創業者利益とキャピタルゲインは、どちらも創業者にとって有用な収益になります。
しかし、なかには「どちらも似たような感じでよくわからない」と、詳細についてまだ理解が深まっていない方もいるのではないでしょうか。今回は、創業者利益とキャピタルゲインの正しい意味や関係性について解説します。創業者利益にかかる税金や創業者利益を最大限に上げる方法もご紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
創業者利益とキャピタルゲインの意味と関係とは
創業者利益とキャピタルゲインの意味は似ていますが、厳密には意味や発生プロセスが違います。まずは、それぞれの意味と関係性について紹介します。
創業者利益は「売却額」と「資本+株式資本」の差額
創業者利益(創業者利得)とは、会社の創業者が自社の株式を譲渡して得た利益のことを意味します。創業者利益を得るまでの大まかなプロセスは次のとおりです。
1.発行した株式と元手で会社を立ち上げる
2.事業に投資して自社および自社株式の価値を上げる
3.価値の上がった自社および自社株式を第三者に譲渡(売却)する
4.譲渡益(売却益)-資本+株式の価額が創業者利益になる
「1から育てた会社を売って100の利益を得る」というイメージが近いかもしれません。
たとえば、「1,000万円の元手」と「株主からの1,000万円の出資」から事業をスタートさせ、3年後に株式の売却益1億円を得たときは、差額の8,000万円が創業者利益になります。
創業者利益を得るメリットは次のとおりです。
・新規事業をはじめる元手になる
・別事業への投資額を確保できる(別事業に専念できる)
・経営から離れてアーリーリタイアできる
・負債の解消に充てられる
・業績のよい相手に売って従業員の雇用を確保できる など
「多額の利益」と「責任からの開放」が、創業者利益を得る大きなメリットといえます。
キャピタルゲインは「購入額」と「売却額」の差額
キャピタルゲインとは、株式や不動産、株式などの保有資産を売却することで得る利益を意味します。キャピタルゲインが発生するプロセスは、他所から資産を購入した後に、資産の価値が上がったら売却するという形です。
キャピタルゲイン=資産の売却額-資産の購入額 |
たとえば、不動産を1,500万円で購入してから2,500万円で売却したときは、1,000万円のキャピタルゲインが発生します。キャピタルゲインの算出に資本の額は関係ないことが多いです。そこが自社の資本と売却益の差額になる創業者利益と違う点になります。
大枠でいえば、創業者利益はキャピタルゲインの一種です。そのなかでも「育てて売る」という要素が強いのが創業者利益の特徴といえます。
創業者利益(キャピタルゲイン)にかかる税金や計算式
ここからは、創業者利益およびキャピタルゲインにかかる税金や税率、計算式について解説します。
創業者利益(キャピタルゲイン)にかかる税金
創業者利益やキャピタルゲインで得た利益は「譲渡所得」にあたります。創業者利益は「株式等の譲渡所得」となるのが一般的です。一方、キャピタルゲインの場合は、不動産の売却による「土地や建物の譲渡所得」となることもあります。
以下より、かかる税率や税金をそれぞれのケースごとに見ていきましょう。
<株式を譲渡(売却)した場合>
株式を譲渡(売却)したときにかかる税率は、所得税15%・復興特別所得税0.315%(15%×2.1%)・住民税5%の合計20.315%です。
株式を売って得た譲渡所得は「申告分離課税」となり、事業所得や不動産所得などの「総合課税」とは別々に計算します。たとえば、本業の事業所得の税率が45%であっても、株式の譲渡で得た所得は税率20.315%になります。
税率は上場株式・一般株式(非上場株式)に関わらず、一律で20.315%です。
計算式は次のとおりです。
株式売却による譲渡所得=譲渡価額-必要経費(取得費+委託手数料) |
創業者による株式売却の場合は、会社設立時の資本金額を「取得費」、譲渡対応をほかの会社に依頼した際の依頼料等を「委託手数料」として処理できます。
<不動産を譲渡(売却)した場合>
不動産を譲渡(売却)したときにかかる税率は、不動産の売却益が「長期譲渡所得」か「短期譲渡所得」かで変わります。
所得区分 | 売却した年の1月1日時点の年数 | 税率 |
長期譲渡所得 | 保有期間が5年超 | 20.315%
所得15%・復興0.315%・住民5% |
短期譲渡所得 | 保有期間が5年以下 | 39.63%
所得30%・復興0.63%・住民9% |
保有期間が短い不動産売却による譲渡所得には、40%近くの税率がかかります。5年超の建物の方が節税につながるでしょう。
不動産の譲渡も申告分離課税として、総合課税とは別計算になります。
計算式は次のとおりです。
不動産売却による譲渡所得=譲渡価額-{取得費+譲渡費用(仲介手数料等)+特別控除額} |
創業者利益(キャピタルゲイン)の具体的な計算式
ここからは、実際に創業者利益やキャピタルゲインについての具体的な計算式を見ていきます。
※便宜上消費税込とする
<創業者利益(M&A仲介会社に依頼しての売却)>
・株式の譲渡価格:8億円
・株式の取得費(会社設立時の出資額):5,000万円
・M&A仲介会社へのサポート依頼料:8,000万円
・税率:20.315%
8億円-(5,000万円+8,000万円)=創業者利益6億7,000万円
6億7,000万円×20.315%=創業者利益にかかる税金1億3,611万500円
<キャピタルゲイン(不動産の売却)>
・不動産の譲渡価格:5億円
・不動産取得費:3,000万円
・譲渡費用(仲介手数料や立退料など):1,500万円
・特別控除:0円
・不動産の所有期間:2年3ヵ月で短期譲渡所得区分
・税率39.63%
5億円-(3,000万円+1,500万円+0円)=キャピタルゲイン4億5,500万円
4億5,500万円×39.63%=キャピタルゲインのかかる税金1億8,031万6,500円
より高額な創業者利益を得るための方法
創業者利益を最大限に高めるには、「会社そのものの魅力を上げる」「適切なタイミングで売却する」などの戦略が有効です。より高額な創業者利益を得るための方法を、以下よりご紹介します。
好経営で会社業績や人財的価値を高める
創業者利益は株価の高さ、つまり「会社の価値」や「周囲の評判」が大きさに比例します。
好業績を維持し、多くの人から「この会社の株式がほしい」と思わせるくらいになれば、株価の上昇とともに見込み創業者利益も増えていくでしょう。考えられる戦略は次のとおりです。
・ベンチャーキャピタルなどから投資を受けて事業拡大を図る
・優秀な人材を複数人育成する
・経営コンサルタントに相談してみる など
「好業績にする!」とは簡単にいえるものの、実行は難しいものです。しかし、創業者利益を得るための基本は「会社を育てる」ことにあります。
将来的に多額の創業者利益を得るためにも、目先の売上や取引に囚われず、長期的に収益や信用を稼いでいきましょう。
IPO(株式上場)を行う
IPOとは、いわゆる株式上場のことです。IPOを行うことで会社価値が上がり、創業者利益の見込みも大きくなります。理由は次のとおりです。
・会社への信用度・知名度が上がり株価が跳ね上がるから
・取引先のレベルが高くなり自社事業の規模や質が上がるから
・上場株式市場に公開され頻繁に取引されるから
・優秀な人材が入社し事業のレベルや人的価値が上がるから
ただし、「高くなったから売ろう」という単純な考えで大量に売却すると、結果的に損害を受ける可能性があります。理由は次のとおりです。
・投資家に「経営が危ない」と判断され株価が落ちる
・持株比率が減少し経営権に影響が出る
・経営者が変わって従業員の生活が変わる など
売却後も自分で経営を続ける場合は、おおよそ5~10%に抑えるのが一般的です。長期的な観点で創業者利益を狙うときは、IPOからの株式売却がおすすめといえます。
適切なタイミングでM&Aを行う
現金で創業者利益を得たい場合は、M&Aを利用した株式売却も有効です。経営権や事業そのものを明け渡すことにはなりますが、その分大きな金額を得られます。
成功のコツはタイミングを掴むことです。M&Aの価格は、世の中の景気や自社サービスと顧客ニーズの合致、業界全体の需要などにも左右されます。業界動向や競合他社の動きを見ながら、M&Aの機会を窺いましょう。
早めに創業者利益を得て新規事業に参入したいときは、M&Aによる株式売却がおすすめです。
適切な創業者利益を挙げるならM&Aの専門家に相談しよう
創業者利益は会社が成長すればするほど高額になりますが、タイミングや戦略にミスがあると、思うような利益を得られません。
もし適切な創業者利益を挙げたいときは、M&A支援専門家への相談をおすすめします。理由は次のとおりです。
・専門性の高いM&A領域は専門家へ依頼する人が多いから
・株式や業績を考慮した正しい会社価額を付けてくれるから
・会社経営や税務などに精通しているためさまざまなアドバイスを受けられるから
M&A総合支援プラットフォーム「バトンズ」では、自社に最適なM&A支援専門家をご紹介可能です。無料相談も受け付けているので、ぜひ一度ご確認ください。
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