大阪府でプラスチック二次加工をメインに手掛ける「株式会社UP ON THE BRIDGE」は、2024年1月、岡山県瀬戸内市の「有限会社武久守商店」から「張り子の虎」の製造・販売業を事業譲渡で譲り受けされました。UP ON THE BRIDGEの代表取締役を務める橋上英利様は、会社員時代から同事業で生産管理のコンサルティング経験を積み、そのキャリアを活かして2021年に独立・起業。また、同社は従来の加工技術を生かし、2022年頃から3Dプリンタを利用した新たな造形事業をスタートさせ、新規事業の拡大に向けて今回M&Aに取り組みました。江戸時代から続く伝統工芸品の製造・販売事業を譲り受けた橋上様に、M&Aに至る背景とその狙いについてお話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 有限会社武久守商店 |
業種 | 製造・卸売業(伝統工芸品) |
拠点 | 岡山県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社UP ON THE BRIDGE |
業種 | プラスチック加工 |
拠点 | 大阪府 |
譲受理由 | 事業の多角化、新規事業への参入 |
属人性から脱却するため、新規事業を模索
UP ON THE BRIDGEは、大手取引先からプラスティックの二次加工を請け負いながら、代表の橋上様が生産管理コンサルタントとして多くの企業からコンサルティング依頼を受けています。
加工の請け負いは協力工場と共に実績を作りながら、会社員時代から豊富な経験を積んできた生産管理を主力事業として展開。これまで順調に事業を続けてきましたが、橋上様の経験にたよった在り方に、会社の将来について考え始めます。
「生産管理のコンサルなどは、どうしても属人化した仕事です。UP ON THE BRIDGEは子どもたちと共に立ち上げた会社ですが、自分以外はその分野の経験がなく、会社の将来を考えると事業一本では難しい。会社として、新しい事業を立ち上げる必要があるのではと考えていました。」
自身の豊富な経験が生かせる生産現場の仕事は、橋上様ご自身がいて初めて成立します。そのことを十二分に理解しているからこそ、会社の行く末を思案した際、新たな事業の必要性を感じていました。そんな中、橋上様の息子様が3Dプリンタを利用した造形事業を提案します。
「3Dプリンタでデザインを設計し、実際の造形物へと加工をする。プラスティック二次加工の技術も生かせるのでいいのではないかと思いました。最初に手掛けたのは、希少植物のフィギュアです。試験的にSNSを活用して販売を始めたのですが、反響が大きく、手応えを感じました。そこで30台ほどのプリンタを購入し、本格的な事業として乗りだしました。」
好調のスタートを切った3Dプリンタ事業。また、同社のメイン事業の取引先もこの事業に興味を持ち、新たに仕事の発注が生まれるなど、予想に反して大きなインパクトをもたらします。
それだけでなく、これまでのUP ON THE BRIDGEでは関わりがなかった業界からも問い合わせがあり、その中には神社などの伝統産業からのオーダーも舞い込み始めたといいます。
新規事業と掛け合わせに「張り子の虎」が大きな期待感
橋上様がM&Aを決意した経緯は、3Dプリンタを起点とした物販事業の手応えをつかんだからといえます。さまざまな企業からの問い合わせが舞い込み、事業拡大を確信させるものとなりました。
中でも、橋上様自身が今まで関わることのなかった伝統産業からのアプローチも大きな要因でした。この新規事業をさらに拡大するため、まずは情報収集に取り掛かった橋上様は、バトンズに登録をしてM&Aの可能性を模索し始めます。
「コロナ禍も重なり、会社として違う取り組みをしていこうと社内ベンチャー的に始めたのが3Dプリンタの事業でした。予想以上の反響もあり、今後の会社のさらなる成長を考えると、この事業を起点としてさらに新しいことに挑戦していくべきではないかと思い、バトンズへ登録してM&Aの検討を始めました。」
M&Aの譲渡案件を探し始めた橋上様は、幅広く業種を検討。例として、3Dプリンタで制作したフィギュアを展示し、アンテナショップ的な役割を果たすことを考え、カフェ事業なども検討していました。そんな中、数ある譲渡案件から目にとまったのが、岡山県の有限会社武久守商店が製造販売する「張り子の虎」の存在でした。
「神社からの依頼などがあり、伝統産業への関心が高まっていたこともありますが、『張り子の虎』を見たときにビビッと感じたんです。我が社でうまくアレンジして世に出すことができれば、この伝統工芸品を後世に伝えることもできるんじゃないか、と。いままでにない新規事業の拡大という意味ではピッタリだと思ったんです。」
『張り子の虎』は江戸末期から続く伝統工芸品。かつては岡山県邑久町周辺で製造が盛んでしたが、職人の高齢化が進み、後継者不在で次第に廃業を選択する業者が増えている現状がありました。
同地域で最後まで製造を続けていたのが武久守商店で、後世に『張り子の虎』を残したいという想いから事業譲渡を選択したのでした。こうして、新規事業の拡大を模索する橋上様と、事業を後世に残したいと想う武久様の間で事業承継の交渉が始まります。
譲受後、既存の取引先への派生など予想もしなかった広がり
橋上様は武久守商店の事業の引継ぎを検討し、契約完了までの期間で、岡山県の製造現場まで10回ほど足を運んだとのこと。設備を確認し、M&Aを決意するまでそれほど時間を要しませんでした。
2023年夏頃には両者の合意は成立していましたが、武久守商店側が2023年中は事業を継続する方向であったため、それまで設備はそのまま岡山県に残し、『張り子の虎』の型だけを譲り受け、2024年から自社で製造できる環境整備を進めました。
「今回のM&Aについては、『張り子の虎』がそのまま売れる、売れないはあまり気にしていませんでした。3Dプリンタの技術を生かして、いかに『張り子の虎』を自分たちのアレンジした形で製造できるかに関心がありました。どちらかというと、武久守商店さんの設備と製造ノウハウを引き継ぐイメージです。もともと取引先の引継ぎはない前提だったので、引き継ぐために各所の連絡などもいらず、非常にスムーズに進んだのだと思います。」
2024年8月、武久守商店にあった全ての機械設備が橋上様の施設工場に移転が完了。武久守商店の設備は老朽化が進んでおり、現地で設備を見た段階でメンテナンスも時間がかかると予期していた橋上様は、自社の設備を使って試作品などの製造をスタートさせていました。
譲受後、『張り子の虎』の販売に向けて動いていたUP ON THE BRIDGEですが、予想もしなかった依頼や反響に驚くことになります。
ひとつは、武久守商店の既存顧客からの引き合いです。取引先の引継ぎをしていなかったUP ON THE BRIDGEは、あくまで自分たちで『張り子の虎』をアレンジして新たな顧客に向けて世に送り出す予定でした。ところが、実際に事業を引き継ぐと、既存顧客から「張り子の虎をうちに卸してほしい」と依頼が舞い込みます。その中には上場企業からの依頼などもあり、武久守商店の武久様にアドバイスを受けながら取引を継続しているといいます。
そしてもうひとつが、UP ON THE BRIDGEの既存顧客に対するインパクトです。会議室に『張り子の虎』を置いていると「こんなことをやっているんだ」と自然と話題に上がり、興味を抱いてくれるそうです。
「当初考えていた以上に『張り子の虎』が事業に新たな広がりをもたらしてくれています。武久守商店さんの既存顧客との取引は、伝統工芸品を後世に残すという意味で続けようと考えていますし、そこで生まれる人との繋がりなどは、息子たちにも良い経験になっていると思います。
今では私たちのパートナーの方もこの事業に積極的に関わっていただき、岡山県で『張り子の虎』のイベントを開催したりしています。伝統産業へ自社が関わっている姿は、今まででは考えられない展開ですね。」
周辺分野を事業化し、事業拡大に向けて今後もM&Aを検討
現在、希少植物のフィギュアや『張り子の虎』の3Dプリンタ事業は社内事業のひとつとして確立し、さらに次のステップへ進むための準備中だといいます。橋上様が次を見据えているのは周辺分野の拡張です。
「例えば、フィギュアを制作したら梱包やピッキング、配送などがどうしても発生します。これらの周辺分野の業務も事業化していきたいと考えています。そこでもしっかり内製化していければさらに発展できそうです。こちらも、できればM&Aで拡大を検討していければと思っています。」
また、橋上様は当初考えていたカフェの運営等にも改めて挑戦したい意欲が湧き上がってきているといいます。カフェで『張り子の虎』を展示したり、ワークショップを開催するなど、構想はいくつか思案中。新しい分野への挑戦により「会社がさらに盛り上がれば」と橋上様は話しています。M&Aにより、さまざまなシナジー効果を実感した橋上様から、最後にバトンズを活用した感想をお聞きしました。
「まだM&Aには早いかな、と思っている時点でも参考になる情報を入手できる点は凄くいいですよね。興味があれば開示請求もすぐにできる。情報も見やすいですし、欲しい情報がしっかり入手できます。契約書や設備の老朽化における税務処理なども相談できましたし、ストレスなく進められました。またバトンズでM&Aを検討してみようと思っています。」
株式会社UP ON THE BRIDGEと橋上様のこれからのご発展を、バトンズ一同、心より応援しております!
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