経済産業省の調査によると、2020年時点で後継者難により廃業の危機にある事業者の数は127万者も存在します。127万者もの中小企業がそのまま廃業してしまうと、国のGDP損失額は約22兆円にも上るため、国としては最優先で解決すべき課題となっています。
加えて、2020年2月以降のコロナショックにより、飲食業や観光業を中心に、さらに多くの中小企業が廃業の危機を迎えています。そんな危機的な状況で注目されているのがM&Aです。
従来は大企業が採る戦略の一つとして考えられてきましたが、事業承継や経営の先行き不安から、中小企業がM&Aを実施する事例も増えています。そこで今回は、買収する側がM&Aで失敗しないためにすべきことをわかりやすく解説します。
小規模案件のM&Aが今後増えていく
後継者不足を理由に、従来より第三者承継を目的としたM&Aの件数が増加していました。それに加えて、今回のコロナショックにより、小規模案件のM&Aは今後さらに増えていくと考えられます。
コロナショックにより中小企業の業績は悪化
コロナウイルスが日本で大流行したことで、私たちの健康はもちろんのこと、中小企業の経営も深刻なダメージを受けました。特に飲食業界や観光業界では、相次ぐ自粛ムードの影響で売り上げが5割またはそれ以上減少した中小企業がたくさん発生しています。
コロナウイルスによる中小企業への影響はリーマンショックを上回る深刻さを呈しており、「コロナショック」と呼ばれる事態となっています。
経営悪化を理由としたM&Aが活発になり、買収側にとってはチャンス
コロナショックの影響で、業績が厳しくなり経営を続けることが困難となっている事業者が増加しています。その影響で今後大幅に伸びると考えられているのが中小企業の“M&A”です。
どの業種も深刻な業績悪化を受けており、今後は多くの経営者が緊急で買い手を見つけて事業を売却することを余儀なくされると予測されています。そのため、こういった経営者の大多数が、手軽かつ素早くM&Aを実施できる「ネットを活用したM&A」に登録することになります。
言い換えると、コロナショックの影響で、買収を希望している買い手は通常よりも安価に事業や会社を譲り受けることができるタイミングが来るとも言えるのです。
マッチングしたら確認すること
買収後にシナジー効果の獲得や業績の向上などのメリットを得るには、マッチングした売り手企業についていくつか確認すべきことがあります。ここでは、買い手企業がM&Aで確認すべき4つのポイントをご紹介します。
正しい決算書(3期分)を提出してもらう
買収を成功させるには、業績が低迷している企業を高値掴みしないことが大事です。買収価格や買収の可否を判断する上で役に立つのが決算書です。貸借対照表や損益計算書などの決算書を見ることで、その会社の収益性や安全性、どのような資産・負債を持っているかを判断できます。
しかし1期分の決算書だけでは成長性は判断できません。業績が衰退または横ばいの傾向にある会社を買収しても、業績アップやシナジーの獲得といったメリットは得られない可能性が高いです。
M&Aを実施する際には、正確な記載で書かれた決算書を3期分提出してもらうのがポイントです。3期分の決算書を確認すれば、業績の推移から成長性(将来性)を判断できます。成長性が高い企業を買収すれば、高値で買収するリスクを抑えられるでしょう。
隠れ負債や偶発債務について確認する
事業を買収する企業が、M&Aを実施する際に最も注意すべきなのが「隠れ負債」や「偶発債務」の存在です。
隠れ負債とは、貸借対照表に記載されていない負債のことであり、未払いの残業代や未払いのボーナス、退職給付引当金などが該当します。ちなみに隠れ負債は、簿外債務とも呼ばれます。一方で偶発債務とは、現時点では発生するか不確かではあるものの、いずれ債務となる可能性がある事柄であり、訴訟による損害賠償や手形割引などが該当します。
「3期分の決算書を見れば、負債の状況について把握できるだろう」と思う方もいるでしょう。しかし、万が一隠れ負債や偶発債務が存在する企業を買収した場合、後から負債の存在が発覚し、想定外の出費が発生するリスクがあります。金額次第では、会社全体の業績に深刻な影響を与える場合もあるでしょう。
M&Aを実施する際は、決算書のみならず、決算書に載っていない隠れ負債や偶発債務の存在もしっかり確認しましょう。
売り手の経営者と従業員との関係はどうか、従業員はモチベーションを維持しており良好に引き継げるかを確認するM&Aでは、業績のみならず買収先の従業員に関しても確認すべきことがあります。
たとえば売り手の経営者と、その下で働く従業員との関係です。経営者と従業員の仲が親密である場合、買収により経営者が変わることで反発を受ける可能性があります。モチベーションが低下したり、最悪の場合離職してしまうケースもあるので注意が必要です。
一方で経営者と従業員の関係が悪い場合も、従業員が持つ経営者に対するマイナスのイメージを引き継いでしまい、円滑に関係を構築できないかもしれません。いずれにせよ、経営者と従業員の関係を見極めた上で、従業員に事前にM&Aを実施する旨を提示するなど、状況に応じて臨機応変に対応する必要があります。
また、現時点での従業員のモチベーションに関しても確認しましょう。従業員のモチベーションがない場合は、生産性を高めるために福利厚生を充実させるなどの対応が必要です。一方でモチベーションが高い場合は、モチベーションが高い状態をスムーズに引き継ぐために、待遇を良くするなどの対応が求められます。
商圏エリアやマーケティングの改善点など、買収後に何をすれば売上UPにつながるのか、シナジー効果が得られるのかを検討する商圏エリアやマーケティングに関する改善点を洗い出したり、売り上げアップやシナジー効果につながる施策を検討することも、買収する側が意識すべき重要なポイントです。
たとえば、販売促進の施策が自社製品のターゲットにとって馴染みのないものであれば、改善すれば売り上げをアップできるかもしれません。また、類似業種で商圏エリアが被らない企業を買収すれば、販売エリアを広げることができるでしょう。
買収には膨大な費用がかかるため、両者の売り上げが単純合計になるようなM&Aでは意味がありません。両社が別々に事業を行う場合よりもより多くの売り上げを得られたり、技術力や販売ノウハウが大幅に向上するようなM&Aを実施する必要があります。
そのためには、売り手の経営戦略やマーケティング施策の改善点を特定し、何をすれば問題の解決につながり、売り上げ向上などの効果を得られるかを検討しましょう。
デューデリジェンスを必ず行う
M&Aには前述した「隠れ負債」などのリスクがあるため、買い手はデューデリジェンス(売り手企業の精査)を必ず行う必要があります。この章では、デューデリジェンスの重要性や実施する際のポイントをお伝えします。
買収後に問題なく経営を引き継ぐために
買収後に問題なく経営を引き継ぐには、デューデリジェンスの実施が欠かせません。デューデリジェンスを行う分野には、ビジネスや人事など様々あります。
その中でも、とくに財務/税務分野に関するデューデリジェンスをしっかり実施することが、M&Aの成功につながります。
具体的には、決算書の分析により売り手の成長性や収益性、安全性を財務的な観点から検討したり、隠れ負債や偶発債務の調査を行い、M&Aで生じ得るリスクを洗い出すことが、財務/税務デューデリジェンスの主な業務となります。
デューデリジェンスには膨大な手間や費用がかかるため、どうしても大企業のM&Aでない限り軽視される傾向があります。しかし中小企業のM&Aでも、デューデリジェンスの実施は非常に大事です。
大企業ほど精密に広範囲に企業精査を行わなくても、財務や税務の分野など、精査する範囲を絞ってでも必ず実施すべきです。
デューデリジェンスは専門家に任せよう
デューデリジェンスの実施には、調査範囲ごとに専門知識が必要です。たとえば財務や税務の分野に関しては、会計や税務、ファイナンスに関する高度な知識が求められます。
そのため、ご自身でデューデリジェンスを実施するのは困難です。手間がかかるのはもちろん、知識がない人が調査しても、正確な視点で売り手企業の問題点やリスクを洗い出せないためです。
買手はM&Aの取引で大きなリスクを負うため、各分野の専門家にデューデリジェンスを依頼し、正確な調査を実施するのが最善策です。
バトンズを利用すれば、案件の規模に合わせて、必要な範囲だけでデューデリジェンスを実施している専門家を簡単に検索できます。M&Aにより他社を買収する際は、バトンズで「デューデリジェンス 」と検索してみて、ご自身に必要な専門家を見つけてみてください。
M&Aによる買収は慎重に
売り上げを伸ばしたり、技術力や商圏などの分野でシナジーを得られるなど、買い手にとってM&Aは大きなメリットを持つ戦略です。しかし一方で、隠れ負債などのリスクもあるため、買収は慎重に実施する必要があります。
少しでも買収によるリスクを抑えるためにも、M&Aを実施するときは専門家にデューデリジェンスの実施を依頼するのがベストです。
コロナショックにより、多くの中小企業が苦境に立たされています。厳しい経営環境を勝ち抜く手段の一つとして、他社を買収する戦略を検討してみてはいかがでしょうか?
なおM&Aを実施するに際しては、売り手の財務や税務分野のデューデリジェンスを行い、少しでも損失を抱えるリスクを低減しましょう。
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