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敵対的買収と友好的買収の違いは?メリット・デメリットも比較

2022年08月29日

敵対的買収とは、相手側の同意を得ずに企業の株式取得を進めることです。
「対象企業から事前に同意を得ているか否か」が友好的買収と異なります。

本記事を読めば、敵対的買収の概要やメリット・デメリットだけでなく、買収を仕掛けられた側の防衛策もわかります。

 

 

 

敵対的買収(敵対的TOB)とは

敵対的買収とは、M&Aで用いられる手法のひとつで、対象会社側取締役会の同意を得ずに買収を仕掛けることです。スキームとして株式譲渡を用いる点では、友好的買収と共通しています。

金融商品取引法で、有価証券報告書を提出する義務のある会社の株式に対して市場外、または市場内と市場外の組み合わせによる買付けで保有株割合が3分の1を超える場合は、その買付けは原則として公開買付け(TOB)でおこなわなければならないとされているため、TOBで敵対的買収を仕掛けることが一般的です。敵対的買収を、敵対的TOBと表現することもあります。

 

 

敵対的買収の目的・流れ

企業が買収を仕掛ける本来の目的は、対象企業の価値向上を目指すことです。しかし、対象企業の取締役などから買収を反対されることで、敵対的買収という手法を取らざるをえなくなります。

敵対的買収の流れで、通常の買収と異なるポイントは、一般的にTOBでおこなわれること、買収側の株主グループが対象企業の株式を50%超保有しなければならないことなどです。

株式を50%超保有していれば、株主総会の普通決議を単独で可決できます(会社法309条1項)。

 

 

友好的買収と敵対的買収の違いとは?

友好的買収と敵対的買収の違いは、「事前の合意がなされているか否か」で決まります。両者の違いについて、さらに詳しく見ていきましょう。

 

 

友好的買収は「合意」の上で行うM&A

通常のM&A、つまり友好的M&Aであれば株式譲渡を行う前にトップ面談を行ったり、譲渡価格の交渉を行ったりしますが、敵対的買収の場合はそうした手順を踏まず、強制的に株式の獲得がなされます。

通常のM&Aであれば譲渡企業内で取締役会での合意がなされてからM&Aの交渉を行っていくところを、そうした合意を経る前に、譲受企業が譲渡価格を提示したり、市場の株式を買い集めたりする場合は敵対的買収と見なされます。

 

 

TOBによって強引に経営権を奪取する敵対的買収

友好的買収と敵対的買収の違いとしては、買収成功後に譲渡企業の役員や従業員がどのような待遇を受けるのか、という点でしょう。

友好的な通常のM&Aであれば、理由はロックアップ条項や交渉の取り決めなど様々ですが、譲渡企業の役員はそのまま残るケースが多く見られます。しかし敵対的買収の場合は、企業の役員や従業員を退職させることも少なくありません。

友好的買収であれば双方が合意しているため、譲受企業の役員と譲渡企業の役員が取締役会に同席しても協力できますが、敵対的買収は強引に経営権を獲得するものなので、素直に協力が得られるとは限りません。そのため、経営権を盤石なものにするために既存の役員や従業員を退職させるケースが見られるのです。

 

 

 

敵対的買収の防衛策3つ

敵対的買収を仕掛けられても、対象企業はゴールデンパラシュートティンパラシュートなどの手法で防衛できることがあります。ゴールデンパラシュート・ティンパラシュートとは、役員や従業員の退職金を高額に設定しておくことで、敵対的買収者に買収後に多額の資金が流出することを懸念させる手法です。

他にも、敵対的買収を防衛する策はいくつも存在します。ここでは、そのうち3つを確認しておきましょう。

 

1. ホワイトナイト

ホワイトナイトとは、買収を仕掛けられている企業が、自社と友好関係にある企業(人)に自社の株式を取得してもらう方法です。第三者が先に対象企業を友好的に買収することで、敵対的買収者からの買収を防げます。

ただし、ホワイトナイトになる企業は、敵対的買収者に対抗するために多額の資金を用意しなければなりません。

 

2. 焦土作戦(クラウン・ジュエル)

焦土作戦とは、買収される前に対象企業の事業や資産を売却することで、敵対的買収者の買収意欲を減退させる方法です。特に敵対的買収者が対象企業の経営資源に魅力を感じていた場合、買収する意義が薄れるでしょう。

ただし、焦土作戦を講じると、防衛後に資産や事業がない状態で経営しなければならない点や、善管注意義務違反で資産や事業の処分を決定した取締役が責任を追及されるおそれがある点に注意が必要です。

 

3. ポイズンピル

ポイズンピルとは、買収企業の持株数が一定水準を超えた際に、対象企業が既存株主に対して条件付き新株予約権を発行して買収企業の持株比率を下げる手法です。ライツプランと表現されることもあります。

ポイズンピルを選択すると、株式数が増えることで株価低下につながりやすいため、株主の反発を招きやすい点に注意が必要です。

 

 

中小企業が対象の場合は譲渡制限によって守られる

敵対的買収を仕掛けられるのは上場企業に限られ、中小企業の場合はそもそも狙える企業がいないのが理由です。

加えて、非上場企業の株式については「譲渡制限」という規制がかけられており、非上場企業の株式を譲渡する際には会社の承認が必要になります。こうした会社法による保護も敵対的買収が実現しにくい一因と考えられます。

 

 

敵対的買収のメリット・デメリットを解説

敵対的買収にはメリットやデメリットが存在します。それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

敵対的買収のメリット

敵対的買収のメリットは「合意を得なくとも企業が獲得できる」という点でしょう。

通常のM&Aは、あくまで双方の合意がベースとなっており、譲渡金額や譲渡後の経営方針などについても慎重にすり合わせを行っていきます。つまり、譲り受けた企業を好きなように扱えるわけではない、というのがポイントです。

その点、敵対的買収は一方的にM&Aを仕掛けていくので、事前の交渉や取り決めが存在しません。取得した後に企業の経営資源やノウハウなどを自由に扱えるというのは敵対的買収の特徴のひとつと言えるでしょう。

ただ、敵対的買収という名前がついているものの、実際には友好的なM&Aに落ち着くケースがほとんどです。

また、「買収する目的」によって敵対的買収を行う方の呼称は2つに分かれます。一つは、買収した企業の「解散」を目的として敵対的買収を仕掛けるフィナンシャル・バイヤー、もう一つは買収した企業の事業価値や自社事業とのシナジー効果を目的とするストラテジック・バイヤーです。

ライバル企業を敵対的買収によって買収したのちに解散させる、という手法も含まれている点が、通常のM&Aとの大きな違いと言えるでしょう。

 

 

敵対的買収のデメリット

敵対的買収のデメリットは、やはり「費用がかかりすぎる」という点でしょう。先述したように、日本の企業に対して敵対的買収を行うためには「公開買付け(TOB)」を行わなければなりません。

他の株主との直接交渉で譲渡してもらえない以上、株式の購入にかかる費用は時価に左右されてしまうのです。さらに、敵対的買収に対してはいくつかの防衛策も存在し、そのどれもが「買収や買収成功後に多額の費用を発生させる仕組み」となっています。

つまり、敵対的買収を成功させるために多額の資金が必要となり、成功した後も防衛策を突破するためにさらに費用がかかってしまうのです。それらの費用を支払ってでも敵対的買収を行いたい、と考える企業は少ないため、敵対的買収は友好的買収と比較するとレアケースと言えます。

 

 

 

敵対的買収に関連する事例2つ

最後に、敵対的買収に関連する事例を2つ紹介します。今回紹介するのは、コロワイドが大戸屋HDに仕掛けた敵対的買収と、ニトリHDによる島忠子会社化に至るまでの流れです。

 

1. コロワイドから大戸屋HDへの敵対的買収

株式会社コロワイドは、居酒屋やレストラン、ファストフード、カラオケなど20を超えるブランドを運営する「食」の総合プロデュース事業会社です。一方、株式会社大戸屋HDは、定食屋の大戸屋ごはん処で知られています。

2019年10月、創業家から株式を取得して筆頭株主となったコロワイド側が買収を提案するも、大戸屋側から拒否されました。また、2020年4月にコロワイドが経営陣刷新を求めて大戸屋の株主総会で株主提案するも否決されます。

続いてコロワイドがとった行動は、大戸屋に対するTOBです。2020年11月に、コロワイドは大戸屋の46.77%の株式を取得し、TOBが成立したことを発表しています。

参考:株式会社コロワイド「コロワイドとは」
参考:株式会社大戸屋ホールディングス「会社案内」
参考:NHK「大戸屋とコロワイド なぜ対立?」

 

2. ニトリHDによる島忠子会社化

登場する主な企業は、家具・インテリア販売事業をおこなうニトリの親会社、株式会社ニトリHD、家具インテリア・ホームセンター事業をおこなう株式会社島忠、同じくホームセンター事業を主とするDCM株式会社です。

2020年10月2日、DCMが自社の競争力を高めるために島忠の完全子会社化を目指し、TOBをおこなうことを発表します。島忠はDCMによるTOBに賛同する方向で、同日すでにDCMとの経営統合を公表済みでした。

しかし、同年10月29日に突如ニトリHDも島忠への買収意向を発表し、「経営統合に関する意向表明書」を提出します。島忠側はニトリ側と濃密な協議と検討を重ねた結果、最終的にニトリと経営統合する道を選びました。

TOBへの賛同表明を得られたニトリはその後株式を取得し、2021年に島忠を完全子会社化しています。

本件は、厳密には敵対的買収の事例ではありません。しかし、当初友好的TOBを予定した企業とは別の企業が、突如友好的に買収を成功させたという特殊な事例のため、今回取り上げました。

参考:NHK「ニトリ、どうして島忠TOBに参戦?」
参考:株式会社ニトリ「会社概要」
参考:株式会社島忠「ご挨拶・企業理念」
参考:株式会社島忠「沿革」
参考:株式会社島忠「株式会社ニトリホールディングスとの経営統合に関するお知らせ」
参考:DCM株式会社「会社概要」

 

 

敵対的買収はM&Aの戦略のひとつ

M&Aの一種である敵対的買収は、友好的買収に比べて非常に強引な方法で経営権を獲得してしまうものです。そのためいくつかの防衛策も用意されており、成功する確率は低いと考えられています。

しかし、敵対的買収を仕掛けながら交渉を行い、最終的には友好的買収としてM&Aを成立させているケースも存在するので、様々な角度からM&Aの可能性を探ることが大切であると言えるでしょう。

 

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