TOPM&A記事・コラム成功事例飯沼誠司氏、長野で人気の老舗パン・菓子製造業を買収「様々な人を巻き込み地域創生を実現したい」

飯沼誠司氏、長野で人気の老舗パン・菓子製造業を買収「様々な人を巻き込み地域創生を実現したい」

2021.02.09

長年ライフセービングの第一人者として若手の育成や地域の環境保護など活動を続けながら、俳優やモデル業、そして事業家として幅広く活躍する飯沼誠司様は、2020年秋、長野で70年以上歴史のある老舗パン・菓子製造業を買収されました。ライフセービングで培ってきたリーダーシップやコミュニティ作りのノウハウを生かすことで、地方経済に貢献したいとお話しされます。M&Aを行うことになった背景や今後の展望についてお伺いしました。

10年後の自分を見据え事業ドメインの拡大を決意、未知の分野に挑戦

 

――飯沼様がM&Aをご検討されるようになったきっかけを教えていただけますか?

飯沼誠司氏2

ライフセービング日本代表の監督を務めた飯沼誠司氏

共にライフセービング活動を行ってきたビジネスパートナーに一緒にやろうという提案をしました。自分の会社を立ち上げて3期目。これまでは水辺に特化した事業ばかりでしたが、5~10年後を考えたとき、活動の幅を広げていきたいなと考えていたタイミングでした。

約1年前にバトンズに登録しまして、頻繁にM&A案件を探すようになりました。サイトが非常に見やすく印象も良かったです。

 

――ありがとうございます。当初はどういった分野を軸に案件を探しておられたのですか?

新規事業を構想していた当初は、整骨院や学習塾。あとは千葉県の海水浴場の監視業務をしていますので、宿泊をきっかけに海に訪れる人を増やしたいとの想いで、地方創生の一貫として旅館業をできないかなということを考えていました。自分がこれまで活動してきたことと上手く連携できそうな派生事業を、バトンズで積極的に探していました。なかには、水質を改善するような装置を開発されている会社さんなども候補にありました。

 

――そんななかで目に留まった案件のひとつが、今回買収された健康志向で素材を生かした長野のパン屋さんですが、何が引っ掛かったのでしょうか?

スポーツと体に良いものだけを使った食品製造はシナジーがあるんじゃないかと考えました。当時の社長にお話を伺ってみたいと思い、メッセージをお送りしたのを覚えています。

パン屋さんは未知の分野でしたが、最近自分の子どもが食べる食材に何がはいっているんだろうとすごく気になっていまして、健康と食の関係への意識が高まっていました。素材にこだわって体に良いものを提供し続けてこられたことがバトンズの掲載情報からも伝わり、興味を持ちました。

 

――バトンズで案件を見つけられてすぐ、お客様としてビジネスパートナーと長野の店舗にパンを買いにいかれたそうですね。

飯沼様

飯沼誠司氏(2020年冬のzoom取材時)

2店舗あり両方ともこっそりとお客さんとして訪れました。水・小麦・塩・酵母しか使っていないパンがすごく美味しかったんです。最近流行りのバターや生クリーム、砂糖などをたくさん使用した高級食材とは違い、飾らない美味しさがいいなと思いました。現地の雰囲気の良さに惹かれ、実際に食べてみたらファンになってしまって、引継がせていただきたい気持ちが倍増しましたね。

負債引継ぎで不安がないわけではなかったが・・・やるなら今と決意

 

――実名交渉からは、M&Aアドバイザーの渡邉さんを通して前社長様との交渉を行いましたが、いかがでしたか?

仲介を担当したM&Aアドバイザーの渡邉さんからは、直接会う前から先方が興味を持ってくれていますと教えてもらっていました。前社長は販路を持っておられず、これから販路を広げて欲しいというニーズを伺っていましたので、私たちができること、できないことをM&Aアドバイザーの渡邉さん経由で伝えていました。例えば、もう少し尖った健康志向のパンづくりとECサイトの強化をできるのではないかという内容などです。渡邉さんを通してある程度会話を進めていたので、トップ面談はスムーズに進みました。

 

――直接交渉だとお互い直ぐに腹を割って交渉するのは難しいため、そこはM&Aアドバイザーの力量が試されるシーンのひとつですね。全体の交渉もスムーズでしたか?

半年くらいで成約しましたが、最後のクロージングの条件でなかなか進みませんでした。パンの製造工場がある土地は借地なのですが、地主さんが複数人いらっしゃって分割して所有されているんです。地方だと多いと思いますが。そのうちのお一人が他社に土地を貸したことを機に、我々との地代交渉が長引いてしまいました。

契約書の更新時期はまだでしたし、そもそも値上げ交渉は不可能なことだったのですが、全ての地主さんに納得していただいてから事業を引き継がないと、後々大きな問題になるかもしれません。きちんとリサーチし弁護士とも相談し、事前にすべて解決した上で買収することになりました。

 

――経営権の移動に際して、土地オーナーとの合意確認は重要なステップの一つです。

飯沼誠司氏3

調印式での飯沼誠司氏

M&A交渉中は見えないところがたくさんあります。それに我々が直接やりとりを始めてしまうと、どうしても伝わらない部分も出てくるんです。そんな時、一番分かっているM&Aアドバイザーの渡邉さんに、我々の変わりに何度も長野に通ってもらい、前社長とやりとりをしていただきました。彼はコミュニケーションが非常に迅速で、フットワークの軽さは信頼につながるんだなと思いましたね。担当者の熱意を感じました。

シナジー効果や言いにくい金額交渉もきちんと行ってくれたことで、今後の見通しが見えて安心することができました。今回初めてのM&Aでしたが、アドバイザーがいないとかなり危険だったなと思います。もし直接交渉を行なっていたら、限界があったと今でも思っています。

今回の経験を振り返ると、10数年前までM&Aはごく一部の限られた人しかできないことだというイメージでしたが、今は情報もたくさんあって、そのサポートをしてくださる方々もいて、より身近になってきたと感じています。

 

――交渉は上手く纏まりましたが、引継ぎでは経営のテコ入れが必要とのこと。具体的には何を行なっていらっしゃるのですか?

まずは運営方針を見直さなければ、このまま継続することは不可能だと考えています。

財務面の引継ぎに関しては、金融機関からの借入が負担になっていた為、自己資金で一部返済し残りの借り入れ金利の値下げ交渉を行いました。公庫から融資の承認もおり、現在はある程度余裕を持って始めることができています。

運営に関しては、これまで社員教育やマネジメントがなかなか行き届いていない部分があり、そこは前社長も歯痒い思いをされていました。僕らはそういった部分の改善を進めています。とはいっても店舗経営は今回が初めてなので、自分自身がお客さんとして気持ちいいと思う環境を作っていきましょうとスタッフに伝えています。

素材にこだわり丁寧につくられた美味しいパンやスイーツの商品を多種展開しているのに、いままで作り手も販売員も商品の動きを具体的に数字で把握していませんでした。そこで店別にお客様の購入傾向を分析してみたのです。するとスタッフが陳列やPOPでの伝え方を工夫するモチベーションとなり、新しい商品づくりや販売に活かせるようになっています。

 

――早速、いい変化が見えていますね!

現在は新入社員を募集しつつ、約30名の従業員の希望を聞きながら、各自の能力を活かせる業務分担を考えているところです。

これだけの社員を抱えたのは初めてのことですが、ライフセービング日本代表の監督としてチームをまとめてきた経験を何か生かせるんじゃないかなと、手探りながら少しずつ進めています。

 

――地域密着型と観光客型の二つの店舗ではどんな変化が?

特徴として、地域密着型の店舗はお惣菜系のパンがよく売れ、観光客型の店舗は売れる商品が全然違います。店舗によってカラーがあるので、“らしさ”を追求し、2店舗間で相乗効果を高め、温故知新のアイデアをもって新たな視点でのサービスを提供していきたいと思っています。

近々の課題としては、数字に関してもう少しシビアにやっていくため、フードロスの問題を早急に改善したいと考えています。35年くらい前、清里が一大ブームとなり芸能人のお店がひっきりなしに出店され、ネオンがところ狭しと輝く通り一体は高原の原宿と言われていた頃があるんですが、当時のパン屋さんは生産が追い付かないこともあったほどで、売上は数億円だったそうです。その頃の名残で、とにかく大量にパンを製造する習慣になっていました。

あとは、海外から輸入した大きなピザ窯があるのですがこれまで半ば放置状態でした。店舗には賃貸しているカフェレストランが併設されているので、今後はベーカリーカフェにして自分たちのパンをメインに提供し、そこでピザ窯を復活できればいいなと考えています。

 

――いきなり大きくは変えず、まずはできるところからやろうというご配慮が感じられます。

70年以上の歴史あるパン屋さんなので、皆思い入れがありますからね。地元で愛されるパンづくりを継承しつつ、柔軟に対応し効率化と資産の有効活用を進めています。

 

――コロナ禍で大きな決断をされましたが、迷いはございませんでしたか?

今回はいくつもの条件が重なって買収することができました。銀行の金利を下げられる、公庫から融資を受けられる、毎月の売れ行きを比較的維持している、という点があったので、コロナ禍でもあまり気にしていませんでしたね。

外出自粛期間に地域の方々が沢山買いにきてくださったようですトータルで見るとそこまで激減していなかったので、経営は持ち直せると考えています。

いきなりそれなりの額の負債と30名弱の社員を背負うことになったので、周りに話すとすごい冒険しているねと言われますが(笑)。しかし、45歳で新たなチャレンジを始めるにはタイミング的にはいいのかなと思います。

共同代表のビジネスパートナーと共に全てを背負ってやっていくというよりは、これまでのスポーツ関係の繋がりを通して色々な方からアドバイスをいただき、人を巻き込みながら事業を成長させていきたいなという気持ちです。

前オーナーが育てた事業の特徴を継ぎつつリブランディングしていきたい

 

――今後について、前オーナーや店長達とはどのようなお話をされているのですか?

高原のパンやさん

パン屋さんで働く従業員の皆さん

前社長には会長として会社に残っていただいています。地元では名の知れた方ですから、経営から外れても、皆をサポートしていただく相応の立場でいてもらうべきだと思いました。

社員の皆さんとは、いきなり我々が新オーナーになったことに対する不安もあると思いますから、各店長や副店長、経理とオンラインで頻繁にコミュニケーションをとっています。

また、昨年まで全体で集まる機会がなかなかなかったのですが、1月に入ってから臨時休業し全体会を行ない、会社の状況やこれから何を目指したいのか、自分たちが経営方針を押し付けるのではなく、会社を守る=従業員を守ることなんだということをお伝えしました。

以前から、前社長が従業員に対して、「将来的にもみんなにとっていいことだから」とM&Aを行うことをお話しして下さっていたこともあり、コミュニケーションを重ねるにつれて、意見交換も活発になってきました。変化を拒まず、みんなで同じ方向を向いて、よいシナジーが生まれてきていると感じています。

他には、金融機関や町役場、観光協会や地域の方々に挨拶に伺いました。人口5000人くらいなので、町としても企業を応援したいという気持ちを持ってくれています。前社長もこれまで色々と協力してこられたので、僕らも自分たちのネットワークを生かして、これから一緒に何かできるんじゃないかなと思っています。

 

――地方創生という意味でも、M&Aが果たす役割は大きいですね。 

そうですね。現在、千葉県館山市の観光大使をしているのですが、昨年11月、2006年に立ち上げたライフセービングクラブ 館山サーフクラブがその活動を認められ千葉県知事賞をいただきました。地域観光の振興や市外の人の集客、そして海水浴場の死亡事故0を目標に日々パトロールを行っているんです。町づくりや地域創生という分野は、これまでやってきたノウハウを持っていますので、小海や佐久でも生かせるんじゃないかと思います。

パン屋さんになったというよりは、経営に自分たちができることを連携させていきたいと考えています。例えば共同代表であるビジネスパートナーは、多額の負債がある企業を立て直した実績があり、パン屋さんの立て直しにそのノウハウを生かせます。私はアスリートの繋がりを生かして地域おこしやコミュニティ作りに貢献していきたいですね。

 

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

とにかくまずは黒字化が目標です。我々アスリートは横のつながりが強く、日本をより良くしていくために様々な活動を行っています。まだ買収してから3ヶ月ちょっとしか経過していませんが、今後はスポーツとの親和性やこども達の教育にプラスになればと、出来ることを一つひとつ実現していきたいです。

 

――ありがとうございました。

成功事例 買い手

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