法務DD(デュー・デリジェンス)は、対象企業に重大な法的問題がないか判断することを指します。より客観的な判断ができるようになるため、M&Aにおいて大切な作業です。
本記事では、法務DDだけでなく、財務DDやビジネスDDといったDDの特徴も解説しています。
そもそもデューデリジェンスとは
法務DDのDDとは、デューデリジェンス(Due Diligence)の略称です。ここでは、そのデューデリジェンスについて詳しく解説します。
デューデリジェンスの意味と目的
デューデリジェンスは、英単語のDue(正当な)とDiligence(勤勉)の組み合わせで、「適切な調査」を意味します。これは、対象企業の価値を確認してリスクを把握することが主な目的です。
デューデリジェンスの種類
実は、このデューデリジェンスは財務DDや法務DDを含めて6種類あるといわれています。そのひとつであるITデューデリジェンスは、テクノロジーの進歩とともに重要性が増している分野で、ITについてのリスクや費用を調査するのが特徴です。
そのほか、税務に関するリスクを調査する税務デューデリジェンスや後ほど詳しく解説するビジネスデューデリジェンス、人事デューデリジェンスがあります。
M&Aとデューデリジェンスの関係
冒頭で述べたように、デューデリジェンスはM&Aで重要な役割をもちます。デューデリジェンスをおこなうことでより客観的に分析できるため、関係者にM&Aのメリットを提示したり、何が問題点かを明確化したりすることが可能です。
そして、このデューデリジェンスは、M&Aをどのように進めるかという判断材料になります。
法務DDとは
対象企業に重大な法的問題がないかについて調査することを、法務DDと呼びます。法務DDは、法律解釈などの専門性が必要になることから、外部の専門家に依頼することが一般的です。
こちらも目的や方法を詳しく確認していきましょう。
法務DDの目的
法務DDは、対象企業の法的リスクを洗い出すことにより、M&Aの実施に影響を与える事項を確認することが目的です。具体的には、M&Aを実施するにあたって対象企業の評価額算出に法的な問題点がないか、事業継続の障害になることがないかといった法律上における問題点の有無を確認します。
法務DDの方法・流れ
法務DDは、関連書類の開示請求や確認作業、経営者や管理職とのインタビューなどを通じて進められます。最後に、意向書に法的リスクを取りまとめて完了です。
法務DDの方法を理解できるように、以下に流れをまとめました。
1.調査する項目の特定・開示請求
2.資料提出(売手)・分析(専門家)
3.売手側経営陣・管理職と面談
4.専門家による意向書(報告書)作成
各段階で進める作業を確認していきましょう。
1. 調査する項目の特定・開示請求
予算やスケジュールを考慮しつつ、法務DDの調査項目を特定します。調査範囲が広ければ広いほど、調査期間が長くなり費用もかかる点に注意しましょう。
調査項目が決まったら、買手から売手に対して定款や登記簿謄本などの公的資料、株主総会議事録や決算書類などの社内資料、取引先との契約書などの取引関係資料などの提示を依頼します(開示請求)。
2. 資料提出(売手)・分析(専門家)
資料が揃い次第、売手から法務DDを担う専門家に資料が送られてきます。ただし、売手が該当書類を保有していない場合、「該当資料存在せず」という回答になるケースもあります。
続いての作業は、専門家や買手による資料分析です。対象企業をM&Aをすることによる、法的リスクは何かを主に分析します。
なお、この段階で不足資料が判明した場合、再度開示請求をおこなわなければなりません。
3. 売手側経営陣・管理職と面談
次に、事業面や技術面について、書類だけでは判断できなかったことを売手側経営陣や管理職と面談してヒアリングします(マネジメントインタビュー)。主な面談方法は、対面やWEB(オンライン)面談です。
法務DDだけでなく、財務DDやビジネスDDも予定している場合、効率よく進められるよう質問が重複しない工夫をしましょう。
なお、面談してから意向書を作成するまでに、現地調査をおこなう場合もあります。
4. 専門家による意向書(報告書)作成
最後に、専門家が資料やインタビューから集めた情報をまとめて意向書を作成します。法務DDにおける意向書とは、売手企業に存在する潜在的リスクや、M&Aに伴い今後生じうる法的リスクなどを取りまとめた報告書のことです。
意向書の内容を踏まえ、買手がM&A中止という決断をするケースもあります(ディールブレイク)。
法務DDのチェックリスト項目7つ
法務DDでは、買手や専門家が売手企業におけるさまざまな項目をチェックし、法的リスクを判断していきます。主なチェック項目は、以下の7つです。
1.株主の状況
2.債権や債務
3.取引先との契約内容・状況
4.資産・知的財産
5.人事(労務)
6.訴訟や紛争
7.許認可や行政規制
各項目でどのような内容を確認していくのか、簡単に解説していきます。
1. 株主の状況
のちのトラブルを避けるため、どのような株主がいるか、譲渡に適切な手続きを経て株主になったものかなどを確認します。株主数が大きく変動している場合、要因を把握することも大切です。
2. 債権や債務
金融資産を中心に債権・債務を確認します。債権はすでに時効を迎えているものがないかがポイントです。
3. 取引先との契約内容・状況
大口得意先を抱えている点が魅力でM&Aを決断しても、後に取引を解消されてしまうと意味がありません。そのため、既存取引先との契約内容や状況を確認し、継続取引が可能かチェックします。
4. 資産・知的財産
所有不動産は適切に登記されているかなど、売手企業の資産をチェックします。また、M&A後に損害賠償請求や差止などをされないように、競合企業の著作権や特許権などの知的財産を侵害していないかチェックすることも大切です。
5. 人事(労務)
M&A後、賃金未払いやパワハラなどで、従業員から訴えられるおそれもあります。そこで、従業員との契約内容や労働条件を把握しておきます。
6. 訴訟や紛争
売手企業が顧客や競合企業からすでに訴えられているケースもあります。現在係争中の場合は、今後の裁判の行方を見極めることが必要です。
また、今後裁判になりそうな案件がないかも確認します。
7. 許認可や行政規制
業種によって、許認可が必要なケースや行政規制されているケースがあります。売手企業は規制に対して法令遵守をしているか、チェックしておきましょう。
また、すでに許認可を取得している場合でも、M&A後に再度取得する必要はないか確認しておかなければなりません。
法務DDの費用相場
DDは、一般的に専門家へ依頼します。法務DDの場合の専門家は弁護士であることが多く、費用は決して安くありません。
依頼する専門家や対象企業の規模によってさまざまですが、少なくとも、100万円以上はかかることを想定しておきましょう。対象企業の関連会社や子会社が多い場合、1,000万円を超える可能性もあります。
法務DDの注意点
法務DDでは、M&A以降を見据え、各種届出や許認可の必要性を確認しておかなくてはなりません。対象企業が許認可を取得しているからといって、M&A以降も承継されるとは限らないため注意が必要です。この確認を怠ってしまうと、当初のM&Aスケジュールどおりに進めることができなくなります。
そのほかのDDの種類も理解しよう
DDは、法務DD以外にもさまざまな種類があります。主なDDは以下の通りです。
・財務DD
・ビジネスDD
・人事DD
・IT DD
・税務DD
IT DDは、テクノロジーの進歩とともに重要性が増している分野で、ITについてのリスクや費用を調査するのが特徴です。税務DDでは、税務に関するリスクを調査します。
ここから財務DD、ビジネスDD、人事DDについて詳しく確認していきましょう。
財務DDの特徴
財務DDとは、対象企業の経営成績や財政状態などを調査することです。ここでは、財務DDの目的や方法、注意点を見ていきましょう。
財務DDの目的
財務DDの主な目的は、企業の財務状態やキャッシュフローを分析することで、投資やM&Aの対象としてふさわしい企業かを判断することです。財務DDでは対象企業の財務諸表が主な判断材料ですが、決算をよく見せるために真実を記していないケースも想定されるので、帳簿のみならず簿外負債がないかということも確認します。
財務DDの方法
まずは、対象企業の考えを読み解くために株主総会や取締役会の議事録を確認します。また、会計処理の原則や表示の方法などが企業によって異なるため、会計方針の確認も大切です。
さらに、会計監査や税務調査などの外部調査をチェックします。外部調査を確認することで、対象企業の特にチェックすべきポイントがつかめるはずです。
その後、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表の精査に進みます。貸借対照表を見ることで財務リスクを洗い出し、損益計算書を確認することで対象企業の収益力などを把握可能です。
財務DDの注意点
財務DDをおこなっているという情報を外部に知られると、M&Aの可能性を予測されて企業の株式売買が激しくなるおそれがあります。情報の取り扱いが適切でない場合、インサイダー取引と判断される可能性もあるので注意が必要です。
また、対象企業が中小企業であれば上場企業に比べて財務諸表の記載が甘い場合も想定されます。財務諸表が適切でなければ財務DDにかかる日数も長くなってしまうため、実施タイミングについてはくれぐれも注意してください。
ビジネスDDの特徴
ビジネスDDとは、対象企業を取り巻く市場と絡めて調査するものです。具体的には対象企業の事業性評価やビジネスモデルを把握することで、市場の中で現在どのような位置にいるのかを確認します。
ビジネスDDをおこなうことで、自社が対象企業をM&Aした際のメリットやデメリットを知り、M&Aの有効性を想定することが可能になります。そのため、対象企業の現在の位置だけでなく、M&Aによる自社と対象企業のシナジー効果についても確認する必要があります。
なお、シナジー効果とは複数の企業がつながることによる相乗効果のことです。
人事DDの特徴
財務面・法務面の課題をクリアしていても、対象企業と人事制度が大きく異なったことでM&Aがスムーズに進まないということも想定されます。そこで、M&A前後の人事面に注目した調査が人事DDです。
人事DDは、報酬水準や退職金などの財政的要素の調査と、人事制度や企業風土といった非財政的要素に分けることができます。数字で判断しやすいので、財政的要素を対象にしてしまいがちですが、社員のモチベーション低下を防ぐためには非財政的要素も重要です。
法務DDを深く理解してM&Aを成功させよう
以上、6つのデューデリジェンスにおける財務DDや法務DDが一体どのようなものなのかを解説してきました。それぞれ対象とする範囲が異なりますが、M&Aを検討している対象企業を知るためにいずれも大変重要な作業で、どちらかひとつが欠けても適切な判断をくだすことができなくなります。
今後M&Aを予定している方は、まずは財務DDと法務DDの意味合いをしっかりと理解しておいてください。その上で、それぞれを上手く連携させつつ効率的なデューデリジェンスを進め、意義のあるM&Aを成し遂げましょう。
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