ノウハウ

2018.11.09

誰も教えてくれないM&A契約の定番条項「表明と保証」とは?

▼  誰も教えてくれないM&Aの契約のこと

 

こんにちは。バトンズ運営人アンドビズCEOの大山敬義です。

最近はM&Aという言葉自体は非常に一般的になりましたが、皆さんは、実際に会社を売買するときの契約書ってご覧になったことがありますか?
多分ほとんどの人はご覧になったことがないと思うのですが、実は実際にM&A、特に売り手になった方が必ず目を留め、そして言いようのない不安に苛まれるある条項があるのをご存知でしょうか?

それが「表明と保証(Representations & Warranties Clause)」という耳慣れない条項です。

最近は他の契約でも挿入されることがあるようですが、一昔前まではM&A独特とも言える条項で、滅多に他ではお目にかかることがなかったので、名前自体馴染みのない方も結構多いだろうと思います。
「表明と保証」はM&Aの世界では極ありふれたものなのですが、意外とちゃんと趣旨を説明できる専門家は少ないらしく、初めてこの条項を目にした売り手さんを不安のどん底に叩き落とすというのが、中小企業のM&Aのあるあるだったりします。

さて、この表明と保証という言葉の定義ですが、物の本には次のように書かれています。
「表明と保証とは、契約当事者の一方か、他方当事者に対し、主として契約目的物などの内容に関連して、一定時点において一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証することをいう」
んー、これだけでは何を言っているのかよくわかりませんね。
そこでまず前提として、そもそもなぜこのような条項が必要なのか、その理由を知っておく必要があります。

 

▼  なぜ表明と保証が必要なのか?

 

よく会社を売るとか買うとか言いますが、中小企業の場合、それは会社の株式を譲り受けオーナーチェンジをする(株式譲渡)か会社の事業の一部を切り分けて一つの塊としてまとめて譲渡する(事業譲渡)かのどちらかを指していることが多いのです

例えば、仮にAが所有する大山印刷という印刷会社があったとして、その株式の全株1万株をBが1億円で譲り受けるM&Aをするとしましょう。
そうなると契約書上の条文は、
「Aは所有する大山印刷の全株式1万株をBに1億円で譲渡する」
という感じになります。
実は極端な話これ一行でもM&Aは成立するのですが、ちょっと待ってください!

確かにこの一文だけで大山印刷の株式の売買は完了はするでしょうが、契約上わかるのは株式の種類と数、そして価格だけです。
肝心の大山印刷がどのような会社なのかは、この契約書からは全くうかがい知ることができません。
これが何が不味いかというと、このことが大きなトラブルを招く大きな原因になるからです。

例えば次のようなケースを考えてみましょう。
大山印刷の決算書を見ると、売上は2億、経常利益1000万とあります。買い手はこの数字を見て利益がちゃんと出ている会社なら1億でもいいかと思い買収に踏み切りました。
ところが、実際は大山印刷は大赤字会社で2000万円の赤字だったのですが、それでは銀行からお金が借りられないので、決算書を粉飾していたのです。
さて、この場合買い手は売り手に契約の無効を訴えることができるでしょうか?

以前ご説明したように、基本的に非公開会社の決算書は単なる税金の計算書に過ぎず、公証性がありません。
意図的に騙そうとしたことを立証できなければ、恐らく契約無効ということにはならないでしょう。
となると、買い手は自分の思っていたとは全く違う会社を1億も出して購入し、しかも毎年2000万円の赤字分をも負担していかなければいけないということになってしまいます。

そこでM&Aの世界では、契約によって売買する物自体は株式だとしても、その目的は会社の所有権・経営権の移転なのだから、どのような会社であるのか売主が説明し、保証するという習慣が生まれたのです。
これが表明と保証というわけです。

一般的には、売り手は契約に当たって以下のような内容を保証することが多いようです。

  ①  設立及び法的に有効な存続 
  ②  反社会的勢力からの断絶
  ③  許認可等の取得
  ④  法令等との抵触の不存在
  ⑤  対象株式の存在・所有
  ⑥  株主名簿の記載の真正
  ⑦  財務諸表の適正
  ⑧  簿外債務の不存在
  ⑨  税務申告等の適正
  ⑩  債務不履行の不存在
  ⑪  要承諾取得契約の不存在
  ⑫  知的財産の所有
  ⑬  労務管理の適正
  ⑭  紛争の不存在
  ⑮  その他必要な事項

どうでしょう、なんか頭が痛くなってきましたね。

そこでもう少し、砕けて言うと、契約書に書いてあることは次のようなことなのです。

私が株主(社長)の会社は ・・・

  ①  資本金1000万円で、200株の株式を発行しています。その全ては私が保有していて、他に株主はいません。

  ②  帳簿に載っている以外の借入金はありません。

  ③  借入金の保証人や借入金の抵当に入れれている物件は以下のとおりで他にはありません。(中略)

  ④  きちんと税務申告をしており脱税はしていません。

  ⑤  今裁判になっている係争はありませんし、今現在訴えられる恐れがある紛争もありません。

  ⑥  従業員の給料もきちんと払っています。社会保険もきちんと収めています。

  ⑦  営業にあたりきちんと必要な許可を得ており、法律違反もしていません。

  ⑧  買収監査で確認した戸塚工場の土壌汚染以外、公害、環境保護に関する法律に違反する行為はありません。

  ⑨  買収監査で確認した未払い残業代を除き、未払い残業代の請求を受ける恐れのある行為はありません。

 

こんな感じで20~25項目ぐらい表明と保証をするのが普通のM&Aの契約です
残念ながら実際の最終契約書では、もちろんこのような砕けた感じなど微塵もなく、法律文書として大変難しく恐ろしげな文句がずらっと並んでいますので、怖く感じて、初めてM&Aを経験する人はたいていビビッてしまいます。
中に時には自分には手に負えないとばかりに、何も見ないで弁護士事務所に駆け込む人さえいるくらいです。
しかし、内容をよく見てもらえばわかる通り、実際に書かれていることは上記のようなごく当たり前の内容です。
ちゃんとした経営をしている限り、本当はそれほど恐れることはないのです。

一方で、売り手側では、万が一の見落としがあったり、これを根拠に後日買い手からいちゃもんをつけられるのではないかと考え、表明と保証を躊躇する人も少なからずいます。
しかし、これも正しくありません。
というのは、表明と保証でなされた事項は、後日に紛争になったときの拠り所になる部分だからです。
例えば、ない、という保証だけでなく、逆にこれだけある(上記の場合は戸塚工場の土壌汚染)という表明があれば、その点については紛争となっても免責となるのです。
つまり、表明と保証は、買い手だけでなく、売り手も守るM&A契約の中では必須とも言える重要条項なのです。

M&Aの世界にはこのように一見素人には取っ付き難い、しかしとても大事なお約束のようなものがいくつかあります。
細かいところは専門家に任せるにしても、こうしたことがある、と知っているか知らなかだけで、M&Aの成功率というのは結構大きく変わってきますから、頭の片隅に置いておくといいかもしれませんね。

 

(執筆)

オンライン事業承継・M&Aマッチングサイト

運営人 アンドビズ株式会社代表取締役
大山 敬義

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