新潟県と長野県にまたがる秘湯・燕温泉で代々温泉宿を営む岩戸屋は、この度バトンズを通じて、長野県を中心に旅館運営業を営む株式会社ヤドロクに会社譲渡されました。創業100年以上の歴史を持つ岩戸屋は、ご両親から宮澤様ご夫婦が引継ぎ、旦那様が亡くなってからも娘の野本様がサポートに入りながらこれまで経営を続けてきました。
「母が元気なうちに宿の将来をなんとかしたい」と、初めてのM&Aに踏みこんだ野本様とお母様の宮澤様に、歴史ある温泉宿にかける思い、事業承継を決めた背景やM&A交渉の様子を伺いました。
譲渡企業 | |
---|---|
社名 | 有限会社岩戸屋 |
業種 | ホテル・旅館 |
拠点 | 新潟県 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
譲受企業 | |
---|---|
社名 | 株式会社ヤドロク |
業種 | ホテル・旅館 など |
拠点 | 長野県 |
譲受理由 | 新規エリアへの進出 |
妙高の豊かな自然の中で、代々受け継いできた老舗の温泉宿
新潟県と長野県にまたがる、上信越高原国立公園内の妙高山の麓に位置する秘湯・燕温泉。標高1,100mのところに位置し、妙高登山の東側の入り口でもある燕温泉は、歴史と情緒を感じる温泉街です。
岩戸屋は、燕温泉で1907年に創業した老舗の温泉宿です。源泉掛け流しの温泉が人気で、妙高を訪れるスキー客から、団体客、ファミリー客やカップル、長年通い詰めているリピーターの方など、幅広いお客様に長年愛されており、近年はインバウンドの観光客も増え始めていたところでした。
野本様:「創業者は、私の曾祖母にあたるおばあちゃんです。そこから家族代々温泉宿を受け継いできました。母はもともと東京の人だったんですが、結婚を機に岩戸屋に嫁いできて、70年近くここで働いてきたんです。」
宮澤様:「普通の会社員として働いていたところから、燕温泉のことも、温泉宿のこともよくわからずに来ちゃったんです。最初の十年間は本当に大変でした。東京とはまったく違う環境の中で、ひたすら働いてきました。」
自然豊かな環境が特徴的な燕温泉。初夏はツバメが飛び交い、夏は避暑地として、秋には紅葉、冬は雪景色と、四季折々の自然が楽しめます。宮澤様も、都会にはない四季の違いを日々楽しんでいたと言います。
後継者不足から、意を決してM&Aを検討しはじめる
宮澤様:「嫁いできた当時は、まだ暖房なんてなくて、冬は火鉢で暖をとっていました。お部屋全体がなかなか温まらなくて。押せば壊れるようなボロボロの宿だったところから、少しずつ修繕や改築を重ねてやってきたんです。」
野本様:「母からは、もう嫌ってほど苦労話しを聞かされました(笑)。私の父は、現状に満足しないで先のことを考えて動く人で。話を聞くと当時から先見の明があったようで、他のお宿が取り入れないような設備投資をして、いろいろと増改築をしてきたのが良かったのかなと。」
そうして代々歴史を紡いできた岩戸屋ですが、宮澤様の旦那様が三年前に亡くなり、宮澤様も90歳を超えたことから、野本様は第三者に事業を譲り渡すことを考えるようになりました。
野本様:「私は外から通ってきている状態でしたから、母が生きているうちになんとかしないといけないなと、二年ほど前から宿の今後を考えるようになりました。そこで、意を決して新潟県の事業承継・引継ぎ支援センターに電話をしたんです。そこでバトンズさんを紹介していただきました。」
今回が初めてのM&A交渉となった野本様。バトンズのサポーターと共に、譲渡先を探してきました。
野本様:「母もこんな歳だし、私もそんなに若くないし、わからないことだらけで。あんまり慣れていない体験でしたし、最初はわけもわからないまま進めていきましたね。バトンズさんというちゃんとした会社に間に入っていただいて、すごく心強かったです。いろいろ教えていただいたり、サポートしていただいて助かりました。」
第一印象は良い意味で普通の方。温泉宿にかける思いが通じ合い、交渉はスムーズに進んだ
引継ぎ先を考えるにあたり、具体的な条件やイメージがあったのかを伺うと、「初めてのことだったので、そもそも引継ぎ先は見つからないと思っていた」と振り返る野本様。バトンズに登録し、問い合わせをしてきた会社や個人の買い手希望者と一人ずつ面談を重ねてきました。
その中で、四人目の買い手希望者だった石坂様と無事ご成約。他の候補者と比べて、石坂様はどのような印象を抱いたのでしょうか。
野本様:「石坂さんの第一印象は、いい意味で『本当に普通の方だな』と思いました。見た目も雰囲気も、すごく目立つとか、逆にすごく地味というわけでもなく、『普通』という印象でした。そこがかえって身近に感じたというか、誠実そうで安心したのかな。」
石坂様が代表を努める株式会社ヤドロクは、長野県を中心に旅館運用事業・飲食店事業を営む会社です。長野県内で4つの宿を運営しており、そのうちの一つは志賀高原のリゾートホテル、そしてそのほかの3つは温泉宿でした。
「後継者不足で歴史ある温泉宿宿が廃業し、温泉文化や旅館文化がなくなってしまうのはもったいない」という思いから、これまでも老舗宿のM&Aを手掛けてきた石坂様。宮澤様と野本様の岩戸屋ホテルを残したいという思いと意気投合し、その後の交渉は非常にスムーズだったといいます。
引退後は、自分のために時間を使ってゆったりと過ごしてもらいたい
[写真]手前左:宮澤様、右:野本様、奥左:石坂様、右:池山様
ご成約後、無事に引継ぎが終了し、ホテル岩戸屋の運営を引退された宮澤様。70年以上働いてきた宿を離れた今、新しくできた時間の使い方や今後の楽しみを教えていただきました。
野本様:「母は、とにかく映画が好きなんです。家でも毎日のように映画を見ているので、多分今後老人ホームに入っても、映画を見続けるんじゃないでしょうか。いままでは毎日お客さんと接していて刺激があったからいいけれど、映画ばっかり観ていたらボケちゃうかな、ちょっと心配です。時々は、私が映画館に連れて行ってあげようかなと思います。」
宮澤様「観た映画は全部記録しているんです。一番好きな映画は西部劇。善人と悪人がはっきりしているから好きなんです。これからは、ゆっくり自分の時間を使いたいです。」
岩戸屋の後継者探しが始まったのは、事業承継・引継ぎ支援センターへの一本の電話から。当時のことを、野本様は以下のように振り返ります。
野本様:「一番最初に事業承継・引継ぎ支援センターさんにお電話するときは、ものすごく勇気がいりました。でも、行動しないと前に進めませんから。やっぱり、助けを求める勇気も必要かなと思います。なんとか、岩戸屋を潰さずに残したいという一心でした。簡単に諦めてはいけませんね。
今の岩戸屋があるのは、この歳になっても働き続けてくれた母のおかげです。無事に引き継いでくださる素敵な方を見つけることができて、母が元気に生きているうちにゆっくりした時間を過ごせるようになって良かったです。」
バトンズ一同、宮澤様と野本様、株式会社ヤドロクの今後のさらなるご発展を、バトンズ一同心より応援しております!
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