バングラデシュで400人を雇用するレザー事業。「一生かけてやりたい事業」だからこそ選択した、上場会社への譲渡の決断
2025年06月11日
2025年06月11日
バングラデシュに製造拠点を置き、レザー商品の製造・販売を手掛ける「株式会社ブルーシンシア」は、2025年3月、バトンズを通じてジェイドグループに株式譲渡を実施しました。ブルーシンシアの代表取締役を務める黒川亮様は、事業の継続性と将来の拡張性を見据え、M&Aを決意。買い手企業となるジェイドグループとのシナジーや夢の実現可能性を重視し、経営統合を果たしました。今回のM&Aで売り手様のサポートとして関わったバトンズ取締役の海山龍明より、M&Aへ臨んだ心境や今後の挑戦について、黒川様にお話を伺いました。
譲渡企業 | |
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社名 | 株式会社ブルーシンシア |
業種 | 小売(革製品) |
拠点 | 岡山県 |
譲渡理由 | 資本獲得による事業拡大 |
譲受企業 | |
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社名 | ジェイドグループ株式会社 |
業種 | ファッション・ブランド運営 |
拠点 | 東京都 |
譲受理由 | 事業拡大 |
デロイトトーマツコンサルティングにて経営戦略立案を経験。その後、WebマーケティングやM&Aを支援する会社を起業。複数回の自社事業の売却を経て、IT系メガベンチャーのCSOに就任し事業開発を担当。2023年8月にバトンズへ参画し、IT事業を中心とした多数のM&A支援を担当。
── まずは、簡単にブルーシンシア様の事業概要を教えてください。
当社は、2017年に「株式会社Ars Entertainment」という会社名で創業しました。最初は中国商品の輸入販売からスタートし、その後、OEMやODMという形でオリジナル商品の製造・販売を手掛けるようになりました。
── 工場をバングラデシュに所有しているのも特徴ですよね。その経緯について伺えますでしょうか?
バングラディシュという国は、現在は急激な経済成長が進んでいますが、もともと「世界の最貧国」として知られていた地域で、国内の格差が大きい国のひとつです。その現状を知り、ただ数字だけ追っている自分のビジネスに違和感を抱いたことが、この地で製品を作ろうと思ったきっかけです。
それ以前は中国で製造を行っていたのですが、2019年頃から自分の中で事業の頭打ちを感じていて、「消費者に対して、生産者にフォーカスした事業」を考えるようになりました。
本来、ビジネスというのは生産者と消費者、そして自社のそれぞれが豊かになっていくような姿が理想の在り方であり、経営者の責務でもあると思います。その本質的なところに立ち返り、「ブランドの発展とともに、バングラデシュの社会問題を解決する」という理念を掲げ、バングラデシュの生産事業をスタートしました。
そのため、当社では単に物を売るだけでなく、現地の生産者の顔がお客様に伝わっていくことも意識しています。例えば、職人の手紙を送ったり、メルマガで職人の声や顔を届けたりすることで、商品がつくられる背景もセットで届けることをこだわっています。
── 現在の製造現場の規模はどのくらいでしょうか?
バングラデシュの自社工場は、現地で400人を雇用しています。工場立ち上げ当初は、職人20人と現地の代表が1名という体制でスタートし、毎月少しずつ職人の数を増やしながら規模を拡大してきました。
初期の頃は不良率70%~80%と非常に高く、頭を抱えました。職人個人のスキルに依存し、なおかつクオリティチェックが機能していなかったためです。そのような課題や問題をひとつずつ解決しながら、現在は1%前後の不良率まで到達しています。
── 順調に事業成長をしている中で、なぜM&Aを選択されたのでしょうか?
実は、私が体調を崩してしまっていた時期がありました。夜も眠れず、仕事もできない状態が続いたため、事業の今後を考えないといけないと思ったんです。体調自体は3ヶ月くらいで回復はしたのですが、その時にM&Aについて真剣に検討を始めました。
M&Aについて調べる中で、M&A後に自分自身が事業に関わる、関わらないという選択の余地があることも、その時に知りました。ブランドを大きくしたいという気持ちが大きかったので、自分でブランドを運営するより可能性が広がるのであれば、他の会社のもとで、より大きくしていくという選択も考えていくべきではないかと、視野が広がりました。
── M&Aの相談先は、どのようにして決められましたか?
最初は、バトンズとM&A仲介会社の2社に相談させていただきました。ただ、複数の会社に相談すると窓口も分散して、手間がかかって大変だと感じました。色々な選択肢も残しつつ進めましたが、海山さんとのやり取りが非常にスピーディに進んでいったので、最終的にバトンズの方でお願いすることにしました。
── どのような企業に譲渡したいかは、交渉の中で明確化されていきましたよね。
はい。私が明確にイメージできていなかったのもあり、最初は大きなこだわりはありませんでした。どのような企業が求めてくるのかというのもわかりませんでしたし、買い手先のニーズがわからなかったので。
ただ、トップ面談を何回か進めるくらいから、少しずつ解像度が高くなってきました。シナジーが生み出せそうなものがわかってきて、比較対象が揃うと、そこから自分の気持ちが表に出てくるようになりましたね。
── 最終的にジェイドグループ様に決定したわけですが、どのあたりが決め手になったのでしょうか?
最もシナジーを感じた点が大きいです。わかりやすい部分であれば、通販サイト「ロコンド」への出店や、自社で運営していた物流領域をスムーズに巻き取ってもらえるというような部分です。
また、企業として勢いがあるのが数字の部分を確認しながら実感できましたし、事業を成長させる上で重要な資金面でも、非常に安心感があると思いました。
加えて、このブランドに対して思い入れがあるので、その想いを大事にしていただけると感じたことも大きいですね。お話をする中で、このブランドを一緒に成長させてくれるという実感がありました。まだM&Aが成立する前に、ジェイドグループの田中社長がバングラデシュまで足を運んでいただいて、このM&Aに対する熱意や本気度を感じました。
── 初回面談の際、M&A後のインセンティブ設計の話もありましたね。そのあたりも選定の決め手となりましたか?
「譲渡後も一緒に大きな夢を追いかけましょう。そのためのインセンティブ設計もご用意します」とご提案いただいたのが大きいと思います。事業としては、バングラデシュの現地工場がグループに入ることで、色々なブランドが現地工場を使ってもらい、工場が安定化して成長していくというところが魅力的でした。
そこに関して譲渡のモチベーションは大きかったのですが、一個人として考えたとき、今後事業を成長させていくモチベーションが、どのようになるのかまだわかっていなかったんです。結果が出た場合は、株式による恩恵をうけられるような形でインセンティブ設計を組んでいただき、その話を受けた時は、「こういう方向性もあるんだ…」という新しい気づきになりましたね。
── このM&Aは、次のステップへ飛躍するためのチャレンジということですね。
そうですね。うまくいっているような会社のやり方なども含めて、その裏側を見ながら、指導もしてもらいつつ、個人としても組織づくりなどを学んでいきたいと思っています。そういう環境に自分を置いて、さらにレベルアップしたいと考えています。
── 今回が初めてのM&Aだったと思いますが、M&Aに対する印象の変化はありましたか?
もちろんありました。EC事業を運営している友人たちの中には、M&Aをして引退したいという意見も多いですが、自分自身は死ぬまでやりたいという思いです。だからこそ、売却などを考えたことはありませんでした。自分の体調不良をきっかけに検討を始めたM&Aですが、結果的に、自社ブランドの幅も将来の可能性も広がったと実感しています。
── バトンズを使われてみて、率直なご感想を教えてください。
専門家として海山さんに入っていただいたおかげで、色々と助かりました。デューデリジェンスやトップ面談も初めての経験でしたし、動くお金も小さくありません。契約面で不利になってしまったり、会社が乗っ取られたりする可能性もあるわけで、チャンスは1回しかないのがM&Aだと思っています。
また、実際にM&Aのプロセスを経験してみて、モチベーションを維持するのも大変だと感じました。自分の事業を継続しながらM&Aの対応もするのは時間がかかりますし、長期化していたら諦めていたと思います。
M&Aの精度を上げ、スピード感も担保する、なおかつ会社の業務も回していくとなれば、間違いなく専門家が必要です。経営者などが自分だけでやるべきではない仕事のひとつだと、私は感じました。安全性を担保しながら、スピード感を維持して進めたいなら、専門家に入ってもらうのがおすすめですね。
── 最後に、今後の抱負について教えてください。
ジェイドグループに貢献するためにも、やはり売上規模という数字の部分はしっかり達成していきたいと思います。現在、毎週のようにジェイドグループ代表の田中社長とディスカッションをしていますが、経営者の視点でさまざまな学びがあります。
個人としては、今までずっとやりたいと思っていた実店舗への商品陳列や、海外展開などを実現していきたいと考えています。
── 黒川様とブルーシンシア様の今後のご活躍、楽しみにしております。本日はありがとうございました。
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