企業トップ同士の基本合意は、M&Aによる株式譲渡や事業譲渡の終盤に行われる手続きであると同時に、交渉自体の最終的な成否に関わる重要な工程です。M&Aにおける企業トップ同士の合意形成を成立させる為にクリアするべき条件とは?今回は、基本合意を成立させる為の3つのポイントであるスキームの策定・譲渡価格の収斂(しゅうれん)・譲渡時期の決定について、特に譲渡価格の収斂に注目しつつご紹介します。
M&Aにおける企業トップ同士の合意形成を成功させる為にクリアするべき条件はいくつかありますが、その中でも、これら3つの工程を上手く行えるか否かが、合意形成の可否を大きく左右します。
・スキームの策定
・譲渡価格の収斂(しゅうれん)
・譲渡時期の決定
基本合意を成立させるために必要なことは?
スキームの策定
スキームの策定は、企業トップ同士合意形成を成立させる為の最初のステップです。
「株式譲渡を行うのか、それとも事業譲渡を実行するのか?」
「M&Aによりどういったものを売り買いするのか?」
このように、譲渡対象の範囲や譲渡手法についの取り決めをまとめる作業が、合意形成に向けた第一歩であると言えます。譲渡するものの範囲が決まらないとその後の交渉に進めない為、M&Aを検討中の経営者の方は専門家と相談した上でスキームの策定を入念に行いましょう。
譲渡価格の収斂(しゅうれん)
M&A交渉において最も重要なステップが、譲渡価格の収斂(しゅうれん)です。基本合意が成立するか否かは、価格の収斂にかかっていると言っても過言ではありません。
譲渡価格の収斂を行う際には、売り手と買い手がそれぞれ別の思考の元で交渉に臨んでいる事を理解する必要があります。売り手と買い手では、M&A交渉における「納得感」に対する基準が異なるのです。
よく誤解されがちですが、M&Aにおいて、売り手側は自身の会社や事業をただ高く買ってもらいたいのではありません。売り手側は今まで自分たちが積み上げてきた苦労や思い出の全てを適切な価格として評価してもらいたいと考えており、感情的な要素を売却判断の基準に据える傾向にあります。
今までの経営で積み上げてきた数値的・精神的な要素を全て考慮した上で算出した金額が、売り手側が納得できる譲渡価格のトップラインとなるのです。こうした方法で譲渡金額を決定することを「総原価積み上げ方式」と呼びます。
逆に、買い手側としては経営者の想いや過去の出来事よりも、その会社や事業を買収することで、どの程度の利益を得られるのか、といった点を圧倒的に重視します。具体的な基準としては「M&Aを実行してから5年以内に投資額を回収出来るか」を買収判断の決め手とする経営者が多いです。
こうした双方の基準の違いにも目を向けておくことで、スムーズに基本合意へと進められます。
価格の収斂における調整項目
基本合意成立に向けて、譲渡価格の収斂は非常に重要です。その上で特に調整するべき項目は、純資産とのれん(営業権)の2つと言えます。この2つ要素をどの様に落とし込んでいくのかが、基本合意成立までの大まかな道筋と言えるでしょう。
より深くこのあたりを理解するためには、企業価値算定(バリュエーション)の大まかな手法や流れを理解しておく必要があります。以下の記事で解説しているので、興味がある方はぜひ確認してみましょう。
譲渡対象の純資産を評価する際に有効な手法として、時価純資産法という方法があります。時価純資産法では、有形・無形問わず、企業が保有している資産の時価総額から負債の時価総額を差し引くことで企業価値を算出します。
時価純資産法は計算が比較的容易に行える点や、個人の主観が入りにくく買い手側と売り手側の中間意見を取りやすい点が特徴です。M&A交渉において譲渡価格の妥協案を提案する上で相応しい評価方法であると言えるでしょう。
時価純資産法などの計算方法を用いて、当事者双方の意見を落とし込んだ上で、「純資産」と「のれん」のどちらを基準に譲渡価格の調整を行うべきなのか、M&Aの案件ごとに判断していきましょう。
譲渡時期の決定
基本合意を成立させる為には、「〇月〇〇頃までに交渉を成立させましょう」という具合に、譲渡時期のエンドを決める必要があります。
これまでご紹介した2つのステップを加えて、時間感覚的な合意まで結ぶ事ができれば、基本合意の締結に必要な条件は全て揃ったと言えるでしょう。
アドバイザーの役割
先述したように、M&Aにおいて、買い手側と売り手側とでは譲渡金額を算出する際の判断基準が異なります。
では、異なる判断基準を持つ両者が基本合意を成立させる為に、専門家やM&Aアドバイザーが果たすべき役割とは一体なんなのでしょう。
M&Aアドバイザーの仕事の中でも最も重要となるのが「当事者双方の本音をリサーチ」して「売り手側・買い手側の主張の折衷案を提案する作業」です。
具体的な例としては、トップ面談の後にアンケートや対面での質問を行って、双方の経営者が譲歩可能なラインや、M&A交渉を継続する意志を確認し、買い手側と売り手側が共に合意可能な条件を探っていきます。
その上で、総原価積み上げ方式や投資金額の回収性といった数値的な基準に捉われず、折衷案を提案します。これこそがアドバイザーに最も求められる能力であると同時に、M&Aアドバイザーや専門家の腕の見せ所でもあります。
この折衷案によって、双方がM&Aによって感じる満足度やその後の経営状況にも大きな変化が生まれてくるので、案件ごとに良案を提示しなければならないM&Aアドバイザーには、何よりも経験や柔軟さが求められるのです。
基本合意の成立に必要な3つのステップを理解しよう
本記事では、M&Aにおける企業トップ同士の基本合意を成立させる為にクリアするべき3つのステップについて、特に譲渡価格の収斂を中心にご紹介しました。
売り手側と買い手側が、スキーム・譲渡価格・譲渡時期の3点について基本合意成立までに合意する事が出来れば、より良い基本合意が結べるはずです。
株式譲渡や事業譲渡を検討されている経営者様は、専門家やM&Aアドバイザーからのアドバイスを上手く活用して、ぜひこの3点について当事者同士の有意義な意見交換を行う様に心がけましょう。
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