「自分が現役を引退するときに、会社をどうするか」という問題は、会社の経営者にとって避けて通れないものです。ほとんどの経営者は後継者に引き継ごうとするでしょう。しかし、後継者選びやその育成は人生でそう何度も経験するようなことではありません。
「最適な後継者選びっていつから始めたらいいのだろう。育成にはどれくらい時間がかかるのだろうか。」
悩んでいる方もいるのではないでしょうか。今回は、後継者育成の方法についてご紹介します。
後継者不足問題の現状
近年、日本では多くの企業が後継者不足に悩まされています。2018年に行われた調査によると、なんと66%以上の企業に後継者がいないという結果が出ています。この数年間、企業の後継者不在率は改善されないまま高い水準で推移しています。
*帝国データバンクによる全国「後継者不在企業」動向調査(2018年)
高い後継者不在率
後継者がいなければ、会社を存続させることができません。独自の技術を持つ黒字優良企業でも、経営を引き継ぐ人がいなければ当然のことながら廃業を迫られるでしょう。実際に、後継者がいないことが原因となり黒字経営の企業が廃業する例はたくさんあります。
また、経営者の高齢化も後継者不在問題と同じく深刻です。高齢の経営者が後継者を探すために費やすことのできる時間はそれほど長くありません。70歳以上の経営者は今後さらに増えると試算されており、事業承継のタイミング等に影響が及ぶことは必死です。
では、後継者の育成はどのように実施していくべきなのでしょうか。まずは育成に必要な時間の確保から考えていきます。
後継者育成にかかる時間ってどのくらい?
後継者の育成には、ある程度の期間を要することは必ず想定しておくべきです。最低でも5年、十分な時間を確保するなら10年*を見積もって育成する必要があり、経営者は引退時期から逆算して後継者を育成しなければなりません。
経営者が高齢になってから事業承継を検討していては、病気などにより突然引退を迫られることになった場合に対処することができません。不測の事態を避けるためにも、早いうちから計画的な後継者育成を進めていくべきでしょう。育成が不十分なまま事業承継を行なってしまうと、取引先や従業員からの信頼を失い、業績悪化や退職者が増加するという事態を招いてしまいます。
*独立行政法人中小企業基盤整備機構による「事業承継実態調査」(2011年)
後継者の育成に必要な期間は、会社の状況や後継者の経験値によって異なります。そのため、それぞれの会社に適した期間を見込んでおく必要があるでしょう。また、もしまだ後継者がいない場合は、候補者を探すところから始めなければいけません。約80%の企業が後継者候補の選定に1年以上かけていて、そのうち14%は5年以上の時間を費やしています。
「70歳頃には現役を引退してのんびりしたい」といったような将来像を抱いている経営者は、早めに後継者育成に取り組む必要があるということです。
しかし、早めに取り組んでも後継者の育成がうまくいくとは限りません。なぜなら、育成を始めてから候補者が経営者に向いていないことが分かったり、様々な事情で引き継ぐことが出来なくなることもあるからです。「5年~10年あれば、必ず後継者育成ができる」のかというと、決して断言はできないのです。
サクセッションプランを立てる
では、事業承継期間中にどのように育成を進めていけばいいのでしょうか。
事業承継をスムーズに進めるためには、サクセッションプランを立てることが大切です。ここでは、そのサクセッションプランの考え方についてお伝えします。
サクセッションプランとは
次世代の経営者となりうる人材を選定して育成するための施策のことを指します。サクセッションは英語で「承継」という意味で、サクセッションプランとは文字通り「後継者育成計画」のことです。
サクセッションプランの3ステップ:定義・選定・育成
サクセッションプランには、「定義」「選定」「育成」の3つのステップがあります。
1. 企業の求める経営者像を定義する
はじめに、企業の求める経営者像を「定義」しなければいけません。経営を引き継ぐ人材に求める能力や経験はどれくらいでしょうか。事業における知識やスキルはもちろん、リーダーシップや謙虚さ、コミュニケーション能力なども重要でしょう 。
2. 企業風土への理解
さらに、会社の経営理念に対する共感や企業風土への理解も重要なポイントとなるはずです。後継者を考えるうえでは、これらのことを明確にしておかなければいけません。
求める経営者像ができあがったら、その特性に見合う人物を「選定」します。当然、初めから十分な能力を持った人材はいません。そのため、最低限の資質やポテンシャルがあるかどうかを見極めることが大切です。こうして選定した候補者を、次期経営者になってもらうために「育成」していくのです。
3. 後継者教育の内容
それでは、理想の後継者の育成には何が必要なのでしょうか。
後継者の育成に必要な組み合わせ
アメリカの人事系コンサルティング企業であるロミンガー社によると、経営者育成に重要なのは経験、薫陶*(くんとう)、研修の組み合わせです。経験が7割、薫陶が2割、研修が1割というのが、最も良い割合だといわれています。
*薫陶…すぐれた人格で感化し、立派な人間をつくること。
経験とは仕事の実践、薫陶とは経営者からの指導や上司からの助言、そして研修とは新たな学びや気づきを得る機会のことです。実務経験は大切ですが、それだけで後継者にふさわしい人材になれるわけではなく、薫陶と研修も重要な項目なのです。セクセッションプランでは、これら3つを組み合わせた教育で、次期経営者にふさわしい資質を身に付けてもらいます。
社内での経験
社内教育では、主に経験と薫陶を得ることができます。
経験を積むためには、ジョブローテーションにより様々な職種や部署を経験させることが重要です。特に、後継者候補が若手であれば、業務の経験や知識を幅広く身に付けさせるための配置転換をしましょう。ある程度の経験を積んだら、管理職に任命してマネジメントの経験をすることも重要です。幅広い経験を積むことで、会社の全体像を捉えながら的確な判断を下せるような力が身に付きます。
また、上司や経営者から直接的に助言を受けることのできる環境を築くことも重要です。経営者としての視点は、そういった指導を通じて得ることができるものです。リーダーシップや意思決定力を養うため、後継者候補は経営者と顔の見える距離で仕事ができる環境がベストでしょう。
社外での経験
社内教育は後継者の育成に欠かせませんが、それだけでは十分とはいえません。後継者候補として選定した人材には、積極的に社外研修に参加することも大切です。業界内だけでなく業界外の情報が入手できたり、体系的にビジネスの知識を整理するのに役立つからです。
その意味で、大学や商工会議所、金融機関などが開催するセミナーは、社内では得られない学びがあるうえに、人脈作りにも非常に有効です。
また、次期後継者には、家業を継ぐ前に全く異なる業界で働くことも非常に有益だと考えます。家業の業界では常識でも、一歩外の世界では当たり前ではなかったり、異業種や異業界で働いてみることで違う視点やノウハウを得ることができるでしょう。またそれだけでなく、人脈を広げて横のつながりを築くこともできるため、将来的にも役に立つのではないでしょうか。
第三者承継という方法について
ここまで、次期後継者の育成のために活用されているサクセッションプランの概念をお伝えしましたが、後継者を選ぶのはとても難しいことです。親族に引き継ぎたくても、適任者がいるとは限りません。たとえ適任者がいたとしても、本人が望まない場合は後継者にすることは出来ないでしょう。従業員の中から必ず後継者に適した人材が見つかるかどうかも、もちろん分かりません。
そこで、できるだけ早く、安心して経営を任せられる後継者に事業を引き継ぎたいときにオススメしているのが、第三者承継です。
後継者選びに悩んだときの選択肢のひとつとして、社外の人間に継いでもらうという方法があります。第三者承継とは、経営者の会社を引き継ぎたいという買主に会社を譲渡することによって、事業を存続・発展してもらうことです。欧米では以前からよく行われている第三者承継(いわゆるM&A)ですが、人材不足の影響で日本企業でもスモールM&Aが増えてきているのです。
第三者承継を行う場合、インターネットのマッチングサービスを活用することで、M&Aの交渉を仲介してくれるアドバイザーに仲介プロセスの進行を委ねることが可能になります。アドバイザーが経営者の希望に添った買主(後継者候補)との条件交渉などを引き受けてくれるのです。
経営者は、すでにノウハウを持っている外部の人材を迎え入れることができれば、ゼロから後継者育成をするよりも短期間での事業承継が可能です。素質のある次期後継者に安心して事業の経営を任せられるうえに、素早く事業承継を実現できるため、最近では中小企業経営者の間でも第三者承継が浸透してきているようです。
【まとめ】事業承継には、余裕を持ったスケジューリングを
後継者の育成は、計画的に進めていかなければいけません。サクセッションプランを作成し、どのような跡継ぎを求めているのかを明確にし、候補者の選定から社内外での教育など、計画的に進めていかなければ円滑な事業承継はなかなか実現しません。
あらゆる選択肢を検討してみて、自社に合ったベストな事業承継とは何なのかを見極めることができれば、見通しはより確実になるはずです。これを機にぜひ、様々な方向から事業承継の方法を考えてみてはいかがでしょうか。
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