SPACとは特別買収目的会社のことで、非公開会社の上場(IPO)を支援する手段として利用されています。現在、日本ではSPACの設立は認められていませんが、ソフトバンクなどの日本の投資会社は欧米でSPACを積極的に行っています。
以下ではSPACについて、また、設立者や投資家側から見るSPACのメリットやデメリットについて解説します。(SPAC設立は日本で認められていないため、アメリカで行うことを想定して記述しています。)
SPAC(特別買収目的会社)とは
SPACとは特別買収目的会社のことで、買収を目的に設立される会社をさします。そのためSPACは通常の会社と異なり、事業は行いません。ここではSPACの仕組みや特徴などについて紹介します。
SPACの仕組み
SPACは以下の手順で行われます。
1.設立者が自己資本を投入し、SPACを立ち上げる
2.SPACをIPOし、株式を売り出して投資家から資金を集める
3.集めた資金を元手に企業を買収する
4.SPACと買収された企業が合併することで、被買収企業が存続会社となり、上場会社となる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
- 設立者が自己資本を投入してSPACを立ち上げる
まずは、SPACスポンサー(設立者)が自己資本を投入してSPACを設立します。SPACの設立は、プライベート・エクイティやヘッジファンドの機関投資家チームが行うことがほとんどです。その理由は、資金を集めるために名声が必要であるためです。詳細については後ほど解説します。
SPACにはSPACスポンサー、SPACバイヤー、ターゲット企業、SPAC後の投資家など、キープレイヤーが4人います。SPACスポンサーとは、SPACの設立者のことで、先に述べたプライベート・エクイティやヘッジファンドの機関投資家チームのことを指します。SPACスポンサーは投資家からの資金調達が主な仕事で、SPACスポンサーのネームバリューの大きさによって資金調達額、買収できる企業の大きさが変わります。
SPACバイヤーとはM&Aアドバイザリーのことで、買収を適切に行うためにアドバイスをする専門家です。また、ターゲット企業とは、被買収企業のことです。
SPAC後の投資家は、SPACの株主にあたります。SPACは買収によって消滅会社になるため、事実上、ターゲット企業の株主となります。
2.SPACがIPO(上場)する
SPACを設立した後はIPO(上場)することで株式を売り出し、投資家から資金を集めます。その資金を元手に買収を行いますが、一般の人がSPACを設立しても簡単に資金を集めることはできません。では、どのようにして資金を集めるのでしょうか。
それはSPAC自体に信用を持たせることです。SPACに投資してリターンがあれば、投資家は積極的に投資を行います。その信用を持たせる方法としてプライベート・エクイティやヘッジファンドの機関投資家チームのネームバリューを活用します。このネームバリューの大きさによって集められる資金の額が変わってくるためです。
一般的なSPACでは、スポンサーが創業者の株式を購入し、IPO後も株式の20%を保持できるように定款を定め、残りの80%の株式は投資家に売却して資金を集めます。
3. 買収する企業を探す
次にターゲット企業、すなわち買収する企業を探します。SPACに投資する投資家は、短期間でより多くのリターンを求めて株式を購入するため、ターゲット企業にはこれから著しい成長が見込まれるベンチャー企業とされるケースが多くあります。ターゲット企業の見極め時には、簿外債務などのリスクがないかデューデリジェンスを行います。
買収企業が決まり、買収の合意の後、ターゲット企業の経営陣は趣意書に署名し、3~5ヶ月以内に公開企業として活動できるように準備をする必要があります。
4.SPACとターゲット企業が合併し、上場会社に
最後にSPACとターゲット企業が合併後にSPACが消滅会社となり、ターゲット企業が上場会社になります。
SPACでも合併を行う際には株主の承認を得る必要があります。これはSPACスポンサーが出資している会社を不正に高額で買収することを防ぐために規定されています。合併の契約を締結してから4営業日以内に、企業活動の年次報告書であるSuper 8-Kを記入し、SEC(Securities and Exchange Commission:アメリカ証券取引委員会)に提出する必要があります。
SPACの現状
次はSPACの現状について説明します。SPACによる買収の手法はアメリカを含め、海外でよく行われています。しかし、冒頭でもお伝えした通り、日本ではSPACによる会社の設立は認められていません。
一方で、海外でのSPACの人気は年々高まっており、全世界で行われたSPACによる新規上場の件数は、2020年で156件と前年の約2.6倍となっています。また、SPACによる資金調達額は2020年で583億ドル(日本円で約6.4兆円)となっており、前年の約4.3倍です。(SPAC Research調べ)
この人気の理由には大きく2つが考えられます。1つが被買収企業の上場のスピードが速くなること、2つめは、ローリスクでかつ少額で投資することができるからです。
詳細については後ほど紹介します。
SPACによるM&Aのメリット/デメリット
続いてはSPACによるM&Aのメリットとデメリットについて紹介します。企業、投資家にとって、SPACは短期的なメリットがありますが、長期的なデメリットも多いため、両者とも長期的に考えた資金調達や投資を行う必要があります。
メリット
SPACによるM&Aのメリットには以下の2つがあります。
・迅速な株式公開ができること
・SPACが買収に失敗しても投資金額が戻ってくること
- 迅速な株式公開ができる
SPACを利用すると株式公開までに通常と比べて5~6ヶ月と時間を大幅に短縮することができるので、被買収会社の株式公開を迅速に行うことができます。これは通常の株式上場の際の審査を行う必要がないためです。
通常の株式公開では、株式上場のために一定の条件をクリアしている必要があるため、株式公開の審査があり、これには1~2年の時間がかかります。
一方で、SPACはすでに株式公開を行っています。その法人格が買収し、被買収会社が存続会社になるため、審査を経ずに株式公開することができます。
2.SPACが買収に失敗しても投資金額が戻ってくる
SPACでは出資した投資家を守るために様々なルールが定められています。
例として、24ヶ月以内に買収を完了する必要があることや、買収できなかった場合に利息を付けて投資家に返金することなどが決められています。この規定により、投資家はローリスクで投資ができるようになりました。また、公開株式を購入するため、少額からでもSPACに投資することができます。
デメリット
SPACによるM&Aのデメリットには以下の3つがあります。
・SPACの株価の不調
・SPACの企業価値の不確かさ
・出資者が受け取る報酬の格差が大きい
1.SPACの株価の不調
SPACの株価不調の可能性はデメリットとして挙げられるでしょう。原則、SPACは成長の見込みがある株式非公開会社を買収します。よって成長見込みのある株式が購入できるということで様々な投資家から資金調達が可能になるというのがSPACの仕組みです。
しかし、SPACスポンサーの判断に誤りがあり、上場後も思うように株価が上がらない可能性もあります。SPACに投資する場合には投資家側も不利益を被る可能性があることを理解しておく必要があります。
一方で、人為的ミスで投資家が不利益を被る可能性もあります。アメリカでは、SPACスポンサーによる被買収企業の企業審査の不確かさが原因と思われる株価不調が9件起こっています。2021年にはこのすべての案件について訴訟が行われています。
2.SPACの企業価値の不確かさ
2つ目のデメリットは、SPACの企業価値が不確かであることです。一般的に投資を行う際には、自身が損失を出さずに、利益が出せるように投資する企業を分析してから投資します。しかし、SPACは事業を行って利益を出す会社ではないため、一般会社のように投資するためのデータは全くありません。
そのため、SPACスポンサーの知名度で判断するしかありません。投資の業界で知名度が高い人が設立するSPACであれば、リターンが得られる可能性が高いと考えて投資する人は多いでしょう。このようにSPACは、投資を行う際に頼りになる企業データがない分、企業価値が不確かとなり、結果的に知名度が高い人に資金が集まりやすいという特徴があります。
- 出資者が受け取る報酬の格差が大きい
SPACでは、出資者が受け取る報酬の格差が大きいとされています。
例えば、スポンサーAさんが運用するSPACにBさんとCさんが10ドル投資したとします。
スポンサーAさんがベンチャー企業D社の買収を発表すると、強気なBさんは投資を続け、不安になったCさんは10ドルの払い戻しと利息の受け取りを行います。
その場合、Aさん、Bさん、Cさんの中で誰が1番得をし、誰が1番損をするでしょうか。
1番得をする人は、スポンサーAさんです。
その理由はSPACスポンサーにはプロモーションフィーが支払われるためです。このプロモーションフィーの割合が高いほど、その支払いを株主の儲けから充てることになるため、SPACスポンサーは儲けることができ、株主はSPACスポンサーと比べると儲けを得られないという構図になります。
次に得するのは、Cさんです。
SPACでは、株主に対しM&A直後に投資金額を償還する権利が与えられています。
M&A直後に払い戻しと利息の受け取りを受けたCさんは、ノーリスクで投資した10ドルを回収し、さらに利息まで受け取ることができたということです。
償還する権利を行使する株主が多くなるほど、権利を行使しない株主への支払いに対する負担が大きくなるため、スポンサーは当初考えていたほどの儲けを得られない場合があります。
最後に、もっとも損をするのは投資を続けたBさんです。BさんはAさんにスポンサーフィーを払い続けなくてはならない上に、後々投資銀行に支払う手数料も負担しなくてはいけなくなります。
2021年現在のSPACの仕組みは、早く株式を売却した株主が損をしない仕組みになっているため、長期保有の株主が生まれないことが大きな問題となっています。
ソフトバンクがSPACのIPOを米当局に申請
ソフトバンクは欧米で積極的にSPACによるIPOを行っています。ブルームバーグのデータによるとソフトバンクによるSPACの上場数は2021年3月期で9社上場しており、資金調達額は33億ドル(日本円で約3630億円)となっています。
2021年5月にもソフトバンクは欧州のテクノロジー業界やその他の高成長分野の企業のM&Aを行うという情報がありました。このIPOの規模は約2.5億ユーロ(日本円で約330億円)と言われており、近いうちに株式発行による資金調達が開始されるものと見込まれています。
日本で時価総額1位の企業が行っていること、日本政府の成長戦略でもSPACについて会議が行われていることからSPACが今後日本で利用される可能性が高まっていると考えられます。
まとめ
ここまでSPACについて紹介しました。SPACは簡便に上場することができ、日本でも導入される可能性があることから、解禁されるとSPACで上場する企業は増加するでしょう。しかし、企業価値が不確かなことや、長期保有の株主には期待できないなどのデメリットもあるため、SPACを利用する際にはメリット・デメリットを総合的に精査しましょう。
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