新潟県長岡市で製造業を営む「有限会社フジタ工業」はこの度、大阪府箕面市で金属加工業を営む「北摂工業株式会社」の代表取締役を務める草生大輔様へ会社譲渡を実現されました。フジタ工業の二代目社長である藤田正広様は、創業社長であるお父様が亡くなった2020年から社長に就任。コロナ禍や半導体不足など、製造業にとって苦しい局面を乗り越えてきました。しかし、ご自身の体調不安や後継者不在の現状を鑑みて、M&Aを検討。会社の将来を考えてスタートした事業承継の背景や思い、難航した譲渡先探しの裏側について、藤田様にお話を伺いしました。
譲渡企業 | |
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社名 | 有限会社フジタ工業 |
業種 | 金型製作業 |
拠点 | 新潟県 |
譲渡理由 | 後継者不在、体調不安 |
譲受側 | |
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区分 | 個人 |
業種 | 金属加工業 |
拠点 | 大阪府 |
譲受理由 | 事業拡大、取引先拡大 |
父から受け継いだ、鋳造用金型の加工会社
先代である藤田様のお父様は、新潟県長岡市を拠点に個人経営から事業をスタートし、フジタ工業の前身となる藤田木型製作所を設立。そこから、1986年にフジタ工業へと形を変え、30年以上に渡り経営を続けてきました。
現在、鋳造用金型の製造を主力事業におくフジタ工業は、大型・小型・精密加工等、高い加工技術が評価されており、自動車業界や建築業界など多種多様な企業から長期の取引実績を築いています。
藤田様が先代に変わり社長に就任したのは、2020年のこと。30年以上フジタ工業に従事してきた藤田様に、2021年から本格的に社長業を引き継いでいくという話が進んでいましたが、先代社長の体調悪化による急逝により、引継ぎ期間を経る前に急遽社長に就任することとなります。
「2021年の春にはいよいよ社長としての仕事を引き継いでいく、という話になっていたので、そろそろ準備をしなければと思っていた矢先の、父の急逝でした。当時私は専務として働いていたので、お金の流れは把握していましたし、見積もり等は工場長が行っていたため、会社の財務面に関しては理解はありました。
しかし、取引先との交渉や関係構築は父が担っており、そういった部分や会社を総括する社長としての在り方などは、改めて父から学ぼうと思っていたところだったので、突然の社長交代にはやはり戸惑いがありました。」
社長の急逝という不測の事態にも、会社が機能不全に陥らなかったのは、製造現場は工場長が、財務面は専務の藤田様が担うなど、社長がワンマンではない経営体制を整えていたことが理由にありました。
しかし、フジタ工業の強みである「創業当時から続く、実績ある取引先との信頼関係」は、前社長が長年の間築いてきたもの。藤田様は、社長就任に伴う諸々の手続きを行いつつ、これまでの業務に加えてお客様との関係性構築も並行して担っていくこととなりました。
コロナ禍、半導体不足、脱エンジン。難局を乗り越えた先で
突然の社長交代に見舞われたフジタ工業でしたが、想定外の出来事はそれだけでは終わりませんでした。藤田様が社長に就任した2020年以降は、「コロナ禍の到来」と「世界的な半導体不足」という、社会全体に影響をもたらす出来事が勃発。
また、フジタ工業の取引先がある自動車業界では、環境への負荷軽減を理由に電気自動車 (EV) への移行が世界各国で進んでおり、100 年に 1度と言われる変革期が訪れていました。製造業界にさまざまな経済打撃が訪れる中、フジタ工業も例に漏れずその渦中にいたといいます。
「当時、ヨーロッパを中心にハイブリットやEV車の開発が進み、『ハイブリットを含むエンジンの使用は一切止めます』という発言すら出ていました。今でこそエンジンが再評価されてきていますが、当時は日本の大手自動車メーカーも脱エンジンの流れに乗る形でした。長年自動車エンジンの金型製造をしていた我々としては、寝耳に水の予期せぬ出来事が一気に押し寄せてきて、会社としても私個人としても、とても大変な時期でした。」
お父様の急逝から約一年半、なんとか会社としての難局を乗り越えた頃、ふと藤田様の頭に「もし自分が倒れたら、会社はどうなるのか?」という一抹の不安がよぎりました。事業承継は、そのころから考え始めたといいます。
「私には子どもがおらず、跡継ぎがいません。設備も整っていて優秀な従業員もいるのに、父の時のようにもし自分の身に何かがあったら、会社は倒産してしまうかもしれない。健康状態にも不安がありましたし、もしものときのことも考えて、対策を練っておかなければならないなと。」
最初は社内で跡継ぎを検討した藤田様ですが、経営者保証など含め社長業の重責を担う決断ができる人はなかなか現れませんでした。会社のためとはいえ、本人に意思がないのに無理強いはしたくない藤田様は、第三者に譲る方が現実的だと考え、まずは銀行へと相談に向かいます。
難航する承継先探しの中で、重視していたのは相手の本気度
長岡信用金庫への相談から新潟県事業承継・引継ぎ支援センターの紹介を受けた藤田様。承継先を探す中で、選択肢のひとつとしてバトンズの活用も提案されます。
「最初は、事業承継・引継ぎ支援センターの担当者である中野さんに、新潟県内の事業者の中で金型の製造業を引き継ぎたい会社はないか、探していただきました。3社ほど面談をしましたが、なかなか交渉が前に進まず。県内では無理そうだったため、『全国へ視野を広げれば、また違った流れになるのではないか』と、バトンズを紹介いただきました。
承継先に求めていたのは、まずは先方の『やる気』です。引き継ぐ意思を示してくださる方がいれば、その気持ちを大事にしたいという考え方でいました。事業承継・引継ぎ支援センターの中野さんやバトンズの成約サポートをしてくださった鈴木さんにも間に入っていただいていたので、会社の信頼性や条件面における判断は、お二人のお力添えもいただけるだろうと。」
バトンズに登録後、二人のサポートのもと後継者探しを開始。企業だけでなく個人事業主の方とも面談を重ね、基本合意まで進んだ交渉もあったものの成約までには至らず、後継者探しは難航していました。そんな中、大阪府箕面市で金属加工業を営む北摂工業の草生様から交渉依頼が届きます。
「草生さんは、過去に新規事業の立ち上げの経験があると伺いました。自分で土地を買い、建物を建てて機械設備をし、人を雇って……とゼロから行う経験を経て、M&Aの必要性を感じたとおっしゃっていました。うちの会社に興味をもってくれてからは、何度も大阪から工場に足を運んでくださり、熱意が伝わってきたことが決め手となりました。」
バトンズ成約サポーターの伴走により、無事にM&Aが成立
藤田様と長岡信用金庫間の個人保証等も解決し、無事にM&A成約に至ったフジタ工業。交渉や手続き面のサポートを行った事業承継・引継ぎ支援センターの中野様、バトンズ成約サポーターの鈴木に関して、藤田様から以下のようにお話しいただきました。
「正直、私としては『もう駄目かもしれない』と悩んでいたのですが、中野さんも鈴木さんも諦めずに間に入ってくれました。二人がいなかったら、恐らく今回のM&Aは実現していなかったかもしれません。さまざまな条件を調整してくださり、無事に承継することができました。本当に感謝するばかりです。」
M&Aにあたり、草生様はフジタ工業を北摂工業の子会社とするのではなく、「個人で譲受すること」を選択。あくまでも独立した会社としてフジタ工業の社長に就任し、今度も会社を経営していくこととなります。
M&Aを終えた現在、従業員は全員が会社に残り、これまで通り製造業務を続けています。草生様は毎月大阪から新潟まで通い、現場の社員たちと議論を重ねながら成長戦略を練っているといいます。まだ引継ぎ期間中ではありますが、無事に承継先を見つけた藤田様に、現在の心境について最後に伺いました。
「細かい手続きや片付け、引継ぎ業務が残っているので、開放感や実感は正直まだないですね。承継したことを心から実感できるのは、その後なのかもしれません。会社の今後については、私から口出しするつもりはありません。こうして会社を引き継いでくれた草生さんは、ご自身の考えあって決断したことだと思うので、私から言えることは『なにかあったら力になります』ということだけです。草生さんを信じて託したので、遠くから見守っていられたらと思います。」
父親の急逝によりバトンを託されたフジタ工業の存続は、M&Aにより新たな社長へと託されました。
有限会社フジタ工業と藤田様の今後のさらなるご活躍を、バトンズ一同、心より応援しております!
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