
M&Aの交渉時に度々議論にあがるCOC(チェンジオブコントロール)条項について知っていますか?
企業の買収を検討している買い手であれば必ず知っておかなければならない、取引先との契約に関する条項です。今回はCOC(チェンジオブコントロール)条項の意味や仕組みについて簡単に解説します。
COC(チェンジオブコントロール)条項とは
「チェンジオブコントロール条項」は、会社の経営陣が変更する場合の取引先への対応について、商取引の契約書に記載されている項目のことです。商取引や銀行取引などの契約書に記載されます。COC条項があると、会社の経営権が他者に移譲される際に、取引先に対する事前通知や承諾が必要となります。取引先は、対象企業が買収され経営権が移動した後も取引を続けると、何らかの不利益を被るリスクがあると判断した場合、対象企業との契約を解除することが可能です。
例えば、店舗物件を借りている会社/事業の経営者がM&Aを実行する場合、その物件オーナーの承諾が必要になります。もし物件オーナーが経営陣の移動に承諾しなかった場合は、その企業は退去を命じられ経営できません。
よって、買い手は事前に売り手側の契約書類のなかでも、特にCOC(チェンジオブコントロール)条項については十分に確認し、COC条項に対応する必要があるのかチェックしておくことをおすすめします。
チェンジオブコントロールの仕組み
COC条項によって具体的に何が発生するのか分かりにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。ここではCOC条項の仕組みと役割についてご説明します。
先述の通り、COC条項があることで、ライセンス契約などを締結している取引先企業が契約を破棄することができます。これは、主に取引先の技術や情報が漏洩することを防ぐ意味があります。経営陣が変わることで取引先から企業への信頼も変わってしまうため、安心して取引を続けるために必要な条項です。
また、COC条項は売り手にとっても、敵対的M&Aを防ぐ意味を持ちます。COC条項があることで、買い手が株を買い占め経営権を奪い取ったとしても、取引先が契約を破棄すれば本来得られるリソースを得ることができなくなります。そのため、買い手にとって敵対的M&Aへの魅力が少なくなり、防衛策として機能するのです。
通知義務とは
取引先が支配権の変動を把握するために、COC条項によって通知義務が定められる場合があります。契約書に対する通知義務の記載例は以下の通りです。
(通知義務)
第〇条 甲が合併、株式交換、株式移転または甲の株主が全決議権の2分の1を超えて変動した場合など、甲の支配権に変動があるときは、事前に乙に対してその旨を書面で通知しなければならない。
上記の記載例ではM&Aの実行前に通知を義務付けていますが、事後での通知でも問題がないケースもあります。
契約解除とは
経営陣の変動に厳しい取引先の場合、チェンジオブコントロール条項に契約解除を定めているパターンがあります。契約書に対する契約解除の記載例は以下の通りです。
(通知義務及び契約解除)
第〇条 甲が合併、株式交換、株式移転または甲の株主が全決議権の2分の1を超えて変動した場合など、甲の支配権に変動があるときは、事前に乙に対してその旨を書面で通知するものとし、乙は本契約を解除できる。
上記の記載例では通知義務と契約解除がセットで決まってあり、買収する側のリスクは通知義務のみに比べて大きくなります。
COC条項が使われるケース
取引においてCOC条項が使われるのは、次のような理由があるからです。
1. 買い手と取引先が競合
2. 買い手の信用度が低い
3. 以前から契約解除が望まれていた
それぞれのケースについて簡単に見てみましょう。
買い手と取引先が競合
例えば、買い手企業が現在の取引先と競合関係にあり、買収によって取引先の技術やノウハウが流出するといった形で、取引先にとって不利になるケースがあります。この場合、取引先の優位性を保つために、チェンジオブコントロール条項を活用されます。契約解除を定めたチェンジオブコントロール条項があれば、買収後に取引先は競合する買い手企業と取引せずに済みます。
買い手の信用度が低い
ビジネスでは取引相手の信用が重要であり、信用度が低い相手と取引する企業は少ないもの。買収する企業が取引先から信用されていなければ、COC条項で契約が解除される可能性があります。
以前から契約解除が望まれていた
そもそも買収されようとしている企業とその取引先においてマイナス要素があり、前から契約解除が望まれている場合もあります。M&Aをきっかけに契約解除に踏み切る取引先も一定数存在します。
M&A成約前にCOC条項を確認しておく
M&Aを行う際には、実行後にも円満に取引先と関係を続けるためにも必ずCOC条項を確認し、対応を行う必要があります。ここではCOC条項の対象文書や対応策について簡単に説明します。
COC条項が記載されている文書とは
買収されようとしている企業が保有する「銀行取引約定書」、「取引基本契約書」にCOC条項が記載されているのが一般的です。取引先によっては上記以外の契約書にCOC条項を記載する場合もあります。記載の有無や内容を事前に確認するようにしましょう。
買い手にとってのリスク
COC条項によって、買い手側は期待していた取引先との契約が解除される可能性があります。取引ができないとなると、欲しいと思っていた技術やノウハウを得られない可能性や、事業を継続できないリスクを伴う危険もあります。せっかく会社を買収したのに、事業を続けられなければ意味がありません。COC条項に対して、買い手は次のように対応することが必要です。
買い手の対応策
COC条項は、基本的にデューデリジェンスの実施時に見つかります。条項が存在したままM&Aを実行すると、重要な取引先との契約が解除される場合があるため、デューデリジェンスはしっかりと行わなければいけません。
COC条項の対応策は具体的には以下です。
● 取引先から当該条項を削除する覚書を取得する
● 契約解除をしない合意書を入手する
こうして、買い手側はCOC条項による契約解除を恐れずにすみます。もしM&Aの実行前に事情を取引先に伝えるのが難しい場合は、買収後に素早く上記の書類を手に入れることが重要です。
COC条項を考慮したM&A交渉を
M&Aによって会社が買収されようとするとき、取引している企業がCOC条項によって契約を拒否し、交渉が破断するケースは少なくありません。買い手側は交渉の段階でCOC条項による破断のリスクを防ぐために、きちんと法務デューデリジェンス行い、然るべき対応を取りましょう。
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