大阪、名古屋、東京に拠点を構えるEMPグループは、税理士法人を中心として行政書士事務所、社会保険労務士事務所を擁し、ワンストップで経営支援を行う企業グループです。2021年には、就労継続支援A型事業所を開所。2023年までに3つの事業所を展開し、2024年3月にバトンズを介して株式会社グリーンサム、合同会社Lanisoarを譲り受けされています。
税理士法人を中心に事業を展開するEMPグループが、なぜ就労継続支援A型事業所を展開するのか。現在、5つの就労継続支援A型事業所を展開するEMPグループ代表・あべき光司様に、M&Aの背景と今後の展望についてお話を伺いました。
譲渡企業 | |
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社名 | 株式会社グリーンサム、 合同会社Lanisoar |
業種 | 医療・介護(就労継続支援) |
拠点 | 大阪府、兵庫県 |
譲渡理由 | 選択と集中、事業拡大 |
譲受企業 | |
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社名 | 株式会社オフィスEMP |
業種 | 税理士業、経営支援事業など |
拠点 | 大阪府(東京都、愛知県) |
譲受理由 | 事業拡大、新規エリアへの進出 |
採用が難しい士業業界。クライアントとの出会いが、人材不足解消のヒントに
ITベンチャー企業からキャリアをスタートし、税理士に転身されたあべき様は、2016年に税理士として独立・起業。現在は、税理士業以外も含めた総合事務所として、社員160名を抱えるEMPグループの代表を務めています。
税理士法人の拠点は、大阪、名古屋、東京に加えて、広島拠点を新たにM&Aで開設予定。M&Aを効果的に活用しながら、グループの拡大に積極的に取り組まれているあべき様ですが、最初にM&Aを経験したのは税理士法人ではなくお寿司屋さんだったといいます。
「私の自宅の近くにあったお寿司屋さんで、税理士法人のお客様のひとりだったオーナーから『経営を引き継いでほしい』と依頼されました。顧客でもあったので数字もよくわかっていましたし、課題もよく理解していました。ならばやってみようと決断したのが最初のM&Aになります。」
M&A後、無理なく客単価を上げていくことで、初年度より黒字転換を果たすことに成功。数字を把握し、課題解決を迅速に実施した結果といえます。そんなあべき様が就労継続支援A型事業所の経営に乗りだすことになった背景には、税理士法人や行政書士事務所などの業界が共通して抱える課題がありました。
「税理士法人も会計事務所も、共通して採用が難しい業界です。クラウドサービスの普及で人間が作業する手間は減りましたが、それは決してゼロにはなりませんし、やはり人間の作業が必要になります。作業量は減りながらも人間の手は必要。事務所経営としては人件費も含めるとなかなか難しい時代です。」
そんな中、就労継続支援A型事業所を運営している事業者から、税理士業務の依頼を引き受けたあべき様。大阪の中核都市に構えるその事業所は、そのエリアで一般就労の数がダントツトップであり、他の地域から視察が後を絶たないほど事業価値を出している事業所でした。
当時、「障害福祉事業は社会的価値はあるものの、利益をが出ない業態である」と思い込んでいたあべき様は、その経営者にヒアリングをし、なぜそれだけ事業としてうまくいっているのか、事業のカラクリを教えてもらったといいます。そのとき、あべき様は「これは、自分たちの業務こそマッチするのではないか?」と直感的に感じたといいます。
税理士法人と就労継続支援A型事業所によるシナジー効果
あべき様が直感的に感じたのは、税理士法人などの業界が抱える課題と、就労継続支援事業所の経営課題は、お互いに補完できる関係になり得るという点です。就労継続支援事業所の課題は、継続して仕事を確保すること。さらに、A型はそこで働く方々と雇用契約を結ぶため、継続した仕事の確保が課題となります。
一方、税理士法人や行政書士事務所など、会社経営を支援する企業側としては人手が必要な作業が山積しています。すでに述べたように、採用難からの人手不足という課題があります。
「この2つの課題は、組み合わせることでうまく解決させられると思いました。税理士法人や行政書士事務所は、データ入力などの仕事が山ほどあります。そして、定期的に仕事を発注することが可能です。それであれば、就労継続支援事業所の課題も解決することができると考えました。そこから、まずは自分たちでゼロから就労継続支援A型事業所を立ち上げたのです。」
就労継続支援A型事業所で働く方々は、さまざまな障害を持った方が在籍しています。果たして、税理士法人や行政書士事務所のような高度な業務を円滑に行うことができるのか、という疑問が生じます。
「誰もがそう思うのですが、就労継続支援事業所には、過去に普通に仕事をしていたものの、精神的な部分で定職が難しくなった方なども入所してきます。そのため、ついこの間まで普通に会社で働き、業務に取り組んでいた方々もいるということです。さまざまな事情で休職中だったりしますが、そのような人たちが就労意欲を持ち、入所してきてくれれば問題なく業務は可能です。」
もちろん、就労支援が必要な肩の中には、PC業務が困難な方も含まれます。そのため、あべき様はブランディングにも力を注ぎ、あえて募集要項にも「税理士法人にて業務経験を積める」と謳い、仕事の難易度を正直に伝えるようにしました。すると、入所を希望する方々は、仕事の復帰を目指す高い意欲を持った人が集まるようになったといいます。
黒字化に転換できる自信があるからこそ、M&Aでよりスピーディに
お互いの課題を補完させていく試みは功を奏し、あべき様は次のステップとして、就労継続支援A型事務所をM&Aを活用することにしました。その理由は、収益化までのスピードにあったといいます。
「ゼロから始めてわかったことは、黒字化までに少なくとも14ヶ月はかかるということです。就労継続支援A型事業所は、前年までの実績で基本報酬のスコアが決まります。そのスコアに基づき、国から助成金の額が決まるわけです。つまり、すでに事業実績を有するところであれば、運転資金もそこまで大きくならなくて済みます。
さらに、事業所運営に必要なサービス管理責任者も採用が難しい時代です。すでに事業所として運営されている場合、その方々を新しく採用する時間も短縮できます。事業を進めていく過程で黒字化させる自信はありますので、既存の事業所をM&Aするメリットが大きいと感じました。」
基本報酬のスコア改訂は4月に行われ、6月にキャッシュインとなります。そのため、最少の運転資金で次年度を迎えるためには、M&Aを3月までに行うのがベストです。あべき様は、そのタイムスケジュールに沿ってM&Aを進め、バトンズを介した株式会社グリーンサム、合同会社LanisoarのM&Aも2024年3月に完了させています。
2024年からは、この基本報酬の改定が行われ、事業所の収益性がより求められるようになりました。約4000以上ある就労継続支援A型事業所の多くが赤字に陥るのではないかと危惧される中、このような厳しい状況下でもあべき様は自信をもって次のように語られています。
「補助金に頼らず、仕事をしっかり確保してください、と国から通達を受けているわけです。私たちは記帳代行などの仕事が存在し、仕事が途絶えることは今のところありません。その上で、高い意欲を持つ人材を確保できるノウハウもあります。就労継続支援A型事業所で仕事を確保し続けるのはなかなか難しいと思っています。だからこそ、これからもM&Aを積極的に活用して、困っている事業所の収益化に尽力したいと考えています。」
2023年3月末時点で厚生労働省の調べによると、経営状況を把握できた全国の就労継続支援A型事務所のうち、生産活動の収益が賃金総額を下回っている事業所の割合は50%を超えています。2022年から比べるとその割合は若干改善傾向にありますが、あべき様が指摘する事業所の収益化は、業界における喫緊の課題といえます。
参考:厚生労働省「障害者就労に係る最近の動向について」
健全な業界として、多くの方々に可能性を広めていきたい
過去にも複数回のM&A経験を持つあべき様。今回、バトンズを通じたM&Aを実施してみての感想についても伺いました。
「私はこれまでM&Aを何度も経験しているので、やり方にも慣れています。就労継続支援A型事業所のM&Aは3月までに完了させることが必達と考えていましたので、完了させるためにもスピーディに進めたかった。バトンズは、譲渡側と直接やり取りができるため、両者間の合意で手早く進められたのは、非常に助かりました。他のM&A仲介会社だと色々と決まり事があり、そうはいかないケースが多いのも知っていましたから。」
あべき様は今後もM&Aを最大限に活用し、税理士事務所の拡大も進めていく計画です。併せて、就労継続支援A型事務所のさらなるM&Aも、年末から年明けにかけて準備を進めていく予定とのことです。最後に就労継続支援分野を目指す方々へメッセージをいただきました。
「現在、セミナーや講演で週2回くらい、就労継続支援A型事業所の黒字化のポイントをお話ししています。しっかり利益を出せる事務所がもっと広まってほしいと思っています。多くの事業所が、赤字のためボランティア状態で行き詰まるところも多いのが現状で、また、この業界は不正をはたらく人たちも一定数いるため、世間から怪しく思われることもあります。社会貢献を果たしながら、しっかり利益を出していけるということを証明したいのです。」
EMPグループのこれからのご発展を、バトンズ一同、心より応援しております。
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