中小企業を中心に後継者問題が深刻化するなか、国や自治体を軸として様々な支援策が講じられています。経営者の中には、「自分の家族に今まで積み上げてきた事業を継いでもらいたい」という想いを抱えている方も多く、親族内承継は、今後も事業承継を語るうえで欠かせないテーマとなっていくことでしょう。
そこで今回は、近年の事業承継全体・および親族内承継を取り巻く環境について触れた上で、親族内承継の成立が難しいと言われる理由とその解決策を解説します。
事業承継を取り巻く現状
親族内承継について詳しく触れる前に、まずは事業承継を取り巻く現状について確認しておきましょう。事業承継を行える相手は、
・子供や親族(親族内承継)
・社員や役員(社員承継)
・第三者(第三者承継、事業承継型M&A)
の3つに大別されます。数十年前までは親族内承継を行うケースが事業承継の事例の大半を占めていましたが、現在では全体の約3分の2が第三者承継。親族内承継が占める割合は3分の1と大きく減少し、事業承継の在り方も変遷していることが分かります。
特に、M&Aを用いた事業承継、いわゆる事業承継型M&Aや第三者承継と呼ばれるケースに関しては、後継者問題や経営不振を抱えている中小企業が積極的にM&Aを活用するようになったこともあり、年々増加傾向にあります。
中小M&Aガイドラインが策定されたり、補助金が拡充されたりしたことからも分かるように、M&Aは行政側からも期待を集めている事業承継の手法のひとつなのです。
親族内承継を検討している経営者の現状
先ほどご紹介した通り、親族内承継を行うケースは昔と比べて減少傾向にあります。
前提として、少子高齢化により母数として後継者候補が減少していることは否めませんが、自分の子供や親族に会社を継いでもらいたいと考える経営者が一定数いるにも関わらず、こうした減少傾向が続いているのは一体何故なのでしょうか?
結論から言うと、当初は親族内承継を目指していたが上手くいかず、結果として後継者を第三者から募り事業承継を実施した、といったケースが非常に多いのです。
親族内承継が成立しにくい理由とは?
親族内承継が成立しにくい理由は、後継者であるはずの子供や親族が承継対象事業の内容を十分に理解していない点にあると言えます。
親族内承継を検討中の経営者に対して行ったアンケートによると、親族内承継について子供と一度も話をした事がないケースは全体の約3分の2に及びます。
つまり、本来は親族内承継により事業を継ぐ予定の当事者が、会社の財務状況や従業員について把握していないために、親族内承継がスムーズに行えていない、という事情があるのです。
親族内承継を成功させる為のポイント
親族内承継の成立件数が減少傾向にある理由についてご理解いただいたところで、ここからは、親族内承継を成功させるためのポイントについて、詳しくご紹介します。
子供に承継の意思があるのかを確認する
先ほどご紹介した通り、親族内承継の成立件数が減少傾向にある最大の要因は、親子間での事業承継に関する情報の共有不足にあります。
本気で親族内承継を検討するのであれば、家族のみで話し合いを行うのではなく、各種専門家やM&Aアドバイザーを交えて相談の場をきちんと設けた上で、承継の意思が子供にあるのかをはっきりと確認する作業は欠かせません。なぜなら、事業承継は会社と、その先頭に立つ経営者の人生を決定づける一大イベントだからです。
普段から今後の人生についての会話が生まれていないようであれば、日々のコミュニケーションに加えて、踏み込んだ会話ができるように日常の意識を変革するところからスタートしてみましょう。
業種や事業内容の変更を視野に入れる
承継後の事業の継続性や成長性に不安がある際には、事業承継のタイミングに合わせて業種や事業内容を変更することも効果的でしょう。
創業から、事業承継を果たした2代目や3代目が引退するまでの間、安定した業績を残し続ける事業というものは多くありません。どのような老舗企業であっても、商品や社内制度のマイナーチェンジは行っていますし、社会のニーズに上手く適応するためには、こうした経営革新が必要不可欠です。
親族内承継を契機として、より継続性・成長性が見込める事業に取り組んだり、社内の制度を一新したりといった経営革新について、専門家のアドバイスをもとに挑戦してみることも、親族内承継を成功させる上で重要です。
事業承継は引き継いで終わりではなく、その後の経営が安定して初めて成功と呼べるもの。その後の経営についても考慮することが極めて重要です。
承継後の伴走期間を考慮する
先述したように、親族内承継は手続きが完了すれば一段落、といった類のものではありません。事業内容や経営状況にもよりますが、親が子供に経営ノウハウや業務内容を伝えたり、後継者を育成するためには、準備期間も含めて5〜7年間ほどの期間が必要です。
親族内承継を成功させるためには、こうした伴走期間も考慮しつつ、適切な後継者育成を施したり、企業の磨き上げを行ったりすることが大切です。
親族内承継に拘り過ぎない姿勢も大事
さて、ここまで親族内承継について話を進めてきましたが、自らの事業をより確実に後世に残したいのであれば、親族内承継に拘り過ぎない姿勢を取ることも重要です。
これは社員承継にも共通する内容ですが、「子供や親族に事業を残したい!」という想いのみが先行して肝心の承継計画が疎かになっては、元も子もありません。
親族内承継はあくまでも、子供や親族に事業を継ぐ強い意志とやる気がある場合のみ行うべきです。そういった意味では、熱意と能力・資金力を備えた継ぎ手を探せるM&Aは、事業の後継者を探すのにうってつけの方法であると言えます。
親族内承継を検討されている経営者の方は、本当に親族内承継が自分達にとってベストな承継方法なのか、専門家と相談されてみると良いでしょう。
親族内承継は家族間や専門家との連携が重要
本記事では事業承継を取り巻く環境について触れた上で、親族内承継を巡る現状や親族内承継を成功させる為のポイントについてご紹介しました。
親族内承継を成立させる為に不可欠な要素は、親子間や親族間での事業承継に対する意志の確認、そして事業承継のタイミングや経営革新に関する専門家からのアドバイスです。関係者全員と話し合いの場をきちんと設けた上で、有意義な親族内承継を実現する様に心がけましょう。
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