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医療法人の事業承継、医者の後継者不足は深刻だが積極的なM&Aが生まれにくい背景

2020.06.05

最近はM&Aが活発に行われるようになり、中小企業での活用も増えています。

医療業界においても、事業承継という観点から利用されるようになってきていますが、一般法人に比べるとまだまだ積極的とはいえません。

今回は、医療法人に絞って、業界の現状や事業承継の課題、M&Aのスキームなどについて解説します。

 

医療法人とは?

医療法人とは、医療法の規定に基づいて、病院や診療所、介護老人保健施設などを経営することを目的に設立される法人です。

一般の法人とは違い、各都道府県知事の認可が必要とされます。

1950年に医療法が改正され、医療法人の設立が認められるようになりましたが、設立には、常勤医師3名が必要で、多く普及はしませんでした。

その後、地域医療を担う医療機関に経営の永続性をもってもらうことを目的に緩和され、1985年の改正により医師1名でも設立が可能となり、医療法人の数は大幅に増加しました。当時設立された医療法人の医師も高齢となり、事業承継の転換点を迎えている状況です。

 

医療法人の現状と事業承継の問題

医療法人の現状と事業承継の問題について整理したいと思います。

帝国データバンクの「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)」によると、国内企業の65.2%が後継者不在という状況です。この中で、医療分野における事業承継問題はさらに深刻で、無床診療所は89.3%、有床診療所は79.3%が後継者不在という状況にあります。

また、診療開設者、および代表者についても52.6%が60歳を超えているという現状で、診療所の廃止件数も年々増加傾向にあります。

背景として、子供がいない医師の増加や、子供はいるが医師ではないケース、子供は医師だが専門分野が違うなどの問題があります。中には、経営環境の激化に伴い、事業承継を希望せず、研究に専念したいという医師も増えています。

参考:日本医師会総合政策研究機構|          医業承継の現状と課題
参考:帝国データバンク|全国・後継者不在企業動向調査(2019年)

 

医療法人の種類

医療法人の種類は、社団医療法人、財団医療法人、特定医療法人の3種類に分類され、全国に約54,000件が存在しています。

このうち、社団医療法人が全体の99%以上を占め、さらに「出資持分のある医療法人」と「出資持分のない医療法人」に区分されます。

持分のある医療法人は全体の約72%で、持分ない医療法人は約28%です。

また、常勤医師1名で構成される1人医師医療法人は全体の84%となっています。

参考:厚生労働省|種類別医療法人数の年次推移

 

出資持分あり医療法人

出資持分あり医療法人とは、出資者に財産権がある法人を指します。

具体的には、出資した金額に対して、返還請求権を持ち、譲渡や相続の対象にできる法人となります。

例えば、出資金1,000万円で設立し、長い年月を経て1憶円の財産を築いたとします。仮に、この段階で法人を解散した場合、1憶円の財産は出資者に帰属し、相続があれば相続財産の対象となります。

平成19年4月に医療法の改正があり、出資持分のある医療法人は現在設立することができません。医療法人は配当ができないため、財産が膨らみやすい傾向にあります。

そのため、出資者が死亡して、相続が発生した場合、多額の相続税を納付することできない、他の出資者からの払戻請求に応じることができないなどの問題が発生し、スムーズに事業承継できないことが起こりえます。

地域医療の永続性を担うために設立を許可された医療法人が、相続等の問題で医療サービスを継続できなくなることは非常に大きな問題です。そのような観点から、現在では出資持分なし医療法人の設立のみが許可されています。

 

出資持分なし医療法人

出資持分なし医療法人とは、出資者に財産権が無い法人です。

正確には、出資金は拠出金といわれ、これを譲渡することはできません。また、解散時に残余財産があれば、国や地方公共団体に帰属します。

例えば先の例のとおり、拠出金1,000万円で設立し、長い年月を経て1億円の財産を築いたとします。仮に、この段階で法人を解散した場合、1,000万円は拠出者のものですが、残りの9,000万円は国に寄付することになります。

ただし、あくまでも余った財産なので、退職金等で引き出すことが可能であれば、財産を寄付する必要はありません。また、相続が発生した場合、拠出金のみが相続財産となるため、相続という視点からみると有利であるといえます。

平成19年4月以降に設立された医療法人は、すべて持分なし医療法人となります。

参考:厚生労働省|医療法人の基礎知識

 

医療法人と株式会社の違い

医療法人は一般法人とは大きく異なる点がいくつかあります。医療法人の特殊性を株式会社と比較して解説します。

医療法人 株式会社
理事 3人以上 取締役 1人以上
理事長要件 原則医師 代表取締役要件 なし
議決権 1人1票 議決権 持ち株数に応じる
配当 禁止 配当 一定のルールで任意
残余財産の帰属 医療法で規定 残余財産の帰属 なし

理事と取締役

医療法人を設立するためには、理事が3名以上必要です。

理事は、株式会社では取締役に相当しますが、1人で医療法人を設立することはできません。

理事長要件と代表取締役要件

株式会社の場合、代表取締役には誰でもなることが可能ですが、医療法人の理事長は原則医師であることが必要です。

議決権

株式会社の場合、議決権は株式数に応じて決定します。つまり、出資金額に応じて議決権を持つことになります。

ところが、医療法人では出資額に関わらず、社員であれば1人1票の議決権を持つことができます。つまり、出資をしていなくても、社員であれば1票の議決権を持つことになります。ここでいう社員とは、株式会社でいう株主のことです。

配当

医療法人は、非営利性を求められる法人であり、剰余金の分配が禁止されています。

そのため、内部留保が膨らみやすい傾向にあります。株式会社の場合、一定のルールで自由に分配可能です。

残余財産

残余財産は医療法に規定されます。持分あり医療法人は出資者に帰属し、持分なし医療法人は国や地方公共団体に帰属します。

株式会社の場合、特に規定はありませんので、株主に帰属することとなります。

 

医療法人のM&Aスキーム

医療法人のM&Aは、株式会社と同様に株の評価、いわゆる出資持分を評価して、それを譲渡することで行います。

基本的には、理事長を変更して、登記を行うことで完了しますが、株式会社と違い、保健所や都道府県などへの許認可や届出が発生する点が大きく異なります。

また、M&Aにおける評価方法は様々ありますが、無形資産の評価で使われる超過収益法を使用されるのが一般的です。

 

超過収益法による医療法人の評価方法

超過収益法とは、活用されている資産より生み出される利益を、本来得られる期待利益に修正して無形資産を評価する方法で、下記の手順で評価します。

正常利益の算出

損益計算書を元に正常利益を算出します。

具体的には、役員報酬が過大であれば正当な報酬に修正したり、私的な交際費や資産を控除することで算出します。

資産利益を算出

法人にある資産でどれくらいの利益を生んでいるかを算出します。

具体的には、売掛金、土地や建物、医療機器等の帳簿価格に期待利子率を掛けることで算出します。

超過利益の算出

正常利益から資産利益を控除することで超過利益を算出します。

超過収益法により営業権を算定

超過利益を2~4年の現在価値に割引いて、営業権を算出します。

出資持分評価額を算出

最後に、貸借対照表を時価に修正して、営業権を加算することで出資持分を評価します。

時価に修正とは、土地や建物、生命保険などは、簿価とずれていることがほとんどなので、正当な価値に修正する作業を指します。

算出された出資持分は、退職金スキームを利用して譲渡されるのが一般的です。

ちなみに、出資持分なし医療法人の場合は、持分の評価がありませんので、営業権のみを評価することになります。

退職金スキーム

退職金スキームとは、譲渡価格を売手が退職金として受け取る手法です。

本来譲渡益には20%の税金が課されますが、退職金として受け取ることで、税金が少なくて済みます。

また、買手も、個人での借り入れではなく、法人で借入を行うことができ、損金計上できた赤字は10年間繰り越すことが可能です。

 

売手のメリット

M&Aにおける売手のメリットは以下の3点です。

事業を継続できる

1つ目は地域へ医療サービスを提供し続けられるということです。

事業が継続されれば、地域医療の担い手として、引き続き貢献することが可能です。

保有資産を継続して利用してもらえる

2つ目は保有資産を継続して利用してもらえることです。

閉院の場合、建物を解体費用や、現状復帰費用、資産を処分する費用などが発生しますが、事業譲渡の場合は発生しません。

従業員の雇用が維持される

3つ目は、従業員の雇用が維持できることです。

閉院の場合、退職金を支給する必要があるなどの費用が発生します。 

 

買手のメリット

M&Aにおける買手のメリットは以下の3点です。

少ないコストで開業できる

1つ目は少ないコストで開業できることです。

事業承継であれば、一定の患者が見込めるので、運転資金が少なくて済みます。

また、必要な資産は安価で購入でき、従業員も雇用を引き継げるので、採用などのコストがかかりません。

税務上のメリットを享受できる

2つ目は、税務上のメリットを得られる可能性があることです。

前述のとおり、役員退職金の支給により、最大10年間の繰り越し欠損金をつくることが可能です。

持分あり医療法人の取得ができる

3つ目は、持分ありの医療法人を取得できることです。

M&Aを利用することで、現在は設立できない財産権のある法人格を取得することが可能です。

 

M&Aが生まれにくい理由

医療法人のM&Aのメリットは非常に大きいのですが、反対に医療法人ではM&Aが実現しにくいともいわれています。理由は、業界の特殊性や専門家の不足、各種手続きの煩雑さなどが挙げられますが、下記3点が主な理由です。

 

大手のM&A仲介会社でもマッチングが難しい

1つ目は、大手の仲介会社でもマッチングが難しい点が挙げられます。

医療法人の買手となるのは、多くの場合開業を希望する勤務医です。

医療業界は専門的な知識が必要であり、一般の会社では、勤務医と接点をもつことが難しいのが現状です。

また、すでに存在している医療法人が事業拡大を目的に、他地域の医療法人を買収することもありますが、ケースとしてはまだ多くありません。

税理士等の実務経験不足

2つ目は、税理士等のアドバイザーの実務経験不足が挙げられます。

株式会社と違い、行政への許認可や届出が多く必要になります。

現在日本には、約400万社以上の会社が存在していますが、医療法人はそのうち約5万件程度です。業界に精通した税理士やアドバイザー等が少ないのが現状です。

出資しても経営権を獲得できない

3つ目は、出資しても経営権を獲得できないことが挙げられます。

診療報酬は減少傾向にありますが、国に守られた産業であり、まだまだ収益性の高い魅力的な業界です。

しかし、出資したからといって、議決権を得ることもできなければ、理事長になるには医師であることも必要です。

そのようなことから、他業種の参入も活発には起こりません。

 

まとめ

今回は医療法人にM&Aが生まれにくい理由について、医療法人設立の背景や一般的な譲渡スキームを交えて解説しました。

他の業界では、M&Aを利用した、第3者への事業承継も積極的に行われています。

地域医療を守り、自身の診療所や病院を継続するためにも、事業承継対策の1つとしてM&Aの利用を検討されてみてはいかがでしょうか。

 

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