合同会社は持分会社のひとつで、意思決定の方法や出資者などが株式会社と異なります。設立するメリットは、コストが高くない点や節税につながる可能性がある点です。
本記事では、合同会社や合名会社、合資会社の特徴を解説します。
会社法による会社の形態
会社を経営するうえで守るべきルールが定められた、「会社法」と呼ばれる法律があります。この中で、会社は大まかに4種類に分類されています。「株式会社」「合名会社」「合資会社」そして「合同会社」です。
以前は「有限会社」と呼ばれる分類があり、小規模に事業を始めたい経営者は有限会社を設立する傾向がありました。法律が改正されたため今では有限会社を新設することができなくなり、以前から存続している有限会社は「特例有限会社」という分類に変わっています。
株式会社と持分会社
まず、株式会社と3種類の持分会社の特徴を簡単に説明した上で、持分会社の一種で本記事のメイントピックである合同会社をより深く解説していきます。
現在設立可能な4種類の会社のうち、合名会社・合資会社・合同会社の3種類をまとめて「持分会社」と呼ぶことがあります。株式会社と持分会社は何が違うのでしょうか。
以前は会社を設立するための必要最低資本金が、1つの違いとして挙げられました。会社設立のためには一定額以上の資本金を用意する必要があり、株式会社の場合は1000万円、有限会社の場合は300万円でした。しかし現在はこの最低資本金制度が廃止となり、法律上はどの区分の会社であっても1円の資本金でも設立することができます。そのため、株式会社と持分会社に最低資本金の違いはありません。
株式会社と持分会社の最大の違いは、出資者の立ち位置です。株式会社では出資者と経営者が分離している一方、持分会社では出資者が会社の経営を行っています。そして、出資者の会社に対する責任の大きさも形態ごとに異なります。株式会社と3種類の持分会社の特徴や制度上の決まりをそれぞれ具体的に見てみましょう。
株式会社の特徴について
まずは、親しみのある「株式会社」の特徴を見ていきましょう。
株式会社は、出資者から集めた資金を資本金として事業を行う会社です。株式を発行することで資金を募り、出資者は株主となって経営方針などに対する権利の一部を保有します。出資者の知名度が高いとその会社の社会的な信用度が高くなりやすいという特徴もあります。
一般的に出資者は経営者とは別で、経営者が事業の中で生み出した利益を出資者に還元する方式で経営していて、「所有と経営の分離」と表現されることもあります。
また、株式会社は出資者が経営に関わらなくてもよいことから、不特定多数の人が出資することができます。このため、大規模な事業展開を目指す場合に有益な形態と言えます。
制度上の決まりとして、株式会社には「有限責任社員」が1名以上いなければいけません。有限責任社員とは、会社の債務に対して有限の責任を負う社員のことです。会社が債務を抱えた場合、出資した金額分の責任を負わなければいけませんが、追加で出資したり弁済したりする義務はありません。
なお、一般的には「社員」と言うと会社の従業員を指しますが、会社法で言う「社員」は会社の出資者のことを指すので注意しましょう。
持分会社の特徴について
持分会社は、「合名会社」「合資会社」「合同会社」の3種類です。共通した特徴は、株式会社と異なり所有と経営が分離されていないという点です。つまり、基本的に出資者が会社を経営しています。それぞれの違いは、社員の構成です。詳しく見てみましょう。
合名会社とは
持分会社の一種である「合名会社」は、無限責任社員のみで構成された会社です。有限責任社員と異なり、無限責任社員は会社の負債に対して出資額を超えて無制限に責任を負わなければいけません。そのため、事業がうまくいかなかった場合は出資者が全責任を負わなければならず、非常にリスクが大きいと言えます。
一方で、ほかの形態と比較すると定款(会社の規則を定めたもの)の自由度が高く、また、株式会社よりも低費用で会社の設立ができるというメリットがあります。少人数かつ小規模で、親族など親しい人と共に事業を始める際に選ばれることが多いのが合名会社です。
合資会社とは
同じく持分会社の一種である「合資会社」は、無限責任社員と有限責任社員がどちらも1名以上いなければ設立できません。そのため、合資会社を新設するためには最低2名の社員が必要なのが特徴です。一般的に、無限責任社員が経営の中心を担うことが多くなっています。
合同会社とは
「合同会社」は持分会社の中で最もポピュラーな形態の会社です。株式会社と同じく出資者全員が有限責任社員であり、リスクの高い無限責任社員を選定する必要がないからです。
株式会社よりも設立費用が安い点や、決算関連の公表義務がない点など、持分会社ならではのメリットも備えており、株式会社に定められている取締役会などの機関を設置する必要もありません。そのため、小規模で事業を行う場合には株式会社ではなく合同会社を選択するケースも多く見られます。
なお、GoogleやApple、Amazonなど外資系の有名企業も、日本法人は合同会社の形態をとっています。
合同会社をより深く理解しよう
合同会社は、2006年の会社法施行に伴い、米国のLLC(Limited Liability Company)をモデルとして導入された比較的新しい会社形態です。ちなみに、合同会社を省略して表記する際には(同)を用います。
ここから、合同会社をより深く理解できるように、株式会社との違いや代表社員・業務執行社員の役割を確認していきましょう。
合同会社と株式会社の違いとは
株式会社の場合、株主=経営者になるとは限らないのに対し、合同会社は持分会社の一種であるため、基本的に出資者が経営に携わります。また、意思決定方法や設立手続きも両者の異なる点です。
それぞれの違いを以下の表に簡単にまとめました。
合同会社 | 株式会社 | |
---|---|---|
出資者 | 有限責任社員として経営に携わる | 株主 |
業務執行の意思決定 | 社員、業務執行社員、代表社員の同意 | 取締役会や株主総会 |
利益配分 | 定款で自由に規定 | 持株数に応じて配分 |
設立手続き | 定款認証不要 | 定款認証必要 |
代表社員や業務執行社員の役割
表に示したように、合同会社には社員、業務執行社員、代表社員が存在します。ここでいう社員とは、会社に勤務する人のことではなく、合同会社の出資者のことです。
原則として、合同会社では全社員が経営に携わります。しかし、定款に定めることで経営に携わる「代表社員」「業務執行社員」と携わらない「社員」に分けることも可能です。
代表社員には、株式会社の代表取締役のように会社を代表する役割があります。一方、業務執行社員は、代表社員のもとで経営に携わる株式会社の取締役のような立場です。
合同会社を設立する3つのメリット
すでに述べたとおり、Google、Apple、Amazonといった有名外資系企業の多くが日本法人を合同会社の形態で設立しています。株式会社、合名会社、合資会社ではなく、合同会社で設立することのメリットは以下の3点です。
- 設立コストが低い
- 経営の自由度が高い
- 節税につながりうる
各メリットを詳しく解説します。
1. 設立コストが低い
株式会社と比べると、合同会社は設立コストが低い点がメリットです。一般的に、株式会社を設立するためには20万円以上かかるのに対し、合同会社は10万円前後で済みます。また、株式会社と異なり、公証人役場で定款認証を受ける手間もかかりません。
合同会社設立でかかる具体的な項目は、定款用の収入印紙代、登録免許税、実印作成料金、印鑑証明書取得費、商業登記簿謄本発行費、資本金などです。
2. 経営の自由度が高い
株式会社と比べると、経営の自由度が高い点も合同会社のメリットです。株式会社では、出資比率に応じて利益分配することが原則であることに対し、合同会社は定款に定めておけば出資金額の制約なしで自由に利益を分配できます。
また、株式総会を開かずに経営判断できるため、比較的迅速に業務運営を進められる点もメリットです。
3. 節税につながりうる
設立にあたって株式会社のような手間や費用がかからない合同会社でも、「会社」であることに変わりはないため、個人事業主で運営するケースに比べ節税につながりやすい点がメリットです。
個人事業主の場合、売上から必要経費を差し引いた個人の所得分に税金(所得税)が課されることに対し、合同会社や株式会社などの法人は売上から必要経費や役員報酬・給料を差し引いた所得に税金(法人税)が課されます。
所得が330万円超であれば、法人税の方が所得税より低くなる可能性が高いです。
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」、国税庁「No.5759 法人税の税率」
合同会社を設立する3つのデメリット
多くのメリットが期待できるため、会社の設立形態として合同会社を選択する企業が増えつつあります。2011年に設立された合同会社数は9,130社であったことに対し、9年後の2020年には、その3倍以上にあたる33,236社でした。
ただし、合同会社設立には以下のデメリットもある点に注意が必要です。
- 株式発行による資金調達ができない
- 株式会社よりも認知度が低い
- 社員対立が業務に支障を与える
それぞれ確認していきましょう。
出典:e-Stat「種類別 合同会社の登記の件数(平成23年~令和2年)」
1. 株式発行による資金調達ができない
株式発行で得た資金には返済義務がないため、自己資本を充実させて財務内容を改善させられます。しかし、合同会社にはそもそも株式の概念がないため、株式発行で資金調達はできない点がデメリットです。
利益や助成金・補助金で運転資金を賄いきれない場合、金融機関からの融資に頼ることになるため、負債の増加につながります。
2. 株式会社よりも認知度が低い
比較的新しい会社形態ということもあり、株式会社と比べると認知度が低い点がデメリットです。また、手続きの手間やコストの低さや決算公告の義務がないことから、株式会社より信頼されにくい傾向にあります。
そのため、合同会社であることで、新規取引先を見つけにくかったり、人材を集めにくかったりする可能性に注意が必要です。
3. 社員対立が業務に支障を与える
合同会社は株主総会によらずに、スムーズな業務運営を進められます。ただし、各社員が議決権を持つ仕組みのため、万が一社員間で対立が起こると重要事項を決められず、業務運営に支障をきたす点がデメリットです。
例えば、あらかじめ定款で定めていない限り、社員全員の同意がなければ定款の変更ができません(会社法第637条)。
合同会社のM&A成功事例
バトンズでは、オーストラリアに住む日本人大学生が興した留学支援事業を教育関連の事業を営む企業に譲渡した事例や、自社ブランドの化粧品販売事業をIT企業に譲渡した事例のように、合同会社を株式会社に譲渡したM&A事例が豊富です。
また、優良リフォーム支援団体協会の運営会社が占いの館を営む合同会社をM&Aした本業と大きく異なるM&A事例も紹介しています。気になる方は、下記記事をご参考ください。
特例有限会社の特徴について
以前は株式会社とは別に「有限会社」という区分がありましたが、2006年に施行された会社法により有限会社の新設ができなくなりました。そこで、代わりにできたのが「特例有限会社」です。
従来の有限会社は現在、法律上では株式会社という扱いになっています。しかし、既存の有限会社は今までの制度の下で経営することが可能です。そのため、株式会社ではなく特例有限会社と呼ばれているのです。ただし有限会社や特例有限会社を新たに設立することはできず、また、正式な株式会社になるためには手続きをしなければいけません。
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