北摂工業株式会社の代表取締役である草生大輔様は、この度バトンズを通じて、金型製作業を営む「有限会社フジタ工業」を譲り受けされました。草生様は、北摂工業を親から受け継いで復活させ、さらに今回、約70年の歴史を持つフジタ工業を譲受されました。専門商社のサラリーマンだった草生様が、「日本の製造業を甦らせる」という信念を持って事業経営を行う現在の考えやM&Aの背景について、お話を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 有限会社フジタ工業 |
業種 | 金型製作業 |
拠点 | 新潟県 |
譲渡理由 | 後継者不在、体調不安 |
譲受側 | |
---|---|
区分 | 個人 |
業種 | 金属加工業 |
拠点 | 大阪府 |
譲受理由 | 事業拡大、取引先拡大 |
サラリーマンを辞め、廃業寸前の家業を復活させる
もともとモーターなどの電気部品を取り扱う専門商社に勤務されていた草生様は、リーマン・ショックから数年後に商社を退社。その後、お父様が創業された北摂工業に入社されました。入社当時、北摂工業の従業員は熟練工3名のみでしたので会社は父の代で閉じる予定にあったと草生様は話します。
「北摂工業は、金属加工業を生業としており、その中でも切削分野に精通した会社になります。具体的には、金属を削ることでお客様が求める製品を形にする仕事になります。
リーマン・ショックがおきて、長期化する不況に加えて、国内の製造拠点が海外に移転する流れが強まっていました。このような環境下で、北摂工業の売上が低迷し、父から『後は自然の流れに任せて、自分の代で廃業する』と聞かされていました。それに対して『北摂工業をなくすつもりなら、自分に挑戦をさせて欲しい』と願い出て、入社することになりました。」
草生様が同社を引き継いで改革を進めた結果、売上は入社当時と比べて3〜4倍に躍進。北摂工業が成長した要因として、草生様は「取引先の新規開拓」と「技術の標準化と人材育成」に力を入れたことを挙げています。
「取引先は、工作機械メーカーを中心に、近年注目されているEV向けの部品メーカーや半導体装置メーカーなどにも広がっています。技術の標準化と人材育成については、熟練工だけが持っていた技術をマニュアル化し、それを新入社員に受け継ぐ施策を進めました。製造業は特に人材育成に悩む企業が多いですが、とにかく地道に取り組み続けるしかないと思います。」
顧客の声から「製造業の中小M&A」の必要性に気付く
北摂工業の再生を実現した草生様がM&Aを考え始めたのは、新規開拓に取り組む中で耳にしたお客様の声がきっかけでした。外注先の高齢化が進んでおり、新しい外注先を探すことが喫緊の課題になっているという担当者が多くいたといいます。
このお客様の声をヒントに、草生様は跡継ぎのいない同業他社をM&Aしていくべきではないか、そして、それが北摂工業の成長にもつながるのではないかと考え、6〜7年前からM&Aの情報収集を始めます。
しかし後述するように、中小企業の製造業におけるM&Aにはハードルがあり、約4年前に譲渡検討企業を訪問し交渉を試みましたが、成立に至らなかった過去がありました。その後、草生様のM&Aに対する関心はいったん薄まりましたが、人材獲得や設備投資等、今後を考えるとM&Aが必要ではないかと改めて考えるようになったそうです。
草生様は、バトンズなどのプラットフォームを利用してM&A情報を収集。選定基準として重視していた「人材力と設備力が高い企業」に適合したフジタ工業を譲り受ける運びとなりました。
「M&Aの交渉を進める中で、『新規の取引先候補の社長』という体裁でフジタ工業を訪問し、会社見学を行いました。従業員の働く様子を見たり、コミュニケーションをとってみると、彼らがモノづくりに対して真摯に向き合っていることが分かりました。また、設備面については、機械のメンテナンスがしっかりされていたので、引き継いだ後も問題なく稼働できそうだと感じました。」
何度も直接顔を合わせ、事業に対する本気度を伝えた
草生様は、フジタ工業をはじめ複数社とM&A交渉をした経験から、製造企業のM&Aを成約させるためには「本気度を伝えること」が重要であるということに気付かれたそうです。
「製造業において事業承継をお考えの中小企業の社長は、世代的には60〜80代で、創業者や2代目の立場にあることが多いです。こうした方々は、理屈では会社存続のためには事業承継が必要であることは理解しているものの、感情的にはM&Aに抵抗感を感じていることがよくあります。この感情的な障壁を取り除くには、こちら側の本気度を真剣に伝えていく必要があります。」
草生様は事業への熱意を伝えるために、フジタ工業を何度も訪れ、前オーナー様とのコミュニケーションを重ねました。それでも交渉が難航した際、バトンズの成約サポーターの存在が一助になったそうです。
「バトンズの担当者である鈴木さんには、前オーナーと私の間に入って、うまく折り合いをつけていただきました。実は、フジタ工業との事業承継は一度目の交渉で合意に至らなかった経緯がありました。半年後に再度鈴木さんからご連絡をいただき、条件を調整していただくことで事業承継を実現しました。」
今回、草生様はフジタ工業を北摂工業の子会社とするのではなく「個人で譲受すること」を選択。その理由について、以下のように話しています。
「フジタ工業は、昭和31年創業の歴史ある会社であり、オーナーの藤田様や従業員の皆様は誇りを持ってモノ作りに取り組んできました。藤田様からは『北摂工業がフジタ工業を吸収するようなM&Aにはしたくない』というご要望もありましたので、私個人がフジタ工業を引き継ぎ、2社の代表を務めるという形になりました。」
自身の役割は、北摂工業とフジタ工業をそれぞれ独立させながら発展させることであると話す草生様。一部業務連携をすることもあるものの、あくまでも独立した会社として設備力と仕事量を積極的に増やしていくことを考えているとおっしゃっておられました。
2社の成長の先に「日本の製造業を甦らせる」というビジョン
今回のM&Aにより、草生様は北摂工業とフジタ工業の2社の代表取締役を兼務。それぞれの会社の成長戦略として「多品種小ロットへの対応力」と「従業員の意識改革」を目指します。
「金属加工の世界も、3Dプリンターが浸透するなど技術革新が進んでいます。3Dプリンターは、複雑な形状のものでも容易に作れるというメリットがあるため、手作業による金属加工が衰退するとの見方もありますが、現実はそうではありません。
3Dプリンターは複雑な形状には強い一方で、シンプルな形状の場合、熟練の職人が作成した方が短時間で製造できます。北摂工業では、これまで培ってきた技術を活かし、3Dプリンターが苦手とするシンプルな部品の製造を多品種小ロットで柔軟に行える体制を強化していきます。
また、フジタ工業の従業員の方々には、会社の財務内容をオープンにすることで、企業経営の視点も持てる環境を整えられるよう努めています。これにより、会社の成長が自身の待遇向上につながることを実感しやすくなり、合理的な働き方になっていくと考えています。」
草生様は、北摂工業とフジタ工業それぞれを成長させながら、さらに新規法人の立ち上げやM&Aを通じて事業の幅を広げ、製造業を軸に事業拡大をしていきたいとのこと。その先には、「日本の製造業を甦らせたい」という高い志を持っており、企業同士の連携による成長を目指しています。
北摂工業株式会社と有限会社フジタ工業の今後の更なる発展とご活躍をバトンズ一同、心より願っております!
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