新規で投資をするときは、その案件が投資金額に見合うかどうかを分析する必要があります。将来的に利益を出せるのかを評価した上で、実際に投資するか否かを判断するからです。そのときに役に立つのがNPVという指標です。
NPVとは具体的に何を表していて、どのように利用すればいいのでしょうか。この記事を参考にしてみてください。
NPV(Net Present Value)は日本語では「正味現在価値」とも呼ばれ、投資の意思決定のために用いられる評価指標の一種です。ある投資をすることにより得られる利益の大きさを表しており、理論上は、NPVがプラスであり値が大きければ大きいほどその投資を行う価値があるといえます。 もう少し具体的にみてみましょう。 NPVを求めるにはまず、投資プロジェクトから将来的に得ることが期待できるキャッシュフローを算出しなければいけません。キャッシュフローとはお金の流れのことで、収入から支出を差し引いて手元に残る金額を表しています。 次にこのキャッシュフローを、現在価値(Present Value, PV)に換算します。現在価値とはどういうことでしょうか。 一般的に、同じ金額のお金であれば1年後に受け取るよりも現在受け取る方がその価値は高いと考えられています。なぜなら、投資などをすることによってお金の量は増やすことができるからです。手元にあるタイミングによって価値の異なるお金を、同じ基準で比較するために、将来得ることのできるお金の価値を現在価値に換算して投資判断を行うのが、NPVの考え方なのです。 現在価値に換算するときに使う数値は、「割引率」と呼ばれます。通常NPVの計算では、会社が資金を調達するために必要な費用である「資本コスト」が割引率として用いられます。 投資により将来的に得ることが期待できるお金の現在価値から、初めに投資した金額を差し引くことで、その案件の利益を算出することができます。NPVとは、このようにプロジェクトへの投資を通して得られる利益を現在の価値で測ったものといえるでしょう。 上述の通り、PVとは現在価値のことです。現在価値は以下の式で求めることができます。 仮に、年利10%で運用できる環境があるとします。1年後に110万円を手にしたいとすると、今いくら投資すればよいでしょうか。上の式に当てはめると、以下のようになります。 逆方向で考えてみるとわかりやすいかもしれません。 現在手元に100万円あるとすると、年利10%で運用することで1年後には110万円になりますね。つまり、現在の100万円と1年後の110万円は同じ価値と考えることができるのです。これが、現在価値の考え方です。 IRR(Internal Rate of Return、内部収益率)もNPVと同じく投資の意思決定に用いられる評価指標の一つで、「NPV=0」となる割引率を指します。NPVがゼロになるということはすなわち、プロジェクトに投資する金額と、将来的に見込むことのできるお金の現在価値が等しい、ということです。 投資金額と、将来期待できるリターンの現在価値とを比較して算出した割引率、つまりIRRは、その投資の利回りと考えることができます。つまり、NPVは投資により得られる利益の大きさを見る指標である一方、IRRは投資の効率性を見る指標であり、投資案件を評価する際の役割が異なるのです。 NPVを使うことで、複数の投資案件を比較する際にどの案件が最も収益を見込めるかを判断することができます。NPVは得られる利益の大きさを表しているので、NPVが高い案件に投資をした方が大きなリターンが期待できると考えられます。 ただし、NPVは完全な指標というわけではありません。短期的なプロジェクトであれば比較的高い精度で評価ができるものの、中長期的な判断には適さない場合があります。特に、経営環境に激しい変化がある場合などは、NPVがマイナスであっても将来的には成長が見込めるような案件もあるかもしれません。 自社が注力している分野や中長期的なブランディングの確保にプラスに働く分野、将来性のある分野であれば、NPVの数値にかかわらず投資を行うという判断をしても差し支えない場合もあるでしょう。 NPVは万能なツールというわけではありません。NPVだけで案件を判断するのではなく、総合的に勘案して戦略的な意思決定を行うように心掛けましょう。 NPVの意味や考え方を理解したうえで、次に計算方法をみてみましょう。 t年間の投資案件について、NPVの計算式は以下の通りです。 r:割引率 参考:NPV | みずほ証券 ファイナンス用語集 (mizuho-sc.com)など フリーキャッシュフローの求め方は以下の通りです。 また、先ほど触れたIRRはNPVがゼロとなるときの割引率のことなので、IRRの計算式は以下の式をrについて解くことで求めることができます。 NPVの考え方を理解するために、具体的な数値を例にみてみましょう。NPVは厳密には上述の式で計算しますが、より直感的に理解するため、以下のように書き換えてみます。 ここで、3つの投資案件を比較してみましょう。 ・プロジェクトA:初期投資額500万円、PV400万円 ・プロジェクトB:初期投資額500万円、PV500万円 ・プロジェクトC:初期投資額500万円、PV600万円 式を当てはめると、プロジェクトA、B、CそれぞれのNPVは-100万、0、100万となります。これはすなわち、投資に対して期待できるそれぞれのプロジェクトのリターンです。NPVがプラスとなるCが、最も投資に適している案件だと判断することができます。 NPVを使うことで、プロジェクトの収益規模を比較することができるのです。 NPVやIRRは投資案件の評価指標として重要なツールであり、アメリカなどでは一般的に利用されるようになってきています。しかし、日本ではより簡易で直感的に理解しやすい指標が用いられることが多く、まだそれほど活用が進んでいるとはいえません。 また、すでに触れましたが、NPVは投資の際に検討すべき基準をあまりに単純化している、という批判もあります。プラスであれば投資すべきでマイナスであれば投資すべきでない、といった考え方では、本当に将来性のある投資を見過ごしてしまう可能性が排除できません。 判断をする上での制約もあり、NPVのみに頼りすぎるのはあまり適切ではないでしょう。 NPVは便利な指標ですが万能ではありません。NPVを利用するメリットとデメリットを整理してみましょう。 NPVの最大のメリットは、基準がわかりやすいということです。今と1年後ではお金の価値は異なりますが、NPVでは現在価値に換算して評価します。そのため、複数の案件で将来的に期待できる収益を同じ尺度で比較することができるのが特徴です。 また、少額の案件が過大評価されにくい点もNPVの利点といえるでしょう。NPVの値を比較したときに、大きければ大きいほどその投資でのリターンを見込むことができます。NPVで示されるのは利回りではなく利益の大きさなので、効率は良いけれどそれほどインパクトのない小規模案件が不相応な高い評価を受けることはなく、IRRよりも実態に即していると考えることができます。 新規投資案件を開拓する際の重要な指標として、NPVの意味を理解し使いこなすことが大切です。 一方で、NPVには気を付けるべき点もあります。その一つが、割引率の設定の難しさです。前述の通りNPVは割引率を設定して算出するので、当然割引率によって計算結果が変わってきます。客観的に見て納得感のある割引率を使用する必要がありますが、その判断が容易でないというのがNPVのデメリットです。 また、NPVは基本的に新規の案件を進めるかどうかを判断するための指標であり、進行中の案件の管理などには向いていません。現在価値を基準にするという性質上、過去にさかのぼっての計算が煩雑であることや、途中で追加投資をする場合の再評価が難しいという理由があります。今後の新規案件に対して活用するようにしましょう。 このように、NPVにはメリットとデメリットがあります。投資判断をするときに重要なのは、評価指標の意味を正しく理解することです。また、1つの指標のみに頼るのではなく、複数の指標を組み合わせて使用するのがよいでしょう。例えばIRRをNPVとともに使うことで、期待できる利回りと収益の大きさを総合的に判断することができるようになります。 また、何年で投資した金額を回収することができるかを計算する「回収期間法(ペイバック法)」という指標も、投資可否の判断に有用です。 投資案件をNPVとIRRの両方で評価した場合、基本的にその結果はある程度、整合性の取れるものとなります。ただし、マイナスだったキャッシュフローが数年後にプラスになる、またその逆のようなプロジェクトや、規模の違う複数のプロジェクトを比較するときなどに、判断に迷う数値となることもあります。 すでにお伝えしたとおり、NPVは利益の大きさ、そしてIRRは利回りを評価するものです。よりインパクトのある投資というのは、効率的なものではなく実際の収益が大きなものなので、原則としてNPVを優先して意思決定をすればよいでしょう。 例えば、プロジェクトAのNPVは10、IRRは30%、プロジェクトBのNPVは30、IRRは10%だったとしましょう。このとき、NPVのより大きなプロジェクトBのほうが投資価値は高いと判断することができます。 この記事では、NPVの意味や使い方について見てきました。新規案件の投資判断をするときに、NPVは非常に便利なツールです。ただし注意点もあるので、IRRやほかの指標も併用しながらバランスよく検討を進めることが大切です。 メリットとデメリットを理解して、積極的に活用してみてください。 その他のオススメ記事 2024年09月17日 運送業界は、 M&Aの需要が高まっている業界のひとつです。その背景には、後継者不足や2024年問題などさまざまな理由があり、事業規模の大小問... 2024年09月05日 2012年に電気・電気通信工事業界で通信建設TECH企業として創業したバディネット。2024年現在、5社の買収に成功して業容を拡大させています。今回は... 2024年08月05日 デューデリジェンス(以下「DD」といいます。)は、M&Aの実施にあたり、関連当事者が種々の問題点を調査・検討する手続のことを指します。通常...NPVとは
PVとは>
IRRとは
投資案件選択の際のNPV活用の仕方
NPVの計算方法
計算式の割り出し方
l:初期投資額
t:プロジェクトの年数計算例によって出た数字で、どう判断すべきかの解説
NPVの注意点
メリットとデメリット
NPV法とIRRを使った場合とで結果が異なる場合、どちらを選択すべきか
まとめ
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