MBOとは経営者による企業買収を意味します。しかし、M&AやTBOと同じような場面で使われる機会が多いため、それぞれの意味が混同されやすい言葉だといえるでしょう。
今回は、事業承継の手法の一つであるMBOについて、M&AやTBOとの違いやメリット・デメリットを紹介します。
MBOは事業承継の選択肢・・・?
近年、MBOという言葉について耳にする機会も増えてきました。しかし、実際にどういった手法なのか、正しく認識されている方はまだ多くないようです。それでは、最初にMBOという手法の概要から確認しておきましょう。
MBOとは「Management Buy out」を略したものであり、言葉の通りManagement(経営陣)が参加する企業買収のことを指しています。簡単に言えば、対象会社にもともと在籍している経営陣が、オーナーから経営権を買収する事業承継の手法を意味しています。
MBOの場合、そもそも会社内で経営に関わっていた役員が会社を承継することになるため、会社や業界に対する知識・理解が不足しているために経営難に陥るというリスクは少なく、さらに、もともと社内にいる人間のため円滑に経営を引き継ぎやすいのが特徴です。オーナーが高齢になり引退を希望しているにも関わらず、後継者となる親族がいない場合や、外部に会社を買収したいという希望者が見つからない場合、中小企業は廃業を余儀なくされてしまいます。
そこで、こういった後継者不在の中小企業にとって、MBOが事業承継を行うための手法のひとつとなります。オーナーの親族内に限定せず、既に会社に存在する役員に経営を承継できるため、後継者不在の中小企業にも事業承継の選択肢が広がります。なお、MBOを実施する際は、経営陣がオーナーから株式を取得するための資金調達を行うことが必要です。よくあるケースとしては、対象となる会社の資産を担保として、銀行などの金融機関や投資ファンドから資金調達する例があげられます。
M&AとMBOどこが似ているの?
先述の通り、MBOにおいてもオーナーから株式を買い取ることになります。
実はこの部分が似て非なるM&AとMBOの、最も似ている部分と考えられます。
例えばオーナーから、
と言ってくれれば、株式を買い取る経営陣も気をもむことはないかもしれませんが、経営陣が買い取りたいと考える会社ですので、大幅な債務超過であることは恐らくあまりなく、それなりの内部留保があったり、利益がちゃんと出ている会社であることが多いはずです。
そのため、株式を買い取る際に“いくらで”という話がつきまといます。これは、実はM&Aにおける売主、買主の価格交渉に近しいものがあります。特に中小企業オーナーにとっては、オーナーでなくなることによって、これまで得られていた役員報酬などがなくなり、将来のことも考えればなるべく多くの対価を得たいと思うのは極めて自然です。
MBOは面識ある者同士で進めるので簡単と思われるかもしれませんが、こういった論点があるのです。また、引き継ぐ経営陣に金銭的余裕がなく、仮に本当にオーナーが無償で全部譲渡してくれる、という話になったとしても、今度は贈与税が発生しますので、いずれの場合でも専門家にご相談されるのが宜しいかと思います。
MBOとTOBの違いとは?
同じく買収の局面で用いられる点、英字3字で似ている点などから、TOBという用語もMBOと混同されやすいです。
「Take-Over Bid」を略したTOBは、株式公開買付けを意味します。具体的には、不特定多数の株主に対して保有する株券等の売却を勧誘して、取引所外で買い付ける行為です。
TOBの対象企業は上場企業に限定されるのに対し、MBOは中小企業も対象となります。また、TOBでは第三者が株式を買うケースがあることに対し、MBOは買付け側が対象企業の経営陣である点が両者の違いです。
なお、MBOの過程でTOBの手法を用いることもあります。
MBOの流れ
MBOの一般的な流れ(スキーム)は以下の通りです。
1. 事業を受け入れるSPCを設立する
2. 対象企業の価値を評価する
3. SPCで資金調達する
4. SPCが対象企業の株式を取得する
5. 対象企業をSPCの子会社にする
6. 子会社となった対象企業とSPCを合併する
MBOを進めるために、まず現経営陣が事業の受け皿となる会社(SPC)を設立します。「Special Purpose Company」を省略したSPCは、特別目的会社のことです。
対象企業の価値を評価したのち、株式を取得するために多額の資金を要します。そこで、SPCが金融機関や投資ファンドから資金を調達することが一般的です。
SPCが既存株主に代金を支払い、株式を取得したのち、対象企業を子会社化します。最後に、子会社化した対象企業とSPCを合併すれば、対象企業の経営陣に株式が移るためMBOが完了します。
MBOによるメリットとは
事業承継の手法として比較されることの多いM&AとMBOですが、それぞれにメリット・デメリットがありますので、特徴について良く理解しておく必要があります。特にここではMBOのメリットについて解説していきたいと思います。
その前に、M&Aのメリットについてもまとめますと、M&Aで事業承継する場合、2つの会社(または個人)の営業基盤や、技術などを融合して、相乗効果によってさらに成長を目指すことができます。
また、買主側に資金力がある場合、M&Aが行われることで、譲渡企業の信用力が高まることも期待できます。つまり、事業承継を機に、積極的に事業拡大を狙ったり、経営基盤を強化することを望むのなら、M&Aは非常に有効な手法と言えるでしょう。
一方、MBOによる事業承継は、原則として外部会社の信用や、協力を得るものではありません。事業承継後も現在の経営陣が残るため、従業員に与える変化や混乱は少なく、従業員に受け入れられやすいというメリットがあります。外部の資本を活用するのか、中小企業内部に既に存在する経営陣に承継するのかという点で、M&AとMBOの特徴を理解して選択する必要があります。以降では、MBOを検討する際の参考として、当事者となる新オーナーと旧オーナーそれぞれのメリットについて整理します。
新オーナーのメリット
ここまで、MBOがどういった事業承継手法なのかについて確認してきました。
次に、事業を承継する経営陣がMBOを選択するメリットを確認しておきましょう。経営陣が独立する場合、MBOだけでなく自分自身で起業する方法や、全く別の会社を買収するという選択肢もあります。それでもあえてMBOを選択して、現在の会社を買収するメリットはどこにあるのでしょうか。
知見が深い業界・商圏で承継できる
新オーナーにとって、独立して別の商圏や業界で起業する方法に比べ、MBOは良く知った業界・商圏を承継できることがメリットになります。承継する経営陣自体がその会社で働いていることから、情報不足による失敗や、知識不足の業界に挑戦することによる誤りが発生する可能性は低くなります。
時間を短縮できる
新経営陣が別途、会社を設立しても有能な従業員を育てることは容易ではありませんし、思い通りの組織体制や、風土、雰囲気を作りあげることにも手間がかかります。そのため、新経営陣が有能であって、良いビジネスプランを持っていても、事業を軌道に乗せるまでには時間がかかってしまうことがあります。MBOによって既に良く知った組織を承継できることで、従業員を育成する手間暇を削減でき、さらに信頼関係のある従業員と事業を継続できることは、大きなメリットとなります。
隠れた瑕疵のリスクが少ない
M&Aで見られる問題として、承継した会社に事前に判明しなかった簿外債務や、資産の毀損が判明するケースがあります。こういった問題を回避するため、M&Aにおいては、対象となる会社の資産・負債について徹底的に調べあげたうえで承継するかどうかを判断します。そのため、新オーナーが別の会社をM&Aするには、ある程度の時間と手間がかかります。
一方、MBOの場合、経営陣も対象会社の状況は良く理解していると考えられますので、簿外負債や資産の毀損を見逃してしまう可能性は低く、時間をかけずに事業承継の可否を判断することができます。事業承継にかかる時間や手間暇を減らせるのは新経営陣にとってメリットとなります。
旧オーナーのメリット
さらに、MBOは事業を譲渡する旧経営者にもメリットがあります。
相手が見つかっているので早く進められる
対象となる会社が非上場会社などの中小企業の場合、M&Aによって会社を売却しようとしても、購入希望者を見つけるまでには時間がかかることがあります。非上場会社の詳細な情報は公開されていないことが多く、認知度も低いため、買主を見つけるためにはM&Aの仲介となる会社に依頼したり、マッチングサイトを活用するなどの対応が必要です。
また、買主を見つけた後も、自社のことを理解してもらうための資料を準備するなどの手間暇がかかり、早急に事業承継を進めたいというオーナーには利用が難しいこともあります。MBOでは事業承継の相手となる経営陣は会社に存在しており、さらに、既に会社のことを良く理解していますので、売却交渉などの手続きが進めやすくなります。
一方、面識ある者同士であるからこそ、価格交渉についてかえって難しいという側面もあります。普段から信頼している経営陣とはいえ、この部分は多少の妥協が必要かもしれません。
雇用を維持してもらいやすい
事業承継する際でも、経営者としては残る従業員の雇用を維持してもらいたいという希望があります。中小企業の経営者にとって従業員は家族に近い存在であり、事業承継後の従業員に対する対応を心配する経営者は少なくないでしょう。
MBOの場合、旧オーナーと承継する経営陣で従業員に対する認識が一致しやすく、こういった心配が不要となるメリットがあります。なお、M&Aにおいても承継相手となる会社に従業員の雇用を守るように求めるなどの条件付けは可能です。M&Aでは承継相手となる会社が、どのように会社を運営していくつもりなのかを良く聴取しておくことが大切です。
MBOによるデメリットとは
いくつものメリットが期待できるMBOですが、より高い金額で株式を売却したいと考える既存株主と、より安く買い取りたい経営陣の間で話がまとまらなければ進められません。失敗しないように、既存株主が納得できる価格を見つけ出す作業が必要です。
また、無事MBOを成立させられたとしても、以下のようなデメリットが考えられます。
- 資金調達が難しくなるおそれがある
- 経営体質を改善できない可能性がある
MBOにまつわる2つのデメリットを確認していきましょう。
資金調達が難しくなるおそれがある
上場企業に対してMBOを実施すると、対象企業は上場廃止となります。上場廃止後は株式市場における取引が制限されるため、対象企業は従来のような株式発行による調達が困難となり、金融機関からの借入に頼らざるをえなくなるでしょう。
また、MBOにあたって買収資金を金融機関から調達していた場合、合併後に多額の借入金が残る可能性があります。そのため、MBOを進めたことが借入金増加の原因となり、その後、借入金の返済に追われて資金繰りが悪化してしまうケースもあるでしょう。
経営体質を改善できない可能性がある
MBOでは、既存の経営陣がオーナーから経営権を買収します。買収後の対象企業の株主はもともとの経営陣やそれを支持する投資ファンドなどで構成されるため、経営方針や企業風土などが改善されにくい点がデメリットです。
また、経営と所有の分離がなくなるため、経営陣に対するチェック機能が弱くなったり、客観的な評価がされにくくなったりするおそれがあります。
社内のマネジメント層の意思があればMBOも選択肢の一つ
経営者が事業承継を望む場合、M&AやMBOなどの手法が考えられます。
MBOは対象となる会社のことを良く理解した経営陣が承継する手法であるため、経営者・経営陣の双方にとって認識相違や誤解が起こりにくい事業承継手法となるのが特徴です。そのため、対象会社の事業継続や、従業員の雇用を維持しやすいといったメリットが期待できます。
しかし、当然ながらこれは、経営陣(社内のマネジメント層)がそれを望めば、というのが大前提です。MBOでも価格交渉など、すり合わせなければならないことがたくさん出てきます。これを乗り越えて株式譲渡の合意に至るには相当の信頼がお互いに必要です。
譲渡後にも(自分以上に)会社を存続し、成長させてくれる、そんなマネジメント層への希望がもてるのであれば、MBOという選択肢も悪くないかもしれません。
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