中小企業のオーナーは、後継者不在問題や今後の事業計画など大小様々な課題を抱えていると思います。こうした課題の解決策として、M&Aはますます世間で必要とされてくると考えられます。
しかし、M&Aを行うにあたっての大きな課題が、専門家へ依頼するとそれなりの費用が発生する点です。しかし、経営者はそこで事業承継を諦める必要はありません。返済不要の補助金を活用する道があります。今回は、M&Aにおいて活用できる補助金について紹介します。
1.中小企業庁 事業承継補助金
中小企業庁が実施する事業承継補助金は、中小企業の世代交代を促進し、国の経済を活性化することを目的とした補助金で、事業承継後に経営を革新することを条件として、事業承継に掛かる費用の一部を補助する制度です。
対象は、国内で事業承継を行っている中小企業、小規模事業者、個人事業主、特定非営利活動法人(NPO法人)となっています。
また対象条件として、地域に貢献している事業者であり、かつ承継者が経営経験や事業の知識を有していること、創業、承継に関する研修等を受講することとなっています。
この条件にある地域貢献とは、
- 地域住民を雇用している。
- 地域や周辺地域からの仕入れを多く行っている。
- 地域の強みを生かして事業を展開している。
- 地域の経済に貢献するプロジェクトに於いて、中心的な役割を担っている。
といった取り組みのことを指しています。
補助の対象
補助の対象となる費用は、以下のようなものがあります。
- 人件費/設備費/原材料費/外注費/委託費/広報費/知的財産等関連経費/謝金/旅費/店舗等借入費/会場借料費/マーケティング調査費/申請費用作成費更に、既存事業の廃業、集約を伴う場合には、以下の費用が上乗せ分として対象となります。
- 廃業登記費用/在庫処分費/解体費・処分費/原状回復費
補助の条件
補助の対象となる事業承継は、代表者の交代だけでなく、その後経営の革新を行うことの両方を満たすことが必要となります。
①代表者の交代
- 法人の代表者が退任し、後継代表者の就任による事業承継
- 個人事業主を廃業し、後継者が開業することによる事業の譲渡
- 法人から個人への事業の譲渡または個人から法人への事業の譲渡
②経営革新
ここで言う経営革新とは、経営の革新を目的として新しい取り組みを行う事の総称です。新規事業だけでなく、これまでの事業の中で新商品、新サービスの提供をしたり、提供方法を変えるなども経営革新に含まれます。このように、事業を承継したのちに企業の新しい価値を提供する為の資金を、補助金として受け取ることが可能です。
手続きのスケジュール
事業承継助成金の手続きの流れは、応募期間が短く補助事業期間も限定されていますので、事前にしっかりと計画を立て手続きを行うことが必要です。
7月募集の場合の手続きの流れは以下のようになります。
1.相談(7月)
事業承継補助金を受けるには、認定支援機関への確認が必要となります。
認定支援機関は、取引先の金融機関、商工会議所で紹介が受けられます。
2.応募(8月)
必要書類を作成し、期間内に郵送または電子申請で申請書を提出します。
募集要項にある評価ポイントを抑えて、記載することが重要です。
評価ポイントは以下の5つとなっています。
①独創性
ターゲット顧客や市場に対して、新たな価値を提供する商品・サービス提供方法に独創性があること。
②実現可能性が高い
商品・サービスのコンセプトと具体化のプロセスが明確であり、事業実施の必要人員や体制が明確であること。
③新たな取り組みの収益性
ターゲット顧客や市場のニーズを的確に捉えた商品・サービス企画であり、事業全体の収益性の見通しが示せること。
④新たな取り組みの継続性
計画通りに進まない場合を見越した事業継続計画であり、具体的なアクションプランが示されており、売上・利益計画に信頼性があること。
⑤新たな取り組みの相互作用性・相乗効果性
事業統合・事業再編において、資産や資源の最適化などの相互作用性や相乗効果性が見込まれ、統合・再編の効果が明確であること。
3.交付申請(9月)
採択の連絡を受けてから、改めて交付申請書を提出します。採択の連絡があってもこの書類を提出しなければ補助金を受けられませんので、注意が必要です。
4.補助事業実施(10月から12月)
交付決定通知書を受け取ってから事業の開始から終了までを補助事業期間内で行います。
5.報告書提出(1月)
この期間に事業報告書を提出する必要があります。
6.補助金交付手続き(2月から3月)
報告書の審査終了後、補助金の交付手続きを行うと、補助金が支給されます。補助事業の開始から補助金の支給まで半年から1年以上かかる場合もあるため、補助事業を行う際は、資金不足を見越して、金融機関へのつなぎ融資の依頼準備も必要です。
事業承継補助金の種類
事業承継補助金は、Ⅰ型とⅡ型に分かれており、以下のような違いがあります。
- 事業承継補助金I型
Ⅰ型は経営者交代タイプで、経営者が事業を後継者に引き継いで、後継経営者が新しい取り組みをするものです。
小規模事業者(従業員20人以下の事業者。卸売業、小売業、サービス業は5人以下)とそれ以外の場合で補助金率や補助金額の上限に違いがありますので、下表にまとめます。
参考:中小企業庁 平成29年度補正事業承継補助金Ⅰ型
事業者 | 補助率 | 補助上限金額 | 上乗せ額 |
小規模事業者 | 2/3以内 | 200万円 | +300万円 |
その他の場合 | 1/2以内 | 150万円 | +225万円 |
表中の上乗せ額とは、事業の転換を行う場合、廃業費用として300万の上乗せが可能となります。
- 事業承継補助金Ⅱ型
Ⅱ型はM&Aタイプで、事業承継や統合後の経営革新等を行う際に必要な経費を支援し、チャレンジを応援する制度です。
このM&A型補助金では、企業ごとに審査点を付け、その採択上位企業と、それ以外の企業とで補助金率や補助金額の上限に違いがありますので、下表にまとめます。
参考:中小企業庁 平成29年度補正事業承継補助金Ⅱ型
事業者 | 補助率 | 補助上限金額 | 上乗せ額 |
採択上位者 | 2/3以内 | 600万円 | +600万円 |
その他の場合 | 1/2以内 | 450万円 | +450万円 |
表中の上乗せ額についての考え方はⅠ型同様です。
2.自治体による助成金
中小企業庁の補助金申請には細かい条件が多く手続きは大変ですが、事業承継補助金は経営者の交代が前提条件の補助金ですので、応募数が少なく、比較的採択率の高い補助金です。この他、各都道府県で事業承継助成金を募集していますので、ご参考例を以下にご紹介します。
Ⅰ.横浜市
事業承継・M&A支援事業助成
この助成金は横浜市在住の事業者を対象としたM&A補助金です。
①目的
後継者問題等の課題を抱える横浜市内中小企業の事業承継やM&Aを支援することを目的としたものです。
②補助内容
M&A専門家に対して業務委託する場合の費用を補助します。&A専門家とは、M&A仲介業者や税理士事務所などを指します。
下記業務の委託費用が補助金の対象となります。事業承継の戦略策定
M&Aの仲介委託費等③補助率・補助金額1/2・50万円
Ⅱ.その他
その他栃木県でも栃木県在住の事業者を対象としたM&A補助金として事業支援資金、香川県では、香川県在住の事業者を対象としたM&A補助金、事業承継支援事業費補助金など、自治体在住の事業者を対象とした補助金制度が設けられています。
3.M&Aに役立つ補助金まとめ
以上、M&Aに役立つ補助金についてご紹介しました。中小企業庁の事業承継補助金をメインとして、各自治体にも補助金制度が用意されていますが、補助金ごとに対象事業者や補助内容が異なりますので、補助金活用の際はM&Aや事業承継専門家の助言を得た上での申請がおすすめです。助成金を上手に活用して、M&Aや事業承継を成功させましょう。
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