近年、手早く事業を拡大する手段としてM&Aが注目されています。比較的低いリスクで新たな事業を始めることができるのがメリットですが、借入金があった場合、M&Aではそれも引き継がなくてはいけないのでしょうか。また、事業を譲渡する側の代表者にとっては、譲渡後に自身の連帯保証が外れるのかも気になるところです。
そこでこの記事では、M&Aによって借入金や連帯保証がどうなるのかを解説します。M&Aに強い関心がある方や、様々なリスクを考慮してM&Aをためらっている方もぜひ参考にしてください。
借入金と連帯保証の関係をおさらい
そもそも、借入金や連帯保証とはどのようなものを指すのでしょうか。ここで、それぞれの用語と関係性をおさらいしておきます。
借入金を理解する
家計で考えると、「借入」という言葉にあまり良いイメージを持たない方もいるかもしれません。しかし、企業の活動において借入とは、必ずしもネガティブなものではなく、金融機関との関係性を強化する役割もあります。また、新たに工場を作る場合など事業をさらに広げるためには、借入が必要な場面も出てきます。
金融機関が企業に融資する際、返済できない場合のリスクを軽減するため、抵当権などの物的担保や連帯保証人などの人的担保を要求することが多いです。抵当権は、一般的に借主の所有する不動産に対して設定され、工場建設のための資金であればその工場の土地建物に設定されます。
連帯保証とは
人的担保である連帯保証とは、連帯保証人が債務者(ここでは借り入れる企業)と連帯して債務(返済の義務)を負うことです。連帯保証人は借り入れる企業と無関係の人ではなく、基本的に該当企業の経営者がなります。
特に中小企業の借入で連帯保証人が必要となる場合が多く、これは中小企業と経営者を一体ととらえていること、すなわち経営者に覚悟を持たせることが主な理由なのです。
個人の連帯保証が不要な場合もある
しかし、2014年に「経営者保証に関するガイドライン」ができて以降、中小企業であっても経営者の連帯保証が不要になるケースも出てきました。とはいえ、それを不要にするためにはいくつかの条件をクリアする必要があり、依然として経営者保証を求められる場合も多いのが現状です。
M&Aには株式譲渡と事業譲渡がある
M&Aには株式譲渡と事業譲渡があり、それぞれ扱いが異なります。株式譲渡と事業譲渡の概念は、以下のとおりです。
株式譲渡とは
株式譲渡では、売り手と買い手との間で株式譲渡契約書を交わしたのち、既存株主が該当企業の株式を別の法人や個人に売却して経営権を移転させます。売却する会社の経営者がオーナー社長であれば、社長が自身の保有する株式を売却することで経営権を譲り渡すということです。
事業譲渡とは
株式譲渡における売買の対象が株式であるのに対し、事業譲渡の対象は事業です。両者で事業譲渡契約を締結した上で、当該事業に必要な一切の資産の受け渡しや代金の受領がおこなわれます。
株式譲渡の場合と異なり、会社全てではなく一部の事業を譲渡するという点に注意が必要です。曖昧な部分がないように譲渡内容や機密事項などをしっかりと事業譲渡契約書に落とし込んでおきましょう。
M&Aで借入金や連帯保証はどうなるか
では、M&A以降で借入金や連帯保証はどうなるのでしょうか。借入金と連帯保証や担保は少し異なるため、分けて解説します。
株式譲渡は借入金も引き継がれる
株式譲渡の場合、譲受側は法人格を引き継ぐため、譲渡企業の全てを引き継ぐことになります。つまり、金融機関からの借入金はもちろん、税金の未納分も譲受側が引き継がなくてはならないということです。
一方、事業譲渡は法人格ではなく、あくまでも事業の一部が引き継がれるものなので、借入金などの債務は引き継がれません。
なお、譲渡する事業に関して債務がある場合には、譲渡する側が譲受側から受け取る譲渡代金を借入金の返済に充てる場合も多いです。
連帯保証は自動的に引き継がるものではない
連帯保証や担保は、たとえ株式譲渡であっても自動的に既存連帯保証人から譲渡先に移るものではありません。そのため、旧経営者はあらかじめ金融機関と連帯保証解除について交渉しておくことが必要です。
旧代表者が外せない場合もある
すでに紹介した「経営者保証に関するガイドライン」により、旧代表者の連帯保証や担保が外せる傾向にありますが、金融機関と交渉しても外すことができない場合があります。具体的には、旧経営者が引き続き対象企業と強く関わる場合やあくまで株式の一部を譲渡するケースです。
そのほかの借入金や連帯保証に関する疑問点を解消
M&A以降の借入金や連帯保証の扱いについて説明しましたが、より細かな点でまだ疑問点があるかもしれません。そこで、具体的な方法などを確認していきましょう。
M&Aで連帯保証や抵当権を外す方法とは
借入金の連帯保証や抵当権を外すためには、譲受側が連帯保証人を引き継ぐことを承諾すること、金融機関が旧経営者の連帯保証や抵当権を外すことを承認することが必要です。また、金融機関は基本的に対象企業の代表者を連帯保証人とするため、まずは商業登記簿謄本上の代表者名を書き換えなくてはいけません。
ただし、代表者の変更登記を終えるまで連帯保証人を外すことができないのであれば、旧代表者はM&A後も責任を負わされないか不安になるはずです。そこで、旧経営者が連帯保証人となっている既存借入金を株式譲渡時に譲受側が一括返済する場合もあります。
いずれにしても、旧経営者はM&A後に不安が残ることのないように、譲渡契約時には契約書に「譲受側が譲渡側の連帯保証と担保の差し入れの解除に責任を持つ」といった文言を入れておくことが大切です。
旧役員からの借入金や貸付金の扱いは
中小企業の場合、役員が会社に対して貸付をしていることや借入を受けているケースも多いでしょう。株式譲渡と事業譲渡のどちらも、借入金や貸付金はそのまま残ってしまいます。
株式譲渡で役員貸付が残っている場合に考えられるのは、貸付債権を放棄する、貸付債権を資本に振り替える、貸付債権を譲渡するという方法です。また、事業譲渡時には金融機関の場合と同じように、譲渡代金で借入金を返済することがあります。
M&A後の従業員との関係性
M&A後に従業員がどのように雇用されるかは、M&Aの契約時に取り決められます。全従業員が譲受側に引き継がれ、同様の就業条件で雇用される場合が多いです。
経営者は代表取締役を辞任するのが一般的ですが、代表権のない役員として新体制に残ることもあります。
M&A前に借入金や連帯保証の扱いをチェック
借入金は、株式譲渡により引き継がれます。事業譲渡の場合には、譲渡代金で返済されることが一般的です。
連帯保証や担保については、M&Aをされたからといって自動的に引き継がれるものではなく、金融機関との交渉や所定の手続きを経なくてはなりません。株式譲渡をしたにもかかわらず、その後譲受側が連帯保証解除の手続きを進めようとせずにトラブルになったケースもあります。
そのため、M&Aの契約時には連帯保証や担保に関する条件をしっかり落とし込んでおくなど、細心の注意を払うことが必要です。このように、M&Aには注意点も多いことをしっかりと理解するため、関心がある方はまずは専門家に相談してみましょう。
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