マイナス金利や個人向け金融サービスの規制強化などにより、銀行の収益力は大きく変化しています。そんな中、金融業界にはデジタル化の波が押し寄せており、これらを背景に各銀行は構造改革を迫られている状況です。今回は、デジタル化による銀行の未来について考えます。
地方銀行は特に楽観視できない
現在の銀行を取り巻く環境は非常に厳しくなっています。人口減少に伴い貸金の需要が低下していることに加え、国債に依存している資産運用では2016年1月から続いているマイナス金利の影響で収益を得ることができていません。この章では、銀行を取り巻く現在の環境について解説します。
既存事業だけでは厳しい
銀行業務のなかでも、お金を預金として集め、集めたお金を企業に融資して金利を得る貸出業務が銀行のビジネスモデルの中核です。特に地方銀行ではこの貸出業務による利益は業務粗利益の85%を占めるほど大きな収益源です。しかし、先に紹介したマイナス金利や規制強化により、伝統的な貸出業務だけでは、以前のように収益を得ることができなくなっています。貸出業務による収益の割合が高い地方銀行の経営は非常に厳しくなっているのが現状です。
みずほ総合研究所「地域銀行のビジネスモデル転換の方向性」によると、地方銀行105行をあわせた2018年3月期の当期純利益の合計は9,563億円で、前期比0.9%の減益となっています。個別に見てみると、105行中59行が減益となっています。優良企業にお金を貸して金利収入を得る既存のビジネスモデルにおいて、各銀行はお金を貸すために収益が減ることを覚悟で金利の引き下げ競争を行っているのが現状です。過当な金利競争のせいで、本業である貸出業務で得る収益が減少の一途をたどっているのです。
キャッシュレスの潮流
日本は現在、国を挙げてキャッシュレス化を進めています。経済産業省は、2025年までにキャッシュレス比率を現在の約20%から40%までに引き上げる目標を打ち出しました。キャッシュレスの推進によって、既存の銀行業務が大きく変わる可能性があります。
従来、銀行は支店を出して顧客との接点を増やすようにしてきました。しかし、キャッシュレス化が進むと顧客との接点は大きく減ります。クレジットカードや決済アプリが浸透することで現金を持ち歩く必要がなくなり、銀行窓口で行っていた送金などの手続きもネットバンキングで完結するからです。
このように本業である貸出業務の利益が減り、さらに顧客との接点が減ることが想定されるなか、銀行は顧客とのコミュニケーションの創出が新たな課題のひとつになるのではないでしょうか。
銀行の未来
先にご紹介した業界の現状をふまえ、銀行はどのように変わっていくのか、また変わっていくべきなのか。従来の銀行業務では成り立たなくなる日が来ようとしている今、変革を求められています。
合併が進む(規模の経済性)
今後は、銀行の合併が進む可能性があります。「規模の経済性」とは生産量や販売量が増えることで商品1単位あたりの製造コストが下がり、生産性が上がるということで、銀行業では取引量が増えることで相対的に固定費が下がります。合併によって、重複する人件費や企業調査・支店営業のコストが相対的に減るため、効率性を追求した経営ができるようになります。
また地方銀行は、規模が小さいことが多く、単独では大型の取引を行えないこともあります。合併によってより大きな案件に融資できるようになることで、引き続き貸金業務での収益を上げることができると予測されます。
リアルビジネス化(ハンズオン型株式投資)
銀行は、従来の貸金業務からリアルビジネス化していくとも考えられています。要は、貸出のみに留まらずエクイティ投資家としての事業育成に注力していくのではないかということです。その一つの手法として、ハンズオン型株式投資が挙げられます。ハンズオン型株式投資とは、株式を取得するだけでなく株式を取得した企業の経営に関わる投資のことをいいます。
従来、銀行は審査をして企業にお金を貸し出し、金利収入を得ることが主な業務でした。しかし今後は、銀行も融資した企業や株式を取得した企業の経営に深く関わる必要があります。融資先や株式を取得した企業が成長し規模が大きくなることで取扱額が増え、収益を増やすことができるからです。この提案解決型のビジネスは大手都市銀行である三井住友銀行がいち早く行っていますが、今後他の銀行も参入してくる可能性は十分あります。
デジタル化・キャッシュレス化への対応が今後必須に
テクノロジーの進化を背景に、預金、決済、融資といった金融サービスの形が変わることが予測されます。ファイナンス分野のテクノロジー活用をFinTechといい、銀行以外の企業が「FinTech企業」として金融業界に参入してきています。
これにより銀行と異業種の垣根がなくなり、業界の構造が変わっていくことが予測されます。銀行業務の中心になっていくデジタル化に対応し、大きな収益源になりうるキャッシュレス競争に勝利することが、銀行にとっての重要課題といえます。
次に、デジタル化に伴う銀行のアプローチについて考えます。
デジタル化に伴う銀行のアプローチ
チャレンジャーバンクの台頭
チャレンジャ―バンクとは、普通預金や当座預金のサービスをオンラインで完結できる、新興の銀行のことです。日本ではまだまだチャレンジャ―バンクは浸透していませんが、株式会社Kyashという会社が、スマートフォンアプリにバーチャルのカードを発行してモバイルでの決済や送金に対応するサービスを提供しています。
Kyashは三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行などのメガバンクと提携しています。今後、日本でもチャレンジャ―バンクのサービスは増えていくことが予想されます。
オープンバンキング
オープンバンキングとは、顧客の同意を得れば、銀行が保有する顧客データを提携企業が利用できる仕組みのことをいいます。オープンバンキングの分かりやすいサービスは、家計簿アプリです。
家計簿アプリとはスマートフォン上で収支管理をするサービスのことで、口座を持っている金融機関のデータを一元管理することができれば、給料振込やクレジットカードの利用履歴から残高や支出の内訳を自動で可視化できるようになります。つまりお金の管理がより簡単に便利になるということです。
銀行からすると、これによってインターネットバンキングの利用顧客増を見込むことができ、金融商品の効果的なレコメンドなどができれば、収益化に繋げることもできます。オープンバンキングも各銀行が力を入れている分野です。
M&Aでデジタルシフトを加速
デジタル化のためには、自社リソースだけでなくM&Aによって技術を迅速に獲得し、オープンイノベーションによる改革を推進する必要もあるでしょう。
例えば、広島銀行はふくおかフィナンシャルグループ傘下であるiBankマーケティング株式会社の株式を取得し(資本業務協定)、iBank社が提供するスマートフォンアプリ「wallet+」の導入・共同開発を行うことを発表しています。これによりアプリ内で口座残高や収支確認ができるようになり、さらにパートナー企業からのクーポン配信といった非金融サービスも展開できるようになります。
まだまだ欧米に比べるとデジタル化への道は長いですが確実にデジタル化を加速している地方銀行も増えつつあります。この先、M&Aや提携によって技術を獲得し、スピード感を持ってデジタル化を推進していくことが銀行の生き残り戦略となると考えられます。
デジタル化で変わる銀行業界の未来
金融業界は激動の時代を迎えています。数年後に、キャッシュレスを含むデジタル化の勝者がはっきりしてくるでしょう。デジタル化という大きな変化に順応することが銀行の未来を大きく左右することは間違いなさそうです。
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