東京都で電装部品の製造を30年以上営んできた野田様は、2019年に愛知県の同業者に会社譲渡されました。少数精鋭で長年経営されてきましたが、70歳を超えられた時、自身の年齢と会社の今後を考慮し、能力ある第三者に会社を引き継いでもらいたいとM&Aの道を選ばれました。
事業承継にあたって常に頭の中にあったのは、従業員の今後のこと
1985年に電気部品の組み立てに使うコネクターを製造する株式会社シー・エス・シーを設立。野田様は34年に渡り経営を続けてこられました。事業を始められた当時はビデオデッキが全盛の時代であり、野田様はヘッド部分で使用するコネクターの製造・販売で事業を成長させていかれました。
5年程ビデオデッキ市場のピークが続いた後、程なくして車や電子機器の中で使用可能なコネクターの製造に方向転換されます。その時からお付き合いのある大手取引先は30数年間、変わらず受注してきた実績があります。
会社規模を無理に拡大しようとせず、また親族を社内に入れることもなく、10人前後の少数精鋭で運営を続けてこられましたが、70歳を迎える数年前から、会社の今後について具体的に考えるようになったそうです。
「これまで営業活動も商品企画も私がメインで行ってきました。しかし、数年前からそろそろ引退を考えるようになり、徐々に取引先を昔からお付き合いのある会社に絞って運営していました。とはいえ廃業は考えておらず、従業員への承継を考えていました」。
従業員が会社を継いだ後もスムーズな経営ができるようにと、野田様は新商品の企画・開発の投資支援について東京都中小企業中央振興公社にご相談されていたそうです。しかし、商品開発への投資よりもまずは事業承継を優先的に考えてみて下さいと勧められ、M&Aも視野に入れ本格的に事業承継を検討していくことになったのだそうです。
それから数ヶ月後、大和証券からM&Aを活用した事業承継の紹介を受け、バトンズにご登録されることとなりました。すると募集を始めて直ぐに名古屋の候補社からマッチングの申し込みがありました。買い手社長は実際に野田様の会社を訪れ、野田様も買い手社長の会社を訪問し、ざっくばらんに会社の状況をお話しされたそうです。
交渉を進める過程では、ビジネス上の戦略があって具体的な統合方針をまとめていくのではなく、買い手企業が関東進出の足がかりとなる基盤を作るため、拠点をうまく活用して将来的に相乗効果が生み出せればといった会話が中心だったそうです。
「今後のことを考えると、M&Aのほうが良い選択肢になるかもしれないと思いました。中堅の技術者がいきなり経営をやれと言われても、不安があったと思います。そうではなく、自分達の能力を発揮できる新しいオーナーの元で働くほうが彼らにとって良いだろうと判断しました」と野田様。従業員の雇用・待遇維持を第一条件として、無事にご成約されました。
会社はひとつの商品でもある。M&Aで譲ることができるのは素晴らしいこと。
最初からM&Aに対して、“乗っ取り”のようなイメージは持っていなかったと野田様。お互いに助け合えるのであれば合併は良いことだと、ご成約後は周囲の経営者仲間にもM&Aをお勧めされているそうです。
「会社の経営状況を包み隠さずオープンにし、引継ぎたいと手をあげてくれる人がいるのであれば、経営者は堂々としていればいいと思うんです」。
野田様は買い手社長と交渉中、従業員にも進捗状況を随時共有していらっしゃいました。
「皆さんにとって今後働きやすい方向で話を進めているということを伝え、理解してもらっていました」。
条件提示の際も、1年間は現状の組織のままでいき、3年目以降から徐々に方向性を固めていくことを買い手社長と合意されました。こうした野田様と買い手社長の気遣いもあり、従業員から不安などの声が上がることはなかったと話されます。
M&A後は、会社全体の若返りのため新たに5名採用し教育されているとのこと。もしコロナがなければ譲渡後すぐに商品開発に取り組む予定だったそうですが、この一年は商品開発は見送り、テレビ会議システムを導入し遠隔でコミュニケーションを取り続けています。
現在は引き続き野田様が会社に出て経営の舵取りを行われていますが、今年5月頃に買い手企業から責任者が派遣され会社に常駐される予定です。野田様は今後の更なる発展に期待します。
「これからは今あるお取引先からの受注量を増やしていき、5年先にどんな方向性を目指しているのかを考えつつ進んでいってもらえればと思います。私は開発側の人間として、もう少し関わっていかなければいけないかなと思っているところです」。
最後に、野田様に今後譲渡を検討している経営者に向けてのメッセージを伺ったところ、力強いエールをいただきました。
「中小零細企業が抱えている問題はどこも同じだと思います。しかし、経営者の方にはこれまでやってきたことに自信を持ってもらいたい。私が大事にしてきたことは、何のために経営しているのかを常に考えることです。きちんとやっていけば道は開けます。会社は立派な商品でもあるわけですから、M&Aで譲ることができるのは素晴らしいこと。もしいい候補社が現れたら、その時は自信を持ってM&Aに臨んで下さい」。
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