中小企業経営者の最後の仕事は現在の事業の引継ぎです。事業継承を行うためには様々な準備が必要ですが、経営者の方の中には全く準備をしていない方もいます。このような場合、事業の引継ぎがうまくいかないケースが見受けられます。
事業の引継ぎは単にバトンを渡すだけではなく、経営者は「承継は簡単にいかないものである」と認識しておく必要があります。では、事業承継がうまくいかないのはなぜなのでしょうか。今回は、事業承継時に立ちはだかる問題とその対策についてご紹介します。
相次ぐ中小企業の廃業
廃業する中小企業は増加していますが、その理由は経営難だけではありません。実は事業の引継ぎができずに廃業するケースも多く見受けられます。まずは中小企業の経営者の現状について紹介します。
進む経営者の高齢化
中小企業経営者の高齢化は進行しています。1995年の中小企業経営者の平均年齢は約47歳だったのですが、2015年には約66歳となり、ここ20年間で大幅に高齢化しています。現在も中小企業経営者の高齢化は進行していると考えられます。中小企業経営者の現役引退の平均年齢は約70歳ですので、事業承継の必要に迫られている中小企業数が沢山あることが伺えます。
後継者の不在
中小企業のスムーズな事業承継の阻害要因となっているのが後継者の不在です。一昔前であれば、企業は家族経営で代々引き継がれるものでした。
しかし、少子化を背景に家族へ事業を承継する「親族内承継」は減少しています。家業を継ぐということは選択肢の一つに過ぎず、親族内でも後継者を志望する人が見つからなくなっています。また、平成29年度(2017年度)の中小企業の動向によると、開業率はここ数年間で増加しているものの、事業の将来性への不安や、本人や家族が担保を嫌い、経営者としての重責を背負いたくない人もいるため、親族外の従業員の中でも後継者を見つけにくくなっています。
こうした後継者不足により、社内での「内部承継」が減少しています。
事業承継の何が問題なのか
中小企業の経営者は、自身の高齢化によって事業承継の必要に駆られているものの、後継者の不在により事業承継しにくい環境であることを解説しました。しかし、事業承継できない原因はこのように経営者が置かれている環境と、経営者自身の問題だけに留まりません。事業承継を行うプロセスにおいても、様々な問題が発生する可能性があります。
ここからは、具体的に起こり得る問題について解説します。
事業承継について認識していない経営者が圧倒的に多い
1つめの原因は、経営者の事業承継への認識が甘いことです。事業承継は、事業承継計画書の作成や後継者の育成など、するべきことが多い上に時間がとてもかかります。このようなことから、事業承継には5年以上かかると言われています。
しかし、事業承継準備の必要性を認識できていない中小企業経営者が圧倒的に多いのが現状です。
中小企業庁のガイドラインによると、経営者の平均引退年齢は70歳で、承継には5~10年と言われているため、60歳ごろには準備を進めるべきとされています。
事業承継のタイミングが「ちょうど良い時期だった」と答えた割合が多かったのは40~49歳の層という調査結果もあり、事業承継の準備はできるだけ早く行うことが望ましいことがわかります。早いうちから積極的に後継者候補を探しておくようにするべきでしょう。
後継者はすぐに育成できない
2つめの問題点は後継者をすぐに育成できないことです。後継者には最低限、
・経営者としてのスキルや考え方を持つこと
上記2つの習得を求められます。しかし、これらの知識・マインドを持った人材はほとんどいません。
これらを取得させるためには経営者が後継者に対して教育し、経験を積ませる必要があります。
後継者を育成する期間は会社の規模や経営者の考え方により異なりますが、平均して5~10年かかります。
そのため、経営者は後継者をすぐに育成できないことを認識し、早いうちに事業承継計画書を作成する必要があります。
親族内承継・従業員承継で後継者が引き継ぐ際、簡単に借入金や株価の買取のための資金を捻出できない
3つめの問題点は、資産などの引継ぎに必要となる資金を捻出できないことです。この問題は親族内承継と従業員承継で異なります。
親族内承継の場合、会社に関する資産(株式など)は贈与することになります。しかし、贈与した場合、贈与税が発生します。
会社に関する資産は現金化できないものが多いため、贈与税を納税できないという問題が発生します。
従業員承継の場合、会社の株式を売買することで経営権を取得し、事業を引き継ぐことになります。
しかし、一般的に従業員は多額の資産を持っているとは考えづらく、ほとんどの場合が銀行からの融資によって事業承継することになります。
事業承継でつまずかないために
最後に、事業承継をスムーズに行うために具体的な対策について紹介します。
事業引継ぎの選択肢
まずは、事業引継ぎののスキームを選びましょう。事業承継の方法には、
・従業員への承継
・M&Aによる外部承継
上記の3種類があります。すでに後継者が見つかり、後継者を育成する時間を確保でき、そのうえで親族に引き継いでもらう場合は親族内承継、従業員に引き継いでもらう場合は従業員への承継となります。
一方で、後継者は不在、かつ後継者を育成する時間は無いものの事業を引き継いでもらいたいと考えている場合、M&Aによる外部承継を行います。M&Aによる事業承継に必要な期間は売却理由や社内事情によって変わりますが、ふさわしい相手を選ぶのであれば最低でも6か月程を見積もるべきでしょう。
二―ズのある事業であればさらに短くなることもあります。
内部承継か外部承継かを、業界の動向等も見極め、早めに事業承継に取り組む
例えば、現状経営は安定しているものの、将来的に下降すると予測されている業界があったとします。この業界の事業承継の場合、親族や従業員に引き継がせる内部承継が必ずしも得策であるとは言えません。
早いうちにM&Aによる外部承継を行い、多額の売却益を得る方が良いと考えられます。
このように内部環境・外部環境すべてを見極めてから最善の判断をして、事業承継に取り組むようにしましょう。
事業承継における資金面の対策
「事業承継にはある程度の資金が必要である」と先述しました。親族内承継については事業承継税制を利用することができます。事業承継税制とは、知事の認定、非上場・中小企業であるといった要件を満たすことで、譲渡される株式にかかる相続税・贈与税がの納税が猶予される制度です。
これにより納税のための資金捻出を急ぐ必要がなくなる可能性があります。まずは中小企業庁のホームページで要件を確認しましょう。
内部承継が難しい場合、外部承継することで、会社は成長し続けることができる
会社の成長のためにも、後継者は優秀な人材に任せたいものです。しかし、その要件に当てはまる人を内部で探すには限界があると考えられます。内部承継が難しいと判断した場合は、優秀な経営者が経営している法人にM&Aで外部承継することで、会社や事業は成長し続けることができます。
頼れる後継者に事業承継するために
この記事では中小企業の事業承継の問題やその解決方法について紹介してきました。内部承継や外部承継にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、一概にどのスキームが良いか述べることはできません。しかし、後継者問題や引継ぎまでの時間がない等を理由に廃業を考えている方は、会社の売却益が得られる可能性があるM&Aによる外部承継についても考えてみてください。
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