまう可能性がある。また、買主が法人の場合、時価より高い部分については売主にとっての「一時所得」として課税されるおそれがある 。
法人株主が株式を譲渡する場合には「寄付金課税」などに注意
①低額譲渡の場合
法人株主が適正な時価より低い価額で株式を譲渡した場合、買主が個人でも法人でも、時価に満たない額が相手方への寄付金と認定される可能性がある。寄付金は一部しか法人の損金にならない ので、残りの部分については法人税などが課されることになる。なお、買主の個人が、売主企業の役員である場合には、寄附金ではなく、役員賞与として、やはり法人の損金に算入できないことが想定される。
②高額譲渡の場合
逆に、適正な時価より高い価額で株式を譲渡した場合、買主が個人でも法人でも、時価より高い部分については買主から売主に対して供与された経済的な利益と考えられる。そのため、法人では「受贈益」を計上することになり、その部分について法人税などが課される。
税務上の評価額はどのように算定されるのか
それでは、上述の各ケースに登場する「適正な時価」とはどのようなものだろうか。これは税務上の評価額を意味する。所得税などの課税が問題となっているケースでは所得税法上の評価額が、法人税などの課税が問題となっているケースでは法人税法上の評価額が「適正な時価」となる。
ただし、所得税法上の評価額も法人税法上の評価額もベースとなるのは相続税法上の評価額 である。そのため、具体的には、財産評価基本通達などに従って株価を評価することになる。
このような税務上の株式評価を行うためには専門的な知識が不可欠である。そのため、将来、会社を売る予定のあるオーナー経営者にとっては税務専門家のアドバイスを仰ぐことが現実的な方法となる。なるべく早めに相談することで税務対策の選択肢も広がるといえよう。
こんなお悩みありませんか?
つなぐマッチングプラットフォームです。
累計5,000件以上の売買を成立させています。
またM&Aを進めるためのノウハウ共有や
マッチングのための様々なサポートを
行わせていただいておりますので、
まずはお気軽にご相談ください。
編集部ピックアップ
- M&Aとは?流れや注意点、スキームなどを専門家がわかりやすく解説
- 事業譲渡とは?メリット・手続き・税金などについて専門家が解説
- 中小M&Aガイドラインとは? 概要や目的を詳しく解説
- 企業買収とは?M&Aとの違いは何?メリットや手続きの流れをわかりやすく解説
- 会社売却とは?M&Aのポイントや成功事例、IPOとの違いも解説
- 【完全攻略】事業承継とは?
- スモールM&AとマイクロM&Aとは?両者の違いとメリット・デメリットを解説
- 合併とは?会社合併の種類やメリットデメリット・手続きの流れ・必要書類を解説
- 後継者のいない会社を買うことで得られる多くの利点とは?
- カフェって実際のところ儲かるの?カフェ経営の魅力と開業方法
その他のオススメ記事
-
2024年09月17日
トラック・運送業のM&A動向 | メリットや事例について解説【2024年版】
運送業界は、 M&Aの需要が高まっている業界のひとつです。その背景には、後継者不足や2024年問題などさまざまな理由があり、事業規模の大小問...
-
2024年09月05日
未来への想いを共有できる会社とM&Aで手を組みたい。バディネットは、すべてのモノが繋がる社会を支えるインフラパートナーへ
2012年に電気・電気通信工事業界で通信建設TECH企業として創業したバディネット。2024年現在、5社の買収に成功して業容を拡大させています。今回は...
-
2024年08月05日
コラム/法務デューデリジェンスとは?流れやポイント、費用などを解説
デューデリジェンス(以下「DD」といいます。)は、M&Aの実施にあたり、関連当事者が種々の問題点を調査・検討する手続のことを指します。通常...